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邂逅







 部屋を出て、暗い通路を歩く。

石を積んで出来た壁はいつ見ても冷え切って寒そうに見える。等間隔におかれた松明の火がゆらゆらとゆれているが、それすらもよそよそしく感じられた。

「あの人が亡くなって、もうどれくらいになるのかしら?」

アリアは独り言のようにつぶやく。

「大奥様ですか?」

「優秀な執事は、耳の聞こえもよくて困るわ。」ふぅとため息がもれた。トレアは困惑した表情を浮かべたけれど、何も言わなかった。

 杖をついてトレアの手をしっかりと握り、長い石畳の階段を上へ、上へ昇っていく。ぐるぐるぐるぐると螺旋をえがくように回って地上へとつながる扉の前に出た。トレアは鍵を差してひねると扉を開けた。

 トレアは、扉が閉まらないように体で押さえ、空いているもう片方の手でアリアを外へと導く。

「何て、穢れのない美しさ…。」

うっとりするように、アリアが声をだす。

そこには一面に星が輝いている。夜空に浮かんだ月がアリアの顔をさらに青白くみせた。

「今日は、月明かりがありますから灯りはいりませんね。」そういって、扉の内側の壁にあるくぼみに燭台を置いた。扉を閉めると、また鍵をかけた。

「参りましょうか。」トレアが手を差し出す。

「今日は、気分がいいの。一人で歩けるわ。」

しかし、アリアはふいと、先へ歩き出してしまった。


 本当に今日は灯りが必要なかった。元から2人は夜目が利くのというのもあるけど、それでも明るすぎるくらい明るかった。

 風が、そよいで木々がさわさわと音をたてている。とても心地の良い風だ。

薔薇園に近付くにつれて点々と銀色の花びらが落ちている。ここの薔薇は赤でも、幻といわれる青でもなく、銀色の花びらをまとっている。


-どんな変異が起きて、こんな銀色の花が出来たのかは誰も知らない。この銀薔薇は、本物の銀が発見されるよりも昔からここにあったらしい、ということは書物を紐解けばわかる。そして、銀薔薇は王族の体を飾る装飾品の材料として長く使われていたらしい―


 銀薔薇の花は大ぶりで下の緑の葉は隠れてしまってよく見えない。だから、薔薇園は月の光をたっぷり浴びて幻想的な銀の野になる。


「きっと、あのバルコニーから見たら本当に銀色の野に見えるんでしょうね。」


アリアは、薔薇園とは反対の方向を振り仰いだ。視線の先には、東屋と…さらにその先には贅をこらした城が悠然と建っている。

それでも、すぐに薔薇園の方に向き直して歩く。手に持った杖がほんの少しだけ土をくぼませてしまうのが気になった。


シャキンッー


「何の音かしら?」アリアは立ち止まる。わずかに遅れてトレアも立ち止まった


シャキンッー


「音…ですか?」トレアは周囲を窺うように首を回した。

「したわよ。私に聞こえてあなたに聞こえないはずがないわ。」


シャキンッー


「ほら、また!」

「本当ですね。」トレアは、臭いのした場所を追いかける犬のように、音のする方に向かってアリアの手を引っ張って歩き出した。

「何の音かしら?」

「不安でいらっしゃいますか?」トレアは意地の悪い顔で笑った。

「ち、違うわよ!全く、有能な執事は老婆心も強いわ。むしろ無能よ。執事が口答えしないで欲しいわ。」早口でまくしたてて、ぷい、とそっぽを向いた。しかしトレアは気にする様子もない。

 そんないつも通りの軽口をたたいているうちに薔薇園の端に座りこんでいる人が見えた。

「どうしたのかしら?」

「気になりますか?」

アリアはちらっとトレアの方を見た。何かを云おうとしたのかもしれないけど、それを呑み込んだように見えた。

「行くわよ。」


 さらに、近付くと「ねぇ、あなた-」そう言うのと同時に肩に軽く触れた。

小さな声で、ひっ、と叫ばれた。

振り返った女の顔は、急に現れたアリアたちに驚いた顔をした。

それでも同じ人間だったことに安心したのか一瞬、顔を緩ませる。しかし、今度は見る見るうちに血の気が引いていった。多分、驚く以外の何か別の理由があったのだろう。


「ミッドナイト・ブルーの髪色…先代の女王に酷似した顔…」


小さな声で何かを言ったかと思うと、上ずった声で叫んだ。



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