社宅の申し込み
上司に今村みどりと結婚することを報告しました。
「あの子やったら、ええわ。
ええ子やから大切にするんやで。」
「はい。」
「ほんで、結婚式はどないするねん。」
「結婚式はしません。」
「なんでや。」
「先立つものがありません。……親に送ってましたから…。」
「ほうか。」
「社宅に住みたい、思うてます。」
「社宅やったら、庶務課に行って申し込みしとき。」
「おおきに。ありがとうございます。
行て参じます。」
「おい、今からかいな。」
「はい。あきまへんか?」
「ええわ。行て来い。」
「はい。」
走って行く四郎を見て………
「昼休み中や!ってからに、ほんまに嬉しいんやろな。
分かるで。誰もが通る道や。うんうん。」
上司は独り呟きました。
庶務課に行き社宅の申込書を貰いました。
その場で書ける内容は教えて貰いながら書きました。
庶務課の課長が……
「宮川君、君、結婚式どないするんや?」
『また、結婚式や。』
「しません。お金が無いんで……。」
「ほうか。……… あのな、宮川君……。」
「はい。なんだっか?」
「集団就職やろ。君……。」
『何を今さら!!』
「はい。そうだす。」
「集団就職の子が結婚式を合同で挙げられるように大阪市がしてくれてるんや。」
「えっ?」
「せやから…大阪市がな、集団就職した人を集めて結婚式をしてくれるんや。」
「大阪市が?…」
「そや、どないや。合同結婚式!」
「俺でも?」
「勿論や! 花嫁衣裳も用意してくれるんやで。」
「花嫁衣裳も…?」
「せや! せやから、どないかな?って思うたんや。
で…どないや。」
「したいです! あ……みどりちゃんに聞いてからでないと
返事出来まへんけど…。」
「勿論や、聞いといで。」
「はい。行て参じます。」
「待て!」
「はい?」
「仕事終わってからにし。ええな!」
「あ…… はい。」
走って仕事に戻る四郎を見て庶務課長は……
「みどりちゃん……か……ええなぁ。若いって……。」
そう呟きました。