夢に向かって
就職から2年が経ちました。
四郎は会社で知り合った女の子と付き合うようになっていました。
寮と工場の往復だけだった生活が一変しました。
仕事が終わってから、待ち合わせて一緒に食事を摂ったり、休みの日には映画を見に行くようになったのです。
幼馴染の三郎とは毎月一回会っていたのですが、付き合う女の子が出来てからは、めっきり会う回数が減りました。
四郎も三郎も、すっかり大阪弁になっています。
ある日、四郎と同室の山本武が辞めると言ったのです。
「なんでや。なんで辞めるんや。」
「ここより、まっと ええ給料のとこがあるんや。
月2万円貰える!
そやから、そこへ行く。
お前も、どないや……一緒に行くか?」
「否、俺はここで気張るさかい。……ええわ……。」
「さよか……。そやな、お前には彼女、おるもんな。」
「もう会われへんのか?」
「まぁ、今度会う時は福岡かもしれんで。
故郷に錦を飾るんや! その時、会おうな。」
「うん。達者で……。」
「お前こそ……。ほな…さいなら…。」
その後、山本武がどこに行き働いているのか分かりません。
四郎は「元気で居てくれたら…。」と思っています。
料亭で働いている三郎は、《焼き方》になっていました。
懸命に教えられたことを学んだ結果です。
着実に暖簾分けして貰える日に近づくために、もっと頑張らないといけないと思っています。
大きな夢【暖簾分け】を叶えるために……。
四郎のような恋愛は、まだ三郎には遠いようです。
仲居と少し話をしますが、今の所、恋愛には至っていないようです。
先輩の一人に店主が縁談を持ってきて、その人は結婚しました。
たぶん、四郎と違って三郎は「先輩のように見合いで結婚するのだろう。」と思っています。