『血の匂い』
蛸足の緑だけが光る部屋で、ベッドにうつ伏せになりながら、部屋の奥の本棚を見ている。
俺は血が好きだ。
俺は肉を食らうんだ。うさぎなんて一目散。殺人鬼だって尻尾巻いて逃げ出すさ。
小さい頃はヴァンパイアの絵本だって何回も読んだし、にんにくが危ないってことも知ってる。
日焼け止めは欠かさないし、トマトジュースは飲まない。
鉄仮面はあいにく持ち合わせてないが、鋭い牙なら、ほらこの通り。
世間では、これを犬歯などと言うそうだが、俺のこれは、一般のそれとは違う。血を喰らう魔物なのさ。
黒いスーツにハット帽、ポケットに両手突っ込んで身体屈めて歩く。
道ゆく人がみんな俺を見ている。おっと、俺の口から出した牙には気付いちゃいけないぜ。それがお前の死期になるからな。
行きつけの古着屋での店主との会話は欠かさないし、美容室だってヴァンパイア御用達のダークなところさ。
いつものバーでも、必ずカウンターに座るし、おっ、もちろんカクテルは少しずつ、な。上品に飲むんだ。
酒の小瓶とマッチは欠かさず持ち歩くし、暴漢なんてなんのその。
路地裏で火だるまにしてやったのさ。
女に感謝されても、知らん顔。俺は興味なんてないのさ。
歌舞伎町は俺のテリトリーだし、影のオーナーなのさ。好き勝手させてやってるけどな。
生きることなんて怖くない。そもそも俺は死なないからな。
ただ、地を練り歩くのさ。
ハロウィンの日は何故か、多くの人に囲まれたが、そんなの関係ない。
俺は血に飢えてるのさ。
ただ、それでも苦手なものが一個だけあるんだな。これだけはな。
それは「愛されること」なんだな。
余計に寂しくなるだろう。
どうせ死ぬんだから、勝手に死んでいってほしいよな。好き勝手人のこと踏みつけて、踏み跡残して死んでいって欲しくないよな。
でも、あいつらは血飲ませても死んじゃうんだよな。
指切ってみせても、口噛み切って血分けてやっても、心配して手当してくれるんだよな。どうせすぐ治るのに。
同じように愛されて、同じように好きだと伝えられて、同じように心配されて、同じようにみんな明るく笑うんだよな。
唯一ちゃんと見れる太陽なのにな。みんな点滅して消えてっちゃうんだよな。
本棚を見ている。
みんな死んでくんだよな。
みんな。
本棚を見ている。
みんな。




