鬼ムズギャルゲの断罪イベント
この国の貴族は皆、十六歳になると貴族学園に通い始める。
会計と貴族法に関する知識は有益だ。行政の都合でしょっちゅう変わるものだから。
鬼ムズギャルゲ『裂果の娘たち -愛を綴る魔女-』が始まるのも学園の入学式からで、主人公のアルバート様と第一攻略対象のベアトリス様、それに当て馬令嬢の私が同学年になる。
同じ学年に在籍しているアルバート様とベアトリス様の関係を、お二人の友人の友人にあたるクラスメイトたちにどう思うと聞くのはかんたんだった。
「仲良くていらっしゃいますよね」
「お家に言われたご友人だとか。ポッターサン家とスミスワイフ家の繋がりはアルバート様とベアトリス様がお生まれになってからのことですね」
「それって縁談の前準備なのではなくて」
「どうかしら。それにほら、仲の良い幼馴染が」
「でも私が聞いた話だと」
ただ、聞けた話は見たままのことと知っていることがほとんどだった。お二人の様子に興味津々の彼女らも、思い合った恋人同士と断定することができないらしい。
「寒さに強い品種ならありますよ」
「その品種、牛に食べさせても平気かしら」
「ええ。でも他のものも混ぜた方がいいかもしれません」
「水はけのいい地方の品種がよくてよ。よく食べるの」
話題はだんだんと領地の特産品に移っていく。食料自給はドロシー嬢の企みを防ぐためにも重要なので、そのまま情報交換をすすめる。飼料用の作物は植え付けられる土地と時期に制約があるのだという。
そうして井戸端会議にいそしむ私たちの元に、廊下から大声が聞こえてきた。
「アルバート・アイズ・ポッターサン!我々は貴様を断罪する!」
『裂果の娘たち』にこんなシーンはあっただろうか。
アルバート様のことを囲んでいるのは見事な金髪の男子生徒と、その人物の取り巻きらしき数人だった。
「新興の伯爵家ごときが、ベアトリス・ベティ・スミスワイフ公爵家令嬢に付きまとうのを即刻やめよ!」
「家の繋がりで縁をいただいている友人ですよ」
アルバート様は一人だ。
「成績を笠に着て、学生の内ならば婚約を結べるとでも思ったか。家格がまったく足りていない!」
「もちろんです」
「公爵家のご令嬢には公爵家の人物こそがふさわしい!」
「私からは何とも」
スミスワイフ公爵家とポッターサン伯爵家は良好な関係というけれど、経済力と影響力には大きな隔たりがある。
「では、ベアトリス嬢本人に真偽を質そうではないか!」
「それは困る」
騒ぎをアルバート様だけで抑えられず、公爵家を煩わせることになるのは困るだろう。
「私に直接お話しいただいたのは、ベアトリス様を煩わせまいという深慮こそと存じ上げます。私の説明下手のせいでそのお心遣いを無にすることはできません。ポッターサン家が結婚相手に求めるのは、矮小な我が伯爵領を盛り立ててくれる人物であろうこと。知性に優れ、意欲があり、家格の釣り合うご令嬢を望みます。あまりに高貴な出自の方では、我が家のため骨を折っていただくのが恐れ多く難しいでしょうから」
「つまりなんだ!」
アルバート様は言う。
「頭がよくて伯爵くらいの家の方がいいです」
金髪の男子生徒は鼻を鳴らした。
「ふん。伯爵家風情にはその程度がお似合いだ。成績がいくら良かろうと、公爵家令嬢に相応しい家格というものがあるのだからな!」
「もちろん。我が伯爵家がスミスワイフ公爵家に婚約を申し込むなど、あり得ないことです」
成り行きを見守っていたクラスメイトたちがこちらを見る。
「フィエルテ様って成績が良いですよね」
「ポッターサン伯爵家令息もとても優秀ですけれど、主席はフィエルテ様なのでしたっけ」
「いえ、主席入学はアルバート様ですよ。私は試験で数度首位を取っただけで」
「そうでしたね」
「ジョアン様は成績が振るわなかったのでしょうね」
「急な代替わりでしたから」
金髪の男子生徒のことだ。
「公爵位を継ぐお方だから、それこそ婚約したがる家はたくさんあるでしょうけど」
「断罪だなんて、法服貴族の真似事みたいに」
「ベアトリス様は、そもそも公爵家の方ですもの」
思い合った恋人同士と断定するには至らないものの、お二人の友人の友人にあたるクラスメイトたちはお二人の間に割って入る人物を歓迎しない様子だった。
公爵家の令息と令嬢にふさわしい婚約相手について、好き勝手に話し合う私たちに話しかける人があった。
「ねえちょっと。こちらにベアトリス様はいらしていない?」
「いいえ?どうかされたの」
「見つからないの」
スミスワイフ公爵家とはあまり関係のない貴族家の、ベアトリス様と同じクラスの女子生徒だ。
「こんな騒ぎがあったでしょう。心配して探したら、居ないのよ」




