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世界が滅ぶ前日に  作者: カオス
2/12

回顧

 飛行機を取るのにも一苦労だった。


 電車や汽車で行ける距離ならともかく、手段は飛行機かフェリーしかない。

 でも皆考えることは同じなのだろう。

 かつて無いほどの帰省ラッシュ、旅行希望者の数によりどちらもほとんどの日のほとんどの時間が埋まる異常事態。

 先週一週間を厚志さんが休み、今週なんとかチケットを手に入れることが出来た俺も休みを取ることが出来た。


 だから朝早く家を出た。

 飛行機から降りた後、乗ったバスの中で揺られながら外の景色にずっと目をやる。懐かしい。過ぎる街並み、今目の前に広がる緑溢れる森。昔を思い出す。

 自転車でここら辺駆け抜けたな。中学生の時離れて以来だから十二年ぶりになるのか。

 制服を着て走った当時を回顧しているとあっという間に森を抜けてしまった。すると少ししてから海が見えてきた。


 そこで降りた。


 降りたすぐ先。堤防を越えて海がすぐそこに広がっているのが見える。

 まだバスで進むことも出来るけど、この道を久しぶりに歩きたいと思った。

 海の形に沿って広がるコンクリートの道を進んでいく。

 何も変わってないな……。

 世界は今も崩壊すると謳っているのに、自分の表情が穏やかなのが分かる。

 

 こんな落ち着いた気持ちでこの海を見るのは中学二年の時のあの修学旅行の日が最後だろう。

 思い出したくない気持ちはあるのに、自然と脳裏に写真と言葉付きの映像がポンポンと次々に現れてくる。


 ――楽しみだった。

 友達との旅行。初めて行く東京。楽しくなると信じて疑わず眠れなかった前日の夜。

 朝早くから父親が運転する車で両親と一緒に空港に向かって、楽しんで来てね、そっちもね、飛行機乗り遅れたりしないでちゃんと帰ってきてね、当然だろ。そんな会話を交わして笑顔で別れた。

 俺が旅行でいない際に両親も知り合いから譲り受けた一泊二日のペア宿泊券で温泉旅行に出掛ける予定だったらしい。

 連絡が入ったのは二日目の夕方だった。東京を観て周り、友達と話して笑って歩いて、疲れ切って眠りかけていたのを今でも覚えている。

 そんな中突然かかってきた電話に出た担任の先生が話終わってから真っ先に俺の席まで来て声を掛けてきた。その顔は見たことないくらい深刻だった。瞬間一気に眠気なんて吹き飛んだのだから。

 俺は急遽先生と二人でタクシーに乗りかえて空港に向かって地元に帰った。


 温泉旅行の帰り道、両親が事故に遭ったと告げられた。正面衝突でかなり大きい事故だったと、相手が飲酒運転だったとタクシーの中で先生に聞いていた。お前の両親は悪くない。相手が道を外れてぶつかったと。

 怒りが込み上げた。顔も知らないそんなやつに……。そんなやつがルールを破ってルールを守っていた親が死にかけているとか意味が分からない。なんなんだ、ふざけんな。

 病院に着いた。すっかりあたりが暗くなっている夜。まだ手術中だった。

 夜二十二時十分。今でも覚えている。ドラマなど創作物でよくいうご臨終ですという言葉を時間と一緒に医師に告げられた。他にも自分と付き添ってくれた先生への労いの言葉、事故に遭ってからの様子などを説明してくれていたのはぼんやり覚えているけど、内容はほとんど覚えていない。聞いて理解出来るような精神状態では無かった。

 当時中学生だった俺の身体的、精神的拠り所で大きなウエイトを占めていた家族を一気に失った。

 離れて住む祖父母が来てくれて葬儀を進めてくれたが、正直あまり記憶に無い。本当は両親の死など認めたくない。葬式なんてやらなくて良いと思っていた。でもそんな訳にもいかない。葬式には頑張って出たけど、終わってからは心の中に大きな空洞が出来たように、生きる活力を失い動く気力すら起きなかった。

 どうすれば良いか分からなくなっていた。もう死んだ方が楽なんじゃないかと考えが過ぎる時もあった。


「健人、大丈夫?」


「健人、ちゃんとご飯食べてる?」


 そんな俺に彼女は声を掛けてくれた。葬式に出た彼女は葬式前でも、葬儀が終わった後でも家に来てまで気に掛けてくれた。


「あのね、健人。……好きだよ。私はずっと健人のこと想ってる」


 別れ際の彼女の言葉がフラッシュバックする。

 離れた場所にある祖父母の家に引き取ってもらうことになり、そっちの家に住むことになった。出発前、家を出て迎えに来たタクシーに乗る直前に来た彼女が涙を浮かべながら俺に言ってくれた。

 なのにあの時は応えて上げることが出来なかった。そんな余裕が無かった。


 好きだった。

 修学旅行の二日目の夜。呼び出して告白する気だった。でも出来なかった。

 その時も出来なかった。


「ねえ、また会えるかな?」


「分かんない」


「そう、だよね……」


 本当はあの時はもう会えることは無いだろうと思っていた。

 彼女は腕で涙を拭っていた。彼女の傷付いた顔を見るのが辛くて、じゃあねとだけ言ってさっさと車に乗ろうとした。

 でも彼女は俺の腕を両手で掴んだ。


「また……また会おう。絶対また会おう!」


「……会えたらな」


 そう言うと彼女はゆっくり手を離した。

 俺も告白して付き合うことが出来ればきっと離れても連絡を取り続けただろう。きっと彼女との関わりはずっと続いていたかもしれない。それでもしなかった。

 近付いてくれた彼女から俺は遠ざかってしまった。


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