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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

『悲報』 子供だからという理由で派遣先のパーティーから馬鹿にされた少年、実は国から派遣された最強の助っ人だった。協力を拒むのは勝手ですが、間違いなくパーティーは全滅しますよ?

作者: イル

 早朝。

 まだ日も登り切っていない時間帯。


 王都から派遣された、僕──アイザック=フォン=フリードは、仕事の打ち合わせ場所であるギルドの酒場へと足を運んでいた。


「ああ? お前みたいなガキが、俺のパーティーをサポートするだと? ふざけてんのか?」


 打ち合わせの相手──ギルドでも最高クラスの実力を持ったパーティー、そのリーダーが開口一番、僕に向かってそんな言葉をぶちまけた。


 いきなり失礼な人ですね。


 確かに、僕の年齢は十二歳。

 外見もそれ相応です。


 側から見れば、大人のサポートをできるような人間には見えないでしょう。


 ですが、僕は国家直属のとある組織に所属しています。

 そこに所属しているのは国内でも指折りの実力者ばかり。


 その組織は国家の非常事態に対応する役目を担います。

 今回も、僕は危険な仕事をこなすためにここへ派遣されました。


 ですが僕一人では今回の仕事をこなすには人手不足です。

 なのでギルドで最も実力のあるパーティーへ協力を要請しました


 そして来たのがこのパーティー。

 僕を子供だからという理由で役に立たないと決めつけ、見下してきた彼らです。


 僕としては、現地のパーティーとは友好な関係を築いて、円滑に仕事を進めたいと考えていました。


 しかし……。


「こんなガキが何の役に立つんだよ! 馬鹿にするのも大概にしろ! ギルドマスターは何を考えてこんなガキを寄越しやがった! 子守りはごめんだぞ!」


 あまりにも憎たらしげに、そんな言葉をぶちまけるリーダー。


 この様子じゃ、とても友好な関係を築くのは無理ですね。

 そんなに僕の指揮に従うのが嫌なのでしょうか?


 リーダーは見るからに荒くれ者といった風貌です。

 彼なりのプライドがあり、僕みたいな子供に従うことに拒否感があるのでしょう。


「……ともかく、本日はよろしくお願いします」


 僕は笑顔で挨拶を交わす。


 ともかくここは下手に出て、これ以上の反感を買わないようにします。

 仕事そのものを放棄されては困りますから。


「ふん、挨拶だけはマトモだな。育ちの良いお坊ちゃんが」


 リーダーは嫌味で返してきた。


「王都から派遣された凄腕だとか何だか知らないが、これだけは言っておくぞ。俺はお前と違って現場で働いている人間だ。仕事中は絶対に俺の判断の方が正しい。だから余計な指図はするんじゃないぞ」


 リーダーは常に僕のことを見下したように喋っている。


 ですが、今回の仕事の適切な知識を持っているのは僕だけです。

 なので、僕の命令には絶対に従ってもらわなければなりません。

 

 でなければ、彼らパーティーの安全を保証することができない。

 それほどまでに今回の仕事は危険なのです。


「それは困ります。僕の指示に従って頂けなければ、貴方たちの命を保証することができません」

「ハッ! そんな必要があるかよ! 俺たちはギルド最強のパーティーなんだぜ? どんな相手だろうと負けるわけがないだろうが! ガキの小せえ脳味噌でもう少しよく考えてみろよ!」


 相変わらず上から目線で話してくるリーダー。


 うわー、意地でも僕の指示に従わないつもりですよこの人。

 流石にこれだと取り付く島がありませんね。


 よし、リーダーを説得することは諦めましょう。 

 ですが、僕が指揮をとるのを放棄したわけじゃありません。


 パーティーはリーダーを含めて四人います。

 リーダーが僕の指示に従わなくとも、それ以外の三人が僕の指示通り動いてくれれば問題はありません。


 なので他のみなさんに意見を求めます。


「ははは……。では、みなさんもそれでよろしいでしょうか?」


 リーダーのあからさまに横柄な態度。 

 普通の人間であれば、彼の態度はおかしいと思うはずです。


 他の三人からその指摘が入ればどうなるでしょうか?

 僕が正しく、リーダーが間違っていることが明らかになります。


「別に、それで問題はないかと」

「リーダーの言うことに異論はありません」

「どうでもいいんだけど、早く仕事させてくんない?」


 三人は満場一致でリーダーに賛成する。


 ……あれ、おかしいな。

 このパーティー、マトモな人間が一人もいないぞ?


「よし、それじゃ早速出発するとしようか」


 当たり前のように命令を下すリーダー。

 文句を言わずそれに従う仲間たち。


 しまった。

 完全にリーダーが取り仕切る流れになってしまった。

 

「とうわけで、とっとと行くぞガキ。仕事の内容は移動中にでも教えてもらおうか」


 それだけ言って席を立ち、ギルドの外へ向かっていくリーダー。


「オラ退けよ! 俺が通るんだ! 雑魚は失せろ!」


 その道中、酒場にいる同業者のギルドメンバーをどつきながらリーダーは進んでいく。


「チッ、なんだよアイツ」

「ギルド最強のパーティーだかなんだか知らないが、調子こきやがって……」

「今日こそ仕事中にくたばってこいよー!」


 ギルド中から飛んでくるブーイングの嵐。

 めっちゃ嫌われてるじゃないですかあの人。


 実力はあるはずなのに。

 いやまあ、あの性格なら仕方ないか……。


「ハッ! カスどもの僻みか! 俺より成果を出してからデカい口を叩きやがれ! このドブカスどもがーァ!」


 更なるヘイトスピーチをかましてギルドから出ていくリーダー。

 ギルド中からの批判はより一層高まった。


 多分、僕が出会ってきた人間でも最悪の部類だ。

 最低の小物だ、あのリーダー。


 大丈夫かな? 

 今回の仕事、無事に成し遂げられるか……もうめっちゃ不安です。



 *



 ──数分後。

 ギルドのある街から外に出て、目的地に向かう道中である。


 僕はここまでの間、リーダーたちへ仕事の説明をしていた。


「あん? 黒い樹木?」

「はい。国はこれを、『魔胎樹(またいじゅ)』と名付けました」


 今回の仕事は魔胎樹の伐採。

 また、そこから生み出されたモンスターの討伐です。


 魔胎樹とは、つい最近になって存在が確認された新種の樹木。

 発見数自体も少なく、その生態についてはほとんどが不明。


 見た目は黒い樹木で、枝には果実のようにモンスターが実る。

 国はそのモンスターを『魔獣』と呼んでいます。


 魔獣は通常のモンスターの何倍も強く、そして食力旺盛です。

 魔胎樹が発生して一ヶ月もあれば、周囲の生態系は壊滅してしまうでしょう。


 なので早急に魔胎樹を対策する必要があります。

 そのために国は各地へ監督役を派遣することにしました。


 監督役には魔胎樹に対する知識が与えられます。

 そして現地のギルドの人間と協力して、魔胎樹の伐採を行う必要があるのです。


 僕に与えられた知識は以下の三つ。


 まず一つ目。

 魔胎樹本体を伐採すると、そこから生まれた魔獣は活動を停止します。


 次いで二つ目。

 魔胎樹本体の近くには、本体を守るための強力な魔獣が控えています。


 これを仮に、木を守る『番人』とでもしておきましょう。


 最後に三つ目。

 番人を討伐すると、魔胎樹本体も活動を停止します。


 以上のことから、今回の仕事を遂行するためには魔胎樹本体を伐採するか、番人を討伐する必要があることがわかります。


 ですが、番人相手には並の使い手では歯が立ちません。

 僕としては番人を無視して、最優先で魔胎樹本体を伐採することをお勧めします。


 そこから考え出した僕のプランはこうです。


 番人は僕が足止めします。

 その隙に、リーダーたちに魔胎樹本体を伐採してもらうことにします。


 魔胎樹本体の近くには、番人以外の魔獣がいるかもしれない。

 それを対処する役割もリーダーたちには請け負ってもらいます。


 という旨をリーダーに伝えたところ、


「なんで、その一番強い番人とやらの相手を俺たちにやらせないんだよ? その役割は、この中で最も実力のある奴が請け負うべきだよな? つまり俺であって、お前じゃない」


 という、トンチンカンな回答が返ってくる。


 だから、僕は国中でもトップクラスの実力を持ってるんですよ?

 そうでなければ請け負えない役目なのです。


 たかが田舎のギルド程度で最強クラスのリーダーでは、とてもじゃないですが実力で僕に敵うはずがありません。


 しかし、このことをリーダーにハッキリ伝えるとマズいことになります。

 一◯◯%逆ギレされます。

 

 間違いなく二度と僕の話を聞いてくれません。

 そうなっては、魔胎樹本体の伐採すら任せることができなくなる。


 なので、僕はリーダーの機嫌を損ねないように発言します。


「でしたら、リーダーだけには番人との戦闘に加わってもらいます。僕は補助に回りますんで。それ以外の方には、引き続き魔胎樹本体の伐採をお任せしたいのですが……」


 僕が聞くと、リーダーが鼻で笑いながら答える。


「フッ。ガキが、ようやく自分の立場を理解したようだな。最初からそうしとけばいいんだよ」


 この中で一番立場を理解してないのはリーダーなんだよなぁ……。


 大人とか子供とか関係なく、初対面の相手にここまで失礼な言動をするのは、人として問題があるとしか思えません。


 しかし僕としては、とっとと仕事が終わればそれでいいんです。

 この仕事が終われば、もう二度とリーダーと顔を合わせる必要がないのですから。


「お前たちもそれでいいよな?」


 リーダーが他のメンバーに語りかける。


「美味しいところは俺が持ってくから、お前らはいつもどーり雑務をこなしてろ」

「えーヤダー、私もモンスターと戦いたい」

「リーダーばっかりズルいですよ」

「うるせえ! テメーらは黙って俺の指示に従ってればいいんだよ!」

 

 不満を言うメンバーと、それを一蹴するリーダー。


 この人たち、仲間内でも険悪なムードなんですけど。

 リーダーの人を不快にさせる言動は、ある意味才能と言える域にまで達していますね。

 

 そうこうしている内に、僕たちは目的地に辿り着いた。

 うっそうと木々が生い茂る森の中。


 この奥に魔胎樹本体が存在します。


「なるほど、木を隠すなら森の中ね」


 リーダーが上手い事を言ってやった的な雰囲気で呟く。

 それを無視して森の中へ進んでいく一向。

 

 ある程度進んだところで、僕たちは目的の魔胎樹本体の近くまで来た。


「あれが魔胎樹か」


 懲りもせずに一人言を呟くリーダー。

 誰も返答しないので、カマって欲しそうにこちらの顔をチラチラと見てくる。


 早く誰か反応してあげてください。

 僕はめんどくさいので遠慮します。


「……で、番人ってのはどこにいるんだよ?」


 あたりを見ながらリーダーが言う。


 周りに木が生えていない、開けた場所に一本の黒い木が生えている。

 だが近くに生物の気配がない。


 おかしい……。

 魔胎樹の近くには必ず番人が控えているはずだ。

 

 番人は見るからに強力な魔獣といった風貌をしていて、図体もデカい。

 知性は獣と変わらないが、それでも十分過ぎるほど生物を殺傷するのに特化している。


 明らかに外敵を排除するための設計。

 それ以外の機能は持たされていないはずだ。


 なのに、今回は番人が魔胎樹本体の近くにいない。

 守ることを放棄している可能性は限りなくゼロに近い。


 魔胎樹本体を伐採すれば、番人を含めた全ての魔獣は消滅する。

 とすれば、番人がここにいない理由は……。


「なんだいねーのかよ。しゃあねえ、ならとっとと木を切って帰るぞ」


 そう言ってリーダーが魔胎樹に向かって突っ込んでいく。

 

 マズい、それだと番人の思う壺だ。

 僕は急いでリーダーを止めにかかる。


「辞めろ! 突っ込むんじゃない!」

「うるせーぞガキが!」


 だがリーダーはまったく聞く耳を持たない。


「あの木を切った奴が今回の報酬を独り占めだ! それ以外の奴は何も仕事をしていないんだからな!」

「ズルいぞリーダー!」

「自分が先に走り出してから言うなんて!」


 次いで他のメンバーたちも走り出していく。


「冷静になれ! みんな!」


 僕が叫んでも誰も止まらない。


 マズいことになった。

 僕の想像が正しければ、このままじゃパーティーが全滅することになる。


「番人はいないんじゃない! 姿を隠して僕たちを誘い込んでいるんだ!」


 ブワッ!


 突然、黒い何かが宙に現れる。

 細長くしなる、触手のような何か。


 黒い触手は、リーダーたちに向かって襲いかかる。


 シュバッ!


 触手による攻撃がパーティーに直撃した。


 パーティーメンバーは腕を、足を、首を、胴体を……。

 ともかく身体中を切断されて、断末魔の叫びを上げる暇さえなく絶命した。


 早い。

 あまりにも攻撃が早すぎて、どこから攻撃が飛んできたかがわからない。


 やはり僕の想像は正しかった。

 魔獣は姿を隠して、僕たちが自分の攻撃射程距離内に入るのを待っていたんだ。


 だが、それは同時に一つの疑問を生み出す。

 今まで戦ってきた魔獣にこんな知性はなかった。


 間違いない。

 この番人は、僕が今まで相手にしてきたどの魔獣よりも異質だ。


「おや、運の良い方が一人。そして賢い方がもう一人」


 ……声が聞こえた。

 パーティの誰のものでもない、艶のある男の声。


「いけませんねえ。警戒もせず敵のテリトリーに入ってきてしまうとは」


 声の主が魔胎樹の目の前に現れた。

 上半身裸の中年男性のような見た目をした、黒い尻尾の生えた魔獣。


 人型?

 間違いない、あれが今回の魔胎樹を守る番人であることは確かだ。


 初めて見るタイプの魔獣。

 初めての、意思の疎通ができるだけの知性を持った個体。

 

「無闇に私のテリトリーに入ってこなかった、そこの賢い貴方。名前を伺ってもよろしいですか?」


 番人が僕に向かって問いかけてくる。


 ……わからない。

 あの番人がどういった意図でこの質問をしているか、まるで理解できない。


 あれは今まで相手にしてきたどの魔獣とも違う。

 圧倒的に情報が足りない。

 

 ここは下手に刺激しないように、質問にはキチンと答えた方が良さそうだ。


「アイザック=フォン=フリード、です」

「ほう、愛称は? アイク? それともザック?」

「どちらかと言えば、ザックって呼ばれることが多いですね」


 ここまで会話していて、ようやく僕はそれに気付いた。


「う、うぅ……」


 番人のすぐ足元で、うめき声を上げながら誰かがが這いずっている。


 リーダーだ。

 他全員は即死したが、リーダーはまだ生き残っていた。


 だが傷が深い。

 右足が完全に切断されている。


 酷い出血だ。

 早く血を止めなければ手遅れになる。


 話なんかしている場合なんかじゃなかった。

 僕が最優先でやるべきことは、リーダーの救出と治療だ。


「ん? 彼が気になりますか?」


 僕がリーダーに意識を向けると、番人がそれを察して話題を変えてきた。


「せっかく運よく生き残ったというのに、このままでは死んでしまいますね。ですが中途半端に生きていても、ザックの気が散らされるだけです」


 そう言って番人は拳を振り上げる。


「ならば、すぐに殺してあげましょう。これでザックは私の相手に専念してくれるはずです」


 リーダーを殺す気だ。

 辞めろ、僕の目の前でこれ以上救える命を摘むんじゃない。


「出てきてください、みなさん」


 僕は番人の注意を引くために魔術を発動した。


 魔術とは人智を超えた奇跡のパワー。

 僕はそれを自在に扱うことができる、選ばれた存在。


 そして僕が操るのは『召喚魔術』。


 僕の周囲に三つの魔法陣が展開した。

 そこから僕と契約しているモンスターを呼び出すことができます。


「あれは……」


 番人が魔法陣に注目し、攻撃を止める。

 

 しばらくして魔法陣が光りだした。

 モンスターが召喚可能になった合図です。


 魔法陣の展開から、モンスターを召喚するまで少しのタイムラグがかかります。

 時間にして一◯秒程度。


 モンスターの強さによって時間が前後することもあります。

 僕が展開した魔法陣からは、それなりに強い三頭のモンスターが現れる。

 

 呼び出すモンスターは、鳥型の『燐鳥(りんちょう)』、馬型の『馬殉(ばじゅん)』、虎型の『虎塹(こざん)』の三頭。


「虎塹、まずは貴方に頼みます」


 僕は虎塹に命令して、番人へ向かって飛び付かせた。

 

 虎塹の武器は鋭利な爪による斬撃。

 三頭の中で最も攻撃力が高い彼に先陣を任せます。


「ほう、ザックは召喚術師でしたか」


 番人が虎塹を確認すると、すぐに尻尾による攻撃を繰り出してきた。


 尻尾から繰り出されるパーティーを一瞬で切り刻んだ高速の斬撃。

 ですが、虎塹の目ならそれを確実に捉えることができる。


 ガブッ!


 そして虎塹が尻尾に齧り付いて攻撃を止めた。


 虎塹の役目は尻尾の拘束。

 最初から虎塹に攻撃を任せるつもりはありませんでした。


 番人の動きが止まった隙に、他の二頭で確実にダメージを与える算段です。


「燐鳥、次は貴方に」


 続く第二撃は、この中で一番スピードのある燐鳥に任せます。


 バッ!


 燐鳥が低空で飛行しながら、トップスピードで番人へ向かって突っ込んでいく。

 

 番人の尻尾は虎塹が拘束して動かすことができません。

 この攻撃を避けることはまず不可能でしょう。


「素晴らしいスピードだ」


 番人が不敵な笑みを浮かべる。


 ブワッ!


 その瞬間、番人の尻尾が分裂した。 

 一瞬で九本に数を増やす尻尾。


 シュバッ!


 その半分が虎塹へ襲いかかり、虎塹の胴体を切り裂いた。

 もう半分が燐鳥へ襲いかかり、燐鳥を撃ち落とした。


 戦闘不能になったモンスターは、光に包まれて消えていきます。


「しかし、この程度の攻撃では私に通用しません」


 番人は余裕の表情で僕の攻撃を防ぎ切った。


 ですがこれは僕にとっても予想の範囲内。

 この時点で僕は番人に攻撃を命中させるつもりはありませんでした。


 番人を倒さずとも、リーダーを救えればそれでいいのですから。


「……ん?」


 番人がそれに気付き、足元を確認した。

 リーダーの姿がなくなっている。


「これが狙いでしたか」


 あまり気には止めていない様子で番人は言う。


 リーダーの体は場殉が回収し、僕の近くまで運んできていた。

 馬は持久力があるので、逃げるためにはベストの選択です。


「痛え……。痛えよ、クソが……」


 リーダーはか細い声で呟き続ける。


 まだ息はあるようです。

 早く医者のいる場所へ連れていかなければ。


 治療を受ければまだ命は助かります。

 足はもう治らないでしょうが、そんなもの、命と比べれば安いものでしょう。


「場殉、いってください」


 場殉は僕の言葉を聞くと、すぐにその場を離脱した。


 番人は一連の流れを黙って見ていた。

 攻撃をするわけでもなく、ただジッと僕が彼を見据えるのを待っている。


「優しいのですね、ザック。先程の方とは、それほど仲が良さそうには見えませんでしたが」


 番人がそんな見当違いなことを言ってくる。


「僕は優しくありませんよ? むしろ、誰にでも優しさを振りまいてしまうような善人は嫌いです」


 僕は憎しみを込めてその言葉を言い切った。


 善人は許すことを美徳だと勘違いした阿呆の集まりです。

 どんな悪人のことすら許してしまう。


 悪人はもっと嫌いです。 

 自分の利益のためなら他人を傷つけても良いと思い上がっているクズども。


 本物の悪人と比べれば、リーダーのような小物は可愛いものです。

 だから僕は別にリーダーのことが嫌いじゃありません。


 僕はもっと最悪な悪人を嫌というほど見てきました。

 そういった人間に利用されないためには、自分が強くなるしかない。


 僕の場合、より強いモンスターと契約すればそれでいい。

 その中でも一際強い()()を呼び出すため、僕は再度魔法陣を展開する。


 本当は、彼女に頼りきりになりたくはありません。

 ですが今はそうとも言っていられません。


「ネタは割れました。貴方が次のモンスターを召喚するまでの間、私が黙ってそれを見ていると思いますか?」


 番人は魔法陣を展開する僕の隙を狙って、尻尾による攻撃を再開した。


 九本に増えた尻尾が四方八方から襲いかかってくる。

 どこにも逃げ場はない。


 僕に召喚する時間も与えないつもりだ。

 新しいモンスターを召喚するには、どうしても時間が必要になる。


 魔法陣の展開から召喚まで一◯秒程度。

 しかし、とてもこの攻撃をそれだけの間躱し続けられるとは思えない。


 ですが、一度召喚したモンスターを再度召喚するのに時間はかかりません。

 その場合は、召喚を取り消した地点に呼び出されることになります。


 虎塹は先程の攻撃で完全に壊されたので、二度と召喚することができません。

 しかし燐鳥は破壊されなかった。


 攻撃を受けたその場で召喚を取り消し、待機させていたのです。

 だから再度召喚することができる。


 それを番人の目の前で、再び召喚する。


「燐鳥、奴の動きを止めてください」


 キシャア!


 番人の目の前に出現する燐鳥。

 

 燐鳥は特殊な魔力を纏って敵を攻撃します。

 雷のような、敵を痺れさせる魔力。


 ビリィ!


 燐鳥の攻撃が番人へ直撃した。


「アバァ!?」


 超高電圧の電気ショックのような衝撃が番人を襲う。

 

 尻尾の先まで痺れが伝わり、番人の動きが完璧に止まる。

 これで僕が新しいモンスターを召喚するまでの猶予が生まれた。


「やりますね! ですが、この程度で私を長く拘束することは不可能!」


 だが番人は少しずつ痺れを解いて、即座に行動を再開した。


 見事な精神力です。

 クジラですら一瞬で昏倒させてしまう強力な魔力なのですが。


 しかし、次の召喚で戦いを終わらせてもらいます。


 次に召喚する彼女は、僕が契約してるモンスターの中でも最強。

 他の追随を許さない、圧倒的な戦闘能力を持っています。


 僕が知る限り、彼女に勝てる生命体は存在しません。

 もちろん、契約者である僕自身も勝てません。


 だからこそ、僕は彼女に絶対的信頼を置いている。


 番人の攻撃が僕の胴体へ差し迫った。

 しかし、それと同時に魔法陣から彼女が姿を表す。


「くらえい! 我が最大の敬意を持って、ザック! 貴方にトドメの一撃を差し上げましょう!」


 番人は本気で僕を仕留めにかかる。

 

 しかし一瞬遅かった。

 たったの一瞬で彼女は、番人の最大の武器を取り除く。


 ブチィ!


 彼女が出現すると同時に、番人の尻尾を九本纏めて全て引きちぎった。


「ぬがぁ!」


 番人が激痛で苦悶の表情を浮かべる。


 彼女は引きちぎった尻尾を投げ捨て、僕の隣に姿を表す。


 宙に浮く小柄な緑髪の少女。

 無表情で無機質だが、どこか彫刻のような儚さと美しさを兼ね備える。


「究極生命体、龍人(ドラゴノイド)の『ニア』さん。僕の最高の相棒です」

「ニアだぞー」


 感情の籠ってない声でニアさんが挨拶する。


 よくできました。

 初対面の人にキチンと挨拶をするのは大切なことですからね。


「まあ初対面で残念なんですけど、ニアさん。今回のターゲットは彼です」

「殺しか? それとも生け捕りか?」

「完璧に息の根を止めてもらって構いません」


 僕は彼女の頭を撫でながらお願いする。

 

 ニアさんは見た目もそうですが、心も幼い。

 僕が彼女に接するその様は、親が子と接するそれに近い。


 ニアさんが番人を足止めしてる間に、僕が魔胎樹本体を伐採して彼を倒すこともできます。


 けれどそんなことをするより、ニアさんが彼を倒す方が早いでしょう。

 これから僕にできることは、黙って二人の戦いを見ているだけ。


 いいや、これから始まるのはとても戦いなんて呼べる代物じゃありません。

 一方的な殺戮です。


「馬鹿な……貴様、それをどこで……」


 魔獣がニアさんの姿を見て絶句する。


 生物としての本能が理解したのでしょう。

 目の前にいるのが、生物の理を超越した存在であるということを。


「……標的を変更します。……貴方だけは! 生かしておくわけにはいかない!」


 番人が激昂する。


 ドバァ!


 番人の尻尾が更に分裂した。


 尻尾の数は軽く数一◯本を超えている。

 その全てが一切の隙間も作らず、ニアさん目掛けて纏めて襲いかかってきた。


 一本で易々と人間を斬殺できる代物です。

 ですがそんなものが束になったところで、ニアさんに通用するはずがありません。


 ズダダダッ!


 ニアさんの小さくも強靭な拳から繰り出される拳打のラッシュ。

 四方八方から遅いくる尻尾全てを、瞬く間に撃ち落としていく。


「はぐあ!?」


 番人が目を丸くして驚く。

 無理もないでしょう。


 僕たちを確実に仕留めるために彼が放った渾身の攻撃。

 その悉くを防ぎ切られ、攻撃手段である尻尾を完全に破壊されたのだから。


 攻撃に使用できる尻尾はもう一本も残っていない。

 これ以上再生しないところを見ると、番人の限界も近いのでしょう。


「それじゃあトドメといきましょうか、ニアさん」

「ほいほーい」

 

 一瞬でニアさんが番人の目の前に詰め寄る。

 人間離れしたスピードです。


 番人はニアさんが目の前に来るまでまったく反応できなかった。

 消耗している、というのもあるでしょうが、それ以上にニアさんの速度が凄まじい。


 ともかく、あの距離までニアさんが近づいたらもうおしまいです。


「はいどーん」


 ニアさんの鋭い拳が番人の腹部へ撃ち込まれた。


「がっ!」


 番人が血反吐を吐いてその場に倒れ込む。

 一撃でほぼノックアウト。


 しかし恐るべきは番人の耐久力。


 ニアさんのパワーは災害にも匹敵します。

 その攻撃を受けて体が原型を留めているだけでも奇跡です。


 人間が相手なら確実に胴体が吹っ飛んでいました。


 ニアさんとしても、一撃で壊せなかった相手は珍しいのでしょう。

 不思議そうな目で番人を見つめています。


「ま、いいか。もっと叩けば」


 ニアさんが呟き、番人の頭を力一杯踏みつける。


 ドゴンッ!


 それだけで地面に大きなクレーターができた。

 なんという破壊力。


 そして、なんという容赦のなさ。


「うぅぅぅ……」


 番人には辛うじて意識が残っています。

 残念なことに、まだ死ねなかったようです。


 ドゴッ!


 かわいそうに、生き残るだけ苦しみが長引くだけです。

 番人の息の根が止まるまでニアさんの攻撃は止まらない。


 バキッ!


 頭が潰れて脳みそが飛び出る。

 やはりあの魔獣、体の構造は人間とほぼ変わらないみたいですね。


 グチャッ!


 やがて番人の脳みそがミキサーされ、ニアさんの足元にはドロドロの肉塊だけが残った。


「よし、終わったぞー」


 番人の息の根が確実に止まったのを確認すると、ようやくニアさんが攻撃の手を止めた。


「ニアさん、お疲れ様です」


 僕はニアさんに労いの言葉をかける。


 まあニアさんはこの程度の戦闘じゃ、これっぽっちの疲れも感じていないでしょう。

 ですが感謝の意を伝えることは大事なことです。


 僕は契約しているモンスターを道具だと思ったことはありません。

 大切な仲間だと思っています。


 その中でもニアさんは特別です。


 ふと、魔胎樹本体を確認する。

 番人が死亡したことによって、魔胎樹本体も崩壊を始めた。


「終わりですね」


 仕事を終えたことを確認して、僕たちは帰路につきます。

 いつもと変わらず、ニアさんと二人ぼっちの帰り道。


 今日は他のパーティーと一緒に仕事にきたんですがね。

 死んだり離脱したり、気づけば誰一人として残っていませんでした。


 まあ別にどうでもいいことです。

 仕事はキチッと終えました、誰からも文句を言われることはないでしょう。


「これで終わりか? 歯応えがないぞ」


 消化不良でぐずるニアさん。


「ごめんなさいね、今日はアレで我慢してください」

「わかったよー」


 でも彼女は素直なので、謝れば納得してくれます。


 微笑みもしない無垢の少女。

 彼女は何も知りはしない。


 されど残酷に運命は、彼女のことを巻き込んでいく。

 だからこそ僕が彼女を守らなければいけない。


「ニアさん、帰ったら何か食べたいものあります?」

「肉」


 そして、一つだけ彼女について明確にわかっていることがあります。 

 それは彼女が肉食だということ。



 *



 ──同日の夕方。

 

 僕は徒歩でギルドに戻ってきた。

 そこでおぞましい光景を目の当たりにする。


 ギルドの入り口の近くで大勢の人だかりができていた。

 円状に集まった人々が、中央の何かを見物している。


 そこにはリーダーがいた。

 良かった、リーダーをギルドまで送り届けるのは成功したようだ。


 しかし無事ではなかった。

 そこでは大勢の人間がリーダーを囲って、暴行を加えている。


「今まで散々お世話になったな! いい体になったじゃないか! 足をぶった切られて、歩くのもままならないとは! ええ? 元最強パーティーのリーダーさんよ!」


 男が怒声を上げて、地面に転がるリーダーを蹴り付けている。


 彼は確か、今朝リーダーにどつかれていた男だ。

 その仕返しか?


 だがリーダは怪我をしたまま治療を受けていない。

 彼は瀕死の人間を痛ぶっている事になる。


 仕返しにしてはやりすぎだ。


「ざまぁないな! お前風に罵倒すると、そうだな? このドブカスがーァ! ってところか?」

「何をやってるんですか貴方たちは!」


 僕は慌てて止めに入る。


 人が死にかけてるのに誰も助けようとしない。

 それどころか、率先して殺そうとしている。


 周りの人間はそれを面白そうに見物している。

 異様な光景だ。

 

「あん? なんだお前?」


 男はガラの悪い顔で僕のことを睨みつける。


「せっかく楽しんでたのに、腹立つなあ。ガキが、しゃしゃり出てんじゃねえよ。テメーもぶちのめしてやろうか?」


 男は憎々しげにそんな言葉をぶちまけて、僕の胸ぐらに掴みかかる。


 この人は……。

 典型的な悪人だ。


 立場の弱い人間を痛ぶっても何とも思わない。

 こうなったら、僕も少し暴力的に抵抗せざるを得ないか。


「辞めないかキサマら!」


 声が聞こえる。


 ハッキリと張り上げられた声。

 その声の主は、ギルドの最高権力者──ギルドマスターだった。


「客人を相手に無礼な態度を取りおって! 恥を知れ! その少年を誰だと思っている!」


 ギルドマスターに言われて、男が僕をつかんでいた手を離す。

 周囲の人間も一気に静かになった。


 流石にギルドマスターの言うことなら聞くようだ。

 ギルドマスターは僕の目の前に来て、頭を軽く下げる。


「すみません、うちの馬鹿どもが失礼なことを」

「いえ、そんなことより」


 僕は倒れているリーダーの元へ駆け寄った。


 息はある。

 まだ死んでいないようだ。


 しかし右足の傷も塞がっていない。

 それどころか、暴行を加えられたことで更に出血が酷くなっている。


「早くこの人の治療を!」

「うむ、任された」


 ギルドマスターの指示で、治療魔術の使い手がリーダーの治療を開始する。


 これでリーダーは助かるだろう。

 よかった、本当によかった。


「納得がいきません、マスター!」


 さっきの男がギルドマスターへ抗議する。


「なぜ止めるのです? あの男は、ああなって当然の人間でしょう?」

「確かに、アイツはギルド中から恨みを買っていた。いつか誰かに殺されてもおかしくはない男だ」

「ならば、我々が恨みを晴らしてもいいじゃないか」

「そうじゃない。私が止めたのは、お前たちがこの少年へ失礼な態度をとったからだ」


 ギルドマスターは言って、僕へ視線を向ける。


「この少年は国から派遣されてここに来た。お前たちとは比べ物にならん実力を持っている」

「こんな子供が?」

「彼はこのギルドの誰よりも強い。我々の仕事は実力主義だ。ならば、彼には最大限の敬意を示して然るべきだろう」


 ギルドマスターが頭を下げる。


「すまなかった。君と同伴したパーティーの連中が迷惑をかけたことだろう。本当ならパーティーの人間に謝罪させたいところだが、あいにく誰も謝れる状況にいない。代わりに私が謝罪しよう」

「辞めてください、何も謝られるようなことはしていませんよ」


 僕の言葉を聞いてギルドマスターが頭を上げる。


「それに、パーティーを守れなかた責任は僕にある」

「いえ。大方、あのパーティーの馬鹿どもが貴方の言うことを無視したからこうなったのでしょう。何も貴方が気を病むことはありません。全て彼らの自業自得です」


 ギルドマスターはキッパリと言い切る。


 それはそれで僕としては歯痒い感じがします。

 僕はもう少し上手く立ち回れたはずだ。


 例え彼らが言うことを聞いてくれなかったとしても。

 後一人くらいは助けられたかもしれない。


「優しいのですね」


 ギルドマスターが微笑む。


「なるほど、それなら外野がこれ以上言えることはありませんね。しかし、子供というのはもっと自由なものでは?」

「そう……かもしれませんね」


 僕は少し言い淀む。


 本当なら、僕に近い年齢の子供はもっと自由に生きているはずだ。

 なんのしがらみもなく、好きに自分の人生を謳歌できているはずだ。


 でも僕は違う。

 僕には役目がある。


 生まれつき僕がやるべきことは決まっていた。

 僕はそれに従って生きるだけだ。


 おかげで国内でも有数の実力者と呼ばれているかもしれない。

 けど、僕としても本当は……もっと自由に生きたかった。


「そういえば、こんな話を聞いたことがありますかな?」


 ギルドマスターが話題を変える。


「大陸南端のギルドに、貴方と同じ十二歳のとても強い少年がいるとか。そうでしたね、名前は確か……。クリントン、クリスティーヌ、クリストフ、クリストファー……。あ、思い出した。クリトリ……」

「下ネタは辞めてくださいクソジジィ」

「はっはっは、すまんかったな。そうだクリス、クリストファー=ローブスという少年だ」


 笑い飛ばしながらギルドマスターは言う。


 クリスさん、ですか。

 少し興味はありますね。

 

 もし、その人が本当に僕と近い実力だったとしましょう。

 なら僕と同じ目線で話すことができる相手かもしれません。


 僕は今までそういった人間と出会ったことがない。

 だから、もしかしたら……といった、ほんの少しの願望です。


 でも僕にそんなワガママを言う権利はない。

 何故なら僕にはやらなければいけないことがある。


 それが成就するまでは、僕が弱音を吐くわけにはいかないのです。



 *



 ──翌日。

 

 僕は王都へ帰る前に、ある人物に会うことにした。

 先日壊滅したパーティーのリーダーです。


 あの後、彼は何とか一命を取り留めました。

 ですが右足は治らなかった。


 日常生活ですらマトモに送ることができなくなるでしょう。

 これからは補助具を使う生活を強いられるはずです。

 

 僕は最後に彼に会って言い合いことがある。

 そのために、僕は彼のいる病室へ立ち寄った。


「何でこうなるんだよ、クソが……」


 彼がボヤく。

 

 彼はベッドに横たわりながら、涙を流している。

 悔し涙か、それとも右足の痛みに耐えているのか。


「仲間は誰も助からなかった……。俺のせいだ。俺がアイツらを焚き付けて、無策で突っ込んだから……。すまなかった、みんな」


 彼は懺悔の言葉を繰り返す。


 よほど仲間を失ったことが堪えているのでしょう。

 確かにそれは彼が背負うべき罪だ。


 死んだ人間を弔うことは、生きている人間にしかできないのだから。


「!? 誰だ……」


 彼が僕の存在に気づく。


 僕は病室の外からそっと彼のことを見ていました。

 いきなり僕が現れたら驚くでしょうし、タイミングを測っていたのです。


「お前は……。何しにきた。笑いに来たのか。こんな無様な姿になった俺を」


 僕の姿を確認して彼は塞ぎ込む。


 とても先日イキリ散らしていた彼と同一人物とは思えません。

 凄まじいやつれ様です。


「俺が悪いんだ。そんなことはわかってる。お前も俺を馬鹿にしに来たんだろ。そうだよ、俺は仲間を死なせた大馬鹿野郎だ。だからこれ以上、誰も、何も言わないでくれ……。頼むから、一人にしてくれ」


 彼は放っておけば死んでしまいそうな勢いです。


 僕も無駄なことを言う気はありません。

 ここはとっとと要件だけ済ませてしまいましょう。


「貴方が思い悩むのは勝手です。ですが貴方にはこれからの人生がある。そこまで棒に振ってしまう必要は、果たしてあるのでしょうか」


 僕は言って、一枚のメモ用紙を置く。


「もしよければ、ここに書いてある連絡先に連絡をしてください」


 鳩の足に手紙をくくって送る感じである。


「僕は腕の良い医者を知っています。彼女なら、失った足を戻すことも可能でしょう」


 それだけ伝えて僕はその場を立ち去ろうとする。


 善意ではありません。

 もちろん、代金はいただきます。

 

 しかし、黙って彼の惨状を見過ごすこともできない。


「うるせーよ、クソガキ……」


 彼は最後にそれだけ呟いた。


 彼は確かにいけすかない人間だ。

 けど、その分の罰は既に降った。


 これから彼がすべきなのは、生きて失った仲間たちに悔い続けること。

 それは死んでしまうよりよっぽど辛いことです。


 ですが彼が本当に後悔しているなら。

 必ずそうすることでしょう。


 僕はこれから、ギルドのある街を少し観光してから帰るつもりです。

 どんな残酷な運命でも、楽しむことは許されます。


 僕はなるべく楽しみながら、自分の運命に争ってみようと思います。

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