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異世界でも見える人  作者: 雨音静香
第七章 無能姫と炎の魔人
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038 落着とそれから……

「終わりだ!」

 炎の魔人の四肢を断ち、首をはね、体を細切れにしたランティスはそう言い放ち、最後の一振りを放った。

 それまでは水の壁に当たらず、地面に転がっていた炎の魔人のパーツが、纏っていた炎を失って石片へと変わっていく。

 最後にランティスが両断した大きな胴体部も欠片へと姿を変えた。

 それを確認したランティスは、中空を見詰めると大きく頷く。

「ガルドス! メルティナを至急連れてきてくれ!」

「は? はっ!」

 一瞬飲み込めなかったランティスの指示内容を、数秒遅れで理解したガルドスは敬礼すると自ら伯爵城に向けて駆けだした。

「お前が行くのか……」

 目を点にするランティスだが、役割が全て終わったわけではないので頭を振って今一人の団長へ視線を向ける。

「ロンデル、一度全部の魔法を可能な範囲で解除して、炎の魔人の欠片が潜んでいないか探ってくれ」

「心得ました」

 ロンデルはランティスの言葉に了承の旨を伝えると、近づいてきた部下達を見やった。

 その中でも一人ボロボロの人物を見る。

「ウェーリア、お前は医務室だ」

「し、しかし……」

 自分が役割から外されたことに気づき、ウェーリアは慌てた素振りを見せた。

 対してロンデルは苦笑気味に「今、医務室には姫様がおられるはずだ。何かあればお前が護れ」と告げる。

 直後、踵を返したウェーリアは「了解です」と短く口にするなり、得意の高圧水噴射(ジェット)の魔法で文字通り飛んでいった。


「ら、ランティス様、メ、メルティナを連れて参りました」

 息を荒くしながら報告をするガルドスに苦笑しつつ、ランティスは「ご苦労」と労いの言葉を掛けた。

 鎧で全力疾走したのだから息も上がって当然だとは思うのだが、わざわざそんなことをしたのはガルドスなりの自分への戒めのようなものだろうと考え、ランティスは敢えてスルーする。

 そして、自分が呼び寄せたメルティナに真剣な顔を向けた。

「ランティス様」

 その迫力に気圧されそうになったメルティナは、それでも自分に重要な任務が下されると理解して、どうにか踏み止まる。

 そんなメルティナの態度に、ランティスは心強いものを感じながら呼び出した理由を伝えた。

「炎の魔人の核を持ち込んだと思しき三人組の人相を伝える。直ぐに拡散して捕縛に入ってくれ」

「了解しました!」

 メルティナが敬礼で応えた直後、ランティスは視線をガルドスに向ける。

 団長を務めるガルドスはその時にはしっかりと呼吸を整え、力強い敬礼を以って任務を受諾して見せた。

「了解であります!」


 メルティナ経由で伝達された犯人らしき三人の人相は、すぐさま念写によって手配書にされ、領都内の衛兵や官吏、さらには住民に至るまで瞬く間に伝達されていった。

 領都に混乱を巻き起こした大悪党であり、伯爵領の秘宝でもあるサラに命の危険を齎した憎き敵と付け加えられたことで、その捜査網と連携は領都史上最速で構築、最大規模で運用されることとなる。

 だが、優秀な捜査網は三人全員を発見することには成功するも、既に三人ともが事切れていた為、そこで黒幕への繋がりは途絶えることとなった。

 犯人を生きたまま捕らえられなかったことに落胆する領民達だったが、その心を救ったのは、サラが無事であるという領都放送による伯爵家からの報告である。

 そして、天授技能を持っていないにも拘わらず、伯爵家の一員として、命懸けで領都と領民を救う為に戦ったサラの姿は瞬く間に領都で語られることとなった。

 目撃した者はその事を興奮気味に伝え、その話を聞いた者も知らぬ者へと語って聞かせる。

 特に現場にいたロンデルやガルドス、ウェーリアから語られる話は、人々の感動の涙を誘うことになった。

 自分たちの暮らしの向上に貢献し、懸命に働いてくれているサラが、その事を傲ることなく、むしろ無能姫である自分に協力してくれているという感謝の念、そんな領民を誰一人失いたくないという想い、そしてランティス達が現れるまで懸命に命懸けで戦った姿、どれもが領民の胸に響いたのである。

 こうして、サラを尊敬し敬愛するようになった領民達は、領主である伯爵家から命じられた『その偉業を隠匿せよ』という命令に従う為に、一つの逃げ道を用意した。

 それがサラを語る時に『ソフィア』の名を用いるという手法である。

 元々ローザによる『ソフィアとユーメルク』やお礼の手紙で、サラの代名詞となっていた『ソフィア』の定着は早かった。

 子供の名前に、料理の名前に、商品名に、至る所でサラの代わりである『ソフィア』の名が使われることになり、この数ヶ月後に発行されることとなる伯爵領硬貨の図案や名称すらもソフィアづくしとなる。

 そして、この炎の魔人事件を題材にした『紫電と凍気纏う乙女ソフィア』の物語は、後の世まで長く語り継がれることとなるのだった。

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