第6話 変化
前田監督の希望どおりのキャンプを経てJ1の「オリゾン千葉」とプレーシーズンマッチを行うこととなった福島ヴァーシュ。
苦戦の前半が終わりハーフタイムに前田監督がチームに授けた策とは?
さて今後のチームを占う後半戦が始まるが、開始前に前田監督は選手に「システム変更」の指示を行った。
その変更とはハーフタイム中に前田監督が「個の力に勝てないのであれば組織力で勝負する」という言葉を体現するシステムとなり
FW 蜂谷
MF 小林 広瀬 永瀬
MF 池上 斎藤
DF 清水 黒田 北条 上田
GK 川上
と中盤を厚くするためする「4-4-2」から「4-2-3-1」に変更した。
そして後半開始となったが、このシステム変更によって前半には機能していた千葉の中盤が攻めあぐねるようになっていった。
というのも個の力が強い千葉だからこそ局面を「個人で打開」しようとする意識があるため、後半になり中盤に人数をかけるようになったヴァーシュの組織的な守備網でチャンスを失う形が増えたからだ。
ただ、相手が攻めあぐねていてもヴァーシュが攻められなければ局面を打開できない。
が、そこも前田監督がキャンプから取り組んでいた「策」を実行してきた。
それはヴァーシュが「攻めている時」におこる変化で、攻撃になった瞬間に両SBの清水と上田がFWの位置まで駆け上がり、ボランチの池上がリベロのポジションまで降りてきて「3-4-3」と斎藤のワンボランチに変わるところだ。
FW 清水 蜂谷 上田
MF 小林 広瀬 永瀬
MF 斎藤
DF 黒田 池上 北条
GK 川上
これにより左右に起点を作ることができ、同時に前線に枚数が増えることで攻撃の圧力を増すことができるのが利点だ。
そして守りは5人のMFで強固に固め、攻めになったとたんに両SBが翼を広げるように駆け上がっていく「変化」で相手を混乱させることに成功した。
またこのシステムを支えるのは2つのカギがある。
それは「スイッチ」と「体力」だ。
まずスイッチだが「守備から攻撃」のスイッチ役の広瀬と「攻撃から守備」のスイッチ役の斎藤である。
この戦術の肝は両SBが一気に駆け上がるため途中でボールを取られたり、相手に攻められたときにディレイしないと両サイドが空いているため一気にピンチになってしまうからだ。
そのため広瀬には「中盤でのキープ力と展開」、斎藤には「攻められた時の時間稼ぎ」の能力が求められるが両者ともその力は十分持ち合わせており、このシステムで十分に実力を発揮できることとなる。
次に体力だが、言わずもがなの両サイドの消耗である。
なので両サイドの清水と上田は技術やカットイン能力などは目をつぶり、とにかく「チームの中で体力がある上位2人」を前田監督は選んだ。
今Jリーグでも浦和のペトロヴィッチ監督や広島の森保監督が「守りは3-6-1」で「攻めは4-3-3」とする形をとっているが、福島にはJ1ほどの戦力がないためとにかく前述の2チームより「両サイドの可動範囲を多くする必要」があったため「最終ラインからの飛び出し」が求められるのが異なる点である。
そんな変化に「ヴァーシュ福島」を応援するサポーターも驚きを隠せないようだった。もちろん「何か新しい変化」が起きていることへの期待である。
またわざわざ福島から千葉まで遠征して応援してくれるサポーターのためにも「何かしらの成果」をあげようと選手も今の戦術を必死に理解し実行していった。
対する千葉もヴァーシュの変化に必死に対応するが、後手後手となりどんどんラインを下げていくこととなり、前半とは一転してヴァーシュのボールポゼッションが上がっていった。
そんな攻勢が出てきたチームに対し前田監督は
「丁寧にパスを回せ!」
「両サイドをワイドに使って相手の体力を消耗させろ!」
「サイドは裏にどんどん飛び出して相手のラインにプレッシャーをかけろ!」
と叫び、その指示に従いさらに運動量を上げて攻め込み、その結果後半40分に2列目から飛び出した永瀬が広瀬からのスルーパスを受けてゴールを決め1-0とJ1相手に勝利を収めた。
千葉は終始個人で打開することを試みたためか攻めに転ずることが出来なかった。それはまるで去年のヴァーシュをみるようだった。
もちろんこの勝利は「前田のサッカー哲学」である「走る力」をベースにしながら相手を押し込んでいくサッカーでプレーする選手たちも手ごたえをつかんだようだった。
そしてなにより福島から来たサポーターの「変化」に対する満足そうな笑顔が何よりの「証明」だった。
「リスクを負って攻めて、失点されたら俺が責任を取る!だから思い切って自分達のサッカーを千葉に見せ付けて来い!」
ハーフタイムの監督の発言に選手たちが意味を見出した瞬間でもあった。
そして勝負のJ2開幕を迎える。