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第5話 信念

前田監督は「サポーターを喜ばせるサッカー」を標榜とた。

そしてそのサッカーを体言するべくチームが始動した。

前田監督が掲げる「サポーターを喜ばせるサッカー」を体現するべく、キャンプでは集中的にフィジカル中心にトレーニングが行われた。


前田監督の方針は


「生え抜きの選手たちも他の選手も同じスタートラインでチャンスは全員にある!」


ということもあり、お互いレギュラーを目指して激しい競争意識が芽生えていた。


かくいう私も前田監督の元でプレーできる喜びを感じながらノビノビプレーできた。昔から憧れていた選手に指導してもらえる・・・それだけでもトレーニングで疲れた体を練習に向かわせる動機としては十分だった。



ただ、フィジカル中心ということもあり、キャンプ終盤ではベテラン組に怪我による離脱も目立ち始めた。


ただ監督は厳しいフィジカルトレーニングを続行した。それは一つの信念に近いものだった。


さすがに本田GMも「これではベテラン組みがついて来れないんじゃないか?」と前田監督にトレーニング方針の変更を打診したが、前田監督は毅然とした態度で


「私の目指すサッカーは走力がないと対応できないものです。それが破綻すればすべてが壊れる。それを防ぐためのキャンプでありこの方針はGMの依頼といえども変える事はできません!」


とはっきりと意思表示をした。前田監督も自分の信念を曲げない態度を示すことで選手に「ブレない姿勢」を明確にしたかったのだと推測できた。




そうしてベテランが何人か別メニューでの調整となったが、前田監督の希望どおりのキャンプを経て3月になりプレーシーズンマッチを行うこととなった。



相手はJ1の「オリゾン千葉」で優勝争いに絡めるチームで相手にとって不足なしだった。


オリゾンとはフランス語で「水平線」を表す言葉で海をイメージした言葉だった。


個の力が強く、代表にも常に2〜3人は送り込んでいるチームでまさにうちのチームとは対局をなしているチームであり、この試合が今年のチームを占う大事な試合なのがよく分かった。



私は本来のレギュラーである生え抜きのMF井上が怪我で別メニューになったこともあり、右OMFのレギュラーを確保できた。



そして試合当日になり千葉のホーム「メールスタジアム」に向かった。


前田監督よりプレーシーズンマッチ前にスタメンの発表があった。


<システム 4−4−2のダブルボランチ>



FW     蜂谷    永瀬



MF   広瀬       小林



MF     池上    斎藤



DF  清水  黒田  北条  上田



GK        川上




前田監督からは選手に


「キャンプでは皆厳しい練習によく耐えてくれた。今まで練習した通りに試合をすれば勝機は必ずついてくるので自信を持って戦ってこい!!」


と選手を勇気付けてピッチに送り込んだ。


試合開始前になりピッチに入場すると大勢の千葉のサポーターが見えた。さすがJ1のチームだけあり人気があるのがよく分かった。



そして傍らに「ヴァーシュ福島」を応援するサポーターもみえた。


サポーターの数はもちろん千葉とは比べ物にならなかったが、わざわざ福島から千葉まで遠征して応援してくれるサポーターの気持ちが嬉しかった。



試合開始となったが、予想外に序盤はうちが攻め立てた。前線から守備をし、相手からボールを奪うとすばやく展開してパスを回す理想的な展開になった。



しかしまだ実践に慣れていない部分があり、次第に千葉にパスカットされはじめ、徐々に千葉へペースが流れていった。


うちの両サイドも攻めたくても相手のSBが攻めてくるのでそのケアで精一杯で攻めにでる余裕がなくなっていた。



前半30分、劣勢になったチームに対し前田監督が叫んだ。


「相手へのプレッシャーをもっと強く!」


「攻めでは絶対に放り込むな!」


「短くパスを回せ!」


その助言は千葉に押し込まれて無理してロングボールを放り込むのが主体になっていたDF陣への指示になり、指示に従い運動量を上げて我慢しながらボールをこまめにまわすようになり、チームが落ち着きを取り戻した。


しかし千葉は個人能力が高いためなかなか攻めに転ずることが出来ずに前半が終了となった。




ハーフタイムになりFWの蜂谷が


「ボールが全然来ねえ!!」


と激しい言葉でイライラを爆発させていた。



ここでCBでキャプテンの黒田が前田監督に対し



「ここまで相手のプレッシャーが強いとなかなかボールが回せない。DFは前線にロングボールを出してもいいですよね!」


と助言を求めた。その発言に前田監督は


「フリーランニングをベースにパスを繋ぎシュートで終わるシステムを確立しなければ今後も主導権は奪えない」


と信念を貫く構えだった。



そこにボランチの斎藤が


「ただ相手のプレッシャーが強くてボールが回せません!」


と現実の状況を伝えた。ボランチも守備のケアでとても試合を構築する余裕がないようだった。



前田監督はその発言に対して



「それはパスコースが一つしかなからだろ」


「斎藤の周りの選手が一斉に前線に上がったらパスの選択肢が3つ4つと増える」


「リスクを負わなければ攻めはできない!」


そう言い攻めの姿勢を強調した。



その発言にボランチの池上が


「確かに攻めにはリスクは伴いますが、攻めのリスクが増えれば失点のリスクが高まる。その点はどうするんですか?」


と的確に監督の発言の問題点を突いた。



その発言に前田監督は笑いだし



「今まで何のために走ってきたんだ?」


「相手の個の力に勝てないのであれば組織力で勝負するしかないだろう」


「相手が2人いたら3人で攻める、3人いたら4人で攻める」


「前線に上がっていくのは確かに体力的にきついだろう。ただ相手から主導権を奪うにはそれしかない」


そう熱く語った後に、選手一人一人を見ながら



「相手を押し込めばこっちのもんだ」


「粘り強くコツコツと継続して今のサッカーをしていけば必ず勝機が出る」


「リスクを負って攻めて、失点されたら俺が責任を取る!だから思い切って自分達のサッカーを千葉に見せ付けて来い!」


その監督の発言に選手たちがまた自信を取り戻していくのがわかった。



そして運命の後半を迎えた。



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