第3話 プロ
監督として「福島ヴァーシュ」を率いることになった前田。
前田が掲げる「負けてもいい。ただサポーターからまた試合を見たいと思って帰ってもらうサッカー」の真意とは?
ギリギリでプロに残った・・・プロの世界の厳しさを一番知っている池上の言葉にミーティングルームは静まり返った。
その静寂を切り裂くようにある選手が語りだした。
「前田監督ぐらいの元名選手なら、勝たないと何も生まれないことぐらい知ってるだろ!」
そう言ったのはチーム生え抜きのキャプテンでCBの黒田だった。
池上・黒田の話を聴き終わると前田監督が語りだした。
「勝者のメンタリティ」だの「勝利至上主義」はサッカー本来の「楽しみ」を極限にまで落とし「リアリティ」を産んでしまった。
と。そして選手に向かい質問を投げかけた。
「サポーターが何故わざわざ金を払ってまで試合を見にくると思う?」
この問に対し1人の選手が
「楽しいサッカーをして試合に勝つことが最高の楽しみだからじゃないですか?」
そう返事をしたのは移籍組のMF斉藤だった。
前田監督は
「確かに斉藤の答えは80点だ!」
といい、
「残りの20点は何だと思う?」
と再び質問を投げかけた。
その質問に反射的に私が答えた。
「私は前田監督のファンで小さい頃からプレーを見てきました。前田監督がサポーターを熱狂させたのはプロとしての姿勢・・・」
「そしてサポーターは自分では出来ないことを、前田監督のプレーに託し、前田監督を自分と重ねて闘う気持ちを持たせてくれたことです!」
と思いを語った。
そしてふっと我に返り
「言い過ぎてすいません」
と私が謝ると監督は
「ソレが正解だ!」
と笑いながら言った。
監督は笑った後に選手へ
「Jリーグがスタートし、プロとアマは年々差が縮まっているが、金をもらってプレーするプロとアマの違いはなんだ?」
「プロとは普通の人が出来ないことをする。人々を魅了することができる選手こそ本当のプロだ!」
と語り、さらに
「例えば2,000円のチケットを買って見に来て本当に良かったとサポーターに思ってもらうようなプレーをしなければ、何のためにプロになったか分からないじゃないか!」
「池上が言ったように、お前らは何かを失い、後のない中でとても十分な環境と言えないこのチームを選んだんだろ!」
「自分の好きなことでメシを食い、名前を残したいからじゃないのか?」
前田監督の熱い言葉が選手に届いているのがよく分かった。
このミーティングから何か・・・言い表すことの出来ない不思議な勢いを感じるものだった。
さらに前田監督がゆっくりと語り出し
「フロントからは2年の猶予をもらった。その間にこのチームをJ1に押し上げる。」
「もしそれが出来なければ俺の力がなかったということでスパッと辞める。」
「俺の意思に同調出来るのであれば付いて来い!もし不満があるのであれば去ってもかまわん。」
監督は自分の立場を明確にした。2年でこのチームをJ1に押し上げられなければクビ・・・背水の陣を引いているのが分かった。
こうして毎年下位に低迷していたチームに種が蒔かれた。