先入観の罠
≪エピソードハナコ≫
ハナコは困惑した。いつものように仕事終わりに苦手な先輩の自慢話を聞かされていたら、いきなり自分の所持ポイントが6万ぐらい上がったのだ。
6万ポイントとなると、天使の収益としてはおよそ500年ほどのんびりできるぐらいのポイントとなる。もっとも、ハナコにはのんびりするつもりはないが、生前を含めてもまだ数十年ほどしか人生経験をもたないハナコにとってはとんでもない数字である。
ハナコはポイントを見せて先輩を黙らせ、場所を変えて急いで上がった原因を調べた。その結果、今参加している大会の賞品だとわかった。
更に詳しく調べて見ると、今ハナコが担当している転生者、ソラ=アレクサンドラがランクEXのネスドラゴンを倒したことで、これほどまでもポイントが上がったのだとわかった。
「いや、全くわからないんだけど?!」
ハナコは思わず声に出した。ランクEXの魔物は、ほぼ倒せない存在として生み出されたようなものだ。
しかし何度映像を再生しても、彼は息吹を受け止め、安い剣でドラゴンのくびを切り落としている。それ以外何も起こっていない。
いくら調べてもそれしかわからないので、直接聞いて見ることにした。
*
「ちょっとちょっと、これは一体どういうことですか?!」
「もしかして、僕なにかやらかしました?」
ソラはまるで心当たりがないというような反応をした。
「いや、今ネスドラゴンを倒されたように見えたんですが、どうやって倒されたんですか?」
「え?スキルを使って倒しただけですよ」
「スキルで…ですか?」
「いやー、このスキルを選んで本当によかったです」
確か彼が持っているスキルは【切断】と【ガード】だ。
彼はそれらを使って倒したのだと言う。
(いやいや、まさか息吹を【ガード】で防いでドラゴンを【切断】で斬ったなんて…ってあれ?)
ハナコは気づいた。心の中で大言壮語を浮かべたつもりだったが文にしてみればつじつまが合うのだ。
ハナコは【切断】の効果を調べた。
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【切断】(◆):刃物で物を切ることができる。
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(物を、切れる?)
そして、あの時の会話を思い出す。
『何でですか!【切断】の、刃物で物が切れるなんて当然のことじゃないですか』
『確かに僕も当然のことだと思います。ですが、当然のことをちゃんとできるってすごいことだと思うんですよ』
間違いなくそれは当然のことだ。なぜなら刃物はそのために発明されたからだ。
しかし、切ろうとした物が想定より堅かったり、刃がもろくなっていた場合、役目を果たせない、当然のことができなくなってしまうのだ。
効果は刃物で物を切ることができる。言い方を変えると―――
「まさか、【切断】を使えば切れない物はないということですか?」
「………」
「…えっと、質問で返してすみませんが、逆に何だと思ってたんですか?」
「そうですね、ちゃんと説明を理解してませんでした」
ソラが全部正しい。説明にしっかりと書いてあるのだ。
ハナコは選んだ理由をようやく理解した。
【発砲】や【パンチ】と同じところに並んでるのと、説明文が地味だったなどにより、【切断】も、大したことのないスキルだと思ってしまったのだ。
【ガード】だってそうだ。
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【ガード】:攻撃を防御する。
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ハナコには"防御する=防御体制で攻撃を和らげる"という先入観があった。しかし考えてみれば防御とは防ぎ守るという意味である。つまり、どんな攻撃でも防御、防いでしまうのだ。
『防御くらい自分でできるようになったらどうなんですか』
『いや、何いってるんですか。できるわけがないでしょう』
確かにできるわけがなかった。
「しかし、消費ポイント10のスキルをよく信用できましたね」
「あれ?説明文にかかれたことは確実だと言われてましたよね」
「はい、その通りです」
確かに言った。そしてそれは事実だ。
彼はそれを疑わずに、消費ポイント10であることも気にせず、周りのスキルによる先入観にも騙されずに…
というか無意識にスキルの本質を見抜いてしまったのだ。
(っていうか、こんなのが10で手に入ってしまうと世界のバランスが危ういのでは…)
『ピンポンパンポーン』
『――ハナコさん、見習いのハナコさん、至急に緊急会議所までお越しください』
声の主は女神。世界を管理する女神は管理している世界で起こったことをある程度把握できる。これは女神からしても異常事態らしい。
「すみません。今から緊急会議に行って参ります!」
「そのようですね、わかりました。通信を切りますね」
「あ、ちょっと待ってください!会議が終わるまで【切断】や【ガード】のことは誰にも話さないようにお願いします!」
こういうタイプの人にははっきり言っておかないと、何をするかわからない。
「え?何でですか?」
「とにかくです!あ、あとネスドラゴンを倒したことも伏せておいてください!」
ネスドラゴンを倒したなんて言ったらどうやったのかと聞かれるはず。それは避けなければならない。
「?わかりました」
「それでは行って参ります」




