3.誕生パーティ
天井に描かれた天使や神々。クリスタルが反射し煌めくシャンデリア。磨かれた大理石。細かなレリーフが施された柱や壁。
(うっわ…眩しい)
フロアから壇上を見上げるきらびやかなドレスや礼服の招待客たち。
当時小説で想像したよりも何十倍も眩しい世界がそこにあった。
だって仕方ない、こんな世界を知らなかったんだもの。
父にエスコートされ広間に降り立った私に次々と「おめでとうございます」と祝いの挨拶が告げられる。
多分得意だったのだろう、私が作り笑顔で「ありがとうございます」と返すとその後父との世間話やお世辞を2、3して去る貴族たち。
中には「うちの息子も今年13で…」などとあからさまに婚約はどうかと言ってきた人物もいたが父に一蹴されていた。
うちの父親、ダイアン・リ・ラ・トパーズは私に超絶甘い。最愛の妻の忘れ形見として溺愛されていたし自身がそうだったように恋愛結婚推奨派のため、「ジェシーに無理矢理婚約者をあてがったりはしない。お前が良いと思う相手に嫁ぎなさい。……ただし嫁がなくても一向に構わないからな!」と言っている。最後の一言がなければ格好良かったのにな…お父様。
悪役の父親だからってお父様は何一つ悪事に手を染めて…いないと思う。自信はないけど。清廉潔白、陛下の覚えも目出度い有能な大臣ですからね。ただ娘に超絶甘いことを除けば……だが。
小説のジェシカはこの父親の協力もあって、ヒーロー達に近づくわけですね。はい。
もちろん現世の私はそんな死亡フラグに突っ込むような真似はいたしませんとも!できればいい殿方と両想いになることができてさして障害もなければ結婚して……あはは、恋ってなんだっけ?
まぁお父様に甘えて独身のまま実家に厄介になるっていうのはちょっと…だけど多少領地のなんやかんやを手伝えば居候くらいさせてくれるんじゃないかな?修道院に行くって手もあるわけだしね。
(そういえば、ヒーロー達との出会いってどんな感じだっけ…?小説だとヒロイン召喚から書かれてたからヒーロー達やジェシカの過去ってあんまり掘り下げられてないのよね)
乙女ゲームによくある王道ヒーローの婚約者の悪役令嬢として登場、という立場ではなかった。作中でヒロインのことを疎ましく思い王子の婚約者になろうと父親の権力をフル活用したり、魔術師にその豊満なボディで迫り、近衛騎士には媚薬を盛り無理やり迫り…などしていたはず。
つまりは、ジェシカから動かなければヒーロー達と接点は生まれない、破滅フラグは生まれないということだ。
(なんだ、楽勝じゃん♪)
一通り挨拶が終わったようで、お父様に「あちらで楽しんでおいで」と子供達が集まってる一角を指された。
私の誕生祝いといえど、それは名目のようなもの。大人は大人どうしの大事な話があるのだろう。
自分の破滅フラグの折り方がわかって気分が軽くなった私は、いそいそと子供スペースへと向かった。
「ジェシカ様、本日はおめでとうございます」
「そのドレスとてもお似合いですわ」
何度か会ったことのある顔見知りの令嬢たちがわらわらと集まってくる。
お世辞、ごますり。幼いながらも侯爵家にすり寄るその姿勢には感嘆する。今までのジェシカだと気づいてない、もしくはそんなの当然だとふんぞり返っていたかな。だが今のジェシカは一味も二味も違う。
「ありがとう、皆様も楽しんでいってくださいね」
と無難に返しさっとその場を離れる。今後付き合う人間は見極めないといけないし、彼女らのおべんちゃらに付き合って得るものなどなにもない。長居は無用だ。
幾つか目を付けたお菓子を取り、給仕からドリンク(ジュースね)を貰って座って食べれるよう広間の隅に設えられたテーブル席へと向かう。
一応立食形式のパーティだけど、今日は子供も多いためそういった場所があるのだ。
社交の場だけあって子供といえど会話に花を咲かせている者たちが多いようでテーブル席はわりとガラガラだった。
それでも今日の主役ともいえる私が向かったことで周りの視線が一瞬集まる、が、もともとテーブル席に居た変わり者たちなのですぐに視線を外して食事を楽しんだりお茶を飲みながら同席の子たちと会話を再開した。