第6話 ナースたちの戦場
今日は午前様。寝ます‥‥‥。
第6話 ナースたちの戦場
ナースたちが月に集められた5日後、火星にいた地球軍の兵士たちを乗せた大型宇宙艦、ドーン・キャリアーQWが、月基地に到着した。
前線で戦った兵士たちの一部を運んで来たらしい。
そのほとんどが重傷の歩兵戦士だった。
数はおよそ、8000人。
火星の野戦病院がグラデュアル星人によって潰されたので、こっちに回ってきたのだろう。
私たちは病院施設に搬送される負傷兵たちを、宙に浮く担架で一人づつ運んだ。
レーザーカッターで切られたのだろう片足の無い兵士や、爆発で負った衝撃で、歯が折れた兵士など、皆、傷が様々であったのは言うまでもない。
まだまだ火星では、多くの兵士たちが戦闘で負傷しているのだろう。
戦いは連日続いている。
負傷兵は戦場ではもっとたくさんいるのだと思う。
それでも、一人でも多くの人命を救いたいという思いが、私たちの信念の中にあった。
「傷口をアルコールで消毒して!それからバイタルチェック!急いで!」
看護師長さんが指揮を執り、その通りにナースたちは動く。
バイタルサイン測定には、手のひらサイズの小さな機械で、それを患者の耳元にかざせば、生命徴候である血圧や体温、脈拍、呼吸状態が瞬時に表示されるバイタルメモリーを使った。
ナースの研修で、使い方は熟知している。
しかし、運んでも運んでも兵士たちは、処置が間に合わずに息絶えていく一方だった。
瀕死の重傷患者よりも、軽傷の兵士たちの方が、看護師長さんの指示で処置を優先させていた。
見るからに助からなさそうな兵士は、運ばれてきても何の処置もされなかった。
月の病院施設も野戦病院と化してしまった。
白い綺麗な壁や廊下が、今は大量の血で汚れている。
結局、宇宙艦ドーン・キャリアーQW内に、まだ残されている兵士たちは、見捨てられるしかなく、その場で息を引き取る者も多くいた。
手が回らないのでどうしようもなかった。
ゲイルは治癒能力で、手のひらを兵士たちの傷口にかざしながら、青白い光を当てて、軽傷の患者の傷を治していった。
それでも傷口一つに治す時間は30秒はかかる。
それ以外のナースたちは、止血したり、消毒をしたり、患者に肩を貸したり、ベッドに寝かせる以外に出来ることはほぼ無かった。
病院施設にいる軍医長の、20代後半くらいのドロシー・ヴァンナッシェの部下、レッドクルス号の軍医助手であるグルガン・ダットという無精ひげの男が、揃って手術室に入った。
ドロシーは軍医長だが、とある事故で、利き手と両足をケガで失ってから、ヤケになって酒浸りになり、助手のグルガンを執刀医として、手術の指示するだけの存在になった人らしい。
この戦局において、それぐらいの人材しか集めることが出来なかった、今の地球側としては、レッドクルス号が、最後の病院船として、まともに機能しているのかすら分からなかった。
それでも私は、従軍ナースとして、一人でも多くの負傷兵たちを助けることに、使命感を感じていた。
シュシュもバイタルチェックを続けながら、兵士たちを一人づつ介抱しているのが見えた。
これが戦争時における、私たち看護師の戦いなのだ。
皆、新しい白のナース服を血で汚してまで、仕事の手を休めることは無かった。
たとえ廊下に寝かせられているだけの負傷兵たちの手当てを、出来る限り行うのが精いっぱいだったとしてもだ。
ここは私たちにとっての戦場なのだから。
月が地球を一周するまで仕事は続くかと思われたが、案外早く仕事は終わった。地球から輸送船が来たのだ。
まだ生き残っている兵士たちは、地球で手当てされることになったのだ。
月の病院施設では、収容できる人数は決まってるので、残りは輸送船に託した。
地球は月よりはるかに広い。
病院の数も当然、たくさんある。
月の病院施設とレッドクルス号だけの、こことは違う。
ひとまず、私たちは月に滞在することになった。
運ばれてきた兵士たちを放ってはおけないからだ。
私たちの戦いは今、始まったばかりなのである。
読者の皆様おやすみなさい。




