第53話 ドロシーの実家
起きた時、けっこう体がきつかったです。
第53話 ドロシーの実家
田園地帯のど真ん中に、ドロシーの実家はあった。
その家はまるで、お菓子の家のように、洋風な建物であった。
門を開けて、敷地内に入ると、玄関の扉の横のブザーを鳴らすドロシー。
すぐに、中にいた女性が出る。
「母さん‥‥‥」
ドロシーは、その女性に話しかけた。
「お前、ドロシー?どうしたんだい、その体は?」
答える前にドロシーは私を連れて、家の中に入った。
リビングの椅子に座る私とドロシー。
「母さん、この子はナースのアイヴィー・クリステル・ボルチモア一等兵曹だ。地球の人だよ」
私はこのコロニーでは、異星人扱いなのかな?
まぁ、コロニーで生まれ育った人からしてみれば、そう見えるのだろう。
でも実際には、姿かたちは同じなのだけれど。
「母さん、私は優秀な医者として頑張ってきたんだけど、宇宙銀河病にかかって、右手と両足を失くしたんだ。その時は絶望したよ。今は、何とか軍医長の座だけは守り抜いて、軍の武装宇宙船レッドクルス号に乗って、指揮してるんだが‥‥‥」
ドロシーはいつもやけ酒をあおって、飲んだくれのアル中一歩手前であることは話さなかった。
まぁ、それは伏せておいた方が良いのかもしれない。
宇宙へ出れば、未知の病気にかかっても不思議ではない。
けれど、治せなかったという現実に直面することは、とても辛いと思った。
しかも、その体で戦争の前線に出たりもしているのだから、実はドロシーはすごい人だったのだ。
それを実感する私。
この人が負っているものは、私たちより、何より重い。
自分の心境や現在活動していることを報告すると、ドロシーは母親に別れを告げた。
「母さん、母さんは健康に生きて」
ドロシーは、母親を抱きしめて、そしてすぐにその場を去った。
私もそれについてくる。
私を置いてきぼりにはしないで欲しい。
というよりも、私が一緒に来た意味はあるのか?
そんな疑問を抱いている間に、ドロシーは玄関へと急ぐ。
私とドロシーは、外へ出た。
私はドロシーの母親に一礼をすると、ドロシーの後ろに追いついた。
「たったあれだけで、良かったんですか?」
「ああ。母親が私の今の姿を見て、辛くなるのは分かる。でも、その自分の体を持った私は、それ以上に辛いんだ。それを分かる人間は、同じ目に遭った人でしか分からない。そういうモンさ」
ドロシーの言うことは、確かに正しいのかもしれない。
五体満足の私に、ドロシーの気持ちは分からない。
きっと、ドロシーの母親も泣いてくれるのだろうが、ドロシーと同じ辛さまでは分からないだろう。
ドロシーは慰められること自体に嫌悪感を抱くのであろう。
一度、実家に行って、母親と顔を合わせるだけで精いっぱいなのだ。
同情されることだけは避けたかったのだと思う。
SGSにかかった自分を守るために、そして軍医長として皆を指揮する者として、人の上に立つプレッシャーに耐えるために。
ドロシーの気持ちを理解できないという私たちは、まだまだ未熟で無知なのだ。
無知は罪。
でも知ってなお、学ばないのはまた罪、学んでなお、行動に移さないのは最大の罪なのだ。
その域までたどり着く者は、きっと少ないのだ。
私もその一人だと思うことが出来ただけでも良しとしよう。
「済まなかったな、私に付き合わせて」
ドロシーが、帰り道を歩きながら言う。
「いえ、そんな‥‥‥」
「お前は気を使い過ぎだ。と言ってもお前ほど他人にそこまで興味の無い女も珍しいがな」
それは毒舌なのか、嫌みなだけなのかは分からなかったが、不思議と気持ちに突き刺さるような感じは無かった。
そういうところが、ダメなところなのかもしれなかったのだ。
私には、そういうところが無いと、この世界では生きていけないと思ったからだ。
でも、ひょっとしたら、これは今後の私の課題になるのかもしれなかった。
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