第48話 出掛けるにはちょうど良い日にて
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第48話 出掛けるにはちょうど良い日にて
休暇が半分くらい過ぎた頃、私は街で衛生兵のクリスとバッタリ会った。
午前中の明るい日差しがまぶしい時間だった。
「おや、アイヴィー・クリステル・ボルチモア一等兵曹!」
その長い名前はやめて欲しい。
「アイヴィーで良いですよ、クリス・エンブレムさん」
今は軍にいる私たちではない。
「お出掛けかな?」
「まぁ、適当に時間を潰しに‥‥‥」
休暇が長いように感じたので、私は本当に時間を潰していた。
シュシュは朝は見かけたが、午前中にはどこへ行ったのやら。
戦争中なので、気を緩める時間は別に無かったが、それでもいつかは戦場へ戻る。
その日のために、早朝からランニングや筋トレ、医療訓練は欠かせないのが日課なのだし。
それでも暇な時間は出るものだ。
こんなに長い休みなんて、経験したことが無い。
お父さん、お母さん、マリア、お姉ちゃん従軍ナースになってから、こんなに楽してお金もらってる!
社会に出れば、お金を稼ぐことだって難しいって教わったけど、私は今、遊びに出掛けているよ。
「アイヴィーさん?」
クリスの声で、私は現実に戻った。
「あ、はい」
「どうしたんだい?ボーッとして」
「いえ、ちょっと医療のイメージトレーニングをしてて」
適当なことを言ったが、こんな街なかでイメトレとか、恥ずかしい。
「オフの日でも、君は熱心なんだね、アイヴィーさん」
別にそうでは無いのだけれど‥‥‥。
「いえ、常在戦場ですよ」
ここはシュシュの言葉を借りる。
言い訳はこれに限る。
たぶん‥‥‥。
「良かったら、一緒に街を見て回らないかい?」
おっと、ここでメタボが気になるお兄さんから、お誘いか?
「はい、いいですよ」
どうせこんな男性は、女性に縁のない人なんだろう。
優しい裏には、女性と一緒に歩きたい欲があるに違いない。
それがたまたま私だったということだろう。
しょうがない、付き合ってあげるか。
「ではどこに行きます?」
「ラーメンとか食べに行かない?」
ラ、ラーメンと来たか!
女性の扱いが全然なってない。
これだから童貞は‥‥‥。
それに、メタボの原因が分かってしまったよ。
ラーメンねぇ。
「分かりました、行きましょう」
男性を立てるのも、時代錯誤なのだが、ここは彼の自信を付けさせるためにも、私が人肌脱いで、一緒に行ってあげようではないか。
「でも、ラーメンってここでは合成ものしか無いんじゃ‥‥‥?」
「僕が知ってる、秘密のラーメン屋があるんだ。そこに行こう」
「はい」
この人、通?
まぁ、いいけどね。
私たちは、隠れ家的な、街の地下にあるラーメン屋に入っていった。
確かに秘密のラーメン屋のようだ。
「この店はね、正真正銘、混ぜ物無しの普通のラーメンが出るんだよ」
クリスは私に言う。
「普通のラーメンって、食品基準法で禁止になったんじゃ?」
「それが、ここではラーメンの密輸で合成は一切してないラーメンが食べられるんだよ」
「それで秘密のラーメン‥‥‥」
出てきたラーメンは、本物のラーメンだった。
地球で食べたことのある、健康に良いラーメンと違い、ギトギトの油とニオイがすごい、正真正銘のラーメン‥‥‥。
私は唾を飲んだ。
これは食欲をそそる。
スープの一口がまた美味い。
麺も合成のとははるかに違っていた。
こんなに美味しいラーメンは初めてだ。
「おかわりが欲しくなりますね」
「ああ、替え玉ってヤツならあるよ。麺だけ持ってきてくれるんだ」
クリスのグルメアドバイス。
私は替え玉を頼んだ。
すぐに茹でられた麺が出てくる。
それをポチャンとスープに入れた。
少々固めだが、その歯ごたえもまた、地球では味わえない物だった。
私は満足して、店を出た。
「どうだった?」
クリスが訊いてくる。
「率直な感想を言えば、大変良く出来ましたって感じです」
あれ、私は今、上から目線で言ったかな?
「それは良かった。気に入ってもらえて」
地上に出る階段を上ってる時に、クリスが良い顔をしているのが分かった。
「内緒だよ?僕と君の」
「はい!」
クリスは、ちょっとイイ感じの人に見えた。
こういう人が、いずれモテたりするんだろうなぁ。
たぶん‥‥‥。
地上に上がった時のことだった。
ロイとシュシュが並んで歩いているのを見かけた。
あの二人、いつの間にそんな仲に?
ロイとシュシュは、いかがわしいホテルの方へ向かっていた。
シュシュはまだ、未成年なのに、何を考えているの?
私は二人の前に立って、足止めをした。
「二人とも、これはどういうワケ?」
率直な意見を求める私。
「アイヴィー先輩!」
シュシュはロイから離れた。
「違うんです。これは‥‥‥」
ロイが前に出た。
「このことは内緒にしろよ?」
口止めとは、それでも軍人か?
「変なことするんなら、そういう店に行けばいいじゃないですか」
「この女はまだ処女だから、いっぺん経験させとかないとな」
「そんな理由なの、シュシュ?」
「いえ、あの‥‥‥」
理解に苦しむ発言に、私は戸惑ったが、ロイとシュシュはすぐにその場で別れた。
まったくもう!
私はため息をついた。
まぁ、いつ死ぬか分からない身だから、経験出来る時に経験した方が良いということか?
その理屈は分からなくはないけど‥‥‥。
読者の皆様に幸あれ!!




