第37話 サンジェルマン艦長
二話、同時に更新です。
第37話 サンジェルマン艦長
私はハープーン発射を命令してくれた、サンジェルマン艦長の判断に、お礼を言うために、レッドクルス号の艦橋へと行った。
艦橋ですべてのレッドクルス号の指示を出しているのだ。
「こんにちは~」
私は扉を開けて、艦橋へと入る。
ものすごい数のコンピューターシステムがあった。
それぞれにクルーが就いていて、操縦や監視などを行っているのだ。
今は戦闘じゃないから、のんびりとコーヒーを飲むクルーもいた。
サンジェルマン艦長は、艦長席に座って、ゆっくりしている。
「おう、君か」
艦長は私に気付いた。
「あ、艦長」
その時、クルーの一人、海兵隊のロイ・カーク・スチュワートが、私を止めた。
「おい、ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ」
私は気をつけをした。
「すみません!私、艦長に助けられて、ただお礼を言いに来ただけなんです」
サンジェルマン艦長は、ロイに手で合図する。
ロイは下がった。
「君はナースの、確か、アイヴィー・クリステル・ボルチモア一等兵曹だったな」
艦長の記憶力がすごい。
確かに私はアイヴィー・クリステル・ボルチモア一等兵曹なのだが。
「さっきは私たち、助けられました。ありがとうございます!」
「いや、敵が来たら、迎え撃つのは当然だ。礼などいらんよ」
「でも‥‥‥」
サンジェルマン艦長は、艦長席を下りると、私のところへと来た。
「外へ行くか。ついて来たまえ」
「あ、はい」
「あとは頼む、ロイ中佐」
ロイは敬礼する。
私と艦長は艦橋を出た。
火星の砂吹雪が、舞い上がっていた。
艦橋の下をのぞくと、艦橋がどれだけ高いところにあるのかを知る私。
飛行甲板が見渡せる。
「良いながめだろ?」
「はい」
「君は地球の出身だったな」
「ええ。アジアの方の出身ですが」
「そうか。俺は実は農村の出でな」
「農村?」
「田や畑を見たことは?」
「いえ、直接見たことはありません」
「今は都市部の人間の方が多いからな」
「そうですね。今は通信販売で、どこにいてもほとんどの物が、全部揃ってしまいますから」
「若い者は、皆そうだよな。しかし、いつか地球に戻れた時は、田畑を見に来ると良い。大切な何かを知るきっかけになるかもしれん」
「大切な何か?」
「ああ。最後の地球での大戦で、戦火が来なかった、唯一の農村だからな」
艦長が、農家の出身だとは思わなかった。
私は艦橋から見える地平線を見る。
「あの、さっきはどうして前線に誰もいなかったんですか?」
素朴な疑問を投げかける私。
「どうやら、グルーヴァー基地の司令部が、前線の座標を間違えたらしいな」
「はぁ‥‥‥」
「こういうこともある。いや、絶対にあってはいけないのだが。そのせいで、君たちを危険にさらした。だからコスモハープーンを使ったのだ」
「そうだったんですか」
「ああ。従軍しているナースたちの命を守ることも、我々の任務の一つだからな」
「おかげで助かりました」
「その気持ちだけで十分だ。君は君の役目をまっとうしろ。俺たちは出来るだけ支援してやる」
サンジェルマン艦長はいつも、真顔しか見せない人だが、皆を心配しているような心を持っているのだろう。
「アイヴィー・クリステル・ボルチモア一等兵曹、君はなぜナースになった?」
「え?そうですね、人の役に立ちたくて‥‥‥」
「立派な心掛けだ。だが、戦場では皆が狂う。それもまた真実だ。それを忘れないことだ」
そう言うと、サンジェルマン艦長は艦橋の中に戻っていった。
人は戦場では狂う。
それを言いたかったのか?
艦長が言ったことを、心に留めたまま、私は艦橋を降りていった。
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