第18話 パーサー機関長
今日はあと二回、更新予定。
第18話 パーサー機関長
「あの、それはどういう意味でしょうか、機関長?」
機関長の言葉に疲れも吹っ飛んだ。
「言ったままだ。こんなに手当てが遅れて、犠牲者を出されては、前線では役に立たん」
この人は前線を知ってるようだった。
生きている戦場の証人。
「わ、私たちは確かに、実際の戦場をまだ知らない、無知なナースですけど、自分のやるべきことには忠実であるように努めています」
「戦場は地獄だぞ?」
「分かってます」
「今、君たちが想像できる範囲で、最高の生き地獄を想像してみろ。これ以上ないってくらいに」
「はい?」
「その想像を絶する生き地獄をはるかに超える、過酷な場所が、本物の戦場なのだ」
そう言われてもなぁ‥‥‥。
説教されても理解できるものではないし。
「私たちの勉強不足です。すみません」
なぜか私は、機関長に謝罪した。
腑に落ちないことでも、こちらが礼を尽くさなければならないこともあるのだな。
「まぁ、気をつけることだ。ナースは患者を診るものだが、ナースが負傷した時は、誰が診るのかってことを」
気遣っているのか、ただの皮肉なのか、よく分からない人だ。
レッドクルス号は一度も前線には出て行ってない艦だ。
この人は別の艦に乗っていた機関長なのだろう。
いや、その頃は機関長の地位では無かったのかもしれない。
戦争がこの人をこんなにしてしまったのかもしれない。
ドロシーといい、戦争は多くの人を変えてしまうのだろうか?
何とか、グラデュアル星人と、講和で解決させられないものだろうかとも思った。
もはや泥沼の戦争を終わらせられるメドは付かないということか。
私たちはずっと戦わないといけない世代なのだ。
気を引き締めて、戦場へまた向かうのが運命のようだ。
覚悟を決めなきゃいけないのかもしれない。
機関長はごっつい顔で言う。
「グラデュアル星人は一歩も引かない。講和の途中で攻撃を仕掛けてきた悪の帝国だ。捕虜も取らない。残虐に女子供まで皆殺しにしてくる狂暴な連中だ。奴らは人間じゃない。分かったか?」
「は、はい」
私は背筋をピンと伸ばして、返事をした。
「こんな設備の良い病院など、戦場には無いと思え。ウジが湧いて、肉が腐るのが野戦病院であると同時に、俺たちのレッドクルス号もいずれそうなる。いいな?」
「はい、機関長!」
「ならいい。じゃあ、少ない休憩時間をゆっくりしてろ。じきに寝る間もなくなる」
「分かりました」
「それじゃあな」
それだけ言うと、機関長はナースステーションから去っていった。
「一体何だったんでしょうか、先輩?」
シュシュは気をつけをしたままだった。
ゆっくりと体の力を抜くシュシュ。
「きっと、何かわけがあったんだよ、あの人も‥‥‥」
戦場に行けば、何かが変わるのだろう。
それを心配しては、仕事は出来ない。
「シュシュ、これから忙しくなるわよ?」
「もう十分忙しかったですよ」
「まだ戦場は経験してない」
「それはそうですけど‥‥‥」
私は再び、椅子に腰かけると、体を椅子に預けて仮眠を取った。
眠れなくなっちゃった‥‥‥。
私たちは本物の戦場を知らない‥‥‥か。
そんなの知ったことじゃない。
前線へ行く命令が出れば、嫌でも行くしかない。
私たちだって、本物の戦争を語るのは前線に出てからだ。
その時体験したことによって、後世に語るつもりだ。
でも今はその時じゃない。
現実を知るのはこれからで良いじゃないか。
考えれば考えるほど、眠りからは遠くなるので、私は考えるのをやめにした。
今は眠ろう。
寝れる時に寝ておく。
それが自分のコンディションを保つ秘訣だ。
私はゆっくりと眠りについた。
レッドクルス号再出発の、二日前のことだった。
読者の皆様には感謝しかありません!!




