第15話 ドロシー・ヴァンナッシェ軍医長の過去
ちょっと更新に失敗しまして、やっと更新出来ました。
第15話 ドロシー・ヴァンナッシェ軍医長の過去
今日だけで、五人は亡くなった。
そのうちの一人は、私と同い年の若い兵士。
地球は反撃に出る日が来るのだろうか?
まぁ、そんなことを考えていても、しょうがない。
シュシュがレッドクルス号に取りに行った手術用の医療器具は、間に合わなかった。
グルガンも気を落とした。
彼は助手なのだ。
ドロシーは酒を浴びるだけで、手術の進行をグルガンに任せるしかないのだ。
私は憤りを感じた。
軍医長たる者が、いつも酒浸りで良いのか?
ドロシーは何だか、諦めているような人のように見える。
「ヴァンナッシェ軍医長、利き腕を失ったからといって、やけ酒をあおるのはやめてください」
私は廊下の奥の壁際から、ドロシーに向かって強く抗議した。
「何だと?私の何が分かる?お前は?」
「私はアイヴィー・クリステル・ボルチモア一等兵曹です。軍医長」
そう言うと、いきなり空になった酒ビンが、私の耳元に飛んで来た。
廊下の奥の壁に、酒ビンがぶつかる。
バリーンという音で、ビンは砕け散ると、私の足元に散らばった。
私の耳の後ろの筋から、血が垂れてきた。
チクリとした痛みが走る。
きっと、数十秒後には激痛に変わっているだろう。
私はそれを恐れた。
そして私は黙った。
「貴様に私の何が分かるんだ?この利き手を見ろ!」
右腕の関節から先が無いのに気付く。
両足を見れば、それも自ずと分かる。
「SGSで、今はこのザマだ。五体満足のお前に、医者として再起不能になった私の気持ちは分かるまい」
「SGS?」
「スペース・ギャラクシー・シック。宇宙銀河病。略してSGSだ。ナースなら覚えておけ!」
初めて聞いた。
SGS‥‥‥。
軍医長はそれを患って、利き手と両足を失ったのか。
私が勉強不足だった。
医療知識の無さで、軍医長を責めてしまったのだ。
お門違いも甚だしい。
SGSも知らなかった私の方が悪い。
「すみませんでした」
私は頭を下げた。
フンと、そっぽを向くドロシー。
「いや、ナースに八つ当たりしても始まるまい。悪かった」
ドロシーは精一杯の言葉を私にかけてくれた。
そのままドロシーは、その場を去った。
どこかで頭を冷やす気なのだろう。
皆、ピリピリしているのだ。
私のところにゲイルさんがやって来た。
「アイヴィー・クリステル・ボルチモア一等兵曹、首筋のケガを見せて」
ゲイルさんは傷口を見て、手をかざした。
青白い光が私の傷を治す。
ゲイルさんの治癒能力だ。
別に大したことの無いケガなのだけれど。
「すみません、ゲイルさん」
「この傷、痛かったでしょう?」
「痛みがひどくなる前で良かったです」
「これでもう大丈夫よ。治ったわ」
「ありがとうございます」
力無しに私は言った。
「ドロシー・ヴァンナッシェ軍医長は、前線で多くの手術をしていた大ベテランの軍医だったんだけれど、三か月前のある時、SGSを患ってから、利き手と両足を失くして、それ以来ずっと、酒浸りになって、心を病んでいらっしゃるのよ」
「軍医長も辛いんですね」
「当然よ」
「五体満足な私を妬むのも、無理はないかもしれません」
「そうね。特に軍医長にように、たくさんの人たちを助けていた人は、突然自分の方が利き手を失う目に遭ったのだから、自分の運命と戦うのは必死なのよ」
私は、血で汚れたナース服を着替えに行った。
私はまだまだ未熟だ。
読者の皆様に幸あれ!!




