第六話 反省会をしよう(レイ視点)
前回のあらすじ:
ノーブルヴァンパイアを撃破!
ノーブルヴァンパイアを斃した僕たちは、戦利品として、〈呪われた十字架〉というものを手に入れた。
「これ、持ってて大丈夫なんですかね……」
「装備しない限り平気だが、不安なら俺の〈魔法の道具袋Ⅲ〉にしまっておくが?」
「い、いいんですか? じゃあマグナスさん、お願いします。し、しかしこれ、使い道とかあるのかな……」
「いわゆる〈合成アイテム〉という類だな。〈秘術鍛冶師〉に渡せば、〈呪われたアイテム〉を作成してもらえる」
「へ、へー……。それも使い道あるのかなあ……?」
と、僕は首をひねった。
けどマグナスは本当に博識だ。知らないことなんてないんじゃないかってくらい。
一緒にいて、勉強になることばかりだった。
せっかくだし、ついでに訊いてみようかな……?
「ノーブルヴァンパイアはコウモリに変身するかもしれないって、事前にマグナスが教えてくれていたのに、僕は最初、全然対応できなくて……。それどころかパニックになって……。あれじゃあ〈光の戦士〉失格ですよね?」
「合格だの失格だの、俺に判断する資格はないが……。そうだな、理屈でいえば当然、対処できた方がいいに決まっている」
だ、だよね。
マグナスはしっかり対応できてたもんね。
「ただ、ボスモンスターという連中は、〈レベル〉が10までのうちは単純に〈力〉が強いだの、〈素早さ〉が高いだのという程度ですむんだが、11を超えた辺りから、どんどんいやらしい特殊能力を備えてくる。初見での対処が至難を極めていく」
「そうなんだ!? じゃあ僕が今まで、エルドラたちと斃してきたオークキングとかって、もしかしてレベル11未満でしたとか!?」
「オークキングはレベル8だな。他にどんな奴らと戦ったか、憶えているか?」
「は、はい」
僕はエルドラたちとの冒険で、斃してきた全ボスモンスターの名前を列挙していく。
「そいつらは全て、レベル10以下だな」
「や、やっぱりですか……」
僕は今まで、強いと思う奴とはけっこう戦ってきたけど、今回のノーブルヴァンパイアみたいな、びっくりさせられた奴とは戦ったことがなくて、もしやとは思ったんだけど……。
「こ、これから、どうしよう……」
マグナスと話し合って、次はエルダーサラマンダーを討伐しに行く予定だけど、そいつもレベルは13らしいし、また何かびっくりさせられるような、いやらしい特殊能力を持っているんだろうな……。
「ある程度、パニックになるのは致し方ないさ、レイ」
「で、でも、マグナスは落ち着いたものでしたし……」
「今回はな。でも、俺だって事前に情報をしっかり調べたのに、それでもびっくりさせられたことは何度もある」
「マグナスでも!?」
「そうさ。だからこそ、あいつらはボスモンスターなんだよ。厄介極まる、人類の敵なんだ」
「な、なるほど……」
「土台、人間なんて貧弱な生き物なんだ。こと戦いにおいて、あいつらに劣等感を抱くのはバカバカしいぞ?」
「……はい。……わかりました。でも、それはそれとしてですよ? 今回は、マグナスは冷静に対処できたのは事実じゃないですか」
そこを見習っていかなきゃ、僕にこれ以上の成長はないと思う。
「まあ、慣れの問題だな。レイも今後、あの手この手といやらしい特殊能力を持つボスモンスターと戦っていけば、だんだん咄嗟の対応力がついてくるはずだ」
「そ、そっか……」
よし!
もっともっといっぱい戦って、今みたいに反省会もして、対応力をつけていこう!
焦らず、地道にやっていこう!
僕みたいな不器用な人間が、一足飛びに強くなろうってのが、虫がよすぎたんだ。
マグナスも言ってくれた。
「大事なのは、臆さずに挑戦すること。敵わないと思ったら逃げること。俺はそう思っている。ああ、それと、冷静になるのも大事だな。さっきレイは深呼吸をしていただろう? あれは感心させられたな」
「ホントですか? すぐ助けに来てって思いませんでした?」
「思わないさ。準備不足で、山で二重遭難になるような真似をされる方が、俺は恐い」
マグナスがぽんと僕の肩を叩いた。
今後ともこの調子で行こうとばかりに。
僕も大きくうなずいた。
それから、
「最後にもう一つ、教えて欲しいんですが」
「一つと言わず、いくらでも訊いてくれていいが、なんだ?」
「戦っている時、マグナスの拳が光をまとってましたよね? それと、何か呪文みたいなものを唱えてました」
「気になるか?」
「そりゃなりますよ。物理攻撃が効きづらいはずのヴァンパイアを、ボコスカ殴り倒してたんですから」
興味津々の様子の僕に、マグナスは苦笑をこぼしつつも、もったいぶらずに教えてくれた。ただし、「少し長くなるぞ」と前置きして。
「レイは〈武道家〉について、どれだけ知ってる?」
「正直、ごく一般的なことくらいしか……。武器が別に要らない、素手で殴ったり蹴ったりして戦う前衛職ってイメージです」
「ふむ。このルクセンでもやはり、そんな認識か」
「本当は違うんです?」
僕は思い返した。
ノーブルヴァンパイアと戦っている間、マグナスは言っていたんだ。
自分は「本物の武道家」だと。
「このルクスン大公国より遥かに東、パイフー山脈を越えてもっともっと東に、武道家の聖地ウーリューがある」
「あ、それくらいは耳にしたことあります」
僕でも知ってるくらい、有名な場所ってことだ。
「ウーリューで学ぶ武道家たちは、俺たちが日常的に目にする武道家たちと、修行法が根底からして違う。そして、とても多彩で強力な〈スキル〉を習得する。この〈気功〉はその一つだ」
マグナスはそう言ってもう一度、彼の拳に光を宿してみせた。
「森羅万象的に言えば――〈精神力〉を格闘ダメージに上乗せし、さらに〈生命属性〉を付与する、というスキルだ。君が使った〈シャインブレード〉同様に、特性が魔法の武具に準じ、だからヴァンパイアにも通用したわけだな」
「ウーリューの武道家たちは、そんな強いスキルを習得できるんですね! だから本物の武道家ってことかあ……」
「ちなみに、君も習得できる可能性が高いといったら、どうする?」
「えっ!?」
予想もしない言葉に、僕はびっくり仰天した。
「〈光の戦士〉というのは極めて特殊な職業で、各自を一括りにはできないようだな」
「そ、そうなんですっ。僕もエルドラもテレサもラッドも、全然違う能力を持っててっ」
「ナルサイ――例の友人の学者が教えてくれたのだが、それぞれ『〈力〉と〈硬さ〉の伸びが特によく、回復と防御の魔法も使える鉄壁前衛職タイプ』と、『〈素早さ〉と〈器用さ〉の伸びが特によく、盗賊系や生産職まで多彩なスキルを習得できる万能中衛職タイプ』と、『〈魔力〉と〈神聖力〉の伸びが特によく、ほぼあらゆる魔法に加えて弓まで使える万能後衛職タイプ』――」
「そうです、そうです! エルドラとテレサとラッドは、そういうタイプでした。でも、僕は一番不器用で、剣しか使えなくて……」
「残る一人は、『〈生命力〉と〈精神力〉の伸びが特によく、様々な前衛職のスキルを見て覚えることもできる万能前衛職』だそうだ」
「えっ!?」
再びの予想だにしない言葉に、僕は絶句させられた。
見て……覚えることが……できる……?
「だからだよ。レイなら俺の〈気功〉やその他、本物の武道家たちが使うスキルも、習得できるんじゃないか?」
「そう……なんでしょう……か?」
「わからん。俺もナルサイの受け売りだからな。好奇心がうずくというか、試してみたくはあるが……」
「僕も! 僕も本当に習得できるか、試してみたいです!」
「フフ。意見が一致したな」
マグナスがニヤリと不敵に笑い、僕も釣られて微笑んだ。
そう、僕は頬が緩んで仕方なかったんだ。
道が一気に開けた想いというか、大きな希望が見えてきた気がして、居ても立ってもいられない!
「早く! 早く試してみましょう!」
「まあ、待て。村人にノーブルヴァンパイアの脅威が去ったことを知らせて、安心させるのが先だ」
「あ……っ」
自分のことばかりになってた僕は、真っ赤になって恥じ入る。
というか、マグナスはさすがだなあ。
僕もあと五年したら、こんな立派になれるのかなあ。
自信ないなあ。
「と、とにかく、了解です。お屋敷を出ましょうか――ってその前に、まずはここをチェックですよね?」
「賛成だ。誰か囚われていたり、無理やり働かされている人がいるかもしれないしな」
「ええ、ええ!」
『それならワタシがチェックしてきました。いらっしゃいませんでした』
「仕事早っ!?」
『スーパーメイドですから!』
「さ、さすがですね、ショコラも……」
『ついでに金目の物もないか、調べてきました!』
「それはもはや押し入り強盗では!?」
僕は全力でツッコんだけど、ショコラは「てへへ」とかいって悪びれない。
代わりにマグナスがビシッと言った。
「それは元は村の財産だった可能性が高い。戻してくるんだ」
『マグナス様がそう仰るなら、承知いたしました。しょぼーん』
回れ右して、トボトボ歩くショコラを追って、僕とマグナスも貯蔵庫を後にした。