第三話 レベルを把握しよう(レイ視点)
前回のあらすじ:
マグナスとレイとショコラでパーティー結成!
「ところでマグナスさんは――」
「マグナスでいいさ。もう同じパーティーの仲間なんだ」
「あ、じゃあ、僕のこともレイと呼んでください」
「わかった、レイ。それと、敬語も要らんぞ?」
「それは、マグナスさ――マグナスの方が年上だし、僕がちょっと居心地悪くなるんで、敬語のままで」
「わかった。なら好きに」
こういうやりとりが、僕にはなんだか懐かしく思えた。
エルドラたちと、初めて会った時にもやったんだ。そんなに昔のことじゃないのに、不思議と遠い昔のことに感じる。
あのころは、希望に溢れてたな……。
『ちなみにワタシは奥ゆかしいメイドですので、レイ様と呼ばせていただきますね。でないと居心地が悪くなりますので』
「じゃあ、僕もショコラ様って呼ぶべきかな?」
『やめてください! それも居心地が悪いです!』
僕は自分の他愛無い冗談に、クスリとしてしまう。
クスリとできる精神状態に戻ることができたんだ。
多分、マグナスとショコラが、一緒にいて心地よい空気を、自然と持っているからだろう。
「ついでに、改めて自己紹介といこうか。俺はマグナス。北の大陸からやってきた。目的は言ったな? “魔弾将軍”を討つためだ」
「北の大陸というと、ラクスタがある?」
「そうだ。俺の祖国というわけではないが、ラクスタは東の大陸でも有名か?」
「ルクスン大公国の、宗主国ですからね」
僕が生まれ、今いるここルクスン大公国は、百年前くらいにできた国らしい。
北の大陸にあるラクスタから、冒険心に溢れる当時の王弟殿下が船で渡ってきて、物語になって語り継がれるような大冒険の果てに、建国した。
本家に当たるラクスタからの援助も、多大だったと言い伝えられている。だからルクスンはその時の恩義を大事にして、今じゃラクスタに並ぶ八大国の一つに数えられるようになっても、立派な独立国になっても、あくまでラクスタを立てて、臣下の礼をとってるらしい。
一番偉い人が、国王じゃなくて大公を名乗ってるのも、その名残なんだって。
「俺はレベル12の〈武道家〉だ。ただ、少し特殊な鍛練法を続けていて、普通よりも〈ステータス〉が高い」
「えっ。自分のレベルやステータスを把握してるんですか!?」
「〈人物鑑定〉スキルを持っているわけではないから、大雑把にだがな」
「いや、それでも凄いですよ……」
僕は自分のレベルやステータスなんか、わからない。いや、旅に出てからというもの、異常なくらいメキメキ伸びているのは、実感できているんだけど。
都の大公殿下のところへ戻れば、教えてくれると思うけれど、せっかくモンバリーまで遥々旅してきたのに、また振り出しになってしまう。
「ちなみにあのアースドレイクはまだ幼生で、レベル13のボスモンスターだった」
「あれで幼生!? というか、魔物のレベルまで知ってたんですか!?」
「己を、そして敵を知らねば、勝てない相手に挑んでしまうリスクがあるだけだろう? 把握に努めるのは、俺としては当然の話だと思う」
「確かに……そうです……」
僕は噛みしめるように言った。
そして尊敬の眼差しでマグナスを見る。
「僕も、自分のレベルを知る方法があるんでしょうか?」
「現在、習得できている〈スキル〉から、大雑把に判断できる。〈シャインブレード〉が使えるようになっていたらレベル10に達しているし、〈ソードウェイブ〉が使えるならレベル13という具合だな」
「じゃあ僕はレベル10以上、13未満ということですね」
なるほど、勉強になるなあ。
「あ、でもじゃあ、僕が〈シャインブレード〉を覚えたのはつい先日ですから、多分レベル10ってことですよね?」
「ふむ。そういうことなら、そうだろうな。いい判断だ」
「あはは……レベル13のアースドレイクに敵わないのも、道理ですよね……」
僕は、僕たちはこんなことも知らず、考えようともせず、旅をしていたのか。“魔弾将軍”を討つと嘯いていたのか。そう思うと恥ずかしくなってくる。
「俺は君たち光の戦士を捜しつつ、強くなるためにモンスターを狩りながら、旅をしていた。特に、どこそこにボスモンスターが現れたと聞いては、優先的に狩っていた。人助けになるし、〈経験値〉にもなるし、一石二鳥だからな」
「あ、僕たちも同じです。そうしてました」
どうやらボスモンスター狩りをやってのは、間違いじゃなかったみたいだ。
実際、僕たちも今まで繰り返して、効果を実感できてたもんな。
「なら話は早い。今後も続けて、“魔弾将軍”を斃す力を蓄えるということで、どうだ?」
「いいですね。僕に異存はないです」
これは決して、流されて言ったわけじゃない。
自分で考えて、自分でもいいと思って、マグナスに同意したんだ。
なんでもかんでも他人の言うことを否定するのは、なんでもかんでも肯定してきた今までと、同じくらい愚かなことだもんね……。
「ちなみに、“魔弾将軍”がレベルいくつか、ご存じですか?」
「いや。俺の友人に、ナルサイというラクスタ王家に仕える学者がいて、いま文献に当たって調べてもらっている」
「なるほど……」
マグナスは本当にやることなすこと、手堅い人だな。
万事、よく考えているというか。
見習わなくちゃ!
「俺はアースドレイクを斃した後、次はノーブルヴァンパイアを討伐に行く予定だった」
「僕たちは、次はエルダーサラマンダーを狩りに行く予定でした」
正確にはラッドがそう主張していただけで、僕は流されるままに、うなずいていただけだ。
「そうか。俺はエルダーサラマンダー退治でも構わんが」
「待ってください。マグナスはその二匹のボスモンスターについても、ご存じですか?」
「ああ。そいつらのことは調べがついている。どちらもレベル13で、物理攻撃に軽度の〈耐性〉を持つ厄介な奴らだが、エルダーサラマンダーは〈氷属性〉が弱点で、ノーブルヴァンパイアは〈光属性〉が弱点だな」
「! だったらノーブルヴァンパイアの方にしましょう! 僕には〈シャインブレード〉があります!」
「そうか。確かにそれは助かるな」
マグナスも大いにうなずいてくれて、僕たちパーティーの次の方針が決まった。
「それで、あの、マグナス。もう一つ決めておくことが――」
「何かな?」
「パーティーのリーダーは、誰が……?」
僕が恐る恐る訊ねると、マグナスはフッと笑った。
「君が必要というなら考えるが?」
「じゃ、じゃあ、ナシにしましょう!」
方針や決定事項は、今みたいにその都度、話し合っていけばいいじゃないかということになった。
「早速、ノーブルヴァンパイアを斃す打ち合わせをしましょう!」
今まで、人に命令されてばかりだった僕は、初めてのことにうれしくなってしまう。
ワクワクしてしまう。
だから、お腹を押さえているショコラのことに、すぐに気づかなかった。
『あのー……それもけっこうですが、よろしければご飯をいただきながらにしませんか?』
ついでに、僕自身もハラペコだったことに、今さら気づいた。
気づくと、お腹の虫が鳴りだした。
「ははは! じゃあ、何か美味い物を食べに行くか」
『ショコラは今日は、美味しいお酒もいただきたい気分です』
「で、でも僕、今は持ち合わせが――」
「パーティー結成祝いだ、つまらないことを気にするな、レイ」
『豪勢に行きましょう!』
「か、勝手に決めないでくださいよ!」
僕たちはそんな風に大騒ぎしながら、宿の部屋を後にした。
こんなことは、エルドラたちと一緒の時には、ついぞなかった。




