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「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~  作者: 福山松江
第四章  僕に〈命令しないで〉と強がる光の戦士編

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第二話  脱思考停止!(レイ視点)

前回のあらすじ:


光の戦士レイは、魔弾将軍を討つための旅に出るが、同じ光の戦士たちに裏切られまくる。

そしてマグナスと出会う。

 目を覚ますと、僕はベッドの上にいた。

 まだ意識がぼんやりとしたまま、独り言を言う。


「ここは……?」

「モンリバーの町の宿だ」


 返事があって、僕はハッとなった。

 意識もしゃっきりとして、声がした方を向く。

 窓際の二人掛けのテーブル席で、マグナスさんが何やら分厚い本を読んでいた。

 向かいの席には、あのいかがわしい格好のメイドさんも腰かけている。


「モンリバー!? そんなに遠くに!?」


 僕は驚いて、上体を跳ね起こす。

 あのアースドレイクが外れに棲みついていた村から、モンリバーまでは、歩いて二日くらいかかる。それだけの距離を、意識を失った僕を運んでくれたのだとしたら、大変な労力だ。


『〈タウンゲート〉で一旦、ラクスティアに跳んで、サリーマさんに回復魔法をかけてもらった後、もう一回〈タウンゲート〉でモンリバーまで来ただけですよ』

「えっ? すみません、もう一度」


 メイドさんに聞き慣れない単語の羅列を早口で言われて、僕は聞きとることができなかった。

 でも、答えてくれたのはメイドさんじゃなくて、マグナスさん。


「君には回復魔法が必要だったから、悪いが運ばせてもらった。気の利いた〈僧侶〉なんて、大きな町の神殿にしかいないからな」

『ワタシが口移しで、〈ハイポーション〉を飲ませて差し上げたと思っちゃいましたか? 残念ですが、ワタシの唇はマグナス様のものですので!』

「……ショコラ。そういう冗談を、初対面の相手の前で言うな……」

『……冗談ではないのですが。しょぼーん……』


 という喜劇みたいなやりとりを、二人はしていた。

 ちなみにメイドさんは、ショコラさんというらしい。十四の僕と同い年くらいかな?

 マグナスさんは五つかそこら、年上に見える。物腰とかしゃべり方とかは、羨ましいくらい大人びているけど。

 

「あの村からモンリバーまで、大変だったでしょう?」

「修行の一環だと思えば、大した苦労じゃないさ」


 マグナスさんは恩着せがましいことは一切、言わなかった。

 そういえば、〈武道家〉だったんだっけ。


「重ね重ね、そして改めて、助けてもらってありがとうございます。おかげで一命をとりとめました」


 僕はベッドから抜け出ると、マグナスさんたちへ深々と頭を下げた。


「構わないさ。俺もあの魔物を退治しにいったんだ。そうしたら、たまたま君がいた。間に合ってよかったよ。君は幸運の星の下に生まれたんだな」

「それで……あの……言い出しにくいんですが……」


 頭を下げたまま、僕はモゴモゴと続ける。


「ん? どうした?」

「……今、ちょっと持ち合わせがなくって」


 助けてもらったのもそうだけど、マグナスさんにはここの宿代を立て替えてもらっているはずだ。神殿の回復魔法だって、高い喜捨を要求されたはずだ。

 それくらいはせめて返したいんだけれど。お金は全部、ラッドが管理していた。多分、テレサに剣を持ち逃げされたのが、ショックだったからだろうけど……。


「それも気にするな。俺が勝手にやったことだ」


 マグナスさんはあくまで恩に着せてこなかった。

 いったい何者なんだろうか?

 この宿の部屋……パッと見でわかる。僕たちのパーティーじゃ一度も泊まったことがないくらい、高そうな部屋だった。しかも個室なんて、贅沢すぎ。

 それをポンと気前よく出せるなんて……。


 よっぽどすごい人なんだろうか?

 それともやっぱり、何か裏があるんだろうか?

 ああ、いやだな……。こんな考え方をするのなんて。人を疑わなきゃいけないなんて。とってもいやだ。

 ……いやだけれど、もうあんな悔しい想いは、したく……ない……。

 

「僕はレイっていいます。一応、〈光の戦士〉をやってます」

「おお、君がそうだったのか。村人のためアースドレイク退治に向かうとは、およそ只者ではないと思っていたが」

「“魔弾将軍”を討つために、旅をしていました。もし、僕が晴れて凱旋した暁には、きっと国中に知れ渡ることになると思います。その時、大公殿下のお城までご足労願えませんか? あるいは、マグナスさんの居場所がわかれば、僕が伺います。大公殿下がくださる恩賞から、マグナスさんへお返しできることがあると思うんです。助けていただいたご恩は、決して忘れません」

「気にするなというのに。律儀だな、君は」


 マグナスさんが苦笑を浮かべた。

 僕も愛想笑いを浮かべる。


 律儀……。律儀か。

 村にいたころ、皆にもよく言われたな。

 実際そうなのかもしれない。

 だって、こんな状況になっても、僕はやっぱり“魔弾将軍”を討とうと考えているんだから。


 エルドラが結婚して、テレサが逃げて、僕だけそんな危険な真似をする義務は、どこにもないとは思うけど……。

 ラッドが、故郷を“魔弾将軍”に滅ぼされたって教えてくれた、あの時の目が忘れられない。溢れ出すような憎悪が忘れれらない。

“魔弾将軍”を放置すれば、いつかは僕の生まれた村も滅ぼされてしまうだろう。

 僕はあんな目をしたくない。

 しなくてすむように、神霊プロミネンスは僕に力を授けてくれたんだと信じたい。


 だからこれは、誰かに言われてやることじゃなくて。

 初めて、自分で決めたことだ。


「そういうわけなんで、僕はもう行きます。お世話になりました」

「まあ、待て。今の君の実力では“魔弾将軍”には勝てんぞ」

「アースドレイクにも勝てないくらいですもんね……。何か対策を考えます」

「俺にいい考えがある」


 マグナスさんはそう言い出した。

 別段、自信をみなぎらせるでもなく、まるでそれが当たり前のことのように、泰然と。


 僕は思わず、喜んでしまった。

 そんなものがあるのか。ぜひ聞かせて欲しい――釣られて言いそうになった。

 でも、ハッと我に返って思い留まる。

 いけない。これじゃ今までと何も変わらないじゃないか。


「ごめんなさい、マグナスさん。僕はもう、誰かの意見に流されるのが、懲り懲りなんです。命の恩人のマグナスさんに、こんな失礼なことを言うのは、本当に心苦しいんですが……」

「む。何か、よほどのことがあった様子だな」


 マグナスさんに聞かれて、僕は事情を説明した。それが恩人への、最低限の礼儀だと思った。

 僕たち四人の光の戦士の、ひどい旅の経緯。

 退屈な話だろうに、マグナスさんはじっと耳を傾けてくれた。

 本当に真剣に聞いてくれているのが、伝わった。


 だって、マグナスさんの表情が、どんどん変わっていったから。

 僕の境遇に同情……ううん、ちょっと違うな。共感? を覚えているような顔つきになった。

 同じ、ひどい事故に遭った被害者に、初めて巡り合った……みたいな。


「そうか……そういうことだったか……」

「わかってくださるんですか、マグナスさん?」

「ああ。それに、君の意思を尊重しよう。確かに、自分の頭で考えることは大事だ。本当に大切なことだ」


 噛みしめるように、マグナスさんは言った。


「その上で、俺から君に頼みがあるんだ。命令でもなんでもない、だから君自身で考えて、吟味して、場合によっては断ってくれていい。その時は俺も諦める」

「お願い……ですか? わかりました、聞かせてください」


 命の恩人の頼みなんて、無下にできるわけがない。


「俺はずっと、噂に名高い光の戦士たちを探していた。俺もまた“魔弾将軍”を討とうと思っているからだ。しかし、一人では心許ないからだ。仲間が欲しかったんだ」

「マグナスさんも……ですか……?」

「ああ。どうだろう、レイ君? 俺とショコラと、パーティーを組んでくれないか?」


 ぜひお願いします!!

 ――と、また跳びつきかけて、僕は自重する。

 危ない、危ない。悪い癖だ。

 たとえお願いするにしても、ちゃんと考えてからにしなくちゃ。


 マグナスさんとパーティーを組むメリットは、数え上げてもきりがないよね。

 じゃあ、デメリットは? 

 マグナスさんが何かを企んでいて、光の戦士である僕を利用しようとしている……とかか。

 でもそれは、都度都度僕が気をつけていれば、回避可能なリスクだよね。

 実際、マグナスさんは何も企んでないかもしれないんだし、エルドラやテレサがそうだったからって、人間不信に陥ったり、誰ともパーティーを組みたくないだなんて、それこそ愚かなことだ。と思う。

 一つ明らかなのは、マグナスさんは僕の命をとろうとは、全く企んでいないこと。だってその気だったら、僕は今ごろとっくに天国だ。

 少なくとも命をとられることがないんだったら、また失敗しても、やり直しはきく。よね?


 うん、決めた。


「僕からもお願いします。ぜひ、パーティーを組んでください、マグナスさん。ショコラさん」

「ああ。そうこなくてはな」

『皆でがんばって、“魔弾将軍”をやっつけましょうね!』


 こうして僕は、再びパーティーを結成することにした。

 おっかなびっくり。

 今度こそ失敗しないように。

 がんばろう。

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