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第一話  出会いからの逆転快進撃スタート。……スタート?(レイ視点)

更新、大変お待たせいたしました!

ここから四章がスタートです。

改めてよろしくお願いいたします!

 僕――〈光の戦士〉レイは、走馬灯を見ていた。

 アースドレイクとの戦いに敗れ、洞窟に横たわり、今わの際を迎えようとしていた。

 どうしてこんなことになってしまったのだろう?


 始まりは大公殿下のお城に、僕たち四人が集められたことだ。


「よく来てくれた、光の戦士たちよ!」


 髪も髭も真っ白な大公殿下が、生まれも育ちもバラバラの少年少女だった僕たち四人を、そう言って大歓迎してくれた。


 僕はただの村人で、まだ十四歳の若僧で、本当だったらお城に入るなんて、許されない身分なのに。

 それがいきなり村へやってきた騎士様に、「〈武勇の神霊〉プロミネンスのお告げが下りました。あなた様こそが光の戦士です」なんて言われて、正直最初は半信半疑だった。

 でも僕たち四人が、大公殿下に一人一人抱き締められ、讃えられて、どうやらだまされているわけじゃないようだってわかった。

 だって大公殿下はお忙しいはずで、僕みたいな下々を相手している暇なんてないはずだ。

 

「光の戦士たちよ! ルクスン大公デベロンの名において命じる! “魔弾将軍”カリコーンを討て! その暁には望むままの恩賞を与えることを約束しよう! 汝らに神霊プロミネンスのご加護があらんことを!」


 大公殿下は、臣下一同の前で高らかに宣言して、僕たちを送り出した。

 それで僕たち四人は、神霊に選ばれた光の戦士として旅に出た。

 目的は、ルクスン大公国を侵略する“魔弾将軍”を、斃すことだ。


 出発してすぐのころは、旅はとても順調だった。


「オレの名はエルドラ。騎士の生まれで、オレ自身も騎士見習いとしてお城勤めをしていた」


 四人の中で最年長の少年が、そう名乗った。


「この中で、戦いの経験があるのはオレだけか? だったらオレがリーダーを務めよう。皆はオレの言うことをよく聞いてくれ。そうすれば、必ず“魔弾将軍”を討てる。任せてくれ! 信じてくれ!」


 そう言ってエルドラは自分の胸を叩いた。


 僕は内心、胸を撫で下ろした。他の二人も同じ気持ちだったと思う。

 つい先日までただの村人だった僕が、いきなり光の戦士だと言われても、モンスターと戦えと言われても、困ったからだ。


 僕たちは旅を続けながら、道中の雑魚モンスターを斃していった。

 エルドラが常に先陣を切ってくれたし、戦い方も懇切丁寧に教えてくれた。彼のリーダーシップは優れたもので、僕たち三人は彼の言うことさえ聞いておけば安泰だった。


 どんどん〈レベルアップ〉できたし、僕たちは本当に光の戦士なんだって実感も得られた。

 だってレベルアップに伴う〈ステータス〉の上昇率が、半端じゃなかったからだ。

 こんなの、村にいて父さんたちの農業を手伝っていたら、一生気づかなかっただろう。

 僕たちは戦うことに自信をつけて、だんだんと光の戦士らしくなっていった。と思う。


    ◇◆◇◆◇


 順風満帆だった僕たちの旅が、そうじゃなくなったのは、あまりにも唐突だった。

 ポスティアン伯爵が治める町に着いた時、伯爵から懇願されたのだ。


「愛娘が、近くの森を牛耳るオークキングにさらわれてしまったのだ! どうか助け出してくれないか、光の戦士たちよ!」


 僕たちは相談した。仲間の一人は、“魔弾将軍”を討つまで、寄り道している暇はないんじゃないかって主張した。

 でも、エルドラは言った。


「見殺しにしちゃいけないだろ? 神霊プロミネンスは、なんのためにオレたちにこの力を与えてくれた? それは“魔弾将軍”を討つためだけじゃないはずだ!」


 エルドラはそう強く主張した。

 元々僕たちはリーダーの言うことを聞くのが当たり前だったから、それ以上は誰も反対しなかった。

 僕たちはオーク族の支配する森へ、命懸けで潜入して、力を合わせてオークキングを斃して、伯爵の娘であるイザベル姫を救出した。

 そして、町に戻った後、エルドラが言い出した。


「オレ、イザベル姫と結婚することにした。向こうがオレのこと、惚れちまったみたいだ。だから悪いけど、おまえらとの旅はここまでだ」


 その時の、僕たちの間に走った動揺は、筆舌に尽くし難いものがあった。


「“魔弾将軍”の討伐はどうするの、エルドラ!?」

「おまえらに託すよ。今のおまえらなら、きっと大丈夫だ」

「いい笑顔と台詞で誤魔化さないで! 神霊プロミネンスは、なんのためにアタシたちにこの力を与えてくれたと思ってるの!?」

「少なくともオレに関しては、ここで逆玉の輿に乗るためじゃないかな。昔からずっと夢だったんだ。ただの騎士じゃ終わりたくない。手柄を立てて、貴族になりたいって」

「あんたね! 最初からそのつもりで、お姫様を助けようって言ったのね!?」

「いやいや、あくまで善意だよ、善意」


 僕たちは、それ以上の押し問答は無益だと悟った。

 エルドラは確信犯で、トボけ通す気満々で、理屈や良心に訴えても無意味だった。

 

「アッタマきたわ! いい? アタシたち三人で、絶対に“魔弾将軍”をやっつけるわよ! 大公殿下に、伯爵になるよりもっとスゴい恩賞をもらうわよ!」


 そう息巻いたのは、パーティーの紅一点、テレサだった。

 可憐というよりは美人で、勝気なところがまた似合ってて、男にモテた。

 エルドラもイザベル姫に鞍替えする前は、狙ってたと思う。


「これからはアタシがリーダーだから! あんたたち、ついてきなさい!」


 勝気なテレサはそう言って、僕たち残る二人は従うことにした。

 正直、エルドラがいきなりパーティーを抜けたショックが大きすぎて、自分で物を考えるのが億劫だった。テレサがあれこれ指図してくるのに、黙って従っていた方が楽だった。


    ◇◆◇◆◇


「四人が三人になっちゃったんだから、アタシたちはもっと強くならなくちゃいけないわ!」

「うん、そうだね」

「だから、これからは寄り道もいっぱいしていきましょう? この間のオークキングみたいなボスモンスターを見つけたら斃して、〈経験値〉を稼ぐべきよ!」

「うん、そうだね」

「本当は真っ直ぐ“魔弾将軍”討伐に行きたかったけど、これも裏切ったエルドラのせいよ!」

「うん、そうだね」


 そんなやりとりをしながら、テレサをリーダーに、僕たちのパーティーは再出発した。

 最初は不安だったけど、すぐに払拭された。

 僕たちはお城を出た時よりもレベルアップしていたし、戦い方も覚えていた。

 エルドラがいなくなっても、三人で充分にモンスターたちと渡り合えた。


 どこそこの村が魔物に襲撃されたと聞いては駆けつけて斃し、どこそこの町が近隣のボスモンスターに困らされていると聞いては馳せ参じて討伐した。

 そのたびに感謝されて、悪い気分じゃなかった。

 形のあるお礼もいっぱいもらえて、みんなホクホク顔だった。

 ある時なんて、領地を救われて感激した侯爵が、


「素晴らしい! 光の戦士とはこれほどの者たちか! どうか、我が家の家宝であるこの〈白炎の剣〉を持っていって欲しい! “魔弾将軍”を討つ一助として欲しい!」


 なんて言い出して、とても稀少な魔法の剣をくれた。

 もしも売ったら、金貨五万枚は下らない代物だそうだ。人生何回分遊んで暮らせるか、見当もつかない額だ。


 そして翌日、テレサが〈白炎の剣〉とともに消えた。


 僕ともう一人が寝ている間に、お宝の剣を持ち逃げしていたのだ。

 エルドラを「裏切り者」と散々に罵ったテレサが、舌の根も乾かないうちに、僕たちを裏切ったのだ。


「チクショウ、あいつ! 売り飛ばして、自分だけ一生裕福に暮らすつもりだな!?」


 そのもう一人――顔も名前も特徴も、全部がどこにでもいそうな少年、ラッドが地団駄踏んで悔しがった。

 宿屋の床が抜けそうになるくらいそうしてから、


「おまえは裏切らないよな、レイ?」


 ラッドは血走った目で訊いてきた。


「も、もちろんだよ……。ただ、ラッドはまだ旅を続けるつもり……?」

「ああっ!? どういうことだよ!?」

「だって、僕たちもうたった二人だよ? これで“魔弾将軍”を討てるのかな?」

「討てるのかな、じゃない。討つんだよ!」


 ラッドはすごい剣幕で怒鳴り散らした。

 彼が“魔弾将軍”討伐に、そこまで懸ける強い想いがあったことを、この時に初めて知った。


「おいらの生まれた村は、“魔弾将軍”の軍勢に滅ぼされたんだ……!」

「…………」

 

 ラッドから溢れ出す憎悪の熱で、僕は火傷するかと思った。


    ◇◆◇◆◇


 僕とラッドは、二人で旅を続けた。

 四人いるはずの光の戦士が半分になって、ますますレベルアップしなくちゃいけなくなった。

 多分、ラッドは焦っていたと思う。

 じゃなければ、アースドレイクなんて強そうなボスモンスターを退治して、たくさん経験値を稼ごうだなんて言い出さなかったはずだ。


 僕は正直、無茶だと思ったけど……結局はラッドに言われるままに、流されるままに、ついていってしまった。

 とある村外れの洞窟に棲みついた、アースドレイクを二人で退治しにいった。


 僕たち四人は同じ光の戦士という〈職業〉だけど、能力も特性もバラバラだった。

 僕は剣を振るしか能がなかった一方で、ラッドは弓も攻撃魔法も回復魔法も使える万能後衛職という感じだった。

 だから自然と戦い方は、僕が前に出て、ラッドが遠距離攻撃をしたり、サポートするという形になる。


「ドラゴンの四肢が退化した奴がワイバーンで、羽根が退化した奴がドレイクっていうんだ。どっちも本物のドラゴンに比べたら、遥かに弱いと言われている。だから、おいらたちでも勝てるはずだ」


 ラッドはこういう意外と博識なところがあって、僕はその話を信じるしかなかった。

 

 信じた僕がバカだった。


 洞窟の最奥、巨体を横たえて眠っていたアースドレイクは、僕らの気配に気づくなり目を覚まし、身じろぎした。

 そう、あれは攻撃なんて格好のついたものじゃなかった。

 にもかかわらず、起きた弾みで振られた尻尾の一撃を僕はもらい、吹き飛ばされた。たった一発で、瀕死の重傷を負わされた。


「ひええええっ、ひえええええええええええええええええっ」


 それを見たラッドは、我が身大事さで逃げていった。

“魔弾将軍”を討って、村の仇をとるまでは、死ねないと思ったのかもしれない。

 ともあれ僕は、仲間だと思っていた三人が三人ともに、裏切られたわけだ。


 アースドレイクがにじり寄ってくる巨大な足音を聞き、それでも動けなくなった体を地面に横たえ、僕は考えた。


 いったいどこで、間違えたんだろう?


 決まっている。最初からだ。


 いくら光の戦士に選ばれたからといって、僕は大公殿下に命じられるままに、“魔弾将軍”を討つ義務があったんだろうか?

 いくらリーダーシップがあったからといって、エルドラの命令を聞く理由は? テレサの命令を聞く理由は? ラッドの命令を聞く理由は? その結果、僕はどうなっている?

 いや、他人のせいにするつもりはない。

 悪いのは僕だ。

 主体性皆無で、楽だったからという理由で、反対意見を出すのも億劫で、いつもいつも他人の言いなりになっていた僕こそが悪い。

 自業自得で、僕は死ぬんだ。


「ああ、悔しいな……」


 死ぬ間際に、僕はそう独白した。

 アースドレイクが大きな顎門(あぎと)を開けて、僕を食べようと首を伸ばしてくる。

 せめて、一息にやって欲しいな。

 ゆっくり咀嚼だとか、胃の中へ丸呑みだとかはやめて欲しいな。


 そう、僕が思った矢先だった――鋭い声が聞こえてきたのは。


「諦めるな!」


 同時に、風切り音が響く。

 何者かが、駆けつけてくれた。

 しかもジャンプすると、アースドレイクの顔面に跳び蹴りを喰らわせた。

 如何にもタフそうなモンスターが、たった一撃で苦しみ喘ぐ。

 とんでもない脚力だった。


「だ……れ……?」


 僕は薄れゆく意識の中で、目を凝らす。

 若い男の人が、アースドレイクと戦っていた。

 総ミスリル製らしき杖を両手に構え、何度も何度も魔物を打ち据える。さらには多彩な蹴り技も交えて、打ちのめす。

 なんて見事な肉弾戦だろうか。

 たった一人で、あのアースドレイクを圧倒している!


 彼は名乗った。


()()()()()()()()――()()()()()()()()


 武道家。

 そうか、武道家か。道理で見事な肉弾戦だ。

 

 その武道家マグナスさんが、戦いながら話を続けた。


「一旦、回復に努めろ! 〈ハイポーション〉を飲め!」

『はい、どうぞ。すぐに元気になりますよ』


 いつの間にかもう一人が、僕の傍にいた。

 マグナスさんの仲間だろうか。

 なんだかいかがわしいデザインのメイド服を着た、女の子だ。

 口調は可憐なのに、顔は残念なくらいの無表情で、僕の口元にグイグイ〈ハイポーション〉の小瓶を押し付けてくる。


 僕はとうとう意識を保つことができなくなって、思考が暗転していく中で、答えた。


「お願い……僕に……命令しないで……っ」

読んでくださってありがとうございます!

本日から再び毎晩更新がんばります!!

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拙著「追放村」領主の超開拓、のコミカライズ連載が始まりました!
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― 新着の感想 ―
[気になる点] ラッド…? アラバーナの時の三つ子と同一人物でしょうか? そして殺戮メイドは、そんな破廉恥な服のまま引き連れていたら、マグナスの品位が損なわれると思うのですが。 別の服を着せてあげま…
[気になる点] 光の戦士に選ばれながらも、レイを見捨てて逃げ出した臆病者兼卑怯者のラッドがアラバーナ編に出てきた『三つ子の三兄弟のラッド』と名前が被っております。 お手数ですが、光の戦士の方のラッドを…
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