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「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~  作者: 福山松江
第三章  ワタシに〈ご命令ください〉と押しかけるメイド編(?)
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第三十二話  安堵と不安

前回のあらすじ:


“魔海将軍”バーラックを撃破!

 俺――〈魔法使い〉マグナスはレベル39となっていた。

 ヘヴィカスタマイズした〈サンダーⅣ〉を、二つ重ねた合体魔法――〈プラズマブラスト〉によって“魔海将軍”バーラックを討ち、大量の〈経験値〉が入ったのだ。

 いよいよ前人未到の40台も目前となると、興奮を禁じ得ないな。


 まだへたり込んだままのロレンスも、苦笑混じりに言った。


「凄まじい戦いだった。とんでもない経験をさせられた。一皮も二皮も剥けた気がするよ」


 実際、彼も〈レベルアップ〉した可能性は大いにあるな。俺は〈人物鑑定〉スキルを持っていないので、明日の〈攻略本〉情報更新を待たねばわからないが。


『ショコラも一皮剥けた気がします! きっとグラディウスさんもです!』


 うん。サーヴァントもゴーレムも、経験値を得てレベルアップはしないんだ。

〈攻略本〉にもそう書いてあるんだが……まあ、こんなに喜んでいるのに、いま水を差すのはやめておこう。


〈魔海将軍の金貨〉など、戦利品(ドロップアイテム)もゲットできた。

 しかも好奇心旺盛なショコラは、バーラックが根城にしていた沈没船の中を、探索し始めた。

“魔海将軍”ともあろうものが、金銀財宝の類を貯め込んでいたりはさすがにしなかったが、ショコラが面白いものを見つけてきた。

〈オリハルコンインゴット〉だ。

 バーラックがいずれ何かに使うつもりだったのかもしれない。

 ありがたく頂戴し、俺がいずれ何かに使わせてもらおう。差し当たっては、バゼルフに預けておくとしよう。


「帰るか」


 俺は心地よい疲労とともに言い、ショコラとロレンスがうなずいた。

〈タウンゲート〉の呪文を唱え、帰路に就く。

 ベッドが恋しい。夜はどうせ祝勝会になるだろうが、それまで一休みするくらい、構わないだろう?


    ◇◆◇◆◇


「被告が長年に亘って犯してきた罪は、あまりに多く、度し難い。よって死罪が適刑である」


 海洋警察(カリオストロ)の裁判官が、法廷で朗々と宣言した。

 わずかに出席した傍聴人たちから、落胆のため息が漏れる。

 平然としているのは、被告席に立つ――パウリ当人だけだった。

 相変わらず人を食った笑みを浮かべ、大きな頬傷を歪めている。


 そんなパウリの悪びれない態度に、裁判官は眉をひそめて咳払いすると、判決を続けた。


「しかしながら、被告のこのところの行いには、己の罪に対する反省が大いに見られる。加えて被告の有能さは、多くの人々からも口添えがあったところだ。ただ死罪では無益。もし被告が残る生涯を、カジウの公益のために捧げると誓うならば――」

「誓います」

「むっ!?」

「僕は残る生涯を、カジウのために尽くすと誓います。だから命を助けてください」


 ぬけぬけと言ってみせるパウリに、裁判官はとてつもなく渋い顔つきになった。

 その表情のまま、告げた。


「よかろう。ならば被告を死刑ではなく、終身刑とする。ただ――」

「ただ……なんでしょう?」

「裁判官の宣告を遮るものじゃない。最後まで言わせなさい」

「あはは、わかりました。それは僕が悪かったですね」


 こうしてパウリの公判は終わった。


「そして僕は海洋警察(カリオストロ)になりましたとさ」


 裁判の後、パウリは俺と二人きりになって肩を竦めた。


「柄じゃないって思ってるでしょう、マグナスさん?」

「思っている。どういう風の吹き回しだ? 死刑を回避するため仕方なしか?」

「半分はそうですね」

「もう半分は?」

「恋した相手が、尋常じゃなくオトナだったもんで。僕はコドモだって思い知らされたもんで」


 パウリは屈託なく笑った。

 いつもの邪悪な微笑ではなく、屈託のない、恋する少年のような純粋な笑顔だった。


「彼女が愛するものを、試しにちょっと僕も愛して、慈しんでみようかな、と」

「なるほど、殊勝な考えだ。それで人間(コドモ)が背伸びして、神霊(オトナ)に届くかは知らんがな」

「まあ、当たって砕けろですよ。他のやり方も思いつかないんでね」


 パウリはもう一度、肩を竦めた。


 この世紀の大悪党が、海洋警察(カリオストロ)とはな。

 まあ、柄じゃあないとは思うが、向いてないとは思わない。

 何しろこのベビーフェイスの青年は、海賊や悪徳商人たちの手口を、知り尽くしているのだから。蛇の道は蛇。警察官としてもさぞや辣腕を振るうことだろう。いずれ“法の番犬”と並び称されることになるだろう。

 パウリとロレンス――この二人が仲良く犯人を追いかける様など、まったく想像できないがな!


    ◇◆◇◆◇


 パウリの公判が終わった後、改めて“連盟”党首会議が開かれた。

 俺もピートルに招かれ、列席した。


「マグナス殿。よくぞこの地に潜む“八魔将”を討ってくださった」

「もうワシは魔物に怯えずにすむのだな!?」

「いや、感謝の言葉もない!」


 ()()の党首たちから、口々に礼を言われる。

 俺は首を左右に振り、


「礼ならば俺の方からも申し上げたい。結局、最後は貴殿らの援助があって、〈海嘯の剣〉を入手できた。俺が描いていた計画表を何か月分も前倒しできた」


 そして、列席するハンナ夫人の方を見て、


「特に、アズーリ商会には世話になった。もしあなたが俺を信用してくださらなかったら、俺はこのカジウで何も始められなかった」

「何を仰いますか、マグナス様! あなたやアリア嬢に助けられたのは、わたくしどもの方ですとも」


 ハンナ夫人はおっとりとした口調ながら、そこははっきりさせようと譲らなかった。

 夫を殺された直後に、赤子を抱えて海原に漕ぎ出すほど、芯の強い女性なのだ。


「どうだろうか、諸兄。我々もマグナス殿に、改めて“魔王を討つ者”の称号を進呈するというのは?」

「ピートル殿に賛成ですな」

「ぜひマグナス様には魔王を討って、真にこの世界を平和にしていただきたい! それでこそワシも枕を高くして眠れるというものだ!」

「ええ、マグナス殿には大きな借りを作ってしまった。援助は惜しみませんよ」


 ありがたいことに、その提案にどこからも反対は出なかった。

 唯一例外だったのが――


「ゼール商会もそれでよろしいですかな?」

「は、はい。い、いえ! 多分です、多分。はい」


 ピートルに念押しされても、歯切れの悪いことしか答えられない、ゼール商会だった。


 その席に着いているのは、如何にも風采の上がらない、年齢ばかり重ねた中年だ。

 海洋警察(カリオストロ)になってしまったパウリの後釜だ。

 今日もゼールの党首は出席せず、新たに番頭となった彼が顔を出したわけだが、何を訊いても「私の一存では決めかねます」という本音が透けて見えた。


 どうしてこんなのが番頭になってしまったかというと、()()()があまりに辣腕すぎて周囲が育たなかったのと、その前任者が数少ない気の利いた者たちを、海洋警察(カリオストロ)にそのまま連れていってしまったのである。


 ゼール商会の未来は本当に暗い。

 本当にな。


 温厚篤実なピートルも心配した様子で、


「いや……私が口を出すべきことではないだろうが、ゼール商会さんは大丈夫かね? ()()()殿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「は、はい。い、いえ! 確かにエリス様はお姿をくらませてしまいましたが、きっとすぐにお戻りになられるかと……」

「はて、エリス様? ゼールの党首はいつの間に女性に変わったのかね?」

「は、はい。い、いえ! 男です。男ですともっ」

「???」


 ゼールの新番頭は、咄嗟に誤魔化すこともできない男のようだが、人の好いピートルは、その嘘になってない嘘を額面通りに受け止めて、ますます混乱してしまう。


 ゼールの党首が何者なのか、その正体を俺は知っている。

〈攻略本〉に最初から、このカジウの誰よりも詳しく記述されていたからだ。

 でも、俺はこの場で何も言わなかった。理由は三つ。

 一つに、“魔海将軍”が倒れたことで、ひとまずカジウに平和が訪れたのは、事実だから。

 二つに、証拠がなければただの誹謗中傷になるから。

 三つに、せっかく一つにまとまりかけている彼らに、水を差すようなことを言いたくなかったのだ。これが何よりも重要だった。

 

 そう――

“魔海将軍”バーラックに魂を売った内通者とは、そのゼール商会の女党首エリスだなどとは、口が裂けても言えなかったのである。

読んでくださってありがとうございます!

今夜と明日、エピローグ的なお話をUPして、三章も終わりとなる予定です。

よろしくお願いいたします!


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