第九話 VSフォレストジャイアント
前回のあらすじ:
強面の戦士グランツの想いに応え、マグナスは彼を一時的な仲間にした。
空白
俺は複数の呪文を矢継ぎ早に、且つ正確に唱えた。
「フラン・レイ・ムウラ・ウェア・プレ・ヌーン!
ア・レン・ムウラ・オン・レン!
シ・ハー・イ・エ・デル!
シ・ティルト・レン・エ・ヌー・ゲンク・ティルト・ハー!
クーン・ウン・イ・カル・ケル・ヌー・エ・シス!」
対象の武器に炎を纏わせる魔法、〈ファイアウェポン〉。
対象に光の防護を与える魔法、〈マジックアーマー〉。
対象の盾や回避力を強化する魔法、〈マジックシールド〉。
他にも〈力〉や〈素早さ〉など各種ステータスを増加させる魔法で、グランツをフルドーピングしてやる。
本来、〈魔法使い〉の習得する強化魔法というのは、それほど効果的ではない。
長年の修行や研究を経て、〈強化魔法増幅〉スキルを会得して初めて使い物になる、専門性の高い魔法群と言えるだろう。
学院でも幼少期から図抜けた成績を収め、基本的に一匹狼気質だった俺は、「他人を強化する」というこれらの魔法は軽視していて、当然、件の〈スキル〉も収めていなかった。
しかし今、俺が所有する〈大魔道の杖〉は、強化魔法の効果を自動的にほぼ三倍にしてくれる特殊効果がある。
〈強化魔法増幅〉スキルの恩恵よりも、遥かに強力なバフ効果をもたらすのだ!
ここまでしてやればグランツも、そうそう死にはしないだろう。
とはいえ、ボスモンスターとのレベル差は10から12。
本来は絶望的なレベル差であり、油断してもらっては困る。
「うおおおおおおおおおおおおお!」
野太い雄叫びとともに、グランツが〈鋼の剣〉と〈歴戦の大盾〉を構えて吶喊した。
あらかじめ打ち合わせしておいたため、俺の強化魔法群の恩恵のことは知っている。
相手は身の丈6メートルは超えよう、森の巨人だ。
普通ならば、単騎突撃なんて怯んでできない。
また〈魔法使い〉の俺は、〈僧侶〉たちが得意とする〈ブレイヴ〉や〈モラル〉などの精神魔法(俺に言わせれば洗脳魔法!)によって、外部的に恐怖を消すことなどできない。
つまりはグランツの突撃は、ひとえに彼の勇敢さとメルへの想いの賜物だった!
「どおおおおおおおおおおおおお!」
フォレストジャイアントの足元まで侵入し、向う脛を斬りつけるグランツ。
通常ならば、彼の〈レベル〉ではダメージを与えられるかも怪しいところ。
しかし俺の〈ファイアウェポン〉で超強化された彼の剣は、浅いとはいえ確実なダメージを刻むことに成功した。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」
痛みのせいか、フォレストジャイアントが耳を劈く爆音で咆える。
両目を怒りで真紅に染め、足元をちょろちょろと動き回るグランツに、拳を叩き下ろす。
そのたびに地面が炸裂し、クレーターが生まれる。
だが、グランツは無傷だった。
尽く回避してみせた。どんなに大威力の攻撃でも、食らわなければ問題ない。
俺の〈クイックネス〉により、グランツの〈素早さ〉が大幅上昇した恩恵である。
そして、要因はもう一つ。
このボスモンスターには〈ステータス〉を下げる弱体魔法全般が効く。
俺はそのことを〈攻略本〉で事前に調べており、各種デバフを矢継ぎ早にかけておいたのだ。
〈イナプト〉はその一つであり、今、フォレストジャイアントは大幅に〈器用さ〉を弱体された状態になっている。
グランツの回避力が上がり、敵巨人の命中力が下がっているのだから、そりゃ面白いようにかわせるわけだ。
「どらっ! どらっ! どりゃあああああああっ!!」
グランツは、フォレストジャイアントの足元をちょこまかと動き回り、剣を振りまくる。
小さな傷を無数に斬りつけていく。
フォレストジャイアントがますます怒り狂って、我を忘れてグランツへ拳を打ち下ろす。
が、無駄。
うむ、いい盾役だ!
当初の計画では、〈魔法使い〉とはいえレベル28でステータスも限界まで底上げされてる俺が、さらに自分への強化魔法と敵への弱体魔法も加味して、巨人の攻撃を余裕で回避しながら、攻撃魔法をコツコツ当てていく予定だった。絶対に勝てる自信があった。
しかしグランツの献身のおかげで、討伐時間を大幅短縮できるだろう!
俺は安心してとどめとなる呪文を唱えた
奴の弱点である〈ファイアⅢ〉のヘヴィカスタマイズ。通常よりも長い詠唱をすることで、〈威力五倍化〉と〈単体攻撃化〉、〈会心率UP〉などの効果を付与していく。
「――フラン・イ・レン・エル!」
俺が呪文を完成させたのと、
「グオオオオオ! オオオオオオオオオオオオオン!!」
フォレストジャイアントのラッキーヒットが、グランツを直撃したのはほとんど同時だった。
フォレストジャイアントが爆炎に包まれ、生ける松明と化して苦しみ悶える。
しかし直前に、その拳がグランツを打ち据えている。
グランツは間一髪、〈歴戦の大盾〉を巨人の拳と自分の体の間に捻じ込ませた。
それが彼の命を救った。
盾は砕け散り、彼の立派な体躯が遥か後方へ吹き飛ばされたが、〈ヒットポイント〉はどうにかミリ残りしたようだった。重傷ではあるが、致命傷には至らなかった。
「ふう。〈マジックシールド〉をかけておいて正解だったな」
もしバフしてなかったら、グランツは恐らく即死だったに違いない。
ともあれ俺たちの勝利だった。
さあ、凱旋だ!
ボス撃破! 果たしてそのドロップアイテムは!?
というわけで、読んでくださってありがとうございます!
毎晩更新がんばります!!