第三十一話 VS魔海将軍(ショコラ視点)
前回のあらすじ:
魔海将軍と戦闘開始! しかし相手は奥の手を持っているようで……?
ワタシ――サーヴァントのショコラは勇戦、奮戦、力戦しておりました。
最高峰のボスモンスターである“魔海将軍”バーラックを相手に、丁々発止というやつです。
お預かりした〈海嘯の剣〉を両手で構えて、『えいっ』『えい!』『てぇーい!』と裂帛の気勢とともに振り回します。
バーラックも、それこそワタシより重量がありそうなデッカい湾刀を、二本も構えていて、反撃してきます。
ワタシはちょこまかちょこまか動いて、かわし続けねばなりません。
でも時々、分厚い刀身がワタシのすぐ傍をかすめていって、太刀風がワタシのうなじを撫でます。ゾ~~~ッとさせられる瞬間です。泣きたくなるほど恐いです。
事前に、マグナス様がしっかりと注意してくださいました。
「おまえの〈防御力〉や〈HP〉だと、奴の湾刀を一発でももらったら終わりだ」
『即死ですか!?』
「当たり所が悪ければそうなるだろう」
『じゃあ良ければセーフですか!?』
「ぎりぎり持ちこたえられる公算は高い。しかし致命傷には変わりない。どの道、生きては帰れないだろう……」
『しょぼーん……』
「だから、ショコラ。気をつけろ――としか言えん自分が情けないが、とにかく頼んだ」
というやりとりがあったのです。
前衛職ではないマグナス様が、白兵戦に関して具体的なアドバイスができないのは、当然のこと。しかし、ワタシの身を案じてくださる、海よりも深い気持ちが伝わってきて、ショコラは天にも昇る心地でした。
ちなみに高レベル〈剣士〉であるロレンス様に、試しにアドバイスを求めてみたのですが、
「目を凝らして、見切ってしまえばいい」
……これだから“天才”は。
ともあれ、バーラックの攻撃は、それがただの湾刀の一撃でも、もらうわけにはいかない要注意攻撃なのです。恐すぎません?
しかもしかも、ワタシの相手はバーラック一体ではありません。
「シャシャシャ!」
「ケカカカカ!」
「キシャシャシャシャシャシャ!」
と――不気味な笑い声とともに群がってくる、パイレーツ・スケルトンまでいるのです。
ワタシとロレンス様は、こいつらの妨害までかわして斬り抜けながら、バーラックを相手取らないといけないので、大変なんてものではありません。
しかもこいつら、斃しても斃しても沈没船から涌いてきてキリがないし!
実は、ワタシがバーラックの湾刀を一撃受けても、ギリギリ〈HP〉が残るかもしれないと聞いた時に、マグナス様にご提案差し上げたのです。
ならばサリーマ様も帯同して、回復魔法を後方からワタシやロレンス様にかけてもらったら、より盤石な戦いができるのではないかと。
しかし、マグナス様は首を左右にされました。理由はもうおわかりですよね?
そう、この無限に〈涌出〉するパイレーツ・スケルトンどものせいですアアアアアアアアほんと~~~~~に鬱陶しい~~~~~~~っっっ。
こいつらが数に物を言わせて、後衛の皆様に殺到したら、防ぎきるのは難しいです。
サリーマ様は近接戦闘能力絶無ですから、ひとたまりもないはずです。
マグナス様は〈攻略本〉によって、バーラックが取り巻きのモンスターを無限召喚することを存じ上げていたから、サリーマ様やナディア様を連れてこなかったというわけですね。
一方、マグナス様も魔法使いですから、後衛には違いありません。
パイレーツ・スケルトンどもに殺到されて大丈夫なのかと、ワタシも心配でなりません。
ワタシはバーラックたちと入り乱れて戦いながらも、時おりチラチラとマグナス様のご様子を、確認するようにしておりますが――
「いいぞ、グラディウス! さすがだ!」
マグナス様の護衛は、グラディウスさんがバッチリ務めておりました。褒められまくっておりました。羨ましい。妬ましい。
でもまあ実際、マグナス様に群がろうとするパイレーツ・スケルトンどもを、太い両腕で当たるに幸い薙ぎ払う、グラディウスさんの頼もしさは尋常ではありません。
ショコラと違ってと~~っても大柄ですから、こういうシチュエーションで、有象無象を蹴散らすのは得意中の得意でしょう。
グラディウスさんの出番は久方ぶりになるそうです。
なにしろずっと海の上で戦ってましたからね。万が一、船から落っこちたりなんかしたら、海底に沈んだグラディウスさんを回収する手段なんてありませんでした。そんな危ない橋を渡らせるマグナス様ではございませんでした。
ロレンス様との戦いの時だって、「手加減」という概念が存在しないグラディウスさんでは、参戦させるわけにはいきませんでしたし。
あれ? こうしてみると、ワタシってやっぱり有能なんでは?(エッヘン)
ともあれ、これまでの鬱憤を晴らすような、グラディウスさんのご活躍ぶりです。
二人以上守れとなると難しいでしょうが、マグナス様お一人のガードなら、完璧にこなしています。
マグナス様も安心したご様子で、呪文を唱えるのに専念なさっています。
はい。今のところ、戦況はワタシたちの優勢ですね。
でも油断はできません! 何しろこれはまだ本番ではないのです。
実際、劣勢を悟ったバーラックが、大声で怒鳴りました。
「ええい、小癪な奴らよ! 者ども、出会え出会えぇぇい!」
そして、オゲレツな歌を大得意で歌い出しました。
来ました! マグナス様が一番注意すべきだと仰っていた、“魔海将軍”の特殊能力です。
〈海賊たちの戦歌〉です。
「「「オレタチャカイゾク、オトコノナカノオトコ!」」」
「「「ウバエ! コロセ! ヤケ! オカセ!」」」
「「「コノヨノウミハスベテオレタチノモノ!」」」
周りのパイレーツ・スケルトンどもも大合唱を始めます。
今までは「キシャシャー!」とかいって、全然しゃべることのできなかったアンデッドモンスターたちが、たどたどしくはありますが急に歌い出したのです。
しかも、パイレーツ・スケルトンどもの変化は、それだけに留まりません。
虚ろだった眼下の奥に、青白い鬼火が灯り、〈力〉が漲り〈素早さ〉も向上、その他の〈ステータス〉も軒並み強くなっていきます。
ワタシはマグナス様のお言葉を、思い出さずにいられません――
「取り巻きのパイレーツ・スケルトンは、全てレベル10のモンスターだ」
『あのあの、マグナス様。レベル10と言われても、実感ができないのですが』
「おまえが初めて会ったころの、テッド、ラッド、マッドがレベル11くらいだった」
『なんだ、ザコですね』
「調子に乗るな」
『怒られちゃいました(てへっ)』
「……とにかく、レベル10でも数が尋常でないとなると油断はならない。しかもその上、バーラックは特殊能力で、五分間だけ取り巻きどもを強化する奥の手を持っている」
『ほへー。具体的にどれくらいパワーアップするのでしょうか?』
「取り巻きどもが全部レベル20になる」
『…………』
「取り巻きどもが全部レベル20になる」
『聞こえてますから! 呆れて絶句してるだけですから!』
――という、思い出しただけで胃が痛くなる内容でした。
でも実際レベル20の軍勢に襲われたら痛いのは胃だけじゃすみませんよおおおおっっっ。
ワタシはもう懸命になって、〈海嘯の剣〉を振り回します。
五分だけ耐えればいいんですから、バーラックは無視です無視!
「クカカカカカ、死ねい珍妙な格好をしたメイドよ!」
まああっちの方が放っておいてくれないんですけどねコンチクショォォォッッッ。
バーラックが取り巻きごとぶった斬ってくる湾刀を、ワタシは間一髪回避します。
もう涙目です! 涙目ですよ!
ロレンス様は大丈夫なんでしょうか?
「――シッ!」
あ、さすが冷静に対処なさってますね。
チラッと横目で窺うと、黙々と〈蒼雷の剣〉で、パイレーツ・スケルトンどもを斬り払っていらっしゃいました。人型モンスターですし、剣士的にはやりやすい相手ということなのでしょうか?
取り巻きには〈雷属性〉有効だってマグナス様も仰っていました。
ロレンス様からも、危なくなっても放っておくよう言い含められていますし、実際フォローする余裕なんてありませんけど、これなら大丈夫みたいです。
では、マグナス様は大丈夫なんでしょうか?
ワタシはチラッとそちらを窺いました。
そして、血の気が引きました。
レベル20になったパイレーツ・スケルトンどもに群がられ、鈍足なのが玉に瑕なグラディウスさんが、引きずり倒されていました。
滅多切りにされていました。
で、では、護衛を失ったマグナス様は!?
マグナス様は!?
ワタシはもう「チラッと」なんて言っていられず、全力でお姿を捜します。
しかし、見えません! 見つかりません!
マグナス様たちを襲うパイレーツ・スケルトンどもの数が多すぎて、人垣(骨垣?)ができていて、何も様子がわからないのです!
ワタシの脳裏に、グラディウスさん同様、引きずり倒されて、滅多切りにされているマグナス様のお姿が浮かび上がりました。
もう、居ても立ってもいられませんでした!
『マグナス様!』
持ち場を放棄し、マグナス様の方へと向かいます。
バーラックに背を向け、マグナス様の方へと駆け出します。
「クカカカカ! 逃げるか!? 臆したか!? だが逃がさん!」
そんな無防備なワタシの背中を、バーラックが見逃すはずがありませんでした。
バッサリやられることでしょう。
でも、一撃なら耐えてみせます。
致命傷になることでしょう。もう生きて帰ることはできないでしょう。
でも、マグナス様を助けるためなら、構いません。
愛しいご主人様をお救いするためなら、構いません。
ショコラは死のうと構いません!
『マグナス様ああああああああっ!!』
ワタシは金切り声で叫んで、走りました。
「死ねい! クカカカカカカカカカ!」
バーラックが哄笑し、追いすがってきました。
そこへ――
「ティルト・ハー・ウン・デル・エ・レン!」
マグナス様の元気なお声が、天を衝くような高らかな呪文の詠唱が、聞こえました。
マグナス様は、群がる超強化パイレーツ・スケルトンどもをものともせず、〈魔嵐将軍のブーツ〉の力で天上まで一気に駆け上がると、そこから神罰の如き巨大な雷を降らせたのです。
今にもワタシをバッサリやろうとしていた、バーラックへと向けて!
「ギイイイイイイイエエエエエエエエッ!?」
恐らくは〈サンダーⅣ〉でしょう。凄まじい威力の電撃魔法を浴びて、バーラックは衝撃で吹き飛びます。
おかげでワタシは九死に一生を得ます。
『ふぇーん、マグナス様ぁ。ご無事で何よりですぅ』
「泣くな! まだ喜ぶな! それと、自分の命を粗末にするな!!」
沈没船に残っているパイレーツ・スケルトンどもが、上空のマグナス様に矢の雨を射放ちますが、マグナス様は〈大魔道の杖〉でそれを打ち払いながら、らしくもなく大声で怒鳴りました。
「またこんなことになるんじゃないかと思えば、案の定だ! おまえには前科があるからな!」
『ふぇーん、ワタシ咎人ですかぁ?』
「ラムゼイの遺跡で、クリムを助けるためとはいえ、向う見ずなことをしただろう!? あの時、俺がどれだけ肝を冷やしたか、おまえはまるでわかっていない!!」
『ふぇーん、そんなこともありましたぁ』
「俺も人間だ。失敗をすることもあるし、予期せぬ事態を防ぎきれぬこともある。しかし、俺は人間だ。学習する生き物だ。同じ轍は踏まんっ」
だから今度は、ワタシを助けることができたのだと、マグナス様は仰いました。
「その点、サーヴァントはどうなのだ? 学習できないのか? 同じ過ちを繰り返すのか? それではこれ以上、俺の旅につき合わせることはできないな」
『いいえ、学習します! 反省します! だから、いつまでもお傍に置いてください!』
「約束できるな?」
『それがマグナス様の〈ご命令〉とあらば!』
天に向かってワタシが懸命に訴えると、マグナス様は「仕方のない奴だ」とばかりに苦笑しながら、
「わかった。〈命令〉だ」
『はい! このショコラ、肝に銘じました!』
いっぱい怒られちゃいました。てへっ。てへへっ。なんだか涙が止まりません。
「そろそろ五分だ! 仕留めにかかるぞ!」
『はい、マグナス様!』
ワタシは踵を返すと、再び〈海嘯の剣〉を構えて、バーラックに斬り込みます。
〈海賊たちの戦歌〉の効果が解けて、剣も矢もヘチョくなったパイレーツ・スケルトンどもを斬り払います。
しばらく孤軍奮闘してくださっていた、ロレンス様にもお礼を。
「……気にするな。君たちには大きな借りがある」
冤罪で捕縛しようとした時のことを仰っているのでしょう。
ロレンス様こそそれがお仕事だったわけですし、気になさらずともいいのに、生真面目な方ですね!
でも、一度は敵対したワタシたちが、協力して真の敵と戦うのは、とっても面白いです。
さらには! マグナス様の呪文を唱えるお声が、天に朗々と響き渡ります。
とてもとても長い詠唱です。
ただの攻撃魔法ではなく、いくつものカスタマイズを重ねているということです。
「……ティルト・ハー・ウン・デル・エ・レン」
マグナス様の左手に、荒ぶる電光が宿ります。
「……ティルト・ハー・ウン・デル・エ・レン」
そして、右手にももう一つ。
二つのヘヴィカスタマイズ〈サンダーⅣ〉を、〈魔拳将軍の対指輪〉の力で重ね合わせて、相乗効果を生み出すのです!
ワタシも気合を入れて、バーラックに躍りかかりました。
〈海嘯の剣〉を奴の頭蓋に打ち込み、捻じ込み、突き刺さったままにしてやりました。
『今です、マグナス様!』
「よくやった」
両手を合わせて拳を作ったマグナス様が、天上から想像を絶するほどに烈しい、荒ぶる雷光を撃ち放ちました。
ワタシが突き刺しておいた〈海嘯の剣〉の柄頭に、落雷しました。
おかげで、暴走気味だった電撃が全て一点に集中し、余さずバーラックに降り注ぎました。
「もはや、ここまでかああああああああああああああああああ!」
“魔海将軍”が断末魔の悲鳴を上げながら、消し飛んでいきます。
取り巻きのパイレーツ・スケルトンどもも、尽く塵と化していきます。
「勝った……のか……?」
ロレンス様が信じがたい光景を見るような目で、ぽつりと仰いました。
「ああ、俺たちの勝利だ」
マグナス様が見えない階段を下りるように、ゆっくりとこちらへいらっしゃいます。
グラディウスさんも、ボロボロになりつつも立ち上がり、やってきます。
「そうか……。正直、助かった」
いつも毅然としていらっしゃるロレンス様が、さすがにへたり込んでしまいました。
そのお姿はちょっとユーモラスで、ワタシたちは遠慮なく笑ってしまいました。
読んでくださってありがとうございます!
毎晩更新がんばります!!




