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「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~  作者: 福山松江
第三章  ワタシに〈ご命令ください〉と押しかけるメイド編(?)
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第二十九話  決戦前の台所にて(ショコラ視点)

前回のあらすじ:


神霊サイレンからついに〈海嘯の剣〉を入手。

(ついでにパウリが完全失恋する)

 ワタシ――サーヴァントのショコラは、お鍋をかき回していました。

 いよいよ“魔海将軍”を討伐しにいくわけですが、その前に「休日」をとろうということになったのです。

 マグナス様の〈タウンゲート〉で王都ラクスティアに戻り、アリア様とのご新居で一日ゆっくり寛ぐ予定になりました。

 それで、ワタシはお二人にもっと楽しい一日をすごしていただこうと、腕によりをかけてお料理しているところです。


 しているところだったんですが……ワタシは油断すると、上の空になっていました。

 原因はアレのせいです。

 ワタシは何度も何度も気になって、すぐ傍の食器棚に立てかけてある、〈海嘯の剣〉を振り返ってしまいます。


 どうしてワタシが、こんなものを持っているのでしょうか?

 どうしてこんなことになってしまったのでしょうか?


 それはアンドレス島で、神霊サイレン様にお会いした直後のことです。

 つもる話があるからと、パウリ様だけサイレン様のところへ残り、ワタシたちは地上の神殿へ戻りました。

 そこでロレンス様が、いきなり仰られたのです――


    ◇◆◇◆◇


「これで“魔海将軍”は討てる――そうだな、マグナス殿?」


〈海嘯の剣〉を大切に抱えた、ロレンス様がお訊ねになりました。


「ああ。後は俺たちに任せてくれ」


 マグナス様は堂々とお答えになりました。

 その「俺たち」の中には、ショコラも含まれていることは、当然わかります。ワタシはうれしくなって、首肯連打しました。


 そんなワタシの仕種を見て、マグナス様はフッと微笑んでくださいましたが、ロレンス様はしかつめらしい顔つきのまま仰いました。


「オレも行く。ともに戦わせてくれ」


 なんとも頼もしいお言葉です!

 超一流の〈剣士〉でいらっしゃるロレンス様でしたら、〈海嘯の剣〉の扱いもお手の物でしょう。これ以上の助太刀は考えられません。


 ところが、


「む……覚悟は買うがな……」


 マグナス様は口ごもってしまいます。

 一方、ロレンス様は堅い決意を表すようなお顔と口調のままで、仰いました。


「わかっている。生きて帰れるかどうか、わからんと言いたいのだろう?」

「ああ、そうだ。相手は“八魔将”の一角、最高峰ボスモンスターだ」

「……オレもそこそこ腕に覚えはあったのだが……な。貴殿らの実力を見て、身の程を知った。ただそれでも、じっとしてはいられないんだ。このカジウの法と秩序を守るために、オレは裕福な実家を捨てて、海洋警察(カリオストロ)に身を投じた。今さら命など惜しまない。いつもそういう覚悟で、犯罪者たちと渡り合ってきた」


 ロレンス様はそう懸命に主張なさいました。

 それだけ懸ける意気込みがあるということでしょう。ロレンス様はやっぱり、骨の髄まで“法の番犬”でいらっしゃるのでしょうね。


 でもそれでいて、今のロレンス様は、前のロレンス様と変わっていらっしゃいました。

 ちょっと生意気な言い方になってしまって恐縮ですが――ロレンス様は苦境を経て、ご成長なさっていたのです。

 以前のロレンス様は、良くも悪くも融通を利かせられないお方でしたが、見違えたような柔軟な思考でこう仰いました。


「――とはいえこれは、オレのワガママだ。オレが力及ばず死ぬのは構わないが、それにカジウの未来を懸けるわけにはいかない」


 そして〈海嘯の剣〉を託したのです。

 なんと、このワタシに!


『ふぇ!?』

「オレより君の方が強い。だったらこれは、君が使うべきだ」

『いえいえいえいえ! 確かにドモン島ではワタシが勝ちましたけど、あれはマグナス様の(バフ)のおかげで!』

「ドラーケンとの死闘で、あの巨大な魔物に臆さず突撃し、取りついて格闘を挑んでいた――君の破格の戦いぶりを見て、オレは痛感した。オレの剣はあくまで人を相手にする剣にすぎないのだと。だから、君に受けとって欲しい」


 そんなこといきなり言われても、ワタシとしてはびっくり仰天ですよ。


「俺も賛成だ、ショコラ。というか、元々俺の計画でも、おまえに使ってもらう予定だった」

『マグナス様がお使いになるのではなかったのですか!?』

「俺は魔法使いだぞ? 剣など無用の長物だ」

『で、では、海上ではまっっっっったく役に立たなかったグラディウスさんに使っていただくとか!?』

規格(サイズ)が違いすぎる。そもそも装備ができない」

『で、では、水中最強のマリードさんに使っていただくとか!?』

「体が水で構成されているあいつに、どうやって剣を装備させろと……」


 マグナス様は苦笑いを浮かべて仰いました。

「そろそろ腹を括れ」と、そう仰っているかのようなお顔です。


 ワタシは恐る恐る、ロレンス様の方を振り返りました。

 ワタシとマグナス様がやりとりをしている間、ロレンス様はずっと同じ姿勢で、ワタシに〈海嘯の剣〉を差し出したままでいらっしゃいました。ワタシが受けとるまでは、テコでも動かないとばかりにです!


 こうなってしまっては、ショコラの答えは一つしかありません……。


『カジウの未来、お預かりします』


 真剣に、真摯に、ロレンス様から〈海嘯の剣〉をお受けとりしたのです。


    ◇◆◇◆◇


 そういうことがあったんです。


『――って、また物思いに耽ってるし。手が止まってるし』


 お鍋が焦げないように、ワタシはガシガシとおたまでかき混ぜます。


「ショ~コラさん♪ 私も何か手伝いましょうか?」


 すると、アリア様が台所までお顔を出されました。

 やけに上機嫌なのは、久しぶりにマグナス様と二人きりでイチャイチャ、ゴロゴロできたからでしょう。おさかんなことでけっこうですね。


『いえ、お料理はワタシがやりますので、アリア様はどうぞマグナス様とイチャコラなさっていてください。ええ、ええ、そうやってアリア様が、日々激務に疲れたマグナス様を癒してあげてくださるなら、ショコラは本望でございます。可能であれば、その胸に二つついた立派な武器を、巧みにお使いになることをご助言申し上げます。マグナス様は内心さらにお喜びになること請け合いです。マグナス様のことなら一番よく理解している、忠実なるサーヴァントのアドバイスなので間違いなしです』

「言葉の端々にめっちゃ棘がありません……?」


 アリア様にツッコまれましたが、ワタシはつーんとスルーします。


 そんなワタシの態度にも、アリア様は怒るどころか苦笑いを浮かべるだけで、傍までいらっしゃると、


「ショコラさんがピリピリしている原因は、これですかね~?」


 立てかけた〈海嘯の剣〉をつっつきながら、仰いました。


『さすがはアリア様、お見通しですか……』

「というか、マグナスさんが心配して、そわそわしてるんですよ。『ショコラがこんなにナーバスになるとは思ってなかったー』って。うふっ、ホント女心のわからない人ですよね」

『それでアリア様が代わって、ワタシの様子を見に来てくださったわけですね』


 アリア様のこういう気遣い、お優しさは、さすがマグナス様の将来の奥方様に相応しいと、ワタシは思います。ええ、もう、腹立たしいことに!

 いっそアリア様がおクソ女サマでいらっしゃったら、ショコラは今の「マスコットポジ」には収まらず、遠慮なく「正妻ポジ」を狙いに行ったんですが。マグナス様は果報者でいらっしゃいますね。


 そんなアリア様が、ワタシの隣に並んで、次の料理の仕込みを結局手伝ってくださいながら、続けました。


「私なんかは、マグナスさんの傍で戦えるショコラさんのこと、羨ましくて仕方ないんですけどね~。“魔海将軍”討伐、私はお留守番を言い渡されちゃいましたしぃ」

『そんな恨めしげに盗み見しないでください、アリア様。困ります』

「でも、“魔海将軍”をやっつけるためには、〈海嘯の剣〉で戦うショコラさんも重要なポジションだそうですね。やっぱりプレッシャーですか?」

『当たり前です、アリア様。ショコラのちっちゃな双肩にカジウの未来が、ひいては世界の命運がかかっているのです。責任重大にもほどがあります』

「でも、そんなのどうでもよくないですか?」

『ふぇ?』


 素知らぬ顔で、とんでもないことを唐突に言い出すアリア様に、ワタシはびっくり仰天です。

 その横顔をまじまじと見てしまいます。またお鍋をかき回す手が止まっちゃいます。


 アリア様は、ワタシからおたまをとって代わりにかき回しながら続けました。


「私は正直、マグナスさんと見てるものが違うというか、追いつけないというか、世界の命運って言われても実感がわかないんです」

『……ウーリューの方の諺にありましたね。スズメちゃんでは高いところを飛ぶオオトリさんとは、一緒のものは見えないとかなんとか』

「そんな感じです。だから私としてはマグナスさんと、ついでにショコラさんが無事に帰ってきてくれれば、それだけでいいんですよねえ」

『ワタシはオマケですか……』

「うふふっ」


 ワタシのツッコミ、笑って誤魔化しやがりましたね。


「ともかくだから、無理はしないでくださいね、ショコラさん? ついしくじっちゃったり、こりゃ勝てないって思ったら、〈タウンゲート〉でもなんでも使って、逃げ帰ってくればいいんですから」

『エッ、逃げてもいいんですか!?』

「そりゃ敵わない時はいいでしょう。ダメな理由ってあります?」

『その発想はございませんでした!』


 目からウロコとは、まさにこのことでしょう。

 同時に、ずーっと重かったショコラの胃や肩の当たりが、嘘みたいにスーッと軽くなっていきました。


「無意味な気負い、なくなりましたか?」

『はい! でもまだプレッシャーはあります』

「エッ、私の激励、意味ナシですか!?」


 そんなことはございません。ワタシは首を左右にブンブン振り回します。


『マグナス様がご無事に生還できるよう、ショコラが全力でお守りいたしますので』


 たとえ今はまだ“魔海将軍”に歯が立たなかったとしても。

 カジウや世界の命運がどうなろうとも。

 その一点だけはショコラにとって、いつだって責任重大なのですから!


 ワタシはアリア様からおたまを受けとり、お鍋をかき回しながら言いました。


『アリア様はぜひ“希望のマリア”号のような、大船に乗った気分でいてくださいませ』

「うふふふ、ありがとう。でも、ショコラさんだって無事じゃないとダメですからね?」

『はい、ワタシはついでのオマケですので』

「ええ、ついでのオマケだって大事なんですから」


 アリア様が満面に笑みを浮かべて、そう仰ってくださいました。

 これ以上にない激励をいただきました。


 そう、〈命令〉ではなく〈激励〉です。

 サーヴァントであるショコラが欲しいのは〈命令〉なのに、アリア様は本当になかなかくださいません。意地悪です。

 意地悪で、とっても優しい未来の奥方様なのです。


 マグナス様のため、そしてアリア様のため、ショコラはがんばろうと決意しました。

 プレッシャーなんかに負けていられるものですか。

“魔海将軍”との決戦は、もう目の前です!

読んでくださってありがとうございます!

毎晩更新がんばります!!

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