第二十七話 今、再び一つに
本日は2話更新しております!
まだ間章をご覧になってない読者様は、お気をつけください。
俺たちはついに、神霊サイレンのいるアンドレス島に上陸した。
といっても、ドラーケンを斃してから、およそ一か月が経過していた。
まあ、あの時にアンドレス島を目指すと言って出港したのは、状況を動かすためのブラフだったからな。“南の海賊王”の指定した、後継者の条件を満たしていなければ、会ったところで仕方がない。
逆に言えば、その条件が整ったから、俺はこうしてアンドレス島へやってきたわけだ。
“連盟”の九商会全てが供出した船団に、莫大な額の金貨を積んできた。
港の存在しない島なので、船団は沖合に停泊させて、小舟を出す。それで島のサイレン神殿まで、金貨を折り返し輸送で奉納する。
それだけの人員を確保するのも、莫大な金貨を海運する船団を組むのも、どちらも財力がなくては不可能なことだ。
その時点でもう、海賊王は後継者の資質を問うているわけだ。
俺、アリア、ショコラの他、ロレンス、パウリ、ネビスと連れ立って、神殿に参拝する。
地下が海へとつながる洞窟になっていて、そこにサイレンはいるのだという。
〈攻略本〉情報にも詳しいが、ここは一度来たことのあるパウリに、案内を任せた――
◇◆◇◆◇
なぜ、こんな状況になっているのか?
話はドラーケンを斃した後まで遡る。
俺とパウリは自ら、海洋警察の裁判に出頭した。
裁判所は九つの各島に存在するのだが、向かったのはキンコリー商会のあるドモン島だ。
そこでまず、俺の簡易裁判が行われた。
ロレンスの捕縛を振りきったことに対する審問だが、そもそもパウリが既に罪を認めていたため、翻って俺への容疑そのものが冤罪、この場合はカジウの法では正当防衛が成立する。
晴れて無罪を勝ち取ったわけだ。
一方、パウリは己が長年犯した罪を自白しているので、有罪は確定。
後は量刑をどれほどにするかで長引く。
「その確定するまでの猶予期間、パウリにある程度の自由を認めていただきたい」
俺は海洋警察の裁判官に、そう掛け合った。
「無論、絶対に逃げ出せないよう、俺が責任を持って監視いたす」
「監視はこのオレも行います。ですからぜひ、マグナス殿の仰る通りに。これはカジウ全体の公益に繋がる、必要な措置です」
と、ロレンスも一緒になって、言い添えてくれた。
生真面目もすぎて、あれほど融通の利かなかった“法の番犬”が、そこまで言うのだ。
裁判官もあっさりと超法規的措置を認めた。
そうして条件付きの自由を得たパウリは、緊急の党首会議を提案した。
場所はこのドモン島。主催はキンコリー商会。
その党首のピートルは、快く引き受けてくれた。各商会に案内状を出してくれた。
ほどなく、九商会の代表たちが一堂に集結する。
前回の顔ぶれと変わったのは、ゲオルグ翁が暗殺され、長子が後を継いだセントニー商会だけだった。
しかし、議題と流れは前回と百八十度変わった。
「“海賊王”の設定した後継条件をクリアするため、ここにいる九商会で合資すべきです」
そう提唱したのは、他ならぬパウリである。
前回とは打って変わったことを言っているのだから、面食らう者が続出する。
「どういう風の吹き回しだい? まーたなんか企んでんのかい?」
と疑り深いアネモネに対し、パウリは例の人を食った笑みを浮かべ、
「“魔海将軍”の恐ろしさを、僕は舐めてました。我ら海賊商会が本気で艦隊を組んで、それでも配下のドラーケンにすら敵う気がしなかった。実際、マグナスさんがいなかったら全滅だったでしょう。だから考えを改めたんですよ。せっかくマグナスさんが“魔海将軍を”討ってくださると言っているんだ。気が変わらないうちに、全力でお願いすべきですよ」
いけしゃあしゃあと言う。
「……まあ、アタシは元々賛成だったからいいけどさ。後継者になるのは、顔も見せないゼールの党首だとか言い出さなきゃね」
「もちろん、ご安心くださいよ、アネモネ様。便宜上の後継者は、どこからも不平が出ないようにと、この方にお願いしてありますから!」
パウリはそう言って、会議室の外で待機していた彼を呼ぶ。
皆の視線と好奇心が、一斉に出入り口へ殺到する。
堅苦しいほど丁寧に、ドアが開けられた。
そして、顔を出したのは――誰あろう、“法の番犬”ロレンスである。
「皆さんの中にはご存じの方もいらっしゃるでしょう? ロレンスさんは、亡きアズーリ商会ご党首フェリックス様の、弟君に当たります。つまり“海賊王”の直系で、後継者の資格はある。しかも今はアズーリ商会とは縁を切っている。そうですね、ハンナ夫人?」
「はい。間違いございません」
確認され、アズーリ商会の暫定党首である未亡人は、寂しげな表情で首肯した。
パウリはそんな心の綾や過去背景など、まるで興味もなさげに話を続ける。
「しかも皆さんもご存じの通り、ロレンスさんは海洋警察きっての公正無私な男です。“海賊王”の財宝を入手後、肝心の〈証〉は放棄すると、既に確約もいただいております」
「パウリ殿の言う通りです。カジウの法と秩序にかけて、〈海賊王の証〉は放棄します」
「ホラね、これ以上の適任はないでしょう!」
売り口上で客を煽り立てる商人の如く、手を叩くパウリ。
「うむ。ロレンス殿なら間違いはない。安心できる」
と、ピートルも大いにうなずいていた。
また中立的な態度だった党首たちも、だんだんとパウリの提案に前向きな姿勢を見せる。
そして、パウリはとどめとばかりに言い出した。
「ゴルメス様。ジャンナップ商会としても、それで異存はございませんね?」
と、前回の会議ではある意味で最も反対していた男に、確認をとる。
「ないないないないないない。そんなものは、ないぃぃぃぃぃぃ……っ」
ゴルメスは悪夢にうなされ、譫言を叫ぶように肯定した。
すっかり人相の変わってしまった彼に、他党首が痛ましげな視線を送る。
そう、ゴルメスはでっぷりと太った男だったが、わずかの間に病的にやせ細っていた。眼球など半ば剥き出しになり、血走った目がせわしなくぎょろぎょろと動いている。
「ワシもドラーケンはこの目で見てきたぁ……。あんな“モノ”が、世の中に実在するのだと知ってしまったぁ……。ワシはもう恐ろしい……恐ろしい……。こうしておっても、生きた心地が全くせん……。ワシの頼みは、マグナス様だけだぁ……。マグナス様だけが世界を救ってくれる……ワシを救ってくれる……」
譫言のように続けていたかと思うと、今度は急に俺に向かって拝み出す。
正直、ドン引きなんだが……。
まあゴルメスも、人が変わってしまうのもわからんでもないが……。
パウリの口車に乗って、俺を討とうと艦隊を出したはいいが、逆に返り討ちに遭って海に放り出されて溺れかけ、その上ドラーケンが襲ってくる恐怖体験もプラス。ショックにトラウマにてんこ盛りだものな……。
しかし、さすがパウリは神経が図太く、ニコニコとしたまま、
「ほら、反対派の急先鋒だったゴルメス様でさえ、こう仰っています! ジャンナップ商会は“連盟”二位ですし、さぞやたっぷりお金を出してくださることでしょう」
他党首たちに向けて、営業トークを続行した。
「もちろん、三位のウチもたっぷり出します。一位のキンコリー商会にも期待していいですかね、ピートル様?」
「ああ、出そう。元々、合資話を持ちかけたのは私なのだからね」
商才も人柄も優れたピートルは、二つ返事で請け負った。
さらに俺も発言する。
「キンコリー、ジャンナップ、ゼールの三社と劣らぬ額を、マルムからも出すとお約束する」
ここで俺がカジウに来て以降、マルム商会が稼いだ金が物を言う。
“連盟”に出してもらうだけでは、主導権は決してにぎれないからな。
「決まりだ!」
パウリが手を打ち、勝手に宣言した。
しかし実際、反対意見はもうどこからも出なかった。
父親であるゲオルグ翁を暗殺された、セントニー商会の新党首ハンスからさえもだ。
彼は親の仇であるパウリを、許さないのではないかと懸念していたのだが、そんな態度はまるで見受けられなかった。
「ゲオルグ翁は、社内や家では暴君だったからね。死んでせいせいしたと、彼らは思っているだろうさ」
とはパウリの事前予測だが、どうも的中らしい。
親子の情とはなんだろうな……。
ともあれ、あとは実際の段取りや各社が出す金額など、細かい調整をするのみとなった。
それもパウリが精力的に(強引に、ともいう)意見をまとめ上げ、進行させた。
会議を扇動し、臨んだ結論へと導く能力にかけて、やはりこの男は卓越していた。
前回の会議では、俺の邪魔をするために散々に引っ掻き回してくれた男だが、味方になるとまったく頼もしい限りだ。
“南の海賊王”が後継者に要求した設定額は、一社で払うには途方もない金額であった。
しかしここに集った、合わせて十の大商会が協力すれば、決して非現実的な額ではない。
“海賊王”の没後百年――
たとえ一時的なものとはいえ、カジウは再び一つになったのである。
読んでくださってありがとうございます!
毎晩更新がんばります!!




