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「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~  作者: 福山松江
第三章  ワタシに〈ご命令ください〉と押しかけるメイド編(?)

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第二十四話  「キュジオ」の正体(???視点)

前回のあらすじ:


キュジオとゴルメスの連合艦隊を打ち破る。


 私――パウリは、()()()おじいちゃん子である。

 祖父は名をデレクレクといい、このカジウの歴史に名を残した人物だ。

 もっとも、悪名の方ではある、が。

 ゼール商会の先々代党首であり、「海賊商会」路線に舵を切った、張本人だ。


 私が生まれる前の話だが、祖父の時代のゼール商会は、それはもうやりたい放題だったらしい。カジウのあちこちに隠れ家(アジト)を作り、無数の海賊団を組織して、九つの海全てを狩場に見立て、商船を襲っては略奪行為を働いた。当然、海洋警察(カリオストロ)とは蛇蝎の如く憎み合い、血みどろの抗争に明け暮れた。


 その海賊時代の武勇伝を、祖父本人や古株の社員たちから聞くたびに、幼少期の私はワクワクを抑えきれなかったものだ。

 もっと話を聞かせてくれと、毎日のようにせがんだことを、今でも憶えている。


「どうしておじい様は、海賊稼業を始めようと思ったの?」


 子ども時代の私は、無邪気にそんな質問をしたことがある。


「“南の海賊王”の後継者になる夢が、断たれたからさ」


 祖父は苦い顔つきになって、そう答えてくれた。

 既に家督を譲り、隠居生活をしていた彼は、角のとれた温和な老人でしかなかったが、あの時は本当に苦々しい表情をしていた。


「でも、それってあべこべじゃない?」


 こまっしゃくれた子どもだった私(それは今でもそうか?)は、そう指摘した。


「後継者になるには、真っ当な方法でお金を稼がなくちゃいけないんでしょ? 海賊になったらダメじゃない」

「違うんだよ、パウリ。それこそ逆なんだ。ワシも若いころは、真っ当な商売に熱を入れてたんだよ。だけどある日、それが無意味だとわかったんだ」

「どうして?」

「“海賊王”の後継者として認められるには、彼の直系子孫じゃないとダメなんだ」

「うん、それで?」

「ワシは違ったんだよ。サイレンに会いに行った時、彼女が教えてくれた。ワシは――いや、ゼール商会の誰もがもはや、“南の海賊王”とは血が繋がっていないんだとね」

「えっ、なんで!?」


 子ども時代の私は納得がいかず、反駁した。

 祖父の言葉は同時に、私もまた“海賊王”とは血が繋がっていないのだという事実を指しており、容易には認めがたかったのだ。

 祖父は苦々しい顔のまま、子ども相手に、真剣に答えてくれた。


「ワシの父――本物の“海賊王”の直系は種なしだった。一方、ワシの母は密通した男たちの子どもを産んで、素知らぬ顔で父に育てさせたんだ。ワシはその不義の子どもだったんだ」


 祖父の言葉の意味は、子どもだった私には難しかった。

 しかし、長じて私を絶望させることになった。


「ワシは母を恨んだよ。そして、真っ当な商売に精を出すのが、もうバカらしくなった。どころか、ワシが後継者になれないのなら、他の誰がなるのも許せなかった。だからこの海を荒らし回り、血で染めてやったんだ。若気の至りと言われれば、それまでだがね」


 祖父のその言葉は、まるで呪詛のように私を縛っている。


    ◇◆◇◆◇


 荒くれどものカリスマだった祖父も、寄る年波には勝てなかったという。

 まして海賊業など、気力・体力が充実してなければ、やっていけるものではない。

 逆に年季を重ねることで、ゼール商会内で台頭していったのが、先代党首になるモラクだ。

 祖父の長子、そして私から見て伯父に当たる男だ。


「父上のやり方はあまりに()()()()。もうついていけないという若い者が、大勢います」


 モラク伯父はそう言って、祖父に隠居を迫ったという。

 対外的には祖父を殺したことにし、落とし前をつけて、「これからは真っ当なゼール商会に立ち返ります」と宣言した。

 しかし裏では、荒くれどもに変わらず海賊行為を続けさせた。祖父を本当に殺さなかったのも、荒くれどもを従わせるためだった。


 モラクの代が祖父の代と違ったのは、ゼール商会全てを挙げて、大々的に海賊稼業を行うのではなく、あくまで裏の一事業に据え、隠蔽したことであろう。

 海賊組織を規模縮小し、その犯罪行為やゼール商会との関係が露見するリスクを、限りなくゼロに抑えた。


 先代党首のモラクとは、そういう狡猾な男だった。

 もっとも、私は伯父を非難する気はない。今、その裏の組織を預かっているのは、他ならぬこの私なのだから。

 そう、モラクは次代の担い手として、表のゼール商会は一人娘に与え、裏の海賊組織はこの私に任せてくれた。「パウリ。おまえは天職だ」と。


 祖父や古株の社員たちの生き様に憧れた私が、奇しくも海賊組織の頭領になったわけだ。

 私はもっぱら裏方で、海に出ることもなければ、組織の運営や謀略を張り巡らせるのが主な仕事だったが、まあそれなりに楽しんでいた。

 天職かもしれなかった。


 しかし、そんな私が海賊稼業など、どうでもよくなったのは四年前――

 二十二歳の時のことだった。


    ◇◆◇◆◇


「ねえ、パウリ。ちょっとお願いがあるんだけど」


 四年前のある日、いきなりそう言い出したのは、我が奔放なる従妹殿だった。

 現ゼール商会の党首である、エリスだ。

 私とは六つ離れた、当時はまだ十六歳。しかし、既に妖艶な色香をたっぷりと漂わせる、すこぶるつきの女だった。

 もっとも、性格がひどくワガママで、思考が刹那的で、つまり私の好みとは全く外れているので、この従妹殿に魅力を感じたことは一度もないけれど。


 私はおどけた仕種で肩を竦めながら、エリスに応じた。


「なんだい、我らがゼールの女王? 世界で一番美味しいお菓子をとってこいと仰せかな? それとも月より大きなダイアモンドをご所望かな?」

「それも欲しくはあるけれど、今回はもっと簡単なお願いよ。アンドレス島に行ってきて欲しいの」

「はて。あんな無人島に、商売の種があったかな?」

「商売は関係ないわ。どこぞの商会が、密かに〈海賊王の証〉を入手したって噂があるの」

「へえ。『僕』の耳には入ってないけれど?」

「いいから! あなた、ちょっと行って確かめてみてくれない?」

「わかった、わかった。ご党首サマの仰せとあれば、逆らえないね」


 本当は、私が従妹殿の言いなりになる筋合いはない。

 私は当時既に、裏の組織を完全掌握していた、小なりとはいえ現代の海賊王。

 対してエリスは、党首の地位を世襲しただけの、ただのお飾り。

 どちらが本当に実権を握っているか、ゼールの者なら誰でも知っている。


 ただ、サイレンに一度くらい会ってみたい。私はそんな気まぐれを抱いたのだ。

 だから、従妹殿の頼みを聞く気になったのだ。


 それに従妹殿が、コルセア島の外へ出るのは歓迎できない。

 なぜなら彼女は――現ゼール商会党首は、世間的には「屈強で貫目たっぷりの、海賊商会に相応しい男」ということになっているからだ。

 モラクは冷酷な男だったが、その反動か、一人娘のエリスのことは溺愛してしまった。党首の跡目を彼女に継がせると言って聞かないまま、早逝した。遺言となってしまった。

 私を含める周りも、まあ他に子どもがいなかったことだし、どうせお飾りにするだけだしと、反対はしなかった。

 ただ、外聞が悪いというか、海賊商会が舐められるわけにはいかないので、従妹殿の正体を隠して、嘘の人物像を喧伝しているのだ。「敵が多いから、人前には出ない」というもっともらしい言い訳も添えて。苦肉の策である。



 そういうわけで、私は部下に命じて船旅を整えさせ、アンドレス島へと向かった。

 部下たちは優秀で、航海は順調だった。しかし、人の力ではどうしようもないものがある。

 そう、嵐だ。

 もうアンドレス島も目前というところで遭遇し、私たちの船は弄ばれた。一刻も早く過ぎ去ってくれるようにと、私たちはひたすら祈るしかなかった。

 だが祈り虚しく、船は難破した。高波を受けて転覆し、粉々に砕けたのだ。


 私たちは諸共に海中へ呑み込まれ、助かる術はなかった。

 ないはずだった。

 しかし、私たちのうちの幸運な幾人かは、目を覚ませば、アンドレス島の浜辺に横たわっていたのである。


 私が最初に気づいたのは、頬の痛み。

 海中に呑み込まれた時、砕けた船の木材が当たって、大きく裂けていたのだ。

 次いで気づいたのは、浜辺で横たわる私たちを、何者かが優しく見守ってくれていたこと。


 三叉の矛を携えた人魚。

 海原の神霊サイレンであった。


「御身が助けてくださったのか?」


 信じられない想いで、私は訊ねずにいられなかった。

 彼女は首を左右にした。


「ここにいる方々だけしか、助けられませんでした」


 哀しげな顔つきになって言った。

 その表情、その言葉だけで、この超常的な存在が、慈悲深い神霊なのだと悟るには、充分すぎた。

 何より彼女の物憂げな顔は、この世のものとは思えないほどに美しかった!

 

 コルセア島に残したネビスが、帰ってこない私を案じて使い魔を寄越し、代わりの船で迎えに来るまでの二週間。

 私と生き残った部下たちは、サイレンの手厚い援助を受けつつ、無人島生活を続けた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そう、私はまるで初心な少年みたいに、彼女に恋をしていたのである。


    ◇◆◇◆◇


“南の海賊王”が残した、三つの財宝。

 その伝承には、こんな一節がある。


 三つの財宝は、海原の神霊が守っている。

 かつての恋仲だった、海賊王の墓とともに、百年経った今でも守っている。

 サイレンは、海賊王の後継者が現れる日を待っている。

 かつての恋人の血を引き、かつての彼と等しく偉大な男に、三つの財宝を受け渡し――

 そして、かつてのようにもう一度、その後継者と愛を語らうのだ。

 そんな日が来ることを、サイレンは今日も待っている。

 いつまでも待っている。


 ――と。それが真実か、果たして出来の悪い創作かは、私にも、誰にも判別がつかない。

 いざ蓋を開けてみるまで、海賊王の後継者が現れるまで、わからない。


 私はサイレンと愛を語らいたかった。

 海賊王の後継者になりたかった。

 だが。嗚呼。しかし……。

 私は海賊王の血を引いていないのだ!


 今なら祖父の気持ちがわかる。

 私が後継者になれないのなら、他の誰がなるのも許せない。

 海賊王の財宝は――何より彼女は、誰にも渡さない。

 若気の至り? 笑うなら笑いたまえ。

 私は「キュジオ」になろうと決めた。

 麗しき神霊に横恋慕し、魔王に魂さえ売った、あの神話の登場人物のようになろうと。


「だからさ、ちょっと艦隊組んで、アンドレス島までマグナスを阻止しに行こうと思うんだ。構わないだろう、従妹殿? ご党首殿?」

「別にいいけれど。()()()()()()()()?」


 お飾りのご党首サマに、形だけの承認をとりにいった私に、エリスは意味深長にそう言った。


「僕がマグナスに敵わず、殺されると?」

「海には危険がいっぱいということよ」


 従妹殿はあくまで意味深長な言葉を続けるだけだった。

 この二十歳になってもまだワガママが治らない、気まぐれお嬢様に、まともにつき合うのはバカバカしいことだ。


「いいさ。サイレンが誰かのものになった世界で、まだ生き永らえる気なんてないからね」


 私はおどけた仕種で肩を竦め、艦隊編成のためにご党首サマの御前を辞した。

 決然たる足取りで赴いた。

 命を懸ける? 上等だ。

読んでくださってありがとうございます!

毎晩更新がんばります!!

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