第二十三話 艦隊戦
本日は2話UPしております。
まだ22話をご覧になってない皆様は、ご注意くださいませ!
左右に並んだキュジオの艦隊三十一隻とゴルメスの艦隊二十五隻が、ともに帆を張り、移動を始めた。
いよいよ開戦である。
「また風を操って、あっちの足を止めたりはしないんですか、マグナスさん?」
「実はもうやっている」
アリアに指摘され、俺は懐から〈潮風の鈴〉を取り出してみせた。
『どういうことなのでしょうか?』
「恐らく向こうも、〈潮風の鈴〉を入手したのだ」
もしかしたら、俺がキャプテン・マンガンを如何に討伐したか、ネビスの使い魔に監視されていたのかもしれない。
そしてキュジオならば、対抗するために〈潮風の鈴〉を手に入れる、それだけの財力がある。
だとしたら、いま俺が風を操ることができないのにも、理屈がつく。双方互いに相反する命令をしたことで、〈マジックアイテム〉の効果が相殺したのだ。
「まあ、どの道この戦力差だ。あっちの足を止めただけでは、奴らの有利は大して揺るがない」
「そういうものなんですか?」
「要塞にたった十人くらいで突撃するところを、思い浮かべてみてくれ」
「あー……」
合点のいったアリアが、「でも納得したくないなー」みたいな顔つきになる。
そんな彼女に、俺は安心させるように言う。
「あっちの船足は元より関係ない。肝要なのは、こっちの船足だよ」
同時に、左腕に装備した〈マリードの腕輪〉をさすった。
途端――“海鷲”号が、尋常ではないスピードで動き出す。
まるで水上を滑るような速さと勢いで、敵艦隊へと突撃していく。
まさに常識外れのスピード。とうてい船のする動きではない。
アリアとショコラが「きゃっ」とか『わっ』とか悲鳴を上げる。このことはあらかじめ、全員に言い含めておいたのだが、想像以上のスピード感に、驚きを禁じ得ないのだろう。バルバス船長以下、荒事に慣れた海の男たちも、目を丸くしてる。
『こ、これが、マリードさんの力なんですね……っ』
「そうだ」
やや嫉妬混じりに感嘆するショコラへ、俺は首肯した。
マリードとは、バゼルフ謹製の新たなゴーレムの名だった。
カジウでの活動を見据えて、俺がアラバーナの遺跡で発掘しておいた、二種の貴重な〈マジックアイテム〉から合成した、ウォーターゴーレムだ。
そう、全身が水でできており、地上では大した性能を発揮できない一方、水中では無類の強さを持つ、特殊な魔法生物である。
そいつが今、“海鷲”号の船底にへばりつき、水中のこととは思えない高速で移動しているのだ。
俺が装備した腕輪を通して命令を受け、活動開始したのだ。
この船の異常な航行スピードには、そんなタネがあったのだ。
敵艦隊とはまだ距離があるが、その慌ただしい動きから、連中があたふたしているのが伝わってくる。
こちらの異様な速度を見て、仰天しているに違いない。
だが俺は委細構わず、マリードを連中に突撃させる。
連中は俺たちを包囲するため、翼を広げるように、艦隊の陣形を左右に伸ばす最中だった。
ならばと俺は、より脆弱であろうゴルメスの艦隊へと突っ込ませる。
応戦しながらそのまま敵陣を突っ切って、奴らの後背に出た後、キュジオがいるだろう自称ロクソン商会艦隊の本陣に、背後から回り込んで強襲する戦術だ。
「いよいよ出番だぞ?」
俺は背後を振り返って、ずっとそこで恭しく控えていた、二人の姉妹に声をかける。
ナディアとサリーマだ。
高レベル魔法使いと僧侶の姉妹だ。
バロンボ島に立ち寄った時、〈タウンゲート〉を使って合流しておいたのだ。
「お任せください、マグナス様」
「私たちが犯した罪を贖うため、助けられた命に報いるため、全力を尽くします」
姉妹はそう宣言すると、ようやく顔を上げてくれた。
ゴルメスの艦隊が、もう目前に迫っていた。
火矢が一斉に射放たれ、赤い豪雨となって“海鷲”号に降り注ごうとしていた。
それを見て、妹のサリーマが打ち合わせ通りに聖句を唱える。
「神は仰せになった。『汝に矢難を退く加護を与えん』と……」
僧侶が使える〈アンチアロー〉の魔法だ。
未熟な射手(具体的にはサリーマより10レベル下)が放つ矢の一切を寄せ付けない、加護を周囲に与える。
サリーマはレベル18。ならばレベル8以下の戦闘員の矢を、無効化するということだ。
そして、よほどの古参兵でもなければ、そんなレベルに達してはいないだろう。
実際、雨の矢が嘘のように、“海鷲”号の脇へと逸れていった。
たまに、サリーマの加護をものともせず飛んでくる剛矢はあれど、バルバスたちが斬って落とすか、あるいは甲板に刺さったそれへすぐに海水をかけてしまう。
もちろん、アリア、ナディア、サリーマら女性陣の守りは、ショコラがばっちりとこなす。
俺は安心して呪文の詠唱に入る。
ナディアも隣に並んで唱える。
さあ、反撃だ!
「フラン・イ・レン・エル!」
「ティルト・ハー・ウン・デル・エ・レン!」
敵艦のどて腹目がけて、俺の〈ファイアⅣ〉とナディアの〈サンダーⅡ〉を撃ちまくる。
その威力は火矢如きの比ではなく、次々と敵艦を轟沈させていく。特に俺のは、呪文一つで敵艦一隻を沈める大火力だ。堪らず敵艦の船員たちが、沈みゆく船から海中へ跳び込んでいく。
「周りは全部、敵だ。遠慮は要らんぞ、ナディア」
「はい、マグナス様!」
ゴルメス艦隊のど真ん中に突っ込んだ俺たちは、四方八方を航行する敵艦へ向けて手当たり次第、撃って撃って撃ちまくる。
「な、なんだよ、こいつらあああああ!?」
「こっちは五十隻以上の大艦隊だぞ!? そっちはたった一隻だぞ!?」
「おかしいだろぉ!? こんなん絶対おかしいだろぉ???」
敵艦の船員や戦闘員たちが恐慌し、ついには泣きわめく者が続出する。
ほとんど効かない弓矢を抱えたまま、右往左往のパニックとなる。
その中には、ゴルメス自身の姿もちらりとみえた気がしたが――まあ、どうでもいい。
あの弛みきった腹をした男が、沈みゆく船から投げ出されても、溺れずにいられることを祈るのみだ。
サリーマが矢を払い、俺とナディアが行く手を薙ぎ払い、マリードが高速で“海鷲”号を運び、俺たちはいとも容易くゴルメス艦隊の中央突破に成功した。
そのまま、キュジオ艦隊の後背へ回り込もうとした。
しかし、熟練の海賊たちで構成された連中は、さすがだった。
ゴルメスどもとは格が違った。
“海鷲”号が中央突破を図った時点で応手を打ち、ゴルメス艦隊の後背に出た俺たちを、待ち構えるような陣形と位置取りへ移動を済ませていたのだ。
さらには、麾下の三十一隻全てに、十人ずつの魔法使いを並べて、火矢より遥かに強力な〈ファイア〉系統の魔法を撃ち放ってきたのだ。
「恐るべきは、キュジオとその手下どもか……。これがまともな海戦だったらと思うと、ゾッとするな」
俺は掛け値なしにそう思った。
だが、これは「まともな海戦」などではない。
「皆、振り落とされるなよ!」
俺は〈マリードの腕輪〉をさすりながら、仲間たちに向けて叫んだ。
わずかに遅れて、“海鷲”号が左右に激しく揺れた。
海中にいるマリードが、俺の命令を受けて、“海鷲”号をただ真っ直ぐ速く走らせるのではなく、高速のままメチャクチャに蛇行させたのだ。
その船とは思えない、ありえない機動によって、キュジオ艦隊の魔法攻撃を回避する――というよりは、的を絞らせないようにする――奇手を打ったのだ。
さらにはキュジオ艦隊のど真ん中へと、恐れることなく突入する。
敵艦ひしめくその陣中を縫うようにして、“荒鷲”号は高速で進撃する。
こうなるともう、俺たちの独擅場であった。
敵艦にいる魔法使いたちは、おいそれと俺たちを〈ファイア〉で狙えない。
狙って、もし回避されたら、味方を誤射する羽目になるからだ。
一方、俺たちは逆。敵に囲まれた状態で、手当たり次第に撃てばいいだけ。
激しく揺れる船上で、呪文を正確に詠唱するのは難しかったが、俺は〈呪文詠唱練達〉スキルを習得している。ナディアとサリーマはさらに上位の、〈呪文詠唱卓越〉の習得者だ。一度のミスなく魔法を連発してみせた。
向かうところ敵なしとは、まさにこのこと。
「あいつら、スゲエ……」
「ああ……」
「スゲエの一言だ……」
正体は海賊であるキュジオの手下たちは、常識外れの戦闘力を発揮する俺たち“海鷲”号に脱帽し、次第に戦意を失っていく。
ゆえに俺たちは難なく敵中突破を再び果たし、そのバルコン級を眼前にとらえた。
キュジオ艦隊の旗艦だ。
すなわち、キュジオの御座船だ。
「いよいよご対面――というわけでも、ないのだがな」
俺は“海鷲”号の舳先に立って、奴の姿を探した。
すると、奴の方も旗艦の舳先に立って、呆れ顔で諸手を挙げていた。
ベビーフェイスに不似合な、大きな頬の傷が引きつっていた。
「参った、マグナス。僕の――いや、私の負けだ。だから、部下は見逃してくれないか?」
「ほう。意外と優しい男なんだな、キュジオ――いやさ、ゼール商会のパウリ」
読んでくださってありがとうございます!
そして……そして、ついに書籍化が決定いたしました!!!!
これも全て、日ごろから応援してくださっている皆様のおかげです。
本当にありがとうございます!
ありがとうございます!!
詳しくは、活動報告をご覧になってくださるとうれしいです。
私もこれで満足せず、もっともっと面白いものが書けるようがんばります!
毎晩更新がんばります!




