第八話 強面の戦士 グランツ
前回のあらすじ:
辺境の村の可哀想な少女の呪いを解くため、マグナスは「サブクエスト」を行うことに。
「おまえは……確か、グランツだったか?」
俺の後をつけていた人相の悪い男に、そう問いかけた。
どこからどう見ても、ゴロツキにしか見えない奴だ。
しかしこいつはこう見えて、エンゾ村に駐在している唯一人の衛兵なのである。
田舎の平和な村のため、近隣の町から派遣されているというわけだ。
「お見知りおきくださったとは光栄です、マグナス様」
と、グランツは大きな体躯を縮めて、恐縮のていをとった。
まあ実際、俺くらい周囲を観察していて、記憶力もある男でなければ、グランツなどただのモブとして認識してすらしてなかっただろう。
「俺に何か用か?」
「はい。マグナス様に折り入ってお願いがございます」
「言ってみろ」
ゴロツキめいた風体のグランツだが、なんのなんの、口調も仕種も折り目正しい。
そこが俺は気に入って、話を聞いてやることにした。
文明人とはかくありきだ。ユージンに、グランツの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。
「私にも、マグナス様のお手伝いをさせて欲しいのです」
「何? では一緒にボスモンスターを討伐したいというのか?」
「はい、願わくば」
そう言ってグランツは、腰に帯びた剣や紐で肩にひっかけた大盾を軽く掲げてみせた。
どちらも使い込まれ、よく手入れもされているようだった。
こうしてみるとグランツは、村の衛兵というよりは、歴戦の傭兵めいた風格がある。
「というと、ドロップアイテム狙いか?」
「いいえ、そういった分け前は一切、要りません。マグナス様が全てお納めください」
「ふむ……では、村を守るためか? 義務感か?」
「……というよりは、正直に申しますと、メルを助けたい一心です」
「ほう」
俺は俄然興味がわいて、道すがら詳しい話を聞くことにした。
「私とメルは四つ歳の離れた幼馴染なのです」
「……ということは、あんた十八なのか」
まさか俺と同い年とは! 三十前の間違いではなく!?
見えない!
「もっといえば、メルは私の片思いの相手でもあります……」
「ふうむ。想いを告げたりはしてないのか?」
「できません。私はこの通り強面ですし、いかつい体つきをしていますので、女性受けがよくないことはわかっているのです」
常に真面目な顔つきをしたグランツが、この時ばかりは自嘲の笑みを浮かべた。
俺も今でこそ幸運にもアリアという恋人ができたが、モテない男の気持ちはわかる。
わかりすぎるほどにわかる!
「ですので私は、陰ながらメルを守れる男になろうと、村を跳び出して傭兵になってみたり、その時のちょっとした手柄で町の衛兵に取り立ててもらったり、今は志願して故郷のエンゾに帰り、駐在しているというわけです」
「男だな、あんた」
俺はこのグランツという青年に、ますます好意を覚えた。
そして、この男が俺に同行したいという事情も、とっくに見えていた。
「私もメルの病気のことは心配していたのですが……魔物を倒せば治るかもしれないと聞いて、居ても立ってもいられず、マグナス様の後を追いかけたという次第でございます」
「それはわかった。しかし、相手はボスモンスターだ。危険だぞ?」
「無論、承知の上です」
「俺は〈魔法使い〉だ。あんたを庇いながら戦うことはできん。それでもいいのだな?」
「むしろ私をどうぞマグナス様の盾として、お使いください」
「……それは。……大した心がけだが」
「メルを助けるためならこの命、惜しみません。いえ、この日のために俺は剣技を磨いたのだと、そう感じすらします」
「わかった。そこまで言うなら、俺ももう何も言わん」
俺は〈魔法使い〉だ。合理の徒だ。
しかし同時に男でもある。グランツの意気は共感できる。
死なせたくはないな。
俺は心底からそう思った。
だからボスモンスターを捜す道すがら、いくつか打ち合わせをした。
まずグランツに、どんな〈戦士系スキル〉を習得しているか、詳細に訊ねる。
〈攻略本〉情報を参照し、それで彼がレベル7以上、10未満の〈戦士〉職であることがわかる。
大ざっぱな判定だが、俺は王族のような〈ステータス鑑定〉系のスキルを持っていないため、これが限界だし、今はそれで充分。
レベル28の俺が言うのもなんだが、レベル7~9といえば、なかなかの腕前といっていい前衛職となる。
グランツめ、武者修行したらしいだけのことはあるな。
ただし、〈攻略本〉情報によれば、今から戦いを挑むボスモンスターの〈レベル〉は19。
俺はともかく、グランツのことは注意してやらねば、とうてい生きて帰ることはできないだろう。
といって、おまえだけこのまま帰れというのはナシだ。
俺はグランツの意気に感じ入ってしまった以上、どんなに非合理的な判断であろうと、彼のその純粋な気持ちを叶えてやりたいと思う。
一緒にボスモンスターと戦い、二人とも生きたままエンゾ村へ凱旋する。
そして、呪いの解けたメルとグランツを、晴れて対面させる。
これはマストだ。
「さてさて、工夫どころだな……」
俺は口中で、小さく独白した。
まさにその時だ。
行く手から、巨大な足音が聞こえてきたのは。
「マグナス様……」
「ああ、気をつけろよ。いよいよご対面だぞ」
俺たちは足を止めると、俺は〈大魔道の杖〉を構え、グランツは前に出て〈鋼の剣〉と〈歴戦の大盾〉を構えた。
そのまま魔物を待ち構える。
奴もこちらの存在に気づいたか、近づいてくる足音のテンポが速まる。
巨大な影が、地面を滑るように伸びてきて、俺たち二人を翳す。
そして、森の木々よりも背の高い巨人が、俺たちを睥睨した――
ボスモンスター登場!!
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