第二十一話 いざ、アンドレス島へ
前回のあらすじ:
ショコラがロレンスと対決し、なんとか勝利する。
俺――〈魔法使い〉マグナスは、心からねぎらった。
「よくやった、ショコラ。お手柄だ」
そのショコラは、仰向けに倒れたままのロレンスに、奪った剣をピタリと突きつけたまま、
『いいえ、マグナス様の愛のおかげです!』
「あ、愛!?」
『マグナス様の強化魔法のおかげです!』
「うふふ、ショコラさんたら。言葉は正確に使わないといけませんよ?」
アリアが、俺が庇っていたその背中からひょっこり顔を覗かせ、仮面みたいな無機質な笑顔になった。恐いからやめて欲しい……。
だが、俺が顔を引きつらせていたのも一瞬。すぐに真顔になると、倒れたままのロレンスの傍に傍に向かう。
「手荒な真似をして、悪かったな」
そう告げた俺の表情を、ロレンスはしばし凝視していた。
そして、俺の謝罪が決して戯言などではなく、本気のものだと悟ったようだ。
「カジウの法と秩序を守るためとはいえ、手荒な真似をしたのは、オレたちの方だろう。冤罪だという貴殿の主張が本当なら、マグナス殿はもっと腹を立ててもいいはずだ。にもかかわらず、その態度。つまりはオレ如き、腹を立てるほどの障害ではない、端から歯牙にもかけていないということか……」
完敗だと、ロレンスは肺の底から嘆息した。
「俺一人というならともかく、二対一だからな」
ロレンスを愚弄するつもりはないし、むしろカジウ最高峰のその実力は大いに認めているくらいなので、俺は慰めの言葉をかけた。
ただロレンスが、抵抗が無為であることを悟ってくれたのは、助かった。
彼がここで力の差を認めなかったり、負け惜しみの強い人間だと、俺は困ったのだ。まあ、そんなバカではないと踏んでいたがね。
〈攻略本〉のおかげで、ロレンスが捕縛に来るとわかっていながら、敢えて逃げずに待ち構えた甲斐があったというものだ。
俺はロレンスに告げた。
「これでわかっただろう? 海洋警察最高の個人戦力である貴殿でも、俺たちには敵わない。俺たちを捕縛したかったら、艦隊でも連れてきて包囲することだ」
「……貴殿、何を企んでいる?」
「企むなどと人聞きの悪い。アドバイスして差し上げているのだ」
この台詞は、まるで戯言でしかないことを悟ったのだろう。ロレンスは俺の真意を測るように、じっと凝視し続けた。
しかし、俺の内心を読み当てられるはずがない。いくらロレンスがバカではなくても、持っている情報が圧倒的に不足している。
「俺たちはこれから、〈海の神霊〉に会いに行く。捕縛したければ、追ってくるがいい」
この言葉は真実か、あるいはただのブラフか、ロレンスは推し量るように凝視を続けた。
そして、結論した。
「よかろう、マグナス殿。ならば次は、艦隊を以って包囲させていただく」
「楽しみに待っているよ、ロレンス殿」
俺は〈スリープⅡ〉で、ロレンスを眠らせる。
今の彼は〈断罪と断行の精神〉を装備していないため、俺の〈魔力〉に抗えなかった。
ロレンスの意識が完全になくなったのを確認して、報せに来てくれたキンコリー商会の使いに、後のことをお願いする。寝転がっている警察隊員たちの保護や、〈断罪と断行の精神〉をちゃんとロレンスに返すよう託す。
俺は降りかかる火の粉は払う主義だし、魔王攻略のためなら冤罪容疑を逆手にとって利用するくらいのことは企む。でも、泥棒ではないのだ。
◇◆◇◆◇
〈浮遊する絨毯〉の“ナルサイ”号に乗って、俺、アリア、ショコラの三人はドモン島西側の港へと向かった。
俺たちの“希望のマリア”号が停泊している港とは、反対側にある。
確かめるまでもなく、俺たちの船は海洋警察の別隊によって、差し押さえられているはずだ。のこのこと東の港へ向かうわけにはいかない。
「お待ちしておりやした、マグナス様。アリア様。ショコラ嬢」
俺たちが西の港に到着すると、バルバス船長以下、“希望のマリア”号の船員たちが出迎えてくれた。
海洋警察が来るのはわかっていたため、“希望のマリア”号を囮に、あらかじめ彼らには移動してもらっていたのだ。
ただ船員はいれど、肝心の船がなくして、どうやって出港するのか?
その答えは、バルバス船長らと一緒に待ってくれていた、キンコリー商会社員にある。
「ピートル様のお達しで、皆様の船をご用意させていただきました」
そう言って彼は、停泊中の一隻を指した。
「スゲエ船ですぜ? 早く乗りこなしてみたくて、ワクワクしてますよ」
と、先に見分していたバルバス船長らが、心躍る様子で言った。
“希望のマリア”号も、相当なスペックを持つ最新鋭艦なのだが、この“海鷲”号はそれすらも超えているらしい。まだ世界にこの一隻しかない、次世代艦開発用の実験艦らしい。バルバス船長の見立てなら間違いない。
さすがは海洋商人たちの楽園カジウで、一位を誇るキンコリー商会である。とてつもない船をポンと貸してくれる。
「ありがたく、お借りする。ピートル殿には何から何まで、本当に世話になった」
俺たちは、ピートルの側近の一人だというその社員に、頭を下げた。
本当はピートル自身にも直接挨拶をして行きたかったのだが、それは後日改めてということにさせてもらう。
何しろ今の俺たちは容疑者――いや、ロレンスらを撃退したため、もう犯罪者か――であるため、綺麗な身になるまでは関わらない方が、ピートル殿のためになる。
この船だとて建前上は、「俺たちが島を脱出するため、力ずくで奪っていった」ことにする予定だ。
「さあ、アンドレス島へ向かおう」
俺の合図で、バルバス船長たちが慌ただしく、しかし意気揚々と出港準備を始める。
俺はアリアとショコラとともに、甲板へと上がり、目指す西の海を眺める。
「アンドレス島に、神霊サイレンがいるんですよね?」
「ああ、そうだ。“南の海賊王”の墓もあり、彼女が今でも守っているという」
『そう聞くと、なんだか健気に聞こえます。神霊なのに』
「そうだな。確かにサイレンは超常的な存在だ。しかし、神霊の中でも変わり種らしいぞ? 世俗的というか人間的で、実際“南の海賊王”とは恋仲だったらしい」
「だから百年経った今でも、恋人のお墓を守ってるんですかー」
『ロマンチックです!』
西の海を眺めるアリアとショコラの目が、心なしか乙女の瞳に変わった。
俺は申し訳なく思いつつも、咳払いをする。
「夢を壊すようで恐縮だが、島に着く前に恐らくは、派手なドンパチをやらかすことになるぞ」
「わかってますってば、マグナスさん」
『覚悟は既に決まっております』
意気込んでうなずく女性陣に、ならばいいと俺はうなずき返す。
それから、俺の左腕に装備している腕輪をさする。
ラムゼイの遺跡で入手した〈海王石の腕輪〉と、モリスの遺跡で入手した〈マリードの魂〉を、バゼルフに〈合成〉してもらったマジックアイテムだ。
キャプテン・マンガンとの海戦の時は、使うまでもなく勝利できた。しかし、今度はきっと必要となるに違いない。
読んでくださってありがとうございます!
今夜は24時にもう一話というか、短めの間章をUPする予定です!
そちらもよろしくお願いいたします!!




