第二十話 VS法の番犬(ショコラ視点)
前回のあらすじ:
キュジオの計略で濡れ衣を着せられ、ロレンスが捕縛に現れた。
ワタシ――サーヴァントのショコラは、はりきっておりました。
他でもないマグナス様に、「ロレンス殿の相手は、おまえにしか任せられない。頼めるな?」と命じられていたからです。
いつもはワタシがどれだけ『ご奉仕させてください!』とお願いしても、マグナス様はあまりいいお顔をされません。
ワタシに命令したり、コキ使ったりするのに、抵抗があるみたいなのです。
とてもお優しい方なのです、マグナス様は。
でも、今日は違います。
マグナス様は、はっきりとワタシを頼ってくださいました。
ロレンス様を殺すことなくやっつけるのは、ワタシにしかできないことだからです。
子犬みたいにくっつき回すワタシに、マグナス様が根負けしてテキトーなお仕事を命じてくださる、いつものパターンではないんですよ?
これがはりきらずにいられましょうか!
でも、やっぱりいざとなったら恐いです~~~~~~~~っっっ。
ロレンス様は、おっかない剣を構えて、無言で斬りかかってきました。
この無言なのがイヤです。震えちゃいそうです。
もっと「おりゃああああ」とか掛け声を上げてくだされば、『あ。向こうも必死なんだな』ってわかって、ワタシも落ち着くことができるんですが。
ロレンス様の態度はまるで、「おまえ程度じゃ障害にもならんぞ?」と仰っているみたいで、ワタシは内心ビクビクです。
だから最初は防御から入ります!
ロレンス様が一回、二回、三回と鋭い斬撃を放ってくるので、ワタシは内心で『ひぇぇ』『ふぇぇ』『あひぃぃ』とか言いながら、とにかく避けるのに専念です。
ロレンス様は“法の番犬”というあだ名でいらっしゃいますが、本当に生真面目が服を着て歩いているようなお方です。
「大人しく捕まる気がないのならば、容赦はせんぞ?」とばかりに、おっかない刃物をびゅんびゅん振り回してくるのです。
普通、ワタシみたいな可憐な女の子が相手だったら、もっと手加減しません?
さっきから静かな殺気をめちゃくちゃぶつけられてて、怖すぎなんですけど?
ワタシはそう思っていたのですが、ちょっと勘違いでした。
ロレンス様はこれでも、まだ手加減をしてくださっていたようでした。
何度も回避に成功するワタシの体捌きや足捌きを見て、さらに剣技を鋭いものに変えたのです。
「――シッ」
ずっと無言だったロレンス様が初めて、引き絞った呼気のような、静かな掛け声を上げます。
途端、とんでもないスピードの斬撃が二太刀、ワタシに迫ってきました。
右斜め上からの太刀筋と、左斜め下からの太刀筋が、同時に襲いかかってくると錯覚してしまうくらい速いのです。
〈ファングスラッシュ〉と呼ばれるスキルです。
ロレンス様は高レベルの〈剣士〉だそうです。
マグナス様がワタシの身を案じ、事前に教えてくださいました――
「前衛職の中では特殊な部類だ。剣しか装備できないし、モンスターを相手するのがやや苦手。ただその分、剣にまつわる多彩な〈スキル〉を習得できる。特に対人戦闘に適した〈スキル〉群だ。人の世の悪を討つという強い意志を持った、“法の番犬”にはぴったりの職種なのかもしれんな」
『さすがマグナス様! 博識でいらっしゃいますね!』
「いや、俺の手柄ではない。単に〈攻略本〉の受け売りだ」
『さすがマグナス様! 〈攻略本〉にはそんなことまで書いてあるのですね!』
「おまえにとっては、なにがなんでも俺がさすがなんだな……」
――という心温まる会話を通して、ワタシに注意を促してくださったのです(やっぱり優しい!)。
だから、剣士レベル11で習得可能なこの〈ファングスラッシュ〉も、当然ロレンス様は使ってくるだろうと想定しておりました。初見だったらびっくりしていたでしょうが、予習バッチリです。ショコラは水の下でいっぱい足をかいてる、優雅な白鳥タイプなのです。
『ていっ』
ワタシはまさに裂帛の気勢を上げるとともに、右斜め上から迫るロレンス様の剣の腹を、裏拳で横へはたきます。
錯覚するほど速い斬撃なだけで、本当に二本の剣で斬りつけてくるわけではないので、どっちか一方を迎撃するだけで、もう一方も同時に対処できるのです。要は冷静に対処できるかどうかが大事なのです。
「――シッ!」
ロレンス様が先ほどよりもっと鋭い呼気とともに、新たな〈剣士〉スキルを使ってきました。
高速の刺突を十数発も一度に放つ大技です。
剣士レベル21で習得可能な、〈スラストラッシュ〉です。
一瞬で勝負が決まりかねない恐ろしい剣士スキルですが、ワタシはやはり予習ばっちり。
この大技は足を止めなければ、使うことができません。だから慌てず騒がず、バックステップで逃げるのが大事です。
大事なのですが、ここでワタシも攻めの精神を発揮することにしました。まるで地面を這うような低軌道タックルで、ロレンス様の止まった足を刈り取りに行ったのです!
守ってばかりでは、ロレンス様に勝てません。マグナス様に褒めていただけません。
「――シッ!」
ところがロレンス様は、一度に十数発の刺突を放つはずの〈スラストラッシュ〉を、四発くらいで止めてしまいました。
ワタシは『何事です!?』と内心あわあわですが、すぐにマグナス様の事前アドバイスを思い出しました。
「〈剣士〉がレベル1で習得可能なスキルである〈フェイント〉は、基本にして奥義とされるらしい。高レベルの剣士ならば、他の〈スキル〉とも組み合わせ可能なのだ。要注意だな」
というお言葉。もちろん、ワタシの胸にしっかと刻まれておりました。
つまりロレンス様は、〈スラストラッシュ〉と〈フェイント〉を組み合わせることで、足が止まったとみせかけて、実はそんなに止まっていなかったという罠です。
それにワタシはまんまと引っかかってしまいました。功を焦りすぎたのも確かですけど、何より戦闘経験の差ですね(クスン)。
低軌道タックル中だったワタシは、蹴り上げられてしまいます。
古代魔法帝国の技術の粋を集めて作ったワタシ(の素体)ですが、体重は軽いので、あっさりと浮かされてしまいます。足が地面から離れちゃいます。
そこへロレンス様が〈パワースラッシュ〉を叩き込んできます。
一撃の威力を重視した大振りの剣ですが、地に足着いていない今のワタシには脅威です。
しかし、さっきからこの人、本当に容赦ないですね! 鬼! 冷血漢!
『ふにゃあああああんっっっ』
涙目になって、悲鳴を上げることしかできない可哀想なワタシ……。
「ショコラ!」
そこへマグナス様の頼もしいお声が!
大事な大事な〈大魔道の杖〉を、ロレンス様目がけて咄嗟に投擲することで、ロレンス様にそれを剣で受け弾かせて、ワタシへの〈パワースラッシュ〉を阻止してくださったのです。
『ありがとうございます、マグナス様! 救われたこの命、一生捧げます!』
「……はりきりすぎだぞ、ショコラ。おまえはすぐ俺にいいところを見せようとする。悪い癖だ」
叱られちゃいました(てへっ)。
「もっと慎重なくらいでいいぞ。しばらく専守防衛だ。バフをかける」
『わかりました、マグナス様!』
マグナス様が堂々たる詠唱で、力の上昇する〈ストレングス〉や素早さの上昇する〈クイックネス〉をワタシにかけてくださいます。
嗚呼! マグナス様の愛を感じます!
こうなったショコラちゃんはしぶといですよ?
単純な〈ステータス〉差でごり押しとかしちゃいますよ?
さあ、ロレンス様!
〈ファルコンブレード〉だろうが〈ファストムーヴ〉だろうが〈ボーパルスラッシュ〉だろうがなんでもこいです。
レベル23で習得できる〈ファントムブレード〉だって凌いでみせます!
「すぅぅぅぅぅぅぅぅぅ――」
あ、なんかイヤな予感!
ロレンス様がいきなり剣を脇に構えて、深呼吸を始めました。
すると、どうでしょう。刀身に光が集まっていくではありませんか。
「来るぞ! 〈フラッシュブレード〉だ!」
マグナス様が警告してくださいました。
〈フラッシュブレード〉は、剣の攻撃に〈光属性〉を与えるスキルです。
〈レベル〉が30台になっていくと、完全な物理攻撃は通じにくくなるのですが、前衛職の皆さんは、こういうスキルを習得して戦うのだそうです。
ちなみにこの〈フラッシュブレード〉、習得レベルは27だそうです。
レベル23のロレンス様が習得しているのは計算が合いませんよね?
本来はできないはずの高レベルスキルを習得する――それを「天才」と言うんだそうです!
「――シッ!!」
ついにロレンス様が〈フラッシュブレード〉を放ってきました。
文字通りに、目にも見えない突進刺突攻撃です。
予備知識がなかったら、ワタシは確実にやられていたことでしょう。
でも、ワタシにはマグナス様のご助言があります!
愛の力があります!
『だから、負けません!!』
ワタシはもう一度、低軌道タックルを見舞いました。
性懲りもないわけじゃありません。今度こそ、マグナス様の作戦通りです。
〈フラッシュブレード〉は恐ろしく速い攻撃ですが、溜めの動作が必要なので、今から来るぞとわかります。そして突進技なので、こっちも敢えて前に出て、突進攻撃をすることで、〈フラッシュブレード〉の加速がつく前に潰すことは可能です。
あとは当たり負けしないかと、こっちもどれだけ俊敏に動けるかの話です。
そのためのマグナス様の〈ストレングス〉と〈クイックネス〉です!
そして、まさに作戦通りに、ワタシはロレンス様の〈フラッシュブレード〉を掻い潜って、逆に低軌道タックルをぶちかますことに成功しました。
決して当たり負けせず、そのままロレンス様を吹き飛ばしました。
衝撃でロレンス様の手からすっぽ抜けた〈断罪と断行の精神〉を、大急ぎで回収しました。
『やった! 勝った!』
思わず涙目になってしまいます。
もちろん、うれし涙であることは言うまでもございません。
ワタシは「冷酷無比な美少女メイド」を気取りつつ、仰向けに倒れたロレンス様の喉元に、剣の切っ先を突きつけました。
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そして、ついに3章も20話に突入いたしました!!
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