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「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~  作者: 福山松江
第三章  ワタシに〈ご命令ください〉と押しかけるメイド編(?)
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第十九話  断罪と断行の精神

前回のあらすじ:


束の間の休息を楽しんでいたが、〈攻略本〉のおかげで、セントニー商会党首が暗殺されたことを知る。

そして、なぜかロレンスらがやってきて――

 ドモン島へ商談に来た俺たちは、ピートルの邸宅の離れに間借りしていた。

 離れといっても、普通に立派なお屋敷である。

 キンコリー商会党首本宅の周囲には、こんなのがゴロゴロしているのだ。


「別に町の宿などとらずとも、ぜひ当家にご逗留なさってください」


 どうせ商談や共同事業計画の立ち上げのため、頻繁に会うのだからと、ピートルは言ってくれた。


 ――それから一週間。

 離れで朝の食休みをしていた俺たちのところへ、本邸から使いが息せき切って駆けてきた。


「た、大変でございます、マルム商会様! 今、本邸の方にカ、海洋警察(カリオストロ)がっっ」


 ついに来たかと、俺は〈攻略本〉の表紙を撫でる。

“法の番犬”たるロレンスが、俺を捕縛に来ることは、こいつのおかげでわかっていた。

 アリア、ショコラとうなずき合う。二人にも事情は先に伝えてある。他にもいくつか対応の準備をしておいた。


 そして、俺たちは本邸へ向かおうとした。

 ロレンスらが来ることはピートルにも伝えていたが、なるべくなら迷惑はかけたくない。彼が俺たちを匿っているなどと、あらぬ誤解をかけられたら事だ。

 しかし、ロレンスはさすが優秀だった。そんな無意味な押し問答をピートルとはしなかったようだ。迅速且つ的確な行動をとっていた。

 俺たちが離れの玄関を出た時には、既にロレンスとその部下たち――海洋警察(カリオストロ)が包囲していたのだ。


 数は五十を下るまい。

 報せに来てくれた使用人が、その物々しさに蒼褪めている。

 一方、俺はなんら後ろ暗いところのないことを示すため、悠然と、堂々とロレンスらに向かって言った。


「朝から職務熱心だな、諸君。大方、島には着いたばかりなのだろう? もう少しゆっくりしてはどうかな?」

「オレは貴殿の戯言を聞きに、わざわざドモンまで来たわけではない、マグナス殿。貴殿を捕縛しに来たのだ」

「容疑は?」


 本当は聞くまでもなく知っていたが、とはいえ話の脈絡を通すために、敢えて訊いた。

 ロレンスははっきりとした口調で答えた。


「セントニー商会党首、ゲオルグ翁の()()()()だ」


 覚悟はしていても、いざ耳にして気持ちのよい台詞ではなかった。

 もし、〈攻略本〉でゲオルグ翁が暗殺されたことや、その容疑が俺にかけられていることを知らなかったら、あまりに寝耳に水すぎて、さぞや仰天させられたことだろう。


「あまり驚いていないな、マグナス殿。やはり身に覚えがあるということだな」

「いいや、ない」


 ゲオルグ翁とは党首会議の直後、そのままモンセラ島で共同事業計画について、詳細を詰めた。それが終わると、翁とは互いに笑顔で別れることができた。次いで俺たちがこのドモン島へ向かった後は、一度も会っていない。

 その旨を俺は簡潔に、ロレンスに向かって釈明する。

 一方、聞いたロレンスは、


「そう、貴殿らマルム商会は、重大な商談をセントニー商会としていた。そこでこじれて、犯行に及んだのではないか?」

「まさかそれ一点だけで、俺が疑われているわけではあるまいな?」


 この優秀な警察隊長に限ってないとは思うが、念のために確認する。


「無論だとも」


 ロレンスはなぜ俺に容疑がかけられているかを、公正に聞かせてくれた。

 そこまで細かい情報は〈攻略本〉にも記載されてなかったので、助かる。


「ゲオルグ翁は日中、それも町中で、フードで顔を隠した人物の襲撃を受け、殺害された。通行人が大勢いる目の前で、炎の魔法によってだ。骨まで炭化するほどの、凄まじい火力だったという。現場検証を行った海洋警察(カリオストロ)所属の魔法使い曰く、〈ファイアⅡ〉でもそうはならないそうだ。そして、〈ファイアⅢ〉ともなると、使い手が世界でも五人いるかどうかという、稀少にして高度な魔法なのだそうだ。“魔王の討伐者”たるマグナス殿なら当然、使えるのだろう?」

「ああ、使える。それが俺に容疑がかかった、最大の理由か」


 逆に言えば、真犯人は俺に容疑をなすりつけるために、そんな真似をしたわけだ。


「なあ、ロレンス殿。考えてもみてくれ。わざわざ公衆の面前で、滅多に使えない手段で、人を殺すか? まるで犯人はこのマグナスだと、吹聴するようなやり方ではないか。俺が本当にゲオルグ翁を殺害するなら、こんな手段をとるわけがない。そうは思わないか?」

「――という逃げ口上を用意するため、裏をかいて敢えて非合理な手段で犯行に及ぶ。そんな知能犯を、オレはたくさんみてきた」

「……なるほど、そうだ。なんの潔白の証明にもならんな」


 俺はここでの口論の無意味さを悟った。

 しかし、伝えるべきことは伝えておく。


「俺は犯人じゃない。犯人は例のキュジオに仕える腹心だ。魔法都市ネビュラのキース――ネビスと名乗っている魔法使いだ」

「っ……。いきなり、何を……?」

「信じられないだろうが、本当の話だ。いや、今は信じなくてもいい。聞くだけ聞いてくれ。そのネビスは、動物の精神を乗っ取り、使い魔として使役する。俺も習得していない、〈遺失魔法(ロストマジック)〉だ。ゲオルグ翁が、いつも黒猫を連れていただろう。あれがネビスの使い魔だったのだ。翁も知る由はなかったろうが、会話も行動も常に筒抜けだったということだ」


 なぜ、俺がそれを知っているか?

 もちろん〈攻略本〉に記載されていたからだ。

 ゲオルグ翁が暗殺されてからというもの、カジウの情勢は水面下で大きく動いた。〈攻略本〉情報も連日、目まぐるしく更新されていった。

 そして、俺にとって最も注目に値したのは、ついに「キュジオ」や「ネビス」の情報が『重要人物一覧』にはっきりと記載されたことだ。


 今までもキュジオは、確かにカジウのあちこちで悪巧みを進めていたようだ。

 しかし、その一環であるヨーテルやキャプテン・マンガンの悪事に、俺の方がたまたま首を突っ込んだことはあっても、あちらから俺を明確に敵視して、仕掛けてくることはなかった。

 ゆえにキュジオの悪事を、「魔王を討つための情報を網羅した〈攻略本〉」は、さほど重要とは判断していなかったようだ。ゆえにキュジオにまつわる情報も、特記されていなかった。


 しかし、キュジオはついに俺を排除するために動いた。濡れ衣を着せるため、ゲオルグ翁を暗殺した。

 ここにきて〈攻略本〉もキュジオのことを、魔王を討つための障害だと判断したようだ。

『重要人物』一覧に奴や『キース』の項が明記されたのだ。


 そのことは、いくらロレンス相手でも、説明するわけにはいかない。

 いや、たとえ説明したとして、結局は一笑に付されるだけだろう。〈攻略本〉に書かれた聖刻文字を読めるのは、俺だけなのだから。

 ゆえにやむなく、過程を省いて結論だけでロレンスと交渉する。


「キュジオの居場所が判明したんだ。俺の捕縛は少し待ってくれないか? 逃げも隠れもする気はない。俺と同行して、ともにキュジオに会いに行かないか?」

「断る。そんな超法規的措置は許されない」

「……“法の番犬”め」


 今までどんな巨悪であろうと決して許さず、立ち向かったという剛毅な男は、同時に融通の利かない頑固な男でもあった。

 半ば予想もできていたがな!


「総員、捕縛開始!」

「シ・レイ・エス・プレ!」


 ロレンスが部下たちに命じ、けしかけてきたのに応じて、俺も呪文を唱えた。

 本来は単体しか対象にできない〈スリープⅡ〉、それを〈大魔道の杖〉の特殊効果で警察隊員全体に向けてかける。

 レベル38に達した俺の状態異常魔法だ。数十人からの隊員がばたばたと倒れ、その場で〈昏睡〉状態となる。

 一方、ロレンスは――


「オレには効かんぞッ!」


 腰の剣を抜き放ち、裂帛の気勢とともに疾走してきた。

 宣言通り、俺の〈スリープⅡ〉は全く効果を及ぼしていない。ただロレンスが携えた剣の真っ直ぐな刀身が、凛冽な輝きを自ら放っただけ。


 奴が持つ剣は、銘を〈断罪と断行の精神〉という。

 歴とした〈マジックアイテム〉だ。“南の海賊王”が腹心中の腹心だった初代警察長官(カリオストロ)に授け、以降は代々、最も手柄の多き前線隊員に伝えられるしきたりの、曰くつきの逸品だ。

〈攻撃力〉の高さも然ることながら、所有者に状態異常魔法と弱体魔法に対する、絶大な〈魔法抵抗〉を与える特殊効果がある。


 俺はそのことを〈攻略本〉情報から知っていた。

 しかし、〈断罪と断行の精神〉が所有者に与える〈魔法抵抗〉は絶大であって絶対ではない。使い手本人の〈魔法抵抗〉が凡庸なら、剣の加護があってもなお、俺の〈ステータス〉の暴力でねじ伏せてしまうことはできるだろう。

 ロレンスはどうか? 実際に試してみなければ、効くか効かないかはわからなかった。


〈精神力〉という、魔法抵抗やMP上限に関わるステータスがある。

 ただし、この「精神力」という名称は便宜上のものである。恐らくは大昔の、どこぞの影響力のある王族が名づけて、普及したものだろう。

 名が体を表していないこと甚だしく、例えば根性だとか意志の強さだとか、人の心の在り方とはなんら因果関係がない〈ステータス〉なのだ。

 実際、聖刻文字で書かれた〈攻略本〉の表記を、俺たちの言葉で翻訳すれば、「精神力」というよりも「霊力」というニュアンスの方が遥かに近い。


 人の意志の力は、知恵の力同様に、〈ステータス〉などに表されないということだ。

 職業やレベルとも無関係だということだ。


 そして――強い意志は、状態異常魔法に抗うための重要な一因となる。

 ロレンスはレベル23の〈剣士〉だ。高レベル相応の〈精神力〉の持ち主だ。

〈断罪と断行の精神〉の、絶大な加護もある。

 それでも俺の〈スリープⅡ〉に耐えてみせたのは、彼が持つ誰よりも強く高潔な、意志の力の賜物であろう!


「見事だよ、ロレンス殿!」


 俺は心からの賛辞を贈らずにいられなかった。


 ロレンスからの返答はない。

 俺を捕縛するため、剣を携え、無言で迫り来る。

 その目が、口よりも雄弁に語っていた。


「魔法使い相手だ、一秒でも早く懐に入らせてもらう。だが、白兵戦でも貴殿に勝てるかどうか――こちらも試させてもらうぞ!」


 と。

 いつぞや、そんな話を俺たちは交わしたな。

 だが、すまない――


「ショコラ」

『はい、マグナス様。お任せください』


 貴殿の相手は俺ではない。

 その代わり、ショコラは近接戦なら俺よりも強いぞ?

読んでくださってありがとうございます!

毎晩更新がんばります!!

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