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「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~  作者: 福山松江
第三章  ワタシに〈ご命令ください〉と押しかけるメイド編(?)

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第十八話  休息はあまりに束の間で

前回のあらすじ:


党首会議のおかげで、協力してくれそうな商会と、してくれなそうな商会の色分けが鮮明となった。

 波が本当に穏やかな砂浜だった。

 おかげで水の透明度が高く、得も言われぬほど美しい。

 ドモン島の東側にある海岸は、一年中こうだという。


「すごいですよ、マグナスさん! 水底まで見えちゃいます!」

『とってもきれいです! テンション、アゲアゲです!」


 波打ち際で戯れるアリアとショコラも、大はしゃぎだ。

 しかも、周りにほとんど人はいない。いるのは、お世話係としてピートルから宛がわれた、キンコリー商会の女性社員だけ。

 人目を気にせず、悠々自適に海水浴を堪能できる。

 ここがピートルの個人所有する砂浜だからだ。


「島中が名観光地になっている、グァバには敵わないがね。我が家のプライベートビーチ一つだけをとれば、どこのビーチにだって負けませんよ」


 ピートルはそう言って、俺たちに別荘ごと一日貸してくれたのだ。

 党首会議が終わって、商売のためにドモン島を訪れた俺たちに、いきなり仕事話というのも味気がないから、まずはゆっくりしてはどうかと勧めてくれたのだ。


 俺はその言葉に甘えることにした。

 最近はアリアと常に一緒にいることができて、お互い寂しくないせいか、「休日」が飛ばし飛ばしになりがちだったからだ。


「今日は思いきり遊ぼう」

「はい、マグナスさん!」

『ワタシもお供いたします!』


 という流れになったのだ。


 海水浴もこれで二度目。

 前回よりも、俺も余裕が出てきた。

 具体的にはアリアとショコラの水着姿を見て、もう前屈みになったりしない!


 というわけで、俺も二人と一緒に水と戯れる。

 女性陣が腰まで浸かる程度の浅瀬で、夏の日差しと水の冷たさの対比を楽しむことしばし――


「きゃっ、あっ、わわっ」


 水底の緩いところに足をとられたらしいアリアが、転びそうになった。

 俺は咄嗟に抱きとめて支えた。


「あはは、下は水だから転んでも平気ですよ、マグナスさん。でも、ありがとうございます」

「お、おう」


 照れ笑いを浮かべるアリアに、俺は生返事をする。

 まともな返事をする余裕など、早くもなくなっていたからだ。

 水着という、布地面積の極めて少ない格好で抱き合った結果、アリアの珠の肌が俺の素肌に直に触れてしまった。

 その艶めかしい感触に、アリアをしっかり立たせた後、俺は前屈みになってしまった。


「あれ? どこ行くんですか、マグナスさん?」

「疲れたので、休憩してくる」


 ナニがとはいわないが、鎮まるまでちょっと大人しくしてくる。


「ええっ、またですか!?」

『今日は思いきり遊んでくださるのではなかったのですか!?』

「――って、だからくっつくな、ショコラ!」


 水着姿のまま、後ろから俺を羽交い絞めにしてくるショコラに、俺は情けない悲鳴を上げてしまった。

 なんかいろいろ背中に当たってるから! 


    ◇◆◇◆◇


 ――そんなことがいろいろありつつも、楽しかった「休日」は、あっという間に終わってしまった。

 とはいえ、英気を養うことはできたし、気を引き締めて迎えた翌朝。

 別荘で一泊した俺たちは、そこのテラスで朝食をとる。

 海と浜辺と朝焼けが一望できる抜群の景観と、新鮮な朝の空気とともにいただく、豪勢なモーニング。別荘付のコックが振る舞ってくれた海鮮料理は、夜明け前に漁師が獲ってきた素材がふんだんに使われ、すこぶる美味かった。

 ショコラが急に対抗意識を燃やして、『デザートはワタシにお任せください!』と息巻いたが、「いいから今回はピートル殿に甘えよう?」と、俺とアリアが左右から宥めすかせた。


 実際、ゆっくりできるのもここまで。今日からはまた仕事に勤しまなくてはならない。

 食後に、島特産の果汁を絞ったジュースを堪能しながら、ショコラが言い出した。


『そういえばマグナス様。結局、キュジオの目星はついたのですか?』

「さすがに無理だ。手がかりがなさすぎる」

「まあ、そう仰らずに。会議に出て、マグナスさんにも思うところはあったでしょう?」


 俺は肩を竦めたが、アリアまで興味津々となって食いついた。

 だから、自分でも思考の整理がてら、現時点の雑感を披露した。


「まず当たり前の話、アズーリ商会はキュジオと関係ない」

「ずっと仕事でご一緒してますし、アズーリ商会の内情は精通してますもんねー」

「同様にトネーニ商会の内情も明らかで、連中が迂遠なことを企むようには思えない」

『アネモネ様以下、悪い意味で裏表のない方がそろってますよね』

「パライソ商会の線もないだろうな。グァバ島をキャプテン・マンガンに襲わせるのがマッチポンプだったとしたら、意味不明すぎる」

「確かにさすがにムチャクチャですよね」

「そして今回、キンコリー商会が無関係だということも確信した」


 キンコリー商会は“連盟”一位。

 となれば、裏で派手に暗躍するよりも、まっとうな商売に精を出す方が普通に儲かるのだ。

 盤外戦でカジウの海域が荒れて、チャンスが転がり込むのは下位の商会であって、キンコリー商会は平和であればあるほど得をする。

 ピートルは保守的な考え方をする男だし、ますます正道な儲け方を好むだろう。


 あるとすれば、部下が勝手に暴走して、そいつがキュジオだという線だが――

 ピートル本人と会って話したことで、その可能性を俺は排除した。

 彼は部下の、水面下の暴走を見過ごすような無能とは思えない。


「その四商会は無関係だ。しかし、後の五商会のどこにキュジオが潜んでいても、驚きはしないな」


 例えば、食えないジジイであるゲオルグ翁本人であるとか。

 例えば、“連盟”二位のゴルメス……は、キュジオの「尻尾を出さない」男像とかけ離れているが、それこそ部下が勝手に暴走していても、あの愚鈍は気づくことができないだろう。


 そして、あのパウリという鮮烈な印象の青年。

 あれは相当なワルだろう。そのワルを全権代理に据えるゼール商会も相当だろう。

 本人らは海賊商会は卒業し、まっとうな商売に立ち返ったと主張しているらしいが、なるほど口さがなく言われ続けるわけだ。

 党首自身が会議に出てこなかったのも、非常に気になる。


『さすがマグナス様、かなり絞り込めましたね』

「会議に出席した甲斐がありましたねー」

「甲斐は確かにあったが、絞り込めたかというと、まだまだだろう」


 俺はそう言って、〈攻略本〉を広げる。

 なんとはなしだった。毎朝更新される情報を、流し読みしようという程度の気持ちだった。

 しかし、俺はページをめくる手を、ピタリと止める。

 にわかに信じられない思いで、そのページを食い入るように凝視せずにいられなかった。


「どうしたんですか、急に?」

『何か異変でもございましたか?』


 俺のただ事ならぬ様子に、アリアとショコラが不安そうに訊ねてきた。

 声の震えを堪えきれぬまま、俺は答える。


「……ゲオルグ翁の項目が消えている」


 アリアの目が見開かれ、ショコラもまた椅子から腰を浮かせた。


「どういうことですか!? マグナスさんにとって、もう『重要人物』ではなくなったってことですか!?」

「そんなわけがない。……ないが、〈攻略本〉はそう判断したのだろう」

「それって、どういうことですか!?」

『頓智ですか、マグナス様?』


 考えられることは一つだ。

 俺はそれを確認するために、急いでページをめくり、該当する人物の項目を探す。


「……あった。やっぱりだ」

「何がですか!?」

「昨日まで、載っていなかった重要人物の項目だ。名前はハンス。セントニー商会の()()()――ゲオルグ翁の後釜だ」

「えっ!?」


 アリアが驚くのも無理はない。俺自身、驚いている。

 その新党首の項目には、こう書かれていた。


『ゲオルグの長男』

『辣腕すぎた父親の下で畏縮して育った、毒にも薬にもなれない人物」

『キースによって暗殺されたゲオルグに代わって、新党首に就任した』


 これだけでは、詳しい事情はわからない。

 そもそもキースとは何者か。かなりありふれた名前だが……。

 とにかく、だ。


「状況が動くぞ。それも大きく……!」


 俺は〈攻略本〉のページをめくりながら独白する。

 ゲオルグ翁が暗殺されたことはすぐに知れ渡り、“連盟”の商会はそれぞれリアクションを起こすだろう。

 明日以降も〈攻略本〉の情報は、激動していくに違いない。


「ピートル殿とも相談せねばな」


 俺は食事を中断し、席を立つ。

 アリアとショコラがすぐに追ってくる。


「モンセラ島での合同事業に、ちょっと支障が出てきますよね?」

『でも、その程度の影響でございますよね? マグナス様たちが、それ以上の不利益をこうむることはないですよね?』

「…………」


 俺は前を行きながら、にわかに返事ができなかった。



 ――そして。

“法の番犬”ロレンスの指揮する海洋警察(カリオストロ)が、()()()()()()()()()()、その七日後のことだった。

読んでくださってありがとうございます!

毎晩更新がんばります!!

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