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「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~  作者: 福山松江
第三章  ワタシに〈ご命令ください〉と押しかけるメイド編(?)
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第十六話  党首会議

前回のあらすじ:


“連盟”の党首九人のうち、八人と面識を得て、人柄を知った。

 会場となる商談室は、広いことには広いが、無味乾燥な内装の部屋だった。

 他国であれば普通、上は王侯貴族から下は町商人たちまで、会合といえば豪勢な部屋で、晩餐と洒落込みつつ話し合うものだ。

 カジウ商人の事務的で合理的な気風が、この会議の場に表れているように思えた。俺も合理の徒たる魔法使いだから、大変に好ましい。


 三人用の長机を九つ出し、それを円形に並べて、各商会の党首と側近たちが着席する。

 俺とアリアはハンナ夫人の左右に座った。

 すぐ背後に、ショコラが侍女然と澄まし顔で控えている。

 と思ったら、お行儀悪く俺に耳打ちしてきた。


『この中にいるかもしれないんですよね?』

「こらっ。しっ」


 滅多なことを口にするなと、俺は小声で咎める。

 しかし、ショコラが気になって仕方がない心情もわかる。


 この会議室にいる誰かが、例のキュジオかもしれないのだ。


 キャプテン・マンガンに五十人もの魔法使いを与えていたことから、そして恐らくは新戦法を実験していたことから、彼を裏で操っていたキュジオという男は、かなり大きな組織の首領であることがわかる。

 そして、このカジウで大きな組織を持っているということは、“連盟”の商会と関係性を持っている公算が強い。あるいはそのものかもしれない。

 実際、〈攻略本〉情報でも、“連盟”の九つの商会のうち五つに関して、『大規模な非合法組織と取引がある』もしくは『裏の顔を持っている』と簡単に書き添えられている。


 ただし、これは特段、目を剥くような情報ではない。

 社会というものは綺麗事だけでできていないのだ。別にカジウに限らずとも大きな商会ならば、程度の差はあれ非合法組織と関係を持っているだろう。

 ヤクザに片足を突っ込んでいるトネーニ商会などは、オープンな半非合法組織とも言える。


 この中に「キュジオ」がいる公算が高いとは、そういうことだ。

 そして、公算が高いといえばもう一つ。

 この「キュジオ」というのは、十中八九、偽名だ。


 理由その一。

「キュジオ」とは有名な御伽噺の登場人物と、同名である。

 麗しき神霊に懸想し、横恋慕し、寝取るために魔王に魂を売った青年の名前。

 およそ人の親が我が子に付ける名前ではない。


 理由その二。

〈攻略本〉の『重要人物一覧』の項にその名がない。

 ただしこっちは、確度が下がる。非合法組織のいちいち全部や詳細を、〈攻略本〉は記載しない。「非合法組織として」どれだけ大きかろうと、その一つ一つは、世界の趨勢やまして魔王退治には、ほとんど関係がないからだ。アラバーナという大国を五年間悩ませ続け、影の首領の正体が皇太子だった、“憂国義勇団”とはまるで話が異なるのだ(その“憂国義勇団”の情報とて、そこまで紙幅が割かれていたわけではない)。


 ――というわけで、俺がこの会議に参加する理由を整理しよう。

 まず、俺の本当の目的をこの機会に表明すること。

 次いで、この中にいるかもしれないキュジオの目星を絞ることだ。


 ちなみに“連盟”の九商会のうち、八つの商会党首とは、偶然と必然から既に出会った。

 残る一つ、コルセア島を縄張りとする、“連盟”三位のゼール商会。

 その代表は、遅れて会議場に顔を出した。

 そして、会議は始まった。


    ◇◆◇◆◇


「やあ、皆さん。お久しぶりです」


 ゼール商会の代表は、朗らかな笑顔とともに単身でやってきた。

 歳は二十半ば。

 女にモテそうなベビーフェイスに、ぎょっとするほど大きな頬の傷が浮いている。


「遅刻しておいてその悪びれなさ。パウリ君は相変わらずだね」


“連盟”一位のピートルがその義務感で、やんわりと青年を窘める。

 パウリと呼ばれたその青年は、さも今気づいたように、「これは皆様、お待たせして申し訳ありません」と謝罪した。


「ゼールのご党首殿は、今日もご欠席かね?」

「ええ、そうです。敵の多いお方ですからね、島の外に出て暗殺なんかされちゃ堪りません」


 ピートルに問われ、パウリはさも無邪気な笑顔で、物騒な台詞を言う。


「いつものように番頭たるこの僕が、全権代理としてやって参りましたので、問題はございませんでしょう?」


 その笑顔のまま室内を見回して、一同の反応を窺う。

 器の小さいゴルメス(“連盟”二位)のように、苦虫を噛み潰したような顔になる者はいても、面と向かって反対する者は一人もいなかった。


 俺とアリアを除けばこの場で一番若いだろう、また“海賊王”の直系でもなく使用人にすぎないこの青年のことを、誰もが一目置いているという証だ。


 加えて皆、ゼール商会そのものを、畏れているのかも知れない。


 ゼールは別名を「海賊商会」と呼ばれている。

 数十年前、先々代の党首が、“連盟”の中でも真っ先に〈海賊王の証〉入手を諦め、大々的に海賊行為に手を染めたからだ。

 海洋警察(カリオストロ)と血で血を洗う抗争を繰り返し、先々代の死後は結局、元のまっとうな商会に更生したという触れ込みだ。

 が、現在でもカジウ海域で暗躍する海賊たちのほとんどは、ゼール商会の傘下ではないかという噂が絶えないのである。


「で、今回集まった理由はなんでしたっけね、ゲオルグ様?」


 パウリはさも人懐こい笑顔を作って、主催者であるセントニー商会の党首に確認した。

 ゲオルグは相変わらず目つきの悪い黒猫を机に載せ、撫でながら答えた。


「まあ一番は、アズーリ商会さんの今後について、表明してもらうことだね」

「ああ、そうでした。フェリックス様が亡くなったんでしたね」


 パウリは笑顔を消すと、本当に殊勝な顔つきになって、ハンナ夫人に対し一礼する。


「このたびはお悔やみ申し上げます、ハンナ様。僕はフェリックス様のことを、尊敬してましたよ。自分にはないものを持っていらっしゃる方には、憧れてしまうというやつです。嫌味に聞こえるかもしれませんが、よくぞあんな善人が商売をやっていけるものだと、本気で感心していたんです」


 不謹慎スレスレだが、面白い考え方をする奴だと、正直俺は思った。


「無礼ついでにもう一つ、ストレートに言わせてください。もしこれを機に、弊社の傘下に入るご意思がおありなら、絶対に悪いようにはしません。ハンナ様とご子息は元より、社員の皆さんも全力で庇護するとお約束いたします」

「パウリ殿。お悔やみの言葉も、ご配慮も、ありがとうございます。しかし、お気持ちだけ頂戴いたします」


 ハンナ夫人は丁重に、だが気丈に答えた。

 ちょうどいいタイミングだからと、他の党首たちに表明した。


「わたくしは息子が次の正当な党首として成人するまで、暫定党首としてアズーリを切り盛りしていく所存です」

「そうですか。それはお見事な覚悟です。僕も微力ながら、応援させていただきますよ」


 パウリはまたにっこりとして言った。


「実際、そこのマルム商会さんと組んで、商売を立て直したそうですね」


 全く笑っていない目で、俺の方を射ぬくように見てきた。


(あんたは僕にとって益となる男かな? それとも害となる男かな?)


 と、見定めようとする眼差しだ。

 俺はその鋭い視線を、泰然と受け止めた。


(それはあんたの出方次第だろう?)


 と、俺も眼差しで答えた。


 にらみ合いというほどではない、もっと静かな視線のやりとりだというのに、まるで見えない火花が散るように、キナ臭い空気がたちまち会議場に立ち込める。

 しかも……しかもだ!

 この会議場は、決して俺とパウリの独擅場というわけではなかった。

 俺とパウリの間に、にわかに走った緊張した空気を、他の党首たちの何人もが、つぶさに、物見高そうに観察しているのだ。特にゲオルグ翁など飼い猫とともに、瞳を爛々とさせていたのだ。

 さすがは八大国に数えられる、カジウを牛耳る“連盟”の首脳陣たち。

 ここはまさしく伏魔殿ではないか!

読んでくださってありがとうございます!

毎晩更新がんばります!!

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ぜひ1話でもご覧になってみてください。
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