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第七話  エンゾ村の可哀想な少女

前回のあらすじ:


アリアと初デート成功

 王都ラクスティアの隠しアイテムも、あらかた回収してしまった。

 罪もない人を困らせてしまうようなブツには手を出してないし、王宮の宝物庫内などどうやっても手出しが無理なアイテムを別にすれば、コンプリートと言っていいだろう。

 またアリアと懇意になれたおかげで、余剰アイテムを売るルートも確保できた。

 一度に、大量に売りに出せばさすがに怪しまれるため、アリアとデートをするついでに、いつ、どれだけ捌くかの議論も重ねている。

 ユージンのパーティーを追い出されて以降――いや、追い出されたからこそ、ここまでは全く順風満帆だった。


「さて、次はどう動くかな……」


 俺は宿の個室で、ベッドに横たわって〈攻略本〉を読み耽る。

 何か面白い指針を思いつかないかと、様々な情報に当たる。

 そこで、一つの情報に目が留まった。

『サブクエスト』という、俺たちの世界では聞き馴染のない概念の、項目で発見したのだ。


「あの娘、助けられたのか!?」


 思わずベッドから跳ね起きるほど、驚いた。



 あの娘――メルの説明には少し時間がかかる。

 そもそも俺やユージンたち一行は、このラクスタ王国の出身ではない。

 隣にある小国の、ハリコンの生まれだ。

 そこで一人のバカなガキが、気まぐれな神霊タイゴンのお告げを受け、魔王モルルファイを倒す運命を背負った、〈勇者〉なんぞになってしまった。

 ●●●●に刃物渡してしまったわけだな。

 で、ユージンはハリコンで頼れる仲間を集め、まずはヒルデ、次いで俺、最後にミシャをパーティーに入れて、様々な冒険をしながら旅を続け、二か月くらいかけて到着したのが、ここラクスタ王国の王都ラクスティアという経緯だ。


 その旅の間に、俺たちはエンゾという小さな村に立ち寄り、一晩の宿を求めた。

 宿屋もないような村だったが、村長が本当に気のいい老人で、快く寝床を貸してくれた。

 ただ……一つ可哀想な話があってな。

 村長にはメルという名前の、十四歳の孫娘がいたのだが、不治の病にかかって、寝たきり生活をしていた。


 それをミシャが見かねて、ヒルデに病気を癒す「キュアディジーズ」の魔法を使ってやるよう、言い募った。

 教会に行けば本来、金貨五枚はふんだくる魔法だ。

 ヒルデはそのことを散々にもったいつけながら、ミシャの説得のしつこさに根負けして、タダでメルに「キュアディジーズ」を使ってやった。


 ところが魔法は効かなかった。

 ヒルデの能力が足りないというよりは、メルのかかっている病気が特殊なようだった。


「こ、これは決して、私の信仰心が足りないとか、そういう問題ではございませんから!」


 とヒルデはムキになって主張していた。

 俺はいい気味だと思うよりも、それほどの難病を抱えるメルが哀れでならなかった。



 しかし現在、俺は〈攻略本〉のおかげで、メルの病気を治す手がかりをつかんだのだ。

『サブクエスト』の章内、『エンゾ村のメルを救え!』という項目に書かれていた。

 メルの病気は実は魔物(近郊に住むボスモンスターだ!)がかけた呪いで、その魔物を倒さなければ決して治らないのだと。


「エンゾ村か……」


 俺が行って助けてやるべきか否か、逡巡を覚えなかったと言えば、嘘になる。

 先ごろ習得できた〈タウンゲート〉の魔法のおかげで、近場の町までは一瞬で行ける。

 しかしそこからエンゾ村までが、片道三日の遠路なのだ。


 一宿一飯の恩があるとはいえ、そこまでしてやる義理はあるだろうか?

 また、あるとしたら俺一人ではなく、ユージンらも協力すべきではないのか?


 そんな詮無きことをつらつらと考える。

 でも、いくら思索に時間を費やしたところで結局、俺の心は最初から定まっていたようだ。


「行くか。エンゾ村」


 俺は立ち上がると、〈大魔道の杖〉を手に取り、宿を後にした。


    ◇◆◇◆◇


「これはこれは……お久しぶりです、マグナス様。勇者様はご一緒ではないので?」

「無沙汰をしたな、村長。ユージンとはいろいろあって、今は別行動をしている」

「ははあ、然様ですか……」


 エンゾ村の村長は、善人だがバカではない。何かゴタゴタがあったのだろうと察して、首を突っ込むような愚かな真似はしなかった。


「して、本日はどんな御用でしょうか? 私どもに協力できることがあればよいのですが」


 にこやかにそう言ってくれる村長。

 勇者と別れたという俺を、それでも粗略に扱わず、一人の人間として遇してくれる。こういうところが善人の所以だ。

 同時に、助けに来てよかったという気にさせてくれるではないか!


「実はな、この近くに住むボスモンスターを討伐したいのだ」

「ええっ!? マグナス様お一人でですか!? さすがは勇者様のお眼鏡にかなった、大魔法使い様は違いますな……」

「世辞はいい。ともかく、この村を拠点に使わせていただきたい」

「ええ、ええ、それでしたらどうぞ拙宅に、何日でもご滞在くださいませ。息子夫婦を流行り病で亡くして以来、部屋ばかり余っておりますので……」

「……病気といえば、村長。孫娘殿のことだが」

「メルがどういたしましたか?」

「まだ不確かなことなので、ぬか喜びをしないで欲しいのだが……もし件のボスモンスターを倒すことができれば、孫娘殿の病を治す一石になるかもしれん」

「本当ですか!?」

「いや、だからまだ不確かなことなのだ」

「こ、これは失礼いたしました……つい……」

「気持ちはわかる」


 恐縮して頭を下げる村長に、俺はすぐ上げるように頼む。

 なお、なぜ「不確かな情報」ということにしたかといえば、その方が事前に詳しい話をアレコレ説明しなくてすむからだ。

 俺が首尾よくボスモンスターを倒し、メルが快癒したら、すぐもうサヨナラできるからな。それが一番、面倒がない。

 俺はただのお節介でここに来ているし、この善良な年寄りと孫に、恩を着せることすら億劫なのだ。

 そう、決して照れ臭いからなどではない。決してな。


    ◇◆◇◆◇


 翌朝。

 少し予定外のことが起きた。


「いってらっしゃいませ、マグナス様!」

「どうかご武運を、マグナス様!」

「メルは本当に良い子です! どうか助けてやってくださいませ、マグナス様!」

「私どもではボスモンスターになど敵いません!」

「マグナス様だけが頼りでございます!」


 ――と。

 村中総出で、見送りされる羽目になったのだ。

 村長が、もしかしたら孫娘が助かるかもしれないといううれしさで、昨晩のうちに村中に触れ回ってしまったらしい。

 まあ別に何も問題はないが……気恥ずかしいではないか!

 俺は逃げるように、そそくさと村を後にした。

 善良な村人たちは、俺の姿が見えなくなるまでずっと見送り続けてくれた。


 そうして俺は、件のボスモンスターが生息する、エンゾの森に足を踏み入れた。

 そして、いくらもしないうちに気づく。

 後を尾行されていたのだ。


「おい。いったい何の用だ?」


 俺は振り返り、尾行者が潜んでいる木陰に、杖の先端を向けた。

 レベル28の上に、〈知覚の果実〉でカリッカリにドーピングした俺の〈ステータス〉を、舐めないでもらいたい。

 尾行者も腹を括ったか、姿を現した。

 厳つい男だった。

 背も高いし、肩幅が広くてゴツゴツしている。

 顔も強面の上、額と頬に大きな傷痕が残っていた。

 まさしくゴロツキめいた風体である。


「おまえは……」

この男、いったい何者……?


というわけで、読んでくださってありがとうございます!

毎晩更新がんばります!!

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