第十一話 グァバ海の海賊団(???視点)
前回のあらすじ:
“連盟”第三の党首ポポスから、海賊退治を請け負う。
「私」は遥か天空から、グァバ島近海の海原を俯瞰していた。
使い魔とした隼と視覚を共有することで、それを可能としていた。
本日、快晴。波模様も穏やかだ。
絶好の海賊日和であろう。
キャプテン・マンガン率いる五隻の船団が、一隻の客船に襲いかかっていた。
彼らの扱う海賊船は、皆小型で足が速い。
対して、グァバ島へバカンスに来る客たちを乗せた船は、快適さとゆったり寛げる空間を最優先するため、過剰に大きな設計となっている。当然、鈍足だ。
キャプテン・マンガンたちの牙から、逃れられる術はなかった。
とはいえもちろん、客船の方だとて防備はある。
戦いを専門とする船員たちを大勢乗せ、火矢の用意も十二分だ。
周囲を取り巻く海賊船に向けて、矢を射放つ戦闘員たちの表情には、余裕の色さえ見えた。
キャプテン・マンガンたちの船が全て小型なので、恐くはないのだろう。
「最近、ここらを荒らし回ってる海賊団というから、どんな連中かと身構えていたのにな」
「なんとも貧相な船が、たったの五隻だってよ!」
「いざ出くわしてみれば、しょっぱい連中じゃないか」
そんな嘲笑が、聞こえてくるかのようだった。
そう、確かに小型船はその分、火矢に対する耐久力が低い。
搭乗できる戦闘員の数も少ないし、イコール戦力に乏しいという考え方もできる。
客船を守って戦う彼らは、まさしく大船に乗った気分で、みすぼらしい海賊どもを撃退してやらんと、気を吐いていた。
なんとも旧態依然とした考え方である!
対してキャプテン・マンガンは、部下たちに矢戦をさせなかった。
代わりに甲板横にずらりと、長衣をまとい、杖を持った男たちを並べていた。
一隻につき、〈魔法使い〉が十人ずつ。計五十人。
全員、私の弟子たちだ。
キャプテン・マンガンの号令で、一斉に呪文を唱える。
「「「フラン・イ・レン・エル――」」」
〈ファイアⅡ〉が三発に、ただの〈ファイア〉が四十七発、文字通り火を噴いて、五方から豪華客船を滅多打ちにする。
その火力は、旧態依然とした火矢の如きの比ではなかった。
客船はたちまち炎上し、守っていた戦闘員たちも半壊する。
これだけの大型船、いきなり全焼轟沈ということにはならないが、ものの一時間もしないうちに、海の藻屑と果てるだろう。
キャプテン・マンガンは研いだ牙の一噛みで、獲物の喉笛を噛みちぎってみせたわけだ。
新しい――これからの海戦の在り方を、体現してみせたわけだ。
もっとも、キャプテン・マンガンの独創というわけではない。
我らが首領、キュジオ様が考案なされた新戦法である!
キャプテン・マンガンはその忠実な部下にして、師の教えを実行してみせる優秀な生徒の一人にすぎないわけだ。
豪華客船はたちまち白旗を揚げたが、無論、キャプテンたちは容赦をしない。
私の弟子たちを丁重にねぎらい、下がらせると、直属の手下へ乱暴に命じて、豪華客船に接舷させる。ここからはもう、魔法使いをわざわざ使う必要が薄い。代わって命知らずの海賊どもが、炎上する客船に乗り込んで、虐殺と掠奪の限りを尽くす。
船員たちは皆殺しだ。命乞いをする連中も、全員海に放り捨てる。
大昔の、ガレー船時代なら、漕ぎ手の奴隷として働かせるのが通例だったと聞くが、帆船が全盛を迎えた現代のカジウでは、生かしておいても邪魔でしかない。船の積載量も捕虜が食うメシも、有限だからだ。
一方、客たちは何人かを見せしめとして殺すだけで、あとは捕虜として連れ帰る。
娯楽のために長旅をするような、富裕層どもだ。生かしておけば、身代金がとれるという計算である。
特に女は、荒くれどもの慰み者としても使えるから、利用価値が高い。
キャプテン・マンガンなどに至っては、年端もいかない子どもであれば男も女も見境ないという、ド変態野郎だ(一応は味方ながらヘドが出る!)。
ともあれ海賊たちは、人物問わず戦利品を自分たちの船に満載し、意気揚々と隠れ家へ引き上げていく。
私は使い魔に命じて、キャプテン・マンガンのすぐ傍に下り立たせた。
荒くれどもを従わせるだけあって、厳つい風貌をした中年だ。
しかし、私の使い魔に気づくなり、手下たちには決して見せない、殊勝な態度をとる。
『ご苦労だったな、キャプテン』
「こ、これはネビス様! お疲れ様でございます」
『私は何も疲れていない。ただ、労ってくれるというなら、あとでこの隼に肉をやってくれ』
「クク、畏まりました。ちょうど先ほど、生肉をたっぷり仕入れたところですので」
『…………』
私もユーモアのつもりで言ったし、キャプテンがユーモアで返してくるのはエスプリというものだが、それがあまりにブラックというか品性に欠けるもので、私はちっとも笑えなかった。
さっさと本題に入ることにする。
『キュジオ様から、君へのお達しだ』
「おお! ぜひお聞かせくださいませ!」
キャプテンはこの場にいないキュジオ様に代わって、私の使い魔に向かい、ひざまずく。
大変よい心がけだ。さっきのブラックジョークはいただけなかったが、こういうところは感心である。後で、ちゃんと、彼の忠義のほどをキュジオ様にお伝えしよう。
『マグナスという男がいる。最近、このカジウにやってきて、アズーリ商会やトネーニ商会と組んで、妙な商売を始めては荒稼ぎをしている』
「ふむ……キュジオ様には敵わないまでも、かなりの商才の持ち主ということでしょうか?」
『正直、わからん』
「は……?」
『遭遇したのはたまたまのようだが、ケッセルがそのマグナスという男にやられ、海洋警察に捕縛された』
「なんと、あの凶悪な殺し屋が!? マグナスという男、それほどの力の持ち主で!?」
『らしいな。それで私も興味を持って調べたのが、まるで胡乱な経歴だ。どうもラクスタやアラバーナでは“魔王を討つ者”とまで呼ばれ、相当な有名人らしい』
「そんな御大層な人物が、カジウまで来ていきなり商売を始めた……と……?」
『理解に苦しむだろう?』
「苦しみますな……」
キャプテンが私に同意し、腕組みして唸る。
「ところでその“魔王を討つ者”とは、如何なる意味のあだ名なので?」
『そのままの意味らしい。マグナスという男、ラクスタやアラバーナでは、あの魔王を討つと嘯いて憚らず、そのための旅をしているのだとか。実際、“八魔将”のうちの二将までを討伐したという話だ』
「はあ……」
キャプテンが当惑顔になった。「どこぞの国の宮廷では、貴族たちが猫の毛皮を珍重するらしい」という話でも、聞かされたような顔だ。別世界の話すぎて、反応に困っている。
『とにかく、“八魔将”を討てるほどの男なら、それはケッセルでも敵うまいと、私とキュジオ様で同じ見解に至った』
「“八魔将”ってのは、そんなに強いんで?」
『識者たちの研究によれば、おそらくレベル25くらいという話だ』
「レベル25!?」
普通、〈レベル〉や〈ステータス〉という話は、王族でもなければ疎いものだ。しかし、さすがに25という雲の上の次元の話を聞けば、キャプテンだとて仰天する。至極当然の反応である。
「じゃあ、マグナスって奴も、そんくらいの〈レベル〉なわけですか……。そんなとんでもない奴が、なんでまたカジウに……」
『カジウのどこかにいる“八魔将”を、討ちに来てくれたというのなら、大歓迎なのだがな』
そう、それこそ大々的に支援してやってもいい。
そして、さっさとカジウから出ていって欲しい。
これも私とキュジオ様の見解だ。
『しかし、商売を始めたとなると、目障り極まりない』
「キュジオ様のご商売と、衝突する恐れもございますな……」
『ああ。早速そんな話の流れとなっているのだ』
「と、仰いますと?」
『君たち海賊団を退治すると、パライソ商会党首に請け負ったそうだ』
「げえ……」
キャプテンは顔面蒼白になった。
レベル25クラスの、人の皮を被った化物に目をつけられたと知れば、誰でもそうなるだろう。
『安心しろ。キュジオ様はお優しい方だ。しばらく海賊行為は控えてよいとのお達しだ。ほとぼりが冷めるまで、アジトでゆっくりしているがよい』
「お、おお……! さすがはキュジオ様、なんとご寛大な……!」
『その通り。妄りに配下を損なうような御方ではない』
キャプテンはホッと胸を撫で下ろした。
ますますキュジオ様への忠誠を厚くしたのは疑いなく、私も満足した。
ところが――天はどうやらキャプテンを、見放したらしい。
船のマストの天辺に設けられた、見張り台に立つ船員から、大声で警告されたのだ。
「キャプテーン! デッカい船が、近づいてきてますぜえ! ありゃ最新鋭船だあ! 戦艦にもなれる商船ですぜえ!」
言われて私は、見張りが指す方角へと向けて、使い魔の目をやった。
猛禽の鋭い視力は、望遠鏡など必要ともしない。
確かに近づいてくる大型船があった。
それも、私が最近見知った船であった。
『“希望のマリア”号……』
「な、なんですかい? 有名なんですかい?」
『マルム商会の――そのマグナスの船だ』
「ひぇっ」
キャプテンは情けない顔つきになって、悲鳴を漏らした。
でもすぐに、意を決したように、荒くれどもを率いる男の顔になる。
うむ、いい度胸だ。それでこそ、キュジオ様がお目をかける価値があるというもの。
手下どもに向かって、キャプテンは怒鳴り散らす。
「とにかく振りきれ! トンズラかまちしまえ!」
「む、無理です!」
「風がすっかり凪いじまってます!」
「さっきまであんなに順風だったのに……っ」
「これじゃあ進みません!」
「ナニィ!? じゃあなんであっちだけグングン迫ってきてんだよ!?」
キャプテンは目を剥くが、それももっともで、おかしな話だった。
しかし、その原因をあれこれ考えていられる場合じゃない。
『ともあれ、腹を括りたまえ。迎撃するしかないだろう、キャプテン』
「……ですね」
『なに、相手がどんな化物だろうが、ここは洋上だ。君たちの庭だ。キュジオ様ご考案の新戦法もある。マグナスという男ごと、あの船を沈めてしまえ』
「はッ。承知しました」
キャプテン・マンガンは再び、私の使い魔に向かってひざまずく。
『武運を祈る』
私は使い魔を羽ばたかせると、上空から海戦場を俯瞰する。
『さて、お手並み拝見させてもらおうか?』
私の呟きを聞く者はもうおらず、「誰の?」と問い返す者もまたいなかった。
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そして、ついに3章も11話に突入いたしました!!
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