表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~  作者: 福山松江
第三章  ワタシに〈ご命令ください〉と押しかけるメイド編(?)
66/183

第十話  楽園から来た男

前回のあらすじ:


“連盟”の一角、トネーニ商会の女党首アネモネと、協力体制を築く。

 ネルフ島における〈カトリの木〉の卸売りと、〈ゴムの木〉を使った新素材事業。

 バゴダード島における〈アラバーナ産竜舌蘭〉の卸売りと、〈天然アスファルト〉を使った新素材事業。

 その両方が順調に進み、アズーリ・トネーニ両商会との関係も、ますます良好なものとなっていった。

 俺、アリア、ショコラは〈タウンゲート〉を駆使して、ネルフ島とバゴダード島を頻繁に往復したり、時にはラクスティアに帰還したりと、忙しい日々をすごした。


 そんなある日のことである。

 トネーニ商会の本拠を訪ねた俺たちを、アネモネとともに待っていた男がいた。

 恰幅がよく、また溌剌とした陽気な中年で、


「お初にお目にかかります。パライソ商会党首の、ポポスと申します。お会いできて光栄です、マグナス様。アリア様」


 と、親しみを込めた挨拶をしてくる。

 百戦錬磨の営業スマイルは、心からうれしそうな顔だと錯覚させるほど。


「パライソ商会さんは“連盟”の一角で、この世の楽園とも呼ばれるグァバ島に本拠地があるんですよ」


 とアリアが陰で、ショコラに教えていた。


 そう、海辺の観光地として知られるカジウ一帯でも、最高とされているのがグァバ島だ。

 常夏の楽園と呼ばれ、美しい砂浜や海水浴を一年中いつでも堪能できる。

 グァバ島でしか採れない果物や海産物もどっさりある。

 暑さにうんざりしてきたら、森林浴で涼をとれる。島の真ん中に、まるで誂えられたような、豊かで安全で快適な森が存在するのだ。

 グァバ島はまさに神が幸福を約束したような、地上の天国というわけである。


 当然、主要産業は観光業。

 つまりパライソ商会は、おもてなしのプロというわけである。

 その党首が、営業スマイルのまま語り出した、


「実はわたくしどもは現在、大きな悩みを抱えておりまして。その解決を依頼しに、一昨日トネーニ商会様を訪ねて参ったところなのです。ですが、これも捨てる神あれば拾う神ありということでしょうか……そこで偶然アネモネ様に、マグナス様たちのお話を聞かせていただきました。なんでも、とてもユニークな商売をしていらっしゃるとか? よろしければわたくしどもにも一枚噛ませていただけないかと、ぜひお話を伺いたくて、ここでお待ち申し上げていたのです」

「なるほど、承知した」

「私たちマルム商会としましても、願ってもないお話です」

「おお、ありがたい!」


 俺とアリアが交互に答えると、ポポスは今度こそ本物の喜びを顔に出した。


「我々もいずれは、パライソ商会と提携を結びたいと考えていた」

「ぜひぜひ、トネーニ商会様やアズーリ商会様同様、弊社ともご懇意にしただければ――」


 ポポスは揉み手でそう言って、ではどんな提携を結びたいのかと、話をせがんだ。

 早速アリアが、ポポスにも負けない営業スタイルで語り出す。


「なんでもグァバ島の人々は、昔から風土病に悩まされてらっしゃるとか?」

「おお、よく御存じでいらっしゃる。そうなのです。グァバの島民は昔から、足が妙にむくんだり、痺れたりと、原因不明の病におかされるのです。ひどい場合には、なぜか心不全を起こして死に至ります」


 どんな天国にも、落とし穴はあるという話だな。


「ただですね、不幸中の幸いというか、島へ遊びに訪れるお客様には、不思議と罹患される方が全くいらっしゃらないのです。ですから、観光業には支障がないのです」


 だからと言って、放置していい問題でもないだろう。

 アリアがにこっとして言った。


「私どもマルム商会は、その病気の原因を存じ上げております」

「な、なんですと!? グァバの医師たちが、長年ずっとわからなかったものが!?」


 ポポスは仰天するあまり、その形のまま固まったようだった営業スマイルを、崩壊させた。

 一方、アリアと俺はもったいぶることなく、原因を教える。


「グァバ島の人々は毎日、美味しい果物や魚介類を食べて暮らすそうですね」

「一方、穀物や肉は滅多に口にしない」

「え、ええ。仰る通りです。グァバ島は、果物や魚介なら美味しいものがいくらでも、タダ同然で食べられるのです。わざわざ田畑を耕そうという島民はおりません。当然、家畜を飼うわけにも参りません。狩人たちが森の獣をごく少量、獲ってきますが、それも高価で、お客様の皿に上るだけです」

「でも、その偏った食生活が、病気を引き起こすんです」

脚気(かっけ)――と呼ぶ国もあるらしいな」


 本当は〈攻略本〉に書いてあった情報だが。


「と、ということは、食生活を改善すれば、我が島の風土病は根絶されるということですか!?」

「ああ、間違いなく」

「豚肉を食べるといいみたいですよ。それと穀物ですね。なるべく精製しないお米とか麦とか。あと、とうもろこしとか」

「マルム商会は現在、アラバーナへの食糧輸出業が成功しているんだが、ポポス殿が望まれるのであれば、グァバ島にも卸す用意がある」


 俺とアリアに左右から説明されて、ポポスはだらだらと汗をかいた。

 にわかに信じがたいのだろう。だが同時に、説得力も感じているのだろう。

 俺たちマルム商会と組んだおかげで、アズーリ・トネーニの両商会が活性化していることを、彼はアネモネから聞かされているはずだ。


「まあ、こちらも今すぐ決断して欲しいと、迫るつもりはない。ゆっくりと考えていただきたい、ポポス殿」

「は、はい、助かります、マグナス殿」

「それよりも、俺たちはグァバ島から買い付けたいものがあるんだ」

「な、なるほど。しかし、マグナス様のお眼鏡に適う物が、我が島にありましたでしょうか?」


 すっかり気圧されたポポスは、ぎこちなくなった営業スマイルのまま、首を傾げる。

 グァバ島の主要産業は観光業で、この形のないものを買って帰るわけにはいかない。

 といって果物や海産物も、保存が効かないので交易品に向いていない。果物はジャムにしたり、海産物は干物にしたりと、加工することで保存に耐えるが、それはわざわざグァバ島から買い付けるほどの代物ではない。


 では、俺たちが欲しいのは何か?

 答えは島のど真ん中――豊かな森の中にある。


「俺たちは〈リグナムバイタの木〉を買い付けたいのだ」


〈攻略本〉には〈癒瘡木(ゆうそうぼく)〉の名で記載されているが、グァバの島民は古くから「リグナムバイタ」と呼び表しているらしい。

 俺はまだ現物を目にしたことがない。

 というのもこの木は、世界でもこのグァバ島にしか自生していないらしい。

 そして、この〈リグナムバイタの木〉は――妖精の森などにある、魔力を帯びたレアウッドを例外とすれば――世界で一番硬い木なのだそうだ。

 それは木材として、一つの有用な特徴を持つということ。

 ただし、硬すぎる分それだけ伐採や加工には骨が折れる。また、幹が細いため建材として用途が限定される。などなど、欠点も多い。決して夢の木材というわけではない。

 海運の手間も考慮すれば、今まで買い手が現れなかった理由はその辺りにあるだろう。


 だから、ポポスも満点の営業スマイルで乗ってきた。


「ええ、ええ。マグナス様が仰るなら、いくらでもご用立ていたしますとも」


 観光業しかなかったグァバ島に、林業も根ざすことができるかもしれないと知って、ほくほく顔だ。

 脚気対策の食料品卸売りが、俺の「当初の計画表」にあった商売なら、〈リグナムバイタの木〉にまつわる林業は、アリアと相談して付け加えた三方良しの事業である。


「そういうことでしたら、マグナス様。わたくしどもも豚肉や穀物の輸入を真剣に検討させていただきます」

「ああ、末永いおつき合いを願いたいものだな」

「――ただ、そうなると船団を組んで、材木や食料を海運するという話になりますよね?」


 ポポスにいきなり切り出され、俺とアリアは一様にうなずいた。

 実はグァバ島との交易に、〈タウンゲート〉は十全に使えない。

 極めて便利なこの魔法にも、「人口一万人以上の大きな町しか、転移先に指定できない」という制約があるのだ。

 そして、観光業で成り立つグァバ島は人口が少なく、さらに島全域に町を散開させて作っているのだ。


 ゆえにグァバ島に俺かナディアが何度も足を運んでは、〈タウンゲート〉でラクスティアとの転移門を開くということはできる。できるが、あまりに手間すぎる。それよりは隣島のバゴダードを中継地に、グァバ島との交易は船団に任せる方が現実的だ。


「しかし船団を組むと、何か問題がおありか? 観光客に迷惑がかかってしまうか?」

「いえいえ、その点はマルム商会様もご配慮いただけると信じておりますし、心配はしておりません。ただ、ここでわたくしどもが、トネーニ商会様を訪ねた問題が関わってくるのです」


 そういえば、ポポスが当初バゴダードを訪ねた理由があったのだったな。


「実は――最近、海賊被害が増えてきたのでございます」


 さしものポポスも、顔に渋いものを浮かべて言った。


「グァバ島までいらっしゃるお客様は、裕福な方々が多くございますから。連中はその皆様を乗せた船を狙って、神出鬼没にグァバの海を荒らし回っているのです。まして船団など組もうものなら、真っ先に狙われてしまうかと」


 なるほど、ポポスがトネーニ商会を頼るわけだ。

 トネーニは半分カタギじゃないというか、“連盟”の中でも武闘派で知られるから、みかじめ料を払ってでも、グァバの海を守って欲しいという話か。


海洋警察(カリオストロ)に訴えは?」

「真っ先にいたしました。しかし効果が上がらず、藁をもつかむ思いで、トネーニ商会様にもお願いに上がった次第です」

海洋警察(カリオストロ)の手にも負えないということは、かなり巧妙な海賊団ということか……」

「はい……。アネモネ様にも、ならばお手上げだと言われてしまいました」

「ふうむ」


 俺はアリア、ショコラと顔を見合わせる。

 そういうことなら仕方がない。


「承知した。ならばその海賊団、俺たちがなんとかしよう」


 退治できる者が腰を上げるしかない。

 グァバの海が荒れて困るのは、俺たちも同じなのだから。

読んでくださってありがとうございます!

毎晩更新がんばります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拙著「追放村」領主の超開拓、のコミカライズ連載が始まりました!
こちらピッコマさんのページのリンクです
ぜひご一読&応援してくださるとうれしいです!
― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。いつも楽しく拝読致しております。異世界の話であるものの、まさか近江商人の行動哲学である「三方良し」や「江戸患い」こと脚気の話が出て来たのには驚きました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ