表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~  作者: 福山松江
第三章  ワタシに〈ご命令ください〉と押しかけるメイド編(?)
63/183

第七話  法の番犬 ロレンス

前回のあらすじ:


ヨーテルが性懲りもなく殺し屋ケッセルと殴り込みに来たが、一蹴

 俺――〈魔法使い〉マグナスは、ロレンスという警察隊長と、握手を交わしていた。


「こんな夜分に駆けつけてくれて、助かった。お礼申し上げる」

「いや、礼を申し上げるのはこちらの方だ。マグナス殿の通報のおかげで、長年追っていた重犯罪容疑者(ケッセル)を、現行犯で捕えることができた」


 固い握手を交わしている間にも、互いに相手を値踏みする。



 ――そもそもカリオストロとは、海洋警察とは何か?

 彼らの発足もまた百年前に遡るという。

 

“南の海賊王”は、九人の優れた息子たちにそれぞれ、島を一つずつ分け与えた。

 今日(こんにち)、“連盟”と呼ばれる九つの大商会の、ルーツだな。


 一方で“南の海賊王”は、最も頼れる腹心だったカリオストロに、一つの組織を任せた。

 王の下でせっかく一つにまとまり、平和になったカジウの海域が、再び海賊団の群雄割拠する、戦乱の海にならないように。

 抑止のための武力と警察権を背景に、カジウの全ての民と商会に、法と秩序を守らせるための組織。たとえ相手が“連盟”であっても例外を認めず、断固として取り締まることのできる組織。

 それが、カジウ海洋警察ことカリオストロだ。

 名前の由来はもちろん、初代警察長官から来ている。


 この初代長官、よほどに優秀な人物だったらしい。〈攻略本〉をひもとかずとも、歴史書等にいくらでも詳述されている。

 彼が立ち上げ、整備した組織(カリオストロ)は極めて完璧に近く、おかげで百年経った今でも、まずまず腐敗や弱体化することなく、実質を保っている。カジウの法と秩序を守り、抑止力として怖れられている。

 それは“連盟”ですら例外でなく、悪事を犯せばきっちりと海洋警察(カリオストロ)に裁かれる。これを揉み消すことはほぼ不可能。

 と――海洋警察(カリオストロ)はカジウにおいて、そういう立ち位置にいる組織なのだ。



 そして、このロレンスという男は、現海洋警察(カリオストロ)の中でも有名人らしい。こちらは〈攻略本〉情報だ。

 異名は“法の番犬”。

 巨大な悪事をどこからともなく嗅ぎつけ、糾弾すること数知れず。善人からは尊敬を込めて、悪人からは畏怖を込めてそう呼ばれているという。

 組織の使い方が巧みで、部下には慕われ、自身も剣の達人――レベル23の〈剣士〉――と三拍子そろっている。

 何より()()()()()()()()()、ストイックな男だと。


 実際に会ってみて、俺はその情報以上に、ロレンスからは切れ者然とした凄味を感じた。

 そして、握手をしたまま彼の方も言い出す。


「マグナス殿は〈魔法使い〉だと仰っていたが……」

「如何にも。先ほどの〈サンダー〉は、ロレンス殿もご覧になったはずだが?」

「それにしては不思議だ」

「ほう。というと?」

「マグナス殿と仮に剣で仕合っても、まるで勝てる気がしてこない」

「ははは、それはご謙遜もすぎる!」


 俺は笑い飛ばすことにした。

 半分本音で、半分は韜晦(とうかい)だ。


 このロレンスという男、素晴らしい眼力をしている。

〈魔法使い〉ではあるが、遥かに高レベルの俺の方が、〈力〉や〈素早さ〉といったステータスでも、彼に勝っていることを見抜いている。


 ただ……仮に白兵戦を演じれば、果たしてどちらが勝つだろうか?

〈スキル〉の使い方を含めた、戦法の組み立てようによってはロレンスにも分はありそうだが。

 何しろ俺は前衛職の〈スキル〉は一切有していないし、一方で〈剣士〉というのはその名の通り剣しか装備できない代わりに、多彩な〈スキル〉を習得できるからな。


 まあしかし、正直に言って興味が薄いな。

 別に白兵戦ならロレンスが上ということで、何も問題はない。


 俺がそう思った一方、ロレンスの感想は違うようで、


「オレとしては、マグナス殿が法を遵守してくれることを、ただただ祈るしかないな」

「こう見えて善良な男で通っているんだ。安心していただきたい」

「けっこう。カジウへようこそ、マグナス殿。貴殿の善良な商売が上手くいくことを祈っている。だが――」

「だが?」

「もし貴殿がカジウの法を破ったその時は、オレは絶対に許しはしない。マグナス殿がどれだけ強大な力の持ち主であろうと、オレは――オレたちは見過ごしたりはしない。必ず然るべき裁きを与える」

「さすがは“法の番犬”! 見事な胆力だ!」


 いかにもな優男然としているが、芯に一本通っている。

 こういう気骨のある男が、平和と秩序を守っているからこそ、カジウは商人の楽園足り得るのだろうな。

 

 ロレンスが部下たちを指揮し、捕縛したヨーテルやケッセルたちを連行していく様を、俺はショコラとともに見送る。

 すると、フェリックス邸の玄関が開かれ、アリアと赤子を抱いたハンナ夫人が姿を見せた。


「お怪我はないですか、ショコラさん?」

『ふぇ? アリア様は、マグナス様ではなくて、このワタシをご案じくださるのですか?』

「だってマグナスさんは、これしきのことでどうにかなる人じゃありませんから」

『うわあああ、うれしいです、アリア様あああああ』

「ちょ、待って、感激しすぎでしょう!?」


 ショコラに思いきり抱きつかれて、アリアが当惑していた。


 一方で、ハンナ夫人は海洋警察(カリオストロ)たちを見て――より正確にはその隊長を見て、瞠目していた。


「ロレンス……?」

「……我々はこれで失礼させていただきます」


 ロレンスの方はハンナ夫人に気づくなり、あからさまに顔を背けていた。特に、彼女が抱く赤子――フェリックスの嫡子であるリンクから、目を逸らしていた。

 そして部下と犯人を率いて、そそくさと立ち去った。


「ロレンス……」


 ハンナ夫人が、肩を落として消沈する。

 ()()()二人は顔見知りらしい。しかも、何やら深い事情があるようだ。

 まあ、他人である俺たちが、立ち入るものでもなかろう。


『ロレンス様とお知り合いなのですか、奥方様?』


 立ち入るものではないというに!


 俺が半眼になってにらむと、ショコラは『えへへ』とばつが悪そうにした。いつもの硬い表情のまま、器用に。


 対してハンナ夫人は愛想笑いを浮かべ、


「構いません、マグナス殿。別に大した話ではないんです。わたくしとロレンスは、同い年の幼馴染同士だったんです」

『もしや将来を誓い合った仲でいらっしゃったとか?』

「こらショコラ!」


 おまえは未亡人に何を訊いているんだ……。


「ふふ、当たらずといえども遠からずですね」


 俺はハラハラしながら夫人の様子を見ていたが、彼女は愛想笑いを苦笑いに変えるだけで、なんでもないことのように教えてくれた。


「実は二十歳の時に、わたくしの方から勇気を出して求婚したのです。でも、ロレンスには袖にされてしまいました。今ではそれでよかったと思います。おかげでわたくしはフェリックスという素晴らしい夫との間に、最愛の息子を儲けることができましたから――」


 よく寝ているリンクを、優しく見つめるハンナ夫人。

 その横顔は、たとえ苦笑いを浮かべていようとも、逞しい母親の顔つきに違いなかった。


「――ええ、周りには『弟がダメなら兄に乗り換えるのか』だとか、『要するに財産目当てか』だとか、さんざんになじられましたけど。今となってはほんの些事にすぎなかったと思います」

「えっ!?」

『では、ロレンス様とフェリックス様は御兄弟だったのですか?』


 びっくりするアリアとショコラ。

 一方、俺に驚きはない。そう、『出自を鼻にかけない、ストイックな男』という記述とともに、〈攻略本〉に載っていたからだ。

 

 ただ、ロレンスが何を思って家を出て、海洋警察(カリオストロ)に身を投じたのか、そこまでは窺い知れない。当然、〈攻略本〉にも載ってはいない。

 ロレンスは先ほど、ケッセルを追ってこの島に来たと言っていた。恐らく嘘はないだろう。実際、兄であるフェリックスが亡くなってしばらくが経つが、ロレンスは葬儀どころか、墓参りにすら一度も顔を出していないのだから。


 気にならないと言えば嘘になるが――まあ、今はいいだろう。

 それよりも、ちょうどいい機会だ。

 俺はハンナ夫人に申し出る。


「この島での商売も軌道に乗ってきた。ヨーテルは囚われ、アズーリ商会もあなたの下で蘇るだろう。今後ともマルム商会と、よいおつき合いを願いたい」

「こちらこそ願ってもいないことですわ。ぜひ今後ともよろしくお願いいたします」

「ありがとう、夫人。その上で、知っていていただきたいことがある。俺たちがカジウに来た、()()()()()だ」


 俺は一度言葉を切り、声を潜め、小首を傾げた夫人に告げた。


「俺は“南の海賊王”が残した、三つの財宝を手に入れたいと思っている」

「まあ!」

「正確には三つのうちの一つ、〈海嘯の剣〉だけでいい。あなたも“連盟”の一角に輿入れしたなら、伝承はご存じだろう? 海賊王の三つの財宝を継承するには、途方もない額の金貨と、海賊王直系男子の血筋が必要だ」

「は、はい……。夫からも聞かされておりました」

「ならば話が早い。言いたいことが、わかってもらえるだろうか?」


 途方もない額の金貨ならば、俺とアリアでがんばって用立てする。

 しかし直系男子の血筋は、逆立ちしても不可能だ。

 ゆえに俺は誰か一人でいい、“連盟”党首の協力が必要なのだ。ゆえにアズール商会党首に、白羽の矢を立てていたのだ。

 だが、フェリックスは亡くなった。


「このリンクを……海賊王の継承者にしたいと、そう仰るのですか……?」

「それが俺が〈海嘯の剣〉をいただく、せめてもの見返りだと考えている」


 とはいえ正直、気が引けている。

 判断能力のない赤子を、継承者にしてしまってよいものかどうか……。


「今すぐどうこうという話ではない。だから、考えておいていただきたい。もちろん、いつでも断ってくれても構わない。それでマルム商会との関係が気まずくなるとか、そういうことは絶対にない。お約束する」

「ふふ、マグナス殿は意外と気遣いの人でいらっしゃるのね。わかりました。ゆっくり考えさせてくださいまし」


 夫人の言葉に、俺はうなずく。

 たとえ最終的に断られることになったとしても、アズーリ商会が強力な味方になってくれたことは疑いない。

 そう、俺たちがネルフ島に来たことは、決して無駄ではなかったのだ!

読んでくださってありがとうございます!

毎晩更新がんばります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拙著「追放村」領主の超開拓、のコミカライズ連載が始まりました!
こちらピッコマさんのページのリンクです
ぜひご一読&応援してくださるとうれしいです!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ