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「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~  作者: 福山松江
第三章  ワタシに〈ご命令ください〉と押しかけるメイド編(?)
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第六話  悪行の報い(ショコラ視点)

前回のあらすじ:


タウンゲートを駆使し、善良な商売で、ヨーテルのあくどい商売を叩き潰す。

 ワタシ――サーヴァントのショコラは、ドキドキの潜入作戦中です。

 もちろん、マグナス様のご命令を受けてのことです。

 マグナス様が「ヨーテルがフェリックス殿を裏切ったのは、果たして奴自身の発案なのだろうか……」と、物憂げな顔で独り言を仰っていたので、すかさずワタシが『調べて参ります』と志願したのです。


 アンニュイなマグナス様の横顔もステキですけど、やっぱりご主人様には笑顔でいてもらいたいものですよね!


 マグナス様は最初、「い、いや、要らんことをするな」と仰ってました。

 お優しい方ですので、いつもこうなんです。ワタシのことを大事に思うあまり、ご奉仕させてくださらないのです。

 ですが、ご奉仕してこそサーヴァント!

 ワタシは重ねてお願いしました。


『イかせてください、マグナス様。でないともう、この体の疼きを抑えられません。後生ですからイかせて! イかせて!』


 と何度も懇願しました。

 すると、血相を変えたアリア様が走ってやってきました。

 そして、マグナス様に状況を確認し、またワタシの着衣に全く乱れがないことを、手で触れて念入りに確認なさると、ホッと一息。

 でもすぐに冷え冷えとした表情になって、


「行かせてあげればいいじゃないですか。ショコラさんがそのまま帰ってこなかったところで、自業自得でしょう?」


 と、マグナス様を説得してくださったのです。

 アリア様も大変お優しい方なんです。


 そういうわけで、やって参りました深夜のヨーテル邸。

 お屋敷というほど豪邸ではなく、庶民の家よりは大きくて立派なお宅です。あの男にぴったりの中途半端さですね。

 ワタシは早速、屋根裏に潜入して、ヨーテルの姿を探しました。

 バゼルフ様に改造してもらって以来、今のワタシは可愛いだけでなくて、料理洗濯戦闘隠密なんでもござれの高性能メイドさんです。

 屋根裏のネズミさんよりずっと静かに、すぐにヨーテルを発見しました。

 直下から声が聞こえたので、指先で天井に穴を開けて、覗き見ます。


「ううう……どうすればいいのだワシは……っ。このままでは破産だ……っ。首を吊るしかないぃぃ……!」


 書斎にこもって、頭を抱えていました。

 執務机の上には大量の空いた酒瓶と、一本のロープが置かれています。

 でも、ワタシは同情しませんよ? こういう死ぬ死ぬ言うタイプって死ぬ勇気なんてないのが相場です。

 そして実際、そうなりました。


「ずいぶんと落ち込んでいるな、ヨーテル」


 と、怪しい覆面男が書斎の出入り口から現れたのです。


「こ、これはケッセル様! どうしてこちらに!?」

「無論、キュジオ様のご命令だ。おまえが商売で苦戦していると聞きつけ、キュジオ様は大変に心配しておられた。それで、おまえに助けが必要な頃合いではないかとお考えになって、このオレを派遣なされたのだ」

「さ、さすがはキュジオ様っ。お優しいだけでなく、なんたる深謀遠慮……っ」

「ふふふ、そうであろうよ」


 むむむ……なんだか怪しい雲行きになってきましたね?


「さあ、言え。オレに誰を殺してきて欲しい?」

「で、でしたらケッセル様……! マグナスという若僧とマルム商会の娘、ついでにハンナ母子をお願いしたく……」

「ははは、欲張りなことだな。だが、よかろう。キュジオ様の計らいだ。引き受けよう」


 雲行きどころか雷雨ですね!


 これはマグナス様にお報せせねばなりません。

 ワタシはこそ~っとヨーテル邸を後にしました。

 しかしさすがはマグナス様! ヨーテルの背後に糸を引いてる黒幕がいることも、読み読みでしたね。


    ◇◆◇◆◇


 ケッセルという男、どうも暗殺者というわけではないようでした。

 大きな剣を携え、直属の手下っぽい覆面集団を大勢引きつれて、ハンナ様のお屋敷に正面から、堂々と殴り込みをかけてきました。

 その夜のうちのことです。


 全員、既に抜剣状態と()る気満々。

 そして覆面集団の中には、ヨーテルのネズミ面も混ざっておりました。

 だいぶん気が大きくなっているみたいで、早や勝ち誇ったようにふんぞり返っています。

 それだけケッセルたちの戦闘力を、信頼しているのでしょうね。

 ()()()()()()()()


 ワタシはそんな皆さんを、屋敷の玄関前でお出迎えしました。

 ちゃんと玄関先のカンテラに、灯りまで燈して差し上げて。


『こんばんは、お客様。我が主人より皆様の接待を申しつけられました、ショコラと申します』


 ミニスカートの裾をつまんで少し持ち上げて、可憐に一礼します(いっぱい練習しました!)


 前庭でたむろする覆面集団さんたちに、たちまち動揺が走ります。

 まさか、ワタシが待ち構えているだなんて、夢にも思っていなかったのでしょう。

 ただ、ケッセルだけは余裕風を吹かせていました。さすがの貫録ですね。

 そして、手下さんたちに向かって、静かに命令します。


「家人は皆殺しだ。命令変更はない」


 そう言って、自ら率先して襲いかかってきます。

 抜き放った剣からは、魔力が感知できました。〈サンダーソード〉ですか。買えば金貨一万枚くらいするかも? お金持ちですね。


 ちなみにワタシ、マグナス様に「この時代の常識を憶えた方がいいぞ」とご命令されて以来、日々一生懸命勉強していますから。貨幣価値とか物の相場とか詳しいですよ(えっへん)。


「死ね。メイド」


 ……とと、油断はいけませんね。

 ケッセルが静かな殺気とともに、斬りつけてきました。

 高価な武器に見合う、かなりの腕前ですね。

 これは()()()()()()()()()()()()()()


 だからワタシは全力で反撃しました。

 小柄な体格を生かして、ケッセルの斬撃の下を掻い潜るように、懐に滑り込みます。

 そのまま手刀でケッセルの右膝を叩き、一撃で砕いておきました。

 我ながら上出来、一瞬の早業ですね。


「いぎぃっ!?」


 ケッセルは驚きと痛みで情けない悲鳴を上げると、無様にもんどりうちました。

 折れた膝から下があらぬ方へ曲がったまま、立ち上がれずにバタバタもがいていました。

 それまでのプロっぽい態度が台無しです。


『ワタシの反撃と戦闘力が、そんなに意外でしたか? 油断大敵ですよ?』


 優しいワタシは、満面の笑みでアドバイスしてあげました。


「お、お助けくださいっ。お許しくださいぃぃぃっ」


 ケッセルはまるでバケモノでも見るみたいな目で、ワタシの顔を見上げていました。

 失敬な!


 しかし、ボス格の彼があっさりやられたことで、手下たちが凍り付きます。ありていに言って戦意喪失というやつですね。

 一方、収まらないのはヨーテルです。


「何をしておるか、貴様ら! 小娘一人、囲んでやってしまえ!」


 と、わめき散らします。

 小娘一人と仰いますが、今のワタシ、魔法帝国が生んだ殺戮生物(ガーディアン)でもあるんですよ? 戦いのことを知らない素人は言うことが無責任でいいですね。

 手下の方々も、「じゃあ、おまえがやってみろよ」と言わんばかりの空気になります。百万言より雄弁な沈黙です。


 ヨーテルもまるきりバカではないので、その空気を読んで方針を変えました。


「なら、数に任せて屋敷へ突入だ! あのマグナスとかいうヒョロガキだけでも殺してこい!」


 聞いた手下の方々も「まあ、それなら」という空気になります。戦意が蘇ります。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「マグナス様。お客様方がこんなことを仰ってますが?」


 ワタシは二階のバルコニーへ向かって、声をかけました。


「ショコラの歓迎で満足してもらえんとは、困ったお客だな」


 すぐにマグナス様のお返事がありました。

 ええ、ワタシのご主人様は、最初からずっとそこにいらっしゃいました。

 気づいた襲撃者(おきゃく)の皆様が、くぐもった驚声を漏らします。

 仕方ないと思いますよ?

 こんな夜更けに、玄関カンテラに煌々と灯りが点いて、ワタシのような可愛いメイドさんがお出迎えしたら、そちらに気を囚われますよね。灯りのついてないバルコニーで、静かに見守っているマグナス様の方へは注意がいきませんよね。


「俺はショコラと違って、歓迎も手加減も得意ではないのだがな」


 マグナス様は苦笑とともにそう仰いました(褒められた!)。

 バルコニーにワタシが用意したテーブルセットで、優雅に典雅に寛いでらっしゃるそのお姿は、まさに王者の貫録がございます(ワタシの欲目?)

 しかし、マグナス様のなんでもない台詞に込められたその迫力に、お客様方も気づいたようです。一様に息を呑んで、体を強張らせています。

 そして、ダメ押しにマグナス様は呪文を詠唱されました。とっても美声で、音楽的ですらある韻律です(ステキ!)。


「ティルト・ハー・ウン・デル・エ・レン」


 マグナス様が夜空に向けて放った〈サンダーⅣ〉が、あたかも昇竜の如く闇を切り裂き、翔け抜けていきます。

 轟く雷鳴が耳をつんざき、前庭まで届いた衝撃波だけで体がビリビリしてしまいます。

 ケッセルが仰向けに寝転がったまま、恐れおののいておりました。


「サンダー……Ⅱ? いや……もしや、Ⅲか……? ネビスでさえ、未だ習得に至らぬと言っていた……?」


 だから〈サンダーⅣ〉ですってば。

 マグナス様の大器を、あなたの常識では測れないのも仕方ない気がしますが。

 でも、自分が誰を襲撃しようと企んでいたのか、その愚かさを遅まきながら思い知ったようですね? ワタシなんかに敵わないようでは、マグナス様に太刀打ちするなんて夢のまた夢です。嗚呼、ワタシの優しくも畏ろしいご主人様♪

 まして手下の方々やヨーテルはもう、恐慌状態で逃げ散っていこうとします。


 しかし、無駄なことですよ?

 皆さんの退路は既に断たれているのです。

 マグナス様の〈サンダーⅣ〉は、無用な流血を避けるための示威であると同時に、外へと向けた合図でもあったのです。


「全員、その場に伏せて、手を頭の後ろで組め!」

カジウ海洋警察(カリオストロ)だ!」

「従わない者には容赦せんぞ!」


 カジウの法の番人である海洋警察(カリオストロ)の皆様が、屋敷の面した通りのあちこちから、ワラワラと現れました。

 皆さん、開閉式のランタンを一斉に開けて、その光でヨーテルや覆面集団さんたちを照らしつけます。


 ワタシの潜入活動のおかげで(ここ大事)、彼らが襲撃してくるってわかってましたから。マグナス様が先手を打って、海洋警察(カリオストロ)の詰所に人を走らせて、呼んでおいたのです。

 現行犯ですから、ヨーテルたちも言い逃れできませんよ!


 そして、海洋警察(カリオストロ)の先頭に立つのは、二十代半ばくらいの、背が高くてすらっとした青年でした。

 南国の人とは思えないほど色白です。何よりハンサムです。マグナス様とどちらが上かと比べたら……そうですね。女の人が十人いたら、ワタシとアリア様以外の八人は、あちらを選ぶのではないでしょうか?


 そのハンサムさんを見るなり、ヨーテルたちが悲鳴を上げました。


「げえっ、ロレンス!? どうして“法の番犬”がここに!?」

「内偵させていた部下から、ケッセルが動いたと聞いてな。後を追ってきてみれば案の定だ」

「ぐぬぅ、聞きしに勝る敏腕よなっ」

「理解したなら縄につけ。オレの剣の錆になる方がいいなら、手間は惜しまんが?」

「くぅ……っ」


 ヨーテルは観念したように、その場で膝をつきました。

 天網恢恢ってやつですね。

 これから法のお裁きを受けて、その後〈バライの実〉の商売に失敗した分の借金をなんとかしてと、大変な人生が待っていると思いますけど。身から出た錆なので、がんばってくださいね。

 ワタシ、かげながらおうえんしております。

読んでくださってありがとうございます!

毎晩更新がんばります!!

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拙著「追放村」領主の超開拓、のコミカライズ連載が始まりました!
こちらピッコマさんのページのリンクです
ぜひご一読&応援してくださるとうれしいです!
― 新着の感想 ―
[気になる点] 〉天網恢恢疎にして漏らさず そんな言葉があるのか、知らなかった。 でも、法を使う側である王や軍隊は、バレなければ(あるいはバレても)いじめ放題、悪行し放題のような気がする。 実際なぜ…
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