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「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~  作者: 福山松江
第三章  ワタシに〈ご命令ください〉と押しかけるメイド編(?)

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第四話  忘恩の元番頭 ヨーテル

前回のあらすじ:


マグナスが協力を得ようとしていたアズーリ商会の党首フェリックスは、毒殺されていた。

それでマグナスとアリアは、未亡人となったハンナたちと協力することを決定。

 ネルフ島に到着した俺たちは、ハンナ夫人に招待され、彼女の邸宅で一泊した。

 俺たちは用心棒代わりにもなるので、彼女も安心できたことだろう。

 夫を亡くしたその夜に、熟睡できるかどうかは別の話として……。


〈攻略本〉によれば、ネルフ島は『土地の半分を密林が覆い、滝のような雨が降る』と書いてあった。しかし、聞きしに勝る高温多湿の環境で、ひどく寝苦しかった。

 蚊の多い土地柄でもあり、虫除けのために焚いたお香の悪臭もキツい。


「眠れたか、アリア?」

「いいえ、あんまり」

「だよな」

「あはは……」


 翌朝、俺たちは互いに苦笑いを浮かべた。


『でしたらワタシにご命令ください。一晩中、お二人を扇いで差し上げます。お香なんて焚かなくても、近づく蚊は一匹残らず殺戮して差し上げます』

「そんな極端な真似はせんでいいッ」

『それがご命令ですか? マグナス様はやっぱり優しいです』

「常識的なだけだ常識的な」


 と、ショコラともそんなやりとりをしながら、三人で出かけた。

 早速、ヨーテルの顔を拝みに行ったのだ。

 留守を頼んだバルバス船長と彼の部下たちは、かなりの武闘派とのこと。屋敷の警護は充分足りる。

 代わりにハンナ夫人から、忠義厚い社員を一人、案内役に借り受ける。


「この時間なら、野郎は港の倉庫にいるはずです」


 と、その青年の言う通りだった。


 船倉に巣食うネズミみたいな顔をした中年が、忙しなく手下をコキ使っている。

 こいつがヨーテルだ。


 そして、あちらの方でも俺たちの顔に気づいた。


「ヨーテルさん! あいつらです、昨日オレらを海へ叩き落とした奴らは!」

「ば、バケモンみてえに強いんでさあっ」

「何しに来やがったんだ、あいつら!?」

「ヒャ……ハハ……っ、ボコられてえ奴は、どこ……だあ……?」


 と、手下どもはすっかり怯えきった様子だった。

 しかし、ヨーテルはそんな手下どもを見て、小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。

 それから恐れげなく、俺たちの方へとやってくる。


「うちの社員に対し、不当に暴力を振るったというのは、貴様らで間違いないかね?」


 修羅場慣れしているのか、意外とドスの利いた声で詰問してくる。


 俺はすっ呆けて答えた。


「さあ、知らないな」

「しらばっくれるんじゃない! 貴様に殴られたと、うちの社員が訴えてんだよ!」

「知らんものは知らん。もっとも俺たちの船に対し、海賊紛いの真似をした怖れ知らずどもを、成敗してやった記憶ならあるが」

「貴様、いけしゃあしゃあと!」


 激昂するヨーテル。


「憶えておけよ、若僧? いずれ商売が落ち着いたら、必ず貴様を法の下に引きずり出して、昨日の狼藉を裁いてやるからな!?」


 意訳すれば、「いずれアズーリ商会の乗っ取り騒動も落ち着き、ネルフ島での影響力が盤石になったら、カジウの法を守る海洋警察(カリオストロ)たちへの融通も利くようになるので、その時に不当な裁きを与えてやる」と言ったところか。


「ワシは極めて忙しいんだ! 今が稼ぎ時なんだよ!」


 ヨーテルは捨て台詞を残して、去っていこうとした。

 俺は奴らの倉庫に山と積まれた「商品」を観察しながら、その背中に向かって言った。


「乾燥させた〈バライの実〉か。これだけ大量に集めようと思ったら、相当前から段取りをつけていなければならなかっただろうな」

「ああ、そうさ。価値のわからんボンクラが、安値で捌こうとしていたがね! ワシはそんな愚かな真似はせん。こいつで大儲けよ!」


 ヨーテルは立ち止まると、振り返って高笑いをした。

 俺たちの前で勝ち誇ってみせたくて、堪らない様子だった。



 ――繰り返すが、ネルフ島は蚊の多い土地柄だ。あまりにたくさん刺されると、怖ろしい風土病も引き起こす。〈攻略本〉にもそう書いてある。

 そこでネルフ島の人々は、〈バライの実〉という果実を乾燥させ、お香として焚く。ひどい臭いの煙が出るのだが、蚊の方でもこの臭いをきらって、寄ってこなくなるのだ。

 

 ところがこの〈バライの実〉は、ネルフ島では収穫できない。

 カジウにあるまた別の島で収穫されたものを船で運んできて、夏の蚊害に備えるのである。


 その収穫、海運、販売は、アズーリ商会が代々担ってきた。

 独占しているのとはちょっと違う。なぜならアズーリ商会はそれだけ仕入れの手間(コスト)をかけておきながら、可能な限り安価に売っていたからだ。他の商会は、割に合わなくて手を出さないというだけだからだ。


 ではなぜアズーリ商会は、その割に合わない商売を、百年ずっと続けていたのか?

 無論、代々の誠実な党首たちが、島民の健康のために、半ば公共事業と割り切り、営んでいたからに違いない。


 そして今年は、例年よりも雨量が少なく気温が高いため、蚊が大量発生――それも十年に一度の異常発生する見込みである。

 ここまでは全て〈攻略本〉にも載っている。


 そして、ここからは昨日、ハンナ夫人から聞いた話だ。

 蚊害と戦ってきたアズーリ商会の党首たちは代々、その年に蚊が大量発生するか否か、経験則的に判断できるのだという。

 それでフェリックスは今年の異常発生に備え、例年以上の〈バライの実〉を用意させていた。周到とはまさにこのこと、“連盟”党首の実力を示す一例ではないか。


 ところが、ここでフェリックスとヨーテルは衝突した。

 ヨーテルの方が急に、「異常発生するのならば、なんのかんの理屈をつけて、例年より高く売りつけるべきだ。大儲けする商機だ」と主張したのだという。

 誠実な商売を心がけるフェリックスは当然、聞き入れることなく、両者の主張は平行線をたどった。

 そして、毒殺と商会乗っ取りに至る――



 その主犯であるヨーテルが、依然として勝ち誇った。


「貴様ら、昨夜はフェリックスの屋敷に寝泊まりしたそうだな? 大方、夫人に泣きつかれて、味方する気になったか? 人の好いことだ! しかしお人好しでは金儲けはできん。そのことをワシが教えてやろう。このワシの目が黒いうちは、この島で貴様らに商売などさせんから覚悟しておくことだな!」


 俺は泰然と反論した。


「はて? 商売の成立要件とは、売る物があって、欲しいという客がいれば、それだけで事足りると思ったのだがな? あんたの許可などいちいち必要ではないだろう?」

「よくぞ豪語したな、若僧! だが、ワシは知っているのだぞ? 貴様らが乗ってきたあの大きな船、積み荷はろくにあるまい?」

「ほう! よく御存じだ」

「ふははは、うちの社員にも目端が利く奴がいるんだよ! 喫水線の深さを見れば、積み荷のおおよそを推測できる奴がな!」


 自分の手柄でもあるまいに、ふんぞり返るヨーテル。こいつが「うちの社員」と連呼するのは、自分が所詮、卑怯な手でアズーリ商会を乗っ取った番頭にすぎないという、コンプレックスの裏返しだろうな。

 そんな小物が下卑た笑みを浮かべ、恫喝してくる。


「積み荷がないということは、貴様らはネルフ島には仕入れをしに来たんだろう? 残念だったな! ワシは貴様らには何も売らんよ! 他の商会たちにも圧力をかけて売らないようにしてやる! ワシの目が黒いうちは、島で商売させんとはそういうことよ! ギャハハッ、思い知ったか? なんならワシの靴を舐めてみるか? 万が一にも、ワシが貴様らを許す気になるかもしれんぞ? ギャハハハッ、ギハハハハハハッ」


 最後まで勝ち誇り、これみよがしな高笑いをするヨーテル。

 ゆえに、奴には聞こえていなかった。


商品(モノ)ならあるさ」


 という俺の台詞が。

 さあ――この勝った気でいる男に、目に物を見せてやろう!

次回、ヨーテルをぶっ潰します!


というわけで、読んでくださってありがとうございます!

毎晩更新がんばります!!

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