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第六話  初めてのデート

前回のあらすじ:


豪商の娘アリアと出会い、デートに誘われた。

 いよいよ水曜日となった。

 王都の南区にある繁華街。

 その中央噴水にて、俺とアリアは待ち合わせた。

 俺も、ものの本の中でしか知らないのだが、世の恋人たちはここで待ち合わせ時間より五分早く着いただの、十分早く着いただの、マウントを取り合うのがデートの作法らしい。

 バカじゃないのか? 待ち合わせたのだから、時間ぴったりにいればいい。否、早く着いて待つなどと、不合理ではないか。

 ――と、俺は思っていたのだが、いざデートするとなると心境が変わった。

 アリアのような美少女相手に、「ごめん、待った?」「ううん、今来たばっかり……」などとやりとりをするのは、確かに乙なように思える。


 そのうれしはずかしイベントを体験するため、俺は待ち合わせ時間の十分前に到着した。

 いや、白状しよう。

 俺もアリアとの初デートが楽しみすぎて、十分前には自然と足が向いていた。

 そして噴水の前には、アリアが先に来て立っていた。


「すまん、待ったか?」

「はいっ! 楽しみすぎて朝から待ってましたっ」


 この娘、好きだわ。

 見た目が可愛いだけじゃなくて、内面まで面白すぎる。


「そ、そうか。じゃあ、行こうか」

「はい、参りましょう!」

「まず昼食にしようか。俺もデート初心者ながら、一応いろいろ調べてきた」

「わあ、本当ですか!? 私のためですか!?」

「あ、ああ。アリアのためだ」

「うれしいです!」


 なんとも気恥ずかしかったが、アリアが満面に浮かべた笑みを見たらどうでもよくなった。

 やはり俺たちは相性がいいのかもしれない。

 本来は俺が気恥ずかしくて言えないようなことも、アリアの方がストレートに言ったり聞いたりしてくれるので、俺もストレートな対応や反応ができる。

 そうじゃなかったら、石橋を叩いて渡る性格の俺だ。無意味な気後れや、探り合いや、格好つけをしていたかもしれなかった。


「じゃあ、こっちだ」

「はい!」


 俺はリードする格好をとって、さりげなくアリアの手を握った。

 彼女は決して嫌がらないという、確信に近い思いがあった。

 ところが、アリアはするりと手をほどいた!


 まさか嫌がられた!?


 思わず涙目になりかけた俺だが――早計だった。

 アリアは単に握り方を変えて、手を繋ぎ直しただけだったのだ。

 俺がやった、親が子の手を引くような繋ぎ方ではない。お互いの指と指をしっかりネットリからめるような、手の繋ぎ方だった。

 この方が確かに、その、なんだ……………………エロい感じがする。


「行きましょ、マグナスさん♪」

「あ、ああ」


 彼女の一見、邪気のない笑顔が眩しいけれど――

 女ってすごい!!


    ◇◆◇◆◇


 俺が昼食の店に選んだのは、裏路地の奥も奥にあるパンケーキ屋だった。


「私、パンケーキ大好きなんです!」

「そうか。じゃあ、この店にしてよかったな」


 俺はあくまで偶然であることを強調するように、アリアにうなずいてみせた。


「でも、だから私、パンケーキにはちょっとうるさいんですよ?」

「じゃあ、この店のことも知ってるんじゃないか?」

「いいえ、ここは初めてです! 楽しみですね~」


 などと談笑しつつ、二人掛けの狭い席で、額を突き合わせるようにして待つ。

 アリアが注文したのはリンゴとベリーのダブルソース掛けのパンケーキ。

 俺が注文したのはベーコンと目玉焼きが添えられた甘くないパンケーキ。

 俺は男の中では甘い物好きな方だが、さすがに昼飯でスイーツのみというのは、腹持ちがちょっとな。

〈攻略本〉情報によれば、この店は知る人ぞ知る隠れ名店ということだった。

 超有名店にはやや味が劣るも、その分行列に並んだり、大混雑の中で急かされながら食べたりせずにすむのだとか。

 俺も実際に食べてみて納得した。

 甘くないパンケーキということだが、ふわふわの食感が素晴らしいし、これが半熟の目玉焼きと一緒に食べると、黄身と白身の部分が混然となって味わいが倍増する。

 バターもたっぷり使われているのか、風味が濃厚だし、ベーコンと一緒に食べても負けていない。むしろ、やや塩気が強いこのベーコンとは非常にマッチする。


「そっちはどうだ?」

「美味しいです~~~~っ」

「ちょっとずつ交換するか?」

「ぜひぜひ~~~~っ」


 アリアもご満悦の様子だった。

 その笑顔を見ていると、やっぱりこっちまでうれしくなる。

 がんばって探して、選んで、連れてきてやってよかったなという素直な気持ちが湧き出る。


「私、この店は初めて知りましたけど、今まで食べた中で一番いいお店でしたっ」

「だったらよかった」


 食後の紅茶まで堪能して、俺たちは店を後にした。

 次はショッピングと洒落込むつもりだ。

 俺は買い物といえば新古書店以外まともに行ったことはないが、アリア好みだろうアクセサリの店に目星はつけておいた。

 一方、アリアは大店の娘ということで、ショッピングは日常茶飯事。

 店さえ連れていけば、後は彼女がリードしてくれることだろう。

 そう、店さえ案内すれば。


「次はどこへ連れていってくださるんですか、マグナスさん?」


 アリアはそう言って、さりげなく腕を組んできた。

 俺の左腕に、彼女の両腕がからまり、意外と豊かな乳房がむにむに当たってくる。


 や、やわらけー。


 俺は一瞬、自慢の思考力を失ってしまったが、すぐに我に返ると、次の店へと歩いた。

 その間、ずっとアリアとは腕を組んだままだった。


    ◇◆◇◆◇


 アリア好みのペンダントを選んで買ってやり、アリアが好物のエビとカニをメインに扱うレストランで夕食をとり、その後はアリアが行ったことのないバーに連れていって雰囲気に酔わせてやり、すっかり深夜も回ってお開きとなった。

 デートは無事終了どころか、大成功と言えるだろう。

 俺も初めてにしては、なかなか上手にやれたのではないか?

 無論それも、アリアが俺に最初から好意を向けてくれていればこそであることは、俺とてわきまえている。図に乗ってはいない。これがミシャやヒルデのような、俺のことを蛇蝎の如く嫌っている相手だったら、こうは巧く運べなかっただろう。

 

 俺は夜道をマルム商会まで、アリアを送っていってやった。

 王都の治安はそう悪くないが、彼女は一度は奴隷商人に連れ去られた身だ。安心させてやりたい。


「今日はとっても楽しかったです、マグナスさん」

「そうか。それはよかった」

「ぜひこのお礼をさせてください」

「今日のデート自体が、お礼ではなかったのか?」

「じゃあ、お礼のお礼です」

「ふふ、なるほどな」


 今度は何をくれるのだろうか?

 マルム商会の前まで着いて、俺はアリアの言葉を待った。


「また私とデートしてください」


 アリアはそう言って、いきなり背伸びをして、そっと俺の唇に唇を重ねた。

 初めて、俺は女とキスをした。

 思わず首筋まで赤くなってしまう。


 お、女の唇ってやわらけえええええええええええ!?


 俺は一瞬、自慢の思考力を失ってしまったが、すぐに我に返ると、アリアの顔をまじまじと見る。


「わ、私も初めてですから……っ」


 唇を離すと、夜目にも明らかなほどアリアも真っ赤になっていた。

 さすがに照れ臭かったのか逃げ出すように、ぱたぱたと店内に走り去っていく。

 俺はしばらく硬直していたが、やがて宿への帰路に就いた。

 途上、懐から〈攻略本〉を取り出す。


 こいつのおかげで、デートは大成功だった。


 店を選定する判断はこいつの情報頼りだったし、何より素晴らしい情報が記載されていた。

『重要人物一覧』に、『マルム商会の娘 アリア』の項があったのだ。彼女の詳細プロフィールが載っていたのだ。

 おかげで『意外と積極的な性格』だとか、『パンケーキが好き』だとか、他にも好みのアクセサリの方向性だとか、エビとカニに目がないことだとか、全てガラス張りだった。

 俺はデート初心者だが、バカではないつもりだ。そこまで攻略情報が載っていれば、後は完璧なデートコースを自分で考えるだけだった。

 アリアを喜ばせてやるのは、いざやってみると本当に俺まで楽しかった。


「こいつ……俺が最初に思っていた以上に、応用が利くのかもな」


 手の中の〈攻略本〉をしげしげと見つめながら、俺はそう独白した。

読んでくださってありがとうございました!

毎晩更新がんばります!!


次回は、いずれ世界を救うマグナスの「らしさ」が思わず出てしまうお話。

つまり人助けのお話です!

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