第二十六話 別れあれば再会あり
前回のあらすじ:
ファラ帝の戴冠式が執り行われたり、姉妹がアリアの手下になったり。
さらに翌日のことだ。
俺は首都アラバンを発つ三つ子たちを、見送った。
「お世話になりました、マグナスさん」
「おかげでオレたち、故郷に錦が飾れるぜ!」
「どれだけお礼を言っても言い足りませんや」
元々三人は、結婚資金を溜めるために、ハイリスクハイリターンな冒険者を始めたのだ。
そして俺たちパーティーは、様々な難関遺跡を探索しまくった。不要な〈マジックアイテム〉の売却額は、凄まじいものとなった。
俺はそれを必ず人数割りにした。しかも俺は魔王討伐のために必要なアイテムを優先的にいただいていたため、金に関しては辞退をして、クリムとラムゼイも含めた五等分にして配っていた。
結果、三つ子が得た金額は、それぞれが大富豪になれるほどの、とんでもない額に上っていた。
本来なら、彼らはとっくに故郷に帰ってもよいくらいに、稼ぎまくっていたのだ。
しかし、彼らはそうしなかった。恩着せがましいことは一切言わなかったが、俺の探索が一段落つくまでは、つき合ってくれたのだろう。
まったく気持ちのいい連中ではないか!
テッド。ラッド。マッド。
彼らと出会えたのは、俺にとって幸運だったに違いないな。
だから俺はこう答えた。
「礼を言うのは俺の方だよ。おまえらには世話になった。ありがとう」
「あはは……マグナスさんほどの人にそう言ってもらえると、今までの苦労が全部、報われる気がしますね」
「ぶっちゃけオレ、生まれてこの方、一番うれしい言葉かもしんねえ!」
「泣かさないでくださいや。マグナスの旦那もお人が悪い」
三つ子たちは目頭を押さえたり、鼻をこすったり、三者三様の態度をとった。
そんな彼らに向かって、俺は続ける。
「憶えてるか、ラッド? 俺たちが会ってすぐのころ、おまえが言ったことを」
「え、オレ、何言ったっけ? 憶えてねえ」
「弟は口から先に生まれたところがありますから」
「いや、テッド兄さん。あっしら三つ子でさあ」
と、憶えていない様子の三つ子に、俺は自分で答えた。
――ラムゼイの伝説は終わってなかったんだ。
――なぜならオレたちと一緒に、新しい伝説を作るんだからな!
――オレたち皆が伝説の冒険者になるんだ!
「え、オレ、そんないいこと言ったっけ???」
「ああ、言った。そして、その通りになった」
三つ子の名前をそれぞれ冠した未発見遺跡を見つけ、最難関遺跡を二つも攻略し、地帝宮にすら到達し、そして恐るべき皇太子の計画からアラバーナを救ってみせた。
彼らの名は、ラムゼイやクリムと並んで、歴史に残るに違いない。
これが伝説と言わずして、なんと言うのだろうか?
彼らは故郷に錦を飾れると言ったが、ただ大金を持って帰るだけではないのだ。
類稀なる名声を背負って帰るのだ。
「胸を張って帰るといい」
「はい、マグナスさん! もし近くにお立ち寄りの時は、ぜひ僕たちをお訪ねください」
「めちゃくちゃ歓迎するぜい!」
「社交辞令じゃあありやせんからね? 本当にお訪ねくだせえや」
三つ子たちはそう言って、手を振って帰郷していった。
◇◆◇◆◇
「似合ってるじゃないか、クリム」
「ハン、やめとくれ。アタシのガラじゃアないよ」
俺の感想を、クリムは鼻を鳴らして否定した。
二人でアラバンの宮殿の、長い廊下を歩いていた。
そしてクリムは、あれほど着るのをいやがっていた、神殿の法衣を着用していた。
「冗談だ。クリムはやはり、質実剛健な格好が似合う。まあ、少しの辛抱じゃないか」
「他人事だからって気軽に言ってくれるね!」
クリムが割りと本気で怒る。
「アタシゃね、あんたの旅が一段落着いたら、また自由気ままな旅に出ようと思ってたんだ! もう一生分どころか、十生分くらいの冒険はしたからね! 南の島でバカンスでもシャレ込むつもりだったンだよ! それをあのお姫サンが、どうしても力を貸してくれって拝み倒すから、断れなかったンだよ! アタシゃ優しい女だからね!」
「わかった、わかった」
大声でまくし立てるクリムの矍鑠さに、俺は苦笑を誘われる。
彼女はファラ帝のたっての依頼で、しばらく宮廷付の神官をやることとなった。
政変が起きたばかりのこの時期、よからぬことを企む者もいるだろう。
時流が読めないバカほど企むだろうから、短慮に走っても仕方ない。
毒や暗殺者の刃など、ファラ帝が気をつけるべきものは無数にある。
しかし、そこにクリムのような高レベル僧侶がいれば、安心というわけだ。
「アタシゃこれで、あのお姫サンのことは気に入ってるからね。助けてくれって言われりゃア否やはないさね。だからって、この格好はないだろう!」
「女帝の傍仕えの僧侶ともなれば、ある程度の見栄えも必要だ。たいがいの人間は、他人を見た目で判断するからな」
こんな話、人生経験豊富なクリムに、説法するまでもないだろうが。
「ハン! じゃあ、あのジジイはどうなンだい?」
クリムはまだ釈然としない様子で、廊下の先を指した。
そこで待っていたラムゼイを指した。
「あのジジイもしばらくお姫サンに仕えることになったのに、いつもの格好じゃアないか!」
「密偵が派手な服を着るわけにもいかんだろう……」
俺はまた苦笑いを浮かべる。
そして、ラムゼイはクリム同様、ファラ帝に仕えることになっていた。
それもしばらくと言わず、ずっとだ。
「ワシが若いころ、冒険だなんだとうつつを抜かしておられたのも、当時のアラバーナの管理が行き届いておったからじゃ。そして、宮廷が立ち行かなければ、この国そのものがおかしくなるということを、ワシは歳を刻むとともにつぶさに見てきた。今、マグナスのおかげでアラバーナは、まともな女帝を戴くことができた、そして、陛下の治世を陰ながら手助けできるならば、どうせ老い先短いこの人生、捧げてもかまわんかと思ったんじゃ」
とは、ラムゼイの言だ。
気配を断つことや物を調べることにおいて達人的な彼は、密偵も天職だろう。
「しかし、俺としては正直、助かるよ」
「ハン、何がだい?」
「二人にまた何か頼むことがあるかもしれない。だから、ここに来ればクリムとラムゼイに会えると思うと、非常に助かる」
「よくもまあ、そんな身勝手なことを言えるもンだ!」
クリムは目を剥き、俺の背中を叩いた。
「ま、仕方ない。そン時は遠慮なくおいで、マグナス。アタシゃ頼まれごとを断れない、優しい女だからね」
その癖、満更でもない口ぶりだった。
◇◆◇◆◇
最後に俺は、〈タウンゲート〉でラクスティアへと戻る。
アリアを家へ送り届けたその足で、バゼルフの工房を訪ねる。
そろそろショコラの修復が終わる予定なのだ。
ショコラは鋼鉄でできたアリ型のサーヴァント。
人懐こい性格で、そんな外見をしていてもどこか愛敬がある。
俺はそんなショコラのことを頭に思い浮かべながら、工房の扉を開いた。
『お帰りなさいませ、マグナス様!』
たちまち中から誰かが跳び出してきて、いきなり俺に抱きついてきた。
むにゅん、と柔らかい感触がして、俺はぎょっとさせられた。
「だ、誰だいきなり!?」
俺は抱きついてきた、背の低い人物のことを、まじまじと見下ろす。
美少女だった。表情が硬質なことを除けば、まず完璧といって差し支えないほどの。
そして、本職が見たら卒倒しそうな、ハレンチなメイド服姿だった。
殺戮メイドではないか! 古代魔法帝国の!
俺がたじたじになっていると、殺戮メイドはしおらしく抱きついたまま、言い出した。
『「誰だ」なんてツレないです、マグナス様。ショコラのことをお忘れですか?』
「俺の知っているショコラと違う!」
『違って当然です。バゼルフ様の手により、ショコラは生まれ変わったのです。ようやくマグナス様を抱き締めて差し上げることができるのです』
ショコラを自称する殺戮メイドが、とうとう俺の胸に頬ずりまで始めてしまった。
「バゼルフ!」
「ガハハ、そう怒らんでもええじゃろう」
偏屈で鳴らしたはずのドワーフが、呵々大笑しながら玄関までやってくる。
「……あんたは本当によく笑うようになったな」
「そうかね? まあ、日ごろつき合っとる人間が悪いんじゃろう」
「で、これは新手の冗談か?」
「冗談なものか。この子は歴としたショコラじゃ。おまえさんに修復を頼まれた、な」
「どこをどう直したら、鉄のアリがメイドになるんだ!」
俺は大声でツッコんだが、しかし内心、その答えを推理できていた。
そう、状況証拠はそろっているのだ。できないわけがない。
果たしてバルゼフは、笑い混じりに答えた。
「おまえさん、あちこちで入手した〈合成〉アイテムは、全部置いていくじゃろ?」
「……他に使い道が乏しいからな」
「そんでショコラを修復するにも、体の半分以上が壊れとったんじゃ。こりゃ何を素材に使おうかいなと、苦労して見繕っておったところにな。ワシの目に留まったのが、〈事切れた殺戮メイド〉よ。後は本人の強い希望もあって、〈ショコラの魂〉を移植して合成完了よ。いやはや時間のかかる大作業じゃったわい!」
「……そういう流れだと思っていたよ」
まあ、本人の強い希望なら仕方ない。
アリの姿も愛敬があって可愛かったんだけどな。
本人の希望なら仕方がない。
そしてショコラはまだ俺に抱きついたまま、俺の顔を見上げて言った。
『ショコラはパワーアップして帰って参りました。改めまして、これからよろしくお願いいたします、マグナス様。
さあ――なんでも命令してください!』
これにて二章完結です!!
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございました!!!
また私がここまで書ききることができたのも、読者の皆様の応援の賜物です!!!
重ねてお礼申し上げます!!!!
明日からは三章をスタートする予定です!
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