間章 決して敵に回してはいけない男(ラムゼイ視点)
今夜は2話UPしております!
まだ18話を未読の皆様、ご注意くださいませ!!
ワシ――カムバックした冒険者ラムゼイは、おっかないメイドを倒した疲労で、ぐったりとなっておった。
だが、まだ休むわけにはいかん。
マグナスが、広間の外へ向けて姉妹に呼びかけておる。
「もうおまえたちに勝ち目はない。投降しろ。俺たちも叶うならば、手荒な真似はしたくない。冷静な判断を頼む」
姉妹がそのまま逃げるつもりならそれで、ワシとしては構わんのじゃが。というかやっと休めるのじゃが。大方、マグナスも本音はそんなつもりじゃなかろうか?
だが一方で――この姉妹の意志の力というか、したたかさは垣間見たばかりよ。まだ他にも何かしかけてくるのではないかという予感があった。
そして、ワシのその予感は的中した。
「マグナス!」
ワシは鋭く警告する。
と同時にもう、走り出している。
これも長年の経験と勘じゃろうな。仲間たちの誰よりも早く、ワシは察知できたのだ。
広間の隅に広がる影に紛れて、気配を殺して疾走する、怪しい男の存在を!
「貴様、“影走り”のホメスか!?」
ワシはその中年男の顔を見知っていた。
かつては音に鳴らした冒険者――いや、本物の盗掘屋じゃな。
このホメスはワシ以上に、気配や足音を忍ばせる〈スキル〉を磨き上げた〈遺跡漁り〉で、“影走り”という二つ名持ち。
その特技を生かし、〈許可証〉ナシに遺跡へ忍び込んでは、盗掘を繰り返していたお尋ね者じゃ。
それが今や“憂国義勇団”か。
あるいはこいつが六連星の、最後の一人やもしれんな。
昔から敵対すると、本当に厄介な男じゃったが……。
ともあれホメスが、〈地帝宮の鍵〉をかすめとっていくつもりなのは、明白。
渡してなるものかよと、ワシは広間奥の台座へ向かって走り出す。
マグナスも高レベルならではの〈素早さ〉を生かし、追ってくる。
秘宝が鎮座する台座に、誰が一番速くゴールできるかという競争じゃ。
「カル・ハー・エイ・ヌーン!」
ところが広間の外から、魔法使い姉の〈バインド〉が飛んできた。
ワシは魔法の縄で〈束縛〉され、その場に転倒した。
マグナスとホメスの一騎討ちになってしもうた。すまん……!
台座に並んでいるのは、宝玉と腕輪と手袋。
マグナスが伸ばした手の方が、わずかに速かった。
躊躇なく腕輪をつかみとった。ナイスじゃ!!
一方、ホメスは宝玉をひったくるようにすると、そのまま尻尾を巻いて逃げていく。
出入り口の方で、なんと魔法使い姉が〈タウンゲート〉を開いて待っておった。遺失魔法の備えもあるとは……“憂国義勇団”め。謎の首領の正体は、ヘイダル皇子じゃとマグナスからも聞いておったが、さすがその組織力は侮りがたしじゃ。
漆黒の転移門の向こうへ魔法使い姉、僧侶妹、ホメスと順に消えていきながら、最後にそのホメスが振り返って叫ぶ。
「愚かな魔法使いめ! どうやら〈鍵〉の形を知らなかったようだな? これだ! 〈地帝宮の鍵〉はこの宝玉なんだよ! じゃあ、いただいていくぜ? あばよ間抜け!」
〈タウンゲート〉が閉じるまで、ホメスの嘲笑は聞こえ続けた。
な、なんじゃとお!?
「ど、どうするんですか、マグナス様!?」
「横取りされちまったぞ!?」
「今までの苦労が水の泡でさあっ」
三つ子の衝撃と落胆も凄まじいものじゃった。
そりゃそうじゃろうよ。
いつも用意周到な、マグナスとは思えん失態に、ワシもあんぐりとなって彼を見つめる。
そして、気づいた。
マグナスは微塵も動じておらんかったのじゃ。
ワシはクリムのバアサンに、魔法で〈束縛〉を解除してもらうと、起き上がって訊ねた。
先ほどのマグナスとホメスの、競争の様をよくよく思い返しながら、
「マグナス。おまえさん……今、わかっていて、〈鍵〉を連中に譲らなかったか……?」
振り返ってみれば、おかしいことだらけじゃった。
まず魔法使いのマグナスが、いくら〈素早さ〉にも自信があるとはいえ、駆けっこなんかするか? もっといい方法がなんぼでもあるじゃろう? それこそワシがされたように、〈バインド〉でホメスを妨害すりゃあよかった。
次に、それでもマグナスが先に台座へ着いて、先に手を伸ばした。あの時もう、三つ全部ひったくればよかったんじゃないか? それくらいの余裕はあったんじゃないか?
つまりは、じゃ。
マグナスは〈地帝宮の鍵〉を、わざと連中に奪わせたのじゃ。
それも連中に故意だと悟らせぬよう、必死の形相で間抜けを踏んだ芝居までして。
「さすが、ラムゼイの目はだませないな」
マグナスはあっさりと認めた。
「クリムが人質にとられた時にな、考えたんだよ。〈鍵〉が連中の手に渡るのなら、別に構わないじゃないかと。いや、むしろその方が都合がいいと。俺の頭の中にある計画表を新しくしたんだ」
その泰然たる態度には、見栄も虚勢もなかった。
「それよりはこの〈海王石の腕輪〉の方が、渡したくなかった」
『――ってことはもしかして!? ワタシの決死の体当たりは無駄骨ですかショボーン……』
「いいや、ショコラ。奴らが約束を守ってクリムを無事に返すという、百パーセントの保証もなかった。だから、おまえの勇気は決して無駄ではない。ひやりとはさせられたし、もう二度とあんな無茶はして欲しくないがな」
そう言ってマグナスは膝を折ると、鋼鉄のアリの頭を撫でてやっていた。
「まったく呆れた奴じゃわい……」
「ああ。大胆不敵ったらありゃアしないよ」
ワシはバアサンと一緒になって嘆息する。
つくづく痛感する。
そして、“憂国義勇団”に同情する。
このマグナスこそは、決して敵に回してはいけない男なのじゃとな。
ラムゼイの遺跡も攻略完了!
次回はちょっとラクスティアに立ち寄ります。
というわけで、読んでくださってありがとうございます!
毎晩更新がんばります!!




