第十八話 パーティー対パーティー
前回のあらすじ:
遺跡最深部のボスモンスターを長期戦で斃したものの、乱入してきた“憂国義勇団”にクリムを人質にとられてしまう。
“憂国義勇団”の幹部とされる、六連星。
そのナンバー1と2だけは、〈攻略本〉の『重要人物一覧』の項に、軽く触れられている。
ナンバー1は名をナディアといい、レベル20の〈魔法使い〉。
ナンバー2は名をサリーマといい、レベル18の〈僧侶〉。
二人は妙齢の姉妹であり、現アラバーナ帝国に代々仕える家系の出だという。
〈攻略本〉にも、『義勇とは名ばかりのチンピラ集団の中で、彼女ら姉妹だけは真に国を憂い、皇太子ヘイダルが掲げる理想のためなら、自らの手を汚す覚悟を持つ』と記されている。
「私たちが欲しいのは、〈地帝宮の鍵〉だけです。それさえいただければ、皆様に危害を加えるつもりはありません」
ナイフでクリムを人質にとった三人の女のうち、リーダー格の美女が真摯に告げた。
ナンバー1のナディアだ。
「もちろん、残り二つの秘宝までいただくつもりもありません。どうか、冷静なご判断を」
妹であるサリーマが言った。顔立ちは姉とよく似ている。卑怯な真似をしているのがよほど心苦しいのか、伏し目がちな態度だった。
では、残り一人がナンバー3かといえば、違う。
見た目は、十代半ばくらいの美少女だ。ただし不気味なほどに、表情というものが欠落している。
そして、場違いなメイド服姿をしていた。それも本職が見たら「まあ、ハレンチな!」と目を剥きなそうなほど、胸元が強調されてスカートも短い、煽情的なメイド服。
こいつは六連星ではない。
だが、一番厄介なのは実はこいつだ。
「おまえさんら、どうやってここまでたどり着けた……?」
三つ子たちより先に、衝撃から立ち直ったラムゼイが、率直に訊ねる。
「私は〈遠見の水晶球〉という秘宝を所有しています。それで皆様のことをずっと、着かず離れずの距離から監視しておりました」
「何!? いつからじゃ!?」
「“死の舞い”がラムゼイ様の居場所をつきとめ、襲撃をしかけた時からです」
「あの時からか……」
「はい。今日もラムゼイ様がどのように迷宮を突破するのか、水晶球でつぶさに拝見しておりましたから、私たちでもここまで来るのは難しくありませんでした」
ナディアとサリーマが交代交代、あっさりと手の内を明かす。
そうして誠意を見せることで、この取引が信用できるものだと、アピールしているわけだ。
一方、ラムゼイも別に本気で知りたかったわけではないはずだ。
そうやって会話で間を保たせいてる間に、ショコラが「ワタシは無関係な魔法生物ですよ」みたいな態度で、ナディアらの方へコソコソ忍び寄っていたのだ。
しかし、
「そこのサーヴァントも動かないでください!」
「動かないように命じてください! 今すぐ!」
姉妹には通じなかった。
ショコラがサーヴァントであることも、サーヴァントがどういうものかも、よく知っているようだった。さすがアラバーナに長年仕えているだけあり、古代遺跡への造詣が深いようだ。
「止まってくれ、ショコラ。クリムの命が最優先だ」
俺が頼むと、ショコラは心なしかションボリした態度で、足を止めた。
でも、それで俺も安心した。姉妹も殺気を収めた。サーヴァントが人間の命令に反するなど、あり得ないからだ。
逆に納得いかないのは、クリムだった。今までは状況を静かに見守り、口出しを慎んでいたようだが、ここぞとばかりに言い募る。
「マグナス! こんな老い先短いババアのことなんか、大事にしてンじゃないよ! その鍵はあんたにとっちゃ必須なンだろう!? あんたは世界を救うために旅してンだろう!? じゃあ、人質に捕まるようなこンな間抜け、切り捨てちまいな!」
「悪いな、クリム。あんたの自己犠牲精神はまさに〈僧侶〉の鑑だが、俺はあんたを信仰に殉じさせてやるつもりはない」
「なんだってエ!?」
「俺は、俺の正義感をまげてまで、旅を続けるつもりはない。魔王を討つために魔王が生まれる愚を犯したくない。これはもうとっくに決めたことなんだ」
「あんたって奴は、どこまで不器用な……」
クリムが心底から呆れ返ったようになって言った。
「しかしバアサン。そんな不器用な『男』だからこそ、魔王を討つなんて苦しいばかりの使命に、身を投じられるんじゃろうよ。このマグナスはな」
ラムゼイが我がことのように誇らしげになって言った。
「とにかく、俺たちの決定は以上だ。欲しいなら早く持っていけ。そしてクリムを無事に返せ」
「わかりました、魔法使い殿」
「あなた方の冷静さと仲間想いに、心からの感謝と謝罪を」
姉妹がクリムを人質にしたまま、慎重に広間に入ってくる。
メイドがそのすぐ前を歩きながら、無機質且つ鋭い眼差しを、俺やラムゼイ、三つ子、グラディウスに油断なく配り、警戒している。
メイドは特に、三つ子の動きに注視していた。
俺やラムゼイが腹を括ってみせた一方、三つ子たちはあからさまにそわそわしていた。「本当に渡していいんですか?」と躊躇していた。特にラッド辺りが、いつ短慮に走ってもおかしくない雰囲気だった。
「頼むから、大人しくしていてくれよ」
俺は重ねて三つ子に頼む。
〈地帝宮の鍵〉のことは、もう諦めた。
俺の頭の中にある、今の旅の計画表ごと。
――と。
俺は本気でそう考え、三つ子たちも諦めて従ってくれたというのに。
この場の誰も、予期せぬ事態が発生した。
『悪漢め! クリム様を離しなさい!』
俺の命令で動けなかったはずのショコラが、突如として姉妹へ体当たりをカマしたのだ。
姉妹やメイドにとっても、同時に俺にとっても、完全に意識外からの不意打ちである。
サーヴァントは絶対に人間に逆らわない――古代魔法帝国の文明に詳しいからこそ、俺や彼女らの意識にはそう刷り込まれていた。
まさか、ショコラが他のサーヴァントとは異なる心と思考を持つ、特別製だとは思ってもみなかった。
ゆえに成立した不意打ちだ。
サーヴァントはほとんど戦闘能力を持たないが、姉妹とて近接戦は苦手な〈魔法使い〉に〈僧侶〉。この体当たりを回避できない。
護衛のメイドも三つ子を主に警戒していたこともあり、反応がわずかに遅れる。
結果、ショコラは姉妹へ思いきりぶちかまして薙ぎ押し、はずみでクリムも解放される。
『やった! やりました! ワタシ、マグナス様のお役に立てました!』
『敵対行動感知。排除する』
無表情のまま主を守らんとするメイドの蹴りが、ショコラの横腹にまともに入った。
しかも尋常な威力のキックではなかった。まがりなりにも鋼鉄製の胴体が、衝撃でくの字に折れ、さらに軽々と蹴り飛ばされる。
ショコラの体が宙を舞ったかと思うと、床に墜落した衝撃で胴が二つに折れ、裂ける。
胸から下を失ったアリ型サーヴァントは、仰向けに転がったまま動けなくなる。
『追撃開始。徹底的に破壊する』
「させんよ!」
ショコラへとどめを刺さんと走ったメイドの前に、俺は素早く回り込んで立ちはだかった。
と同時に、〈大魔道の杖〉を六尺棒代わりにして打ち込む。〈ストレングスⅡ〉の効果はまだかかっている。
『追撃断念。回避を優先』
メイドが無機質な声で宣言すると、体重を全く感じさせないふわりとした跳躍で、俺の杖の一撃をかわしてみせた。
俺は攻めを継続することもできたが、当然ナシだ。ショコラを背に庇うのが優先だ。
「無茶をしてくれたな……」
『でも、マグナス様のお役に立てました』
「もういい。わかった。それ以上、言うな。それ以上……俺を怒らせるなっ」
『うれしい。ワタシのこと、心配してくださっているのですね?』
「違うっ。怒らせるなと言っているんだっ」
学院の開祖レスターの金言。『汝、怒ることなかれ』。その戒めをもうちょっとで、俺は破るところだった。もしショコラが完全破壊されていたら、どうなっていたかわからなかった。
ああ、認めるしかない。
今日会ったばかりの、どこか憎めないこのサーヴァントに、俺はいつの間にか愛着らしきものを、抱いてしまっていたようだった。
「ありがとうよ、ショコラ。へそ曲がりなマグナスと違って、アタシゃ礼を言うよ」
姉妹から解放されたクリムが、俺たちの方へ逃げてきながらそう笑った。
ラムゼイが、三つ子が、いよいよ遠慮なく臨戦態勢をとる。
そのまま乱戦にもつれ込む――かと思ったが、相手方の判断もさすがだった。
ナディアとサリーマの姉妹は、人質を取り返されたと見るや、逡巡なく広間の外へと走っていたのだ。身を守る術の乏しい後衛職ゆえ、出入り口から顔だけ覗かせ、壁を盾にしながら呪文を唱えられる、有利な地形を確保したのだ。
そして、広間に残したメイドに、姉妹は矢継ぎ早に強化魔法をかけていく。
その詠唱速度は、この俺をして目を瞠るものがあった。
〈魔法使い〉や〈僧侶〉はレベル3になると、選択スキルとして〈呪文詠唱熟達〉を習得できる。長い呪文の詠唱や、咄嗟時、緊張時などの詠唱においても、ミスを大幅に減らせるようになる〈スキル〉だ。
また以降のレベルアップ時に、ステータス上昇に優先して、その〈スキル〉をより習熟させることで、〈呪文詠唱練達〉へと強化派生させることができる。
この世界の摂理を俺が知ったのは、〈攻略本〉を手に入れた後のことだ。しかし、俺は特に自覚ないまま、かなり早い段階でその〈呪文詠唱練達〉を習得していた。
これがあると、呪文詠唱のミスはまずなくなり、しかも詠唱速度が格段に上がるという効果がある。実践派である俺にとっては、不可欠の〈スキル〉といえる。
そして姉妹は、さらにその先――もう1レベル分のステータス上昇を犠牲に、〈呪文詠唱卓越〉を習得しているのだろう。
『フルバフ完了。蹂躙を開始』
複数の強化魔法で一気にバフされたメイドが、暴れ踊った。
一瞬でテッドに肉薄すると掌底の一撃で吹き飛ばし、さらに一瞬でラッドに迫ると蹴り飛ばして肋骨を砕いた。兄の助けに入ったマッドも肘打ちで逆撃し、ラムゼイですらメイドの手刀を回避できなかった。
「な、なんですか、この女の子……」
「武道家……? これが達人ってやつ……?」
「可愛い顔して、エゲツない威力でさあ……」
息も絶え絶えに言う三つ子へ、俺は答えた。
「違う。こいつは人造人間だ。古代魔法帝国が生んだ、殺戮メイドだ」
「サーヴァントはきれードコ造っちゃいけねえのに、こいつはアリなのかよ!?」
「いや、こいつも製造は禁止されていた」
「じゃあ、なんで存在するんでさあ?」
「殺戮メイドは全て、時の皇帝のために製造された、侍女にして近衛だからだ」
「ハン、いつの世も権力者サンは、自分だけは法律の外ってことかい」
「皮肉る気持ちはわかるがな。皇帝用の戦闘魔法生物だ。強いぞ!」
無論、先ほど斃したゴズには遠く及ばないだろうが、それでも山ほどのバフ処理された以上は、油断ならない相手だ。
いや、俺の〈MP〉はもう心許なく、グラディウスももうズタボロになっている以上、状況はさらに悪いか?
俺とクリムも負けじと、ラムゼイと三つ子たちに強化魔法をかけていく。
しかし、四人もいればかなりの手間だ。
〈呪文詠唱〉スキルだって、俺もクリムも〈練達〉止まり。
加えて、広間の外からナディアが、〈パラライズ〉だの〈ブラインド〉だの、いやらしい状態異常魔法をかけてくる。
またサリーマがいつでも回復魔法をかけられるよう、待機している。
そう、生身でできた人造人間には、回復魔法が効くのだ!
「だが、長所は短所と裏表でもある――」
俺は矢継ぎ早に呪文を唱えた。
「ヴァン・エ・ヌー・オン・ムウラ!
プレ・レン・レイ・ヨーク・シー!
ベイン・レイ・イ・ヌー・デル!
カル・ハー・エイ・ヌーン!」
レベル24で習得でき、バッドステータス〈猛毒〉を引き起こす〈ポイズンⅡ〉。
レベル26で習得でき、〈重麻痺〉を与える〈パラライズⅡ〉。
レベル28で習得でき、〈視力喪失〉を与える〈ブラインドⅡ〉。
ダメ押しはレベル34で習得できる、〈重束縛〉の〈バインドⅡ〉。
ナディアが見たこともないだろうⅡ系の状態異常魔法で、殺戮メイドを雁字搦めにしていく。
アイアンゴーレムでさえ〈束縛〉以外の状態異常には〈完全耐性〉を持っているが、生身でできた人造人間には全て効くのだ!
それに状態異常魔法は強化魔法同様に、〈MP〉消費が少ないのもいい。
結果、古代アラバーナの殺戮メイドは、毒でじわじわと〈HP〉を蝕まれ、体がたびたび麻痺して攻撃と回避をしくじり、そもそも視力を失った状態では白兵戦闘力が激減し、あげく魔力の縄で拘束されて本来の身体能力が引き出せない。
叩くなら今だ!
ラムゼイや三つ子たちもⅠ系の状態異常に苛まれていたが、クリムの魔法で次々と治癒していった。一方、サリーマの〈レベル〉ではⅡ系の状態異常を治せなかった。
矢面はグラディウスが引き受けつつも、ラムゼイたちが見事な連携でヒット&アウェイを繰り返し、殺戮メイドをきりきり舞いにさせる。
そしてついには、打倒する。
俺たち全員の、逆転勝利である。
戦利品は、〈事切れた殺戮メイド〉。
〈攻略本〉では確かそう定義されていたのだが、これも〈ドロップアイテム〉というのだろうか……?
読んでくださってありがとうございます!
今夜はもう一話、オマケの間章をUPしております!
続けて読んでいただけると、さらにうれしいです!!




