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「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~  作者: 福山松江
第二章  朕に〈命令させよ〉とのたまう愚帝編

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第十三話  とある将軍の采配とその結果

前回のあらすじ:


“憂国義勇団”の幹部二人を一蹴!

 三千人の軍隊が、灼熱の砂漠を行進していく。

 カクラル地方を南へ、南へ。

 アラバーナでも最精鋭と名高い、第一軍団だ。この熱暑の中でも音を上げる者は一人もおらず、隊列には寸分の乱れもない。

 彼らは、このカクラル地方の町村が、日に日に消失しているという大事件を調査し、その解決に当たるための軍団である。


 そんな彼らの中央本隊に、ファラ姫はいた。当然、周囲を厳重に警護されていた。

 そして俺たちは、ファラ姫のすぐ間近を随行していた。

 というか、一緒に“ナルサイ号”に乗っていた。


「我が帝室も四枚ほど秘蔵しているが、これほど大きな〈浮遊する絨毯(ホバリングカーペット)〉を見るのは初めてだな!」


 とファラ姫も、ゆったりした乗り心地にご満悦。

 実際、俺とクリム、ラムゼイ、三つ子に加えて、グラディウスの巨体まで乗せても、まだ余裕があるほどなのだ。


「しかし、姫サンよ。あまり物見遊山気分というのも、いかがなものかね?」

「む。すまない、ラムゼイ殿。普段は宮殿から、なかなか外へは出られぬ身でな。ついはしゃいでしまった。しかし、そなたの言う通りだ。慎むとしよう」

「いいや、お姫サン。こんな心配性のジジイの言うことなンざ、耳を貸す必要なんてありゃしないよ。道中、浮かれてようがハラハラしてようが、事件にゃ影響なんてないンだからね。だったら明るく楽しく行かにゃア損さね」

「ははは! クリム殿は本当にユニークな方だな。僧侶なんて皆、辛気臭い連中だと思っていたが、改めなくてはな」

「アタシこそ、お姫サンなんて全員、何もできない箱入り娘だと思っていたがね。あんたの気風の良さは気に入ったよ!」


 と、談笑に花を咲かせるクリムとファラ姫。


 俺も別に、道中で焦っても仕方がないと思う。

 ()()見つかるまで、あるいは向こうから襲ってくるまで、各自が思い思いの手段でリラックスしてればいい。


 そう、奴だ。

 俺はこの消失事件の犯人を、〈攻略本〉のおかげで知っていた。

 カクラル地方の砂漠に棲息するエリアボスに、ギガントサンドワームというモンスターがいる。『大喰らいで、なんでも食べる』という説明が添えられている。

 また他にも、『十年長生きできたギガントサンドワームは、さらに十年間地中で休眠することにより、キングサンドワームに成長する』『百年長生きできたキングサンドワームは、さらに百年間休眠することにより、カイザーサンドワームに成長する』『カイザーサンドワームのサイズは、町すら超えるほどである』とある。

 つまりは、その巨大すぎるボスモンスターが、町や村を食べているわけだ。


 正体がわかっている以上、俺たちだけで探しに向かった方が、話が早いという見方もある。軍隊の行軍速度に合わせるのはまどろっこしい。

 しかし、「ファラ姫直卒の軍隊が事件解決した」という政治的パフォーマンスが、必要なのも事実だった。

 この高潔で、話のわかる皇女殿下が、アラバーナの宮廷で発言力を持つことは、俺にとっても都合がいいからな。


「第一、マグナス殿。町や村を襲うほどの大喰らいなら、この軍のことも大量のエサと見做して、襲ってくるやもしれんぞ」


 ファラ姫が意地悪な顔で、ブラックジョークを口にする。

 しかし、同時に正鵠を射ているのが、このお姫様の凡庸ならぬところだ。確かに、俺たちが闇雲に探すよりも、エサで釣った方が早いかもしれない。


 ただ、俺は無辜の兵たちを、本気でエサにするつもりはない。


「もしカイザーサンドワームが現れたなら、俺たちだけで叩く。御身や兵たちは即時撤退してくれてかまわない」

「ふはは、相変わらず頼もしいことだな、マグナス殿!」


 絨毯にあぐらをかいたファラ姫が、膝を叩いて大笑した。

 ところがそこへ、横柄且つ不粋な声がかけられる。


「何が頼もしいものですか。そのような怪しげな男の話になど、耳を貸してはなりませぬぞ、ファラ殿下。偉大なる初代皇帝ラサード陛下の御言葉をお忘れですか? 『占い師と魔法使いは傍に置いてはならぬ。国を危うくする』という仰せを」


 嫌味ったらしくそう言ったのは、側近たちとともにラクダに乗って現れた、将軍である。

 名をタハール。歳は四十五。

 まずまず鍛えられた、逞しい体つきは将軍に相応しいものだった。しかし、自制心の方はどうだろうか? 脂ぎったその顔は、首都を出陣し、作戦中の今もなお毎日、自分と腰巾着だけは美食に耽っている証左ではあるまいか。


「おい、マグナスとか申したな?」

「如何にも俺がマグナスだが?」

「言っておくぞ? ワシは貴様のような詐欺師の言うことは信じん」

「待て、タハール! マグナス殿はラクスタ王も認める、“魔王を討つ者”だ。一国を救った英雄だ。今の暴言を取り消すがよい!」

「姫殿下は黙らっしゃい! ラクスタの如き後進国の愚王が、詐欺師に惑わされるのは自業自得。しかし、偉大なるアラバーナの皇女殿下ともあろうお方が、同じ轍を踏むなどと嘆かわしゅうござるぞ!」


 仮にも皇女であるファラ姫に向かい、喝破してみせるタハール将軍。

 底抜けに傲慢な男なのか、あるいは諫言を怖れず口にできる忠臣なのか。

 まあ、どう見ても前者だろうなあ。

 

 その傲岸不遜な男が、俺に指を突きつけたまま続けた。


「カイザーサンドワームなど眉唾もいいところだがな。百歩譲ってそんな化物が出てきたとして、貴様の出る幕などないから、憶えておけよ?」

「……ちゃんと対策は練ってあるんだろうな?」

「眉唾話に対策を練るバカがどこにおろうか!」


 タハールは大声でせせら笑った。


「第一、戦に必要なのは兵の勇気と愛国心であって、小賢しい策などではない! そしてこのワシが鼓舞すれば、麾下三千尽く勇士と化して、敵が何者であろうと打ち破ってくれるわ!」

「……将軍であるあんたの方針に口を出すつもりはない。だが、せめて協力して戦わないか? 相手は恐るべきボスモンスターだ」

「要らぬわ! 軍とはな、たった一人の弱兵が混ざっただけで、どんな精強な部隊であろうと烏合の衆と化すのだ。ワシはその愚をよく知っている」

「……俺がその弱兵だと?」

「他に誰がおるか、詐欺師! いいな? いざ戦いが始まってもまだ、その目障りなツラをちょろちょろさせておれば、まず貴様から真っ先に殺してやる。それがイヤなら、姫殿下の尻に隠れて観戦だけしておけ。優しいワシは警告してやったからな?」


 タハールがふんぞり返って言い放つと、腰巾着どもがせせら笑う。

 そうしてまた他部隊を監督しに、移動していった。

 

「なんて奴ですか、あの人!」

「マグナスの強さも知らないくせによぉ!」

「偉そうにもほどがありまさあ!」


 俺に代わって、三つ子たちが我がことのように怒ってくれる。

 その気持ちだけで俺はうれしいし、別にタハールなんぞが何を言おうと、俺は痛痒も感じていない。そう、弱い犬ほどよく吠えるのだ。ユージンもそうだったな。


「すまない、マグナス殿。せめて私から謝罪させてくれ」

「気にしていないし、御身に非はないさ、ファラ殿下。そんなことよりもだ――」


 俺は一番の懸念を、鋭く指摘した。


「――兵が大勢死ぬぞ?」


 聞いてファラ姫が唇を強く噛む。

 俺が指摘するまでもなく、重々わかっている。わかっているが、どうにもできない。そんな顔つきだった。

 クリムがやれやれと嘆息しながら、


「あんたはこの軍と事件解決を任されたお姫サンで、さっきの将軍はただのお目付け役。だったら兵はあンな奴より、あんたの言うことを聞くんじゃないのかね?」

「それは名目上の話なのだ。私自身に忠誠を誓ってくれている親衛隊三百人を除き、後は全員タハールの言うことにしか耳を貸さない」

「なんだい、第一軍は精鋭だって聞いたのに、あンな野郎に付き従うのかい?」

「精鋭だからこそだ。現場指揮官であるタハールの指示を重んじ、神輿の飾りにすぎない皇女の言葉など黙殺する。当然だろう?」

「ハン、皮肉な話だねエ」


 呆れて鼻を鳴らすクリム。

 ラムゼイが代わって、


「タハール自身を説得するのは無理なのかね?」

「難しいな。あれは三十人からいる、私の婿候補の一人なのだ」


 ファラ姫は辟易したように説明を始めた。

 曰く――

 現皇帝であるあの白粉野郎は、(ファラ)の婿候補を増やすばかりで、一向に決めかねているのだという。

 それというのも、「我こそは麗しの皇女殿下の婿に」と目論む奴らが、全力で愚帝に取り入らんとおべっかを使いまくるのが、あの白粉野郎は気持ちよくて仕方がないらしい。


 愚か極まれりとはこのことだろう。

 そんな理由で大事な婿を決めかね、際限なく婿候補を増やしていく、白粉野郎も愚か。

 そんな愚帝を相手に、どうにか婿に選んでもらおうと、必死で阿諛追従している候補どももまた、滑稽なまでに愚か。

 想像したら笑えてこないか?


「タハールは今回の事件解決の手柄を持ち帰って、他の婿候補より何歩もリードする胸積もりなのだろう。だから、マグナス殿に手出しされては困るのだ。それに内心ではもう、私の婿になったつもりなのかもな。だから、私のことをもう『自分の女』だと考えているのかもしれない。それでよけいにでも、耳を貸さないのかもしれない」

「傲慢にもほどがある奴だな……」


 そして、これまたあの愚帝の蒔いた種だと思うと、頭痛がしてくる。

 あの白粉野郎、どこまでも祟りやがるな……。


「……事情はわかった。ならせめて、一つだけお願いしたい、ファラ殿下」

「伺おう、マグナス殿」

「戦いになったら、各自の判断で即時撤退してよしと、殿下の名で命令しておいてくれ。最初は兵たちが耳を貸さなくても、いざ切羽詰まった時に、その保証があれば躊躇いなく逃げられるだろう」

「せめてもの犠牲を減らすための、次善の策だな。なるほど、承った。しかし――」

「しかし?」

「マグナス殿は意外や、お優しい御仁だな?」

「……別に。無意味な人死など見せられても、何も笑えんというだけだ」


 俺が仏頂面で答えるとファラ殿下が、いやクリムまでが一緒になって、その俺の顔をニヤニヤと眺めていた。言いたいことがあれば言え!


    ◇◆◇◆◇


 しかし、次善の策を用意しておいて、本当によかった。

 俺がそう思ったのは、それから三日後のことだった。

 砂漠を行軍中に、ついに発見したのだ。

 カイザーサンドワームが、こちらへ向かってのそのそとやってくる、まだ遠い姿を。


「まさか本当におったとはな。よし――全軍、戦闘用意ッ! 金剛の陣を敷けいッ!!」


 タハールの勇ましい号令一下、三千弱の精兵たちが整然と、堅固な陣形を組んでいく。

 一方、俺たちとファラ姫直下の親衛隊は、安全地帯から見守るようにと、上辺だけ丁重に遠ざけられた。

 ファラ姫は「危ないと判断したら、いつでも撤退せよ!」と兵に叫ぶだけ叫んで、タハールに従った。

 タハールは「嫌味のおつもりでしたら、なんとも拙劣ですな」と小馬鹿にした。


「ハン。それじゃアお手並み拝見さね」


 クリムが皮肉っぽく頬を歪め、俺たちは遠くから戦況を見守る。


 しかし、第一軍の兵たちは掛け値なしに、精鋭の名に恥じない「男」たちだった。

 カイザーサンドワームは本当に巨大だった。巨大すぎた。生物というよりも、確かに町や村と比肩するべきサイズだった。

 そんな規格外のモンスターが迫ってきても、彼らは決して逃げ出さず、しっかりと陣を組んだまま待ち構えていたのだ。

 なんという勇敢さだろうか! 俺も感嘆を禁じ得ない。


「だけど、嗚呼……哀しいかな」


 ラムゼイが酸いも甘いも噛み分けた老人の顔で、詠嘆した。

 そう、現実の見えないたった一人の愚将のせいで、彼ら精兵は木端と化したのだ。


 カイザーサンドワームが、その巨大すぎる頭部をわずかに持ち上げた。

 そして、地面に叩き下ろした。

 ただそれだけで、爆発的な衝撃が地面を走った。

 テーブルに皿を置いて、すぐ傍を強く叩けば、皿が上に跳ねるのと同じ要領だった。

 すぐ近くにいた精兵たちが、まるで喜劇のように上空へ、高く高く跳ね上げられた。

 落下した衝撃で大勢死んだ。

 陣形だとか勇気だとか愛国心だとか、何も関係ない。

 津波や嵐といった天災に勝てる軍など、存在しないのと同じ理屈だった。

 

「逃げろ! これは人の手に負える存在ではない!」

「総員撤退ッ! 撤退ッ! 撤退ッ!」

「皇女殿下の命に従え!!」


 彼らは精兵だったからこそ、その一撃で自分たちの敗北を察し、すぐさま撤退に移行。

 しかも彼らが勇敢だからこそできる、整然たる撤退だった。

 ファラ姫の口から告げられた、俺の次善の策が功を奏し、大勢が逃げ延びることができた。


 一方、勇敢でない者たちは、腰を抜かして動けなくなっていた。

 誰あろうタハール将軍と、彼の腰巾着どもである。


「う、ウソだぁ! こんなものは悪い夢だぁ! ワシはタハールだぞ!? 栄光あるアラバーナ帝国軍の、最優なる第一軍団を任された、偉大なる将だぞ!? そのワシが負けるわけがないっ。負けるなら、それは世界の方がおかしい! こんな世界、嘘っぱちだ! 悪い夢だぁ!」


 タハール将軍は糞尿を垂れ流しながら、砂の上でジタバタともがいていた。

 本当に最期まで、子どものように現実の見えない男だった。

 ちゃんと対策を練れと、()()()()()()()()()()


 そのいい歳をした子どもの、もう目の前までカイザーサンドワームは迫っていた。

 今にも「ぷちっ」と踏み潰そうとしていた。


「だ、誰か! 今すぐワシを助けよ! 助けてくれえええええええ」


 俺たちは“ナルサイ号”を駆って、急いで助けに向かっていた。

 しかし如何せん、距離が()()()()


次回、巨大ボスモンスターの討伐開始!


というわけで、読んでくださってありがとうございます!

毎晩更新がんばります!!

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どちらもぜひご一読&応援してくださるとうれしいです!
― 新着の感想 ―
[一言] それは名目上の話なのだ。私自身に忠誠を誓ってくれている親衛隊三百人を除き、後は全員タハールの言うことにしか耳を貸さない  つまり、護衛対象が増えるだけでめっちゃ邪魔。
[気になる点] 街クラス?の大きさのが落ちてくるんだし、衝撃波も相当なモンではあるとは思うけど 人が死ぬ程の高さに打ち上げられるモンかは疑問 衝撃波と巻き上げられた大量の土砂に、吹き飛ばされたり埋まっ…
[気になる点] テーブルに皿を置いて、すぐ傍を強く叩けば、皿が上に跳ねるのと同じ要領だった。 すぐ近くにいた精兵たちが、まるで喜劇のように上空へ、高く高く跳ね上げられた。 ⇒多くの衝撃が吸収されてしま…
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