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第十二話  “憂国義勇団”の六連星

前回のあらすじ:


ファラ姫と話し合い、大事件を解決する代わりに〈特級許可証〉をもらう算段をつける。

“憂国義勇団”については、〈攻略本〉にもアラバーナの概略にまつわって、以下のように軽く触れられている。


『五年前に結成された非合法組織。憂国を大義名分に掲げ、アラバーナの豪商や貴族たちを襲う。その実態は、欲望のままに財貨を強奪し、暴力に酔う匪賊どもである。構成員もチンピラが大半。また六連星と呼ばれる幹部の他、謎の首領がいる。その正体は皇太子のヘイダル』


 そして今、いきなり襲撃をかけてきたのが、どうもその六連星とやらのうちの二人らしい。

 痩せぎすの中年で、腰にサーベルを帯びているのが、〈居合〉のブラウン。

 不健康に青白い肌の色や、名前の語感から、アラバーナ人ではなさそうだ。実際、この国には他国からやってきた、冒険者や冒険者崩れが吐いて捨てるほどいる。こいつもその成れの果てなのかもしれない。

 一方、半裸同然の踊り子服を着た、妖艶且つ妙齢の女の方が、〈死の舞い〉のティティン。

 スタイルの良さは本物だが、顔の地味さを派手な化粧で誤魔化しきれていない。


「ティティンか? なぜここに?」

「それはこっちの台詞だよ、ブラウン!」


 と、なぜか二人は互いの顔を見合わせて、びっくりしていた様子だった。


「アタシはラムゼイがこの町に来てるって情報を、ようやくつかんで急いできたんだよ!」

「ふうむ、それは奇遇だな。オレもずっと追っていたファラ姫に、ようやく暗殺の好機が訪れて、ここに来た」

「あっそ。じゃあ、それぞれの仕事をしようじゃないかい!」

「だな。ともに首領へ良い報せを持ち帰るとしよう」


 ティティンとブラウンはうなずき合うと、同時にギロリと、階上にいる俺たちを見上げた。

 正確には、ティティンは店内唯一の老人(ラムゼイ)を、ブラウンはファラ姫の尊顔を、標的と定めて凝視していたのだ。


「やれやれ、よりにもよって二人いっぺんに来なくてもいいだろうにねエ」

「たまたま襲撃タイミングが重なったとは、ワシらにとっては奇遇どころか不運じゃな」


 クリムとラムゼイが、人生というものに達観した者だけに可能な、侘び枯れた嘆息をつく。

 

 一方、階下で食事していた二十人からの客たちは、全て偽装したファラ姫の親衛隊たちだ。

 いきなり現れた不届き者を成敗すべく、一斉に懐刀を抜いて攻めかかる。

 彼らはよく訓練されていた。だから行動に遅滞と逡巡がなかった。

 結果、それが彼らの寿命を縮めることとなった。


「……死にたい奴だけ前に出ろ」

「可愛がってア・ゲ・ル」


 ブラウンとティティンが笑うや否や、無数の剣光が閃いた。

 そう――

 ブラウンが腰の物に手をかけた。誰もがそう思っただろう次の瞬間には、抜き打ちの剣が走っている。そのわずか一閃で、親衛隊五人を絶命させている。全員の喉笛を、正確に、迅速に、且つ綺麗にかっ捌いてみせたのだ。そして、ブラウンはもうサーベルを元の鞘に、まるで何事もなかったかのように戻している。

 恐ろしく静かで鮮やかな手並みであった。やられた五人が、なぜ自分が死んでいくのか、全く理解できていないほどに。


 逆にティティンの手並みは、ひたすらド派手で鮮やかだった。

 肌も露わでスタイル抜群の女が、両手に三日月刀(シミター)を持って、踊るように親衛隊を斬り裂いて回る。なんとも艶美な動作だが、親衛隊たちの手が飛び、足が飛び、首が飛び、血飛沫噴く光景は凄惨の一言であろう。


 親衛隊というからには、それなりに腕も立つだろうに。二十人からいた彼らが、たった二人の“憂国義勇団”幹部に、あっという間に斬り伏せられてしまった。


「ぬうっ。なんという強さだっ。音に聞いてはいたが……六連星とはこれほどまでか!」


 臣下を斬られ、歯軋りするファラ姫。


「姫様はここでご待機ください! 僕たちで突破口を切り開きます!」

「待て、おまえたちっ」

「マグナスは姫様を頼むぜ? クリムとラムゼイもな!」

「テッド、ラッド、マッド! 血気に逸るンじゃないよ!」

「皆サンのおかげであっしらも、数々の修羅場を切り抜けてきやした。もう昔のあっしらじゃねえってところ、お見せしまさあ」

「きれいな姫サンの前だからって、このお調子者どもめらがっ」


 俺や年長者二人の制止も聞かず、三つ子たちは階下へと駆け下りていく。

 追いかけようにも、ファラ姫の護衛を外すわけにもいかず、俺はこの場を離れられない。


「最初から全力で行かせてもらいます。覚悟してくださいよ!」

「ようよう姉ちゃん! オレたちと遊んでくれよ! つーかコレ勢い余って押し倒して乳揉んでも許されるケースだよなあ!?」

「兄サン、いくら姫サンが目の毒だったからって、サカりすぎでさあ……」


「ふん、バカめ。相手していられるか」

「じゃあ、この可愛いぼうやたちは、アタシが遊んでおいてア・ゲ・ル」

「悪いな、ティティン。任せた」


 三つ子と二星が、正面から激突した。

 否、激突する寸前に、ブラウンはぬるりとした歩法で三つ子の間をすり抜けて、俺やファラ姫のいる中二階へ、足音もなく駆け上がってきた。

 そして、ティティンの剣の舞は、三つ子たちを弄んだ。薄皮一枚切ることなく、三つ子たちの着ている衣服だけを斬り裂いて、全裸に剥いてしまったのだ。


「「「ひ、ひでえええええええええ!?」」」

「アッハハハハハ! いい格好だよ、あんたたち! ブラさげてるもんはイタダケナイお粗末さだけどさあ!」


 ケッサクだとばかりに大笑いするティティン。

 あまりに役者が違いすぎた(でもだから、かえって命まで奪われなかったのだろうが)。


〈攻略本〉に詳しいが――遺跡探索をすることでも、確かに〈経験値〉は入る。

 未開拓フロアを探索する時、ガーディアンを斃した時、〈マジックアイテム〉を入手した時、そして遺跡が難関であればあるほどに、その行為一つ一つに〈経験値〉もまた付随する。


 ただ、レベル36の俺にとって、本当の意味で「難しい」遺跡など、これまでなかった。ゆえに微々たる〈経験値〉しか入らなかった。

 同時にレベル36の俺がパーティーの主力となっているため、他メンバーに入る〈経験値〉も本来より激減されていた。〈攻略本〉に曰く、『この世界ではパワーレベリングは難しい』のだそうだ。

 結果、三つ子からすれば大冒険の連続でも、その実態は俺におんぶにだっこにすぎないのだと、冷酷な世界の摂理(システム)がそう見做しているのだ。お調子者なことも含めて、ムードメーカーであるテッドらの存在に、俺たちのメンタルがどれだけ助けられていようと関係なく、そこに情状酌量の余地はなく、さほどの〈経験値〉になっていないのだ。

 ゆえに彼らの〈レベル〉は未だテッドが11で、弟たちは10止まり。


 比べてこのティティンという女、推定レベルは20近い。

 しかも、さっきから使っている〈スキル〉――名乗りから察するに、〈死の舞い〉というのか?――が厄介だ。〈戦士〉の中でも〈踊り子〉をサブ職業にしている者が、習得できるスキルの〈剣の舞い〉を、さらに強化派生させたものと思われる。


 俺とクリムの強化魔法で、フルにバフをかけてやれば、もっと戦いようもあっただろうが……。


階下(した)にばかり気をとられていいのか?」


 ブラウンがもう中二階までたどり着いていた。

 他人を構っている余裕なんてないだろう? とばかりに薄く笑っていた。


「おい、マグナス。こいつはマズいよ」


 クリムが小声で、俺に警告してくる。

 もういくつもの遺跡を探索し、一緒に冒険した仲だ。何を言いたいのか、すぐにわかる。この店の中で俺が攻撃魔法を使えば、周囲への被害は計り知れない。だからといって派手な魔法抜きで、この強敵相手に戦えるのかと、懸念しているのだ。


「フフ、小声で相談か? 無駄なことだ」


 ブラウンが腰の物に手をかけた。

 こいつは〈居合〉というスキルの使い手らしい。これも恐らく、〈戦士〉の中でも〈暗殺者〉等をサブ職業にしている者が習得できる、〈抜き打ち〉というスキルの強化派生技と見た。


 俺は万が一にでもクリムやファラ姫が巻き込まれないよう、ブラウンがまずは俺だけを標的にするよう、ずいずいと前に出た。


「姫を守るためならば、命は要らぬと?」


 ブラウンが怪訝そうにした。

 それはそうだろう。どう見ても魔法使いにしか見えないだろう俺が、前衛のような立ち位置に、自ら進み出てきたのだから。


「愚かな奴よ。しかし、容赦はせんぞ」


 サーベルの柄をにぎったブラウンの右手が、霞むほどの速さで動き、剣光が一閃した。

 必殺の〈居合〉が、俺の喉笛を狙って解き放たれた。


 ()()()()()()()()()()()()()()()


「!!!!!??????」


 仰天するブラウン。サーベルを振りきった格好で、元の鞘に戻すのも忘れて、石のように固まってしまう。

 まさか魔法使いに回避されるとは、夢にも思わなかったのだろう。


 まあ、仕方がない。

 まさかレベル36もの魔法使いが、しかも〈ステータス〉をフルドーピングしているような特異例が、目の前にいるだなんて、夢にも思わなくても仕方がない。

 野生のボスモンスターに、町中で遭遇するようなものだ。


「おまえはいいとこ、レベル20に達しているかどうかだろう?」

「あ、ああ……19だ」


 衝撃で頭が真っ白になっているのだろう、答えなくていい俺の確認に、答えてしまうブラウン。

 レベル19か。しかも〈戦士〉じゃ、ユージンにも及ばんな。

 そりゃあ近接戦闘一つとっても、俺に敵し得ない。

 まして今の俺は、古代遺跡でランクAマジックアイテムの〈疾風朧々の長衣〉を入手し、装備している。

 これは回避力を飛躍的に上昇させる優れ物なのだが、さらに特殊効果も秘めている。

 俺は早速、その機能を使ってみせた。

 ブラウンの目が驚愕でさらに、これでもかと見開かれていく。


「おっ? おおおっっ?? おおおおおおおっ???」


 奴には今、俺の姿が何重にもブレて見えるだろう。

 いったいどれが本物の俺で、どれが残像の俺かわからず、どこを中心に狙いを定めればよいのかと、困っているだろう。

 堪らずブラウンは、本物も残像もなく、まとめて斬り払おうと二太刀目を放ってくるが、これがもうまるで大振りで、一太刀目よりも容易く俺は回避する。

 残像を作りだして相手を幻惑する、〈疾風朧々の長衣〉の特殊効果、覿面だった。


「俺はおまえのことを愚かとは言わんよ。だが、容赦はせん」


 俺は総ミスリル製の〈大魔道の杖〉で、ブラウンを打ち据えた。

〈スキル〉なんか要らない。圧倒的なレベル差とステータス差で、気絶するまで殴り倒す。

 ましてこいつ相手に魔法など必要なかった。


 そして、階下の方でも決着がついていた。

 ティティンが調子に乗って、防戦一方になるしかない三つ子たちを、生かさず殺さず弄んでいたのだが――


「動くな。さもなくば、おまえさんは死ぬ」


 いつの間にかラムゼイが、影のようにティティンの背後へ忍び寄り、その首筋に冷たいナイフをぴたりと当てたのだ。


「ば、バカな……っ。このアタシが気配すら察知できなかったなんて……」

「そりゃおまえさんの修業が足らんのじゃろ」


 伝説の――レベル22の冒険者は、冷たい声で言い捨てた。

 ティティンは両手のシミターを捨て、降参するしかなかった。

 これまた役者が違ったというわけだ。

 

 そう、結局のところ、“憂国義勇団”について〈攻略本〉に載っている情報量が少ないのは、それだけ大した連中ではないという証左なのだ。

『重要人物一覧』に別項が用意されているのだって、影の首領である皇太子ヘイダルと、六連星とやらの()()()()()()()()()だ。

 ブラウンだのティティンだの(あと多分、〈熱風剣〉のバジン)のことは、一文字たりとも記載されていない。


 そんな連中に、俺やラムゼイが負けるわけがなかったのである。


 しかし、ファラ姫は感謝と恐縮のていでやってきた。

 クリムに一命を取り留めた親衛隊の治癒を頼んだり、また回復した者には二星の捕縛を指示したりと、必要な処理をすませた後で、


「マグナス殿。私を狙った暗殺者に、そなたたちを巻き込んですまない。その上、危ないところを助けてくれて感謝の言葉もない」

「いや、殿下。気にしないでくれ。連中は俺の仲間も狙っていた。お互い様ということだ」

「ふうむ……しかし、皇女たる私はともかく、なぜ連中はラムゼイ殿の身柄を……」

「決まっている。俺と同じさ」


 伝説の冒険者を求める理由など一つ。

“憂国義勇団”もまた、最難関の古代遺跡を探索するため、経験と技術に長けた案内人を欲しているのに違いない。


「ともあれ、マグナス殿。そなたは正真の強者(つわもの)だな。六連星が私の『想像の遥か上』なら、そなたは『遥か上の上』だ。いや、それでもまだ修辞が足りぬかもしれん。それほどの底知れなさを、マグナス殿から感じたぞ」

「褒めすぎだ」

「命の恩人なんだ。褒めてすぎることなどないと思うが……まあ、そうだな。言葉ではなく、形で恩を示そうか」


 ファラ姫は、俺だけに聞こえるよう急に声をひそめると、一つの鍵を手渡してきた。


「なんの鍵だ?」

「首都の宮殿にある、私の寝室の鍵だ」

「返すぞっ」

「おや? 別に寝室の出入りを許可したからと言って、褥まで許すとは言ってないが?」

「ぐ……っ」

「そんな残念そうな顔をするな。わかった、同衾も許す」

「してないっ。要らんっ」

「冗談だ。マグナス殿は強い上に可愛げもある、か。まったく()い男よな」


 ファラ姫が茶目っけ満点のウインクをした。


「いずれ密談や頼み事などがあれば、いつでも訪ねて欲しいという証だよ。別に寝物語でなどとは言わんから、受けとってくれ」


 ファラ姫に見事にからかわれて、俺はもう二の句が継げない。

 アリアのおかげで成長できたと思っていたが、女はやっぱり苦手だ!

次回、いよいよ町の消失事件に乗り出します!


というわけで読んでくださってありがとうございます!

毎晩更新がんばります!!

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