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第九話  VSケントリオン

台風で早く仕事から帰ってこられたんで、今日は早め更新です!

皆さんもどうかお気をつけてくださいませ!


前回のあらすじ:

ラムゼイの辛い過去を聞いたマグナス、彼のために立ち上がる!

〈攻略本〉情報によれば、この八階層のフロアボスにして、あの四身一体のシルバーゴーレムには、制作者の銘が刻まれている。

 その銘も、ケントリオンという。

〈レベル〉は25。

 デルベンブロの魔城で戦ったミスリルゴーレムより、1つ低いということになる。

 対して俺の〈レベル〉は36だから、楽勝――などと油断したら、足をすくわれることになる。


 あのミスリルゴーレムも特別そうだったが、貴金属や魔法金属を材質とするゴーレムたちは、〈魔法耐性〉が恐ろしく高い。そう、俺たち〈魔法使い〉にとっては天敵なのだ。

 さらに加えて、アラバーナの古代遺跡群にいる魔法生物(ガーディアン)どもは全て、〈魔法耐性〉が極めつけに高くなるよう設計・製造されている。これは当たり前の話で、高度な魔法文明において使用される兵器が、「魔法に弱い」などという特徴を持っていたら、もはや致命的欠陥品というしかない。


 ここまで俺が、途中で出くわしたガーゴイルやアイアンゴーレムどもを、軽々と蹴散らすことができていたのは、俺とのレベル差が20以上もあったため、さすがに軽々粉砕できたというだけ。

 しかし、ケントリオンとのレベル差は11。しかも貴金属であるシルバーゴーレム。さらに旧魔法帝国時代に設計された、銘入りの特別仕様兵器。

 その〈魔法耐性〉には凄まじいものがある。〈攻略本〉に記載されたステータスを見て、一瞬、目を疑ってしまったくらいだ。

 

「だが、それでも俺は敢えて言おう――」


 俺はラムゼイ、クリム、テッド、ラッド、マッドを一人ずつ見回す。


「――俺たちは勝てる!」


 そう、油断はせずに、しっかりと準備をすれば。


    ◇◆◇◆◇


 重くて軽快――矛盾を孕んだ、ケントリオン独特の足音が近づいてくる。

 俺とクリムはそれを、民家の通りのど真ん中で聞いた。

〈攻略本〉を転記した地図から、近場にある中でなるべく狭い通りを選定して、そこでグラウディウスとともに待ち構えていた。


「来るぞ、クリム殿」

「警告なンぞしなくても、あの足音を聞きゃアわかるよ。ククッ、ぼうやはそんなにアタシが心配かねえ?」


 俺の内心を読み当てたクリムは、「さりげなく他人に気遣われるなんざ、何十年ぶりかねエ」と楽しそうに笑った。若干、うれしそうでもあった。

 クリムはレベル18の〈僧侶〉だ。そんじょそこらにはいない高レベルだ。彼女を心配するくらいなら、普通は先に、我が身に不安を覚えることになるだろう。


「まあ、ありがとうと言っておくよ。そして、心配ご無用さね。こう見えて修羅場はくぐってきているし、今さら命を惜しンでビビるほど老い先も長くない」

「なら、いい。よけいな気遣いだった」

「ハン! まったくよけいもよけいだね! ついでにもう一個、よけいな気遣いはやめておくれと言わせてもらえば――」

「もらえば、なんだ?」

「そろそろクリム『殿』はやめにしないかい、()()()()?」

「承知した。クリム」


 俺たちは互いに一笑し合った。

 まさにその時、ケントリオンがその巨躯を現した。

 俺たちの方へと四辻を曲がり、通りの先から(ばく)進してくる。


「グラディウス!」


 俺の合図で、頼もしき相棒もまたその巨体を揺らし、前に出た。

 突進してくるケントリオンに、敢然と立ち塞がった。

 ケントリオンはこれを避けて進むことはできない。俺が交戦ポイントに、狭い通りを選んだ理由がこれだ。かといってケントリオンの性質では、左右に立ち並ぶ民家を破壊してまで、迂回することもできない。

 グラディウスはその分厚く、重心の低い体躯の設計を活かして、ケントリオンの突撃を、完璧なまでにどっしりと受け止めてみせた。

 巨大ゴーレムの力と力が(せめ)ぎ合うが、パワー勝負ならやはりグラディウスに軍配が上がる。

 さらには俺とクリムが矢継ぎ早に呪文を唱えて、強化魔法でサポートする。


「ムウラ・ア・ヌー・ア・ウェア・プレ・ヌーン……」

「神は仰せになった。『汝に祝福あれ』と……」

「シ・ティルト・レン・エ・ヌー・ゲンク・ティルト・ハー……」

「神は仰せになった。『汝は我が庇護の下にある』と……」

「クーン・ウン・イ・カル・ケル・ヌー・エ・シス……」

「神は仰せになった。『汝を脅かすものは全て、我が威を畏れ、汝を避けて通る』と……」


 実践派の魔法使いである俺は、昔から呪文詠唱の鍛錬に余念はない。どんなに強大な〈魔力〉を持ち、どんなに強力な魔法を習得していても、肝心な時に呪文をトチって発動できなければ、無力だからだ。

 そんな俺の高速且つ安定した詠唱に、クリムは難なくついてきた。俺と同じ実践派思考なのか、年の功か、その両方か。まったく頼りになる婆様だ!


 俺は強化魔法により、グラディウスの両拳に破壊の魔力を宿らせ、〈力〉や〈素早さ〉等のステータスを増幅させた。

 ミスリルゴーレムであるグラディウスMk-Ⅱは、スティールゴーレムだった初代に比べ、敵の攻撃・弱体・状態異常魔法等への耐性がとんでもなく高いが、一方で俺の強化魔法までかかりが悪いというデメリットがある。

 ただ、何もバフしないよりは、した方が絶対よいのは言うまでもない。


 一方、〈僧侶〉が使う〈ブレス〉や〈ディバインアーマー〉、〈ディバインシールド〉といった強化魔法は、対象の防御力や生存能力を高める用途のものばかりと限定されている。

 しかしその分、〈魔法使い〉が習得する〈マジックアーマー〉や〈マジックシールド〉より効果が高い。さらには、対象が人間だろうと総ミスリル製のゴーレムだろうとおかまいなしに、全く同じ効果を及ぼす。

 

 同じ強化魔法でも、〈魔法使い〉と〈僧侶〉が使うものでは、それだけ性質が異なるということだ。

 だから俺とクリムは、どちらがどんな強化魔法でグラディウスを支援するか、その使い分けを事前に打ち合わせしておいたのだ。


 ケントリオンの突進を受け止めた後は、互いに足を止めて、重量級同士の殴り合いを、ガッツンガッツン繰り広げていたグラディウスだが、俺たちのバフにより、いよいよ優勢に立っていく。

 ケントリオンの、青年の姿をした上半身が振るう大剣より、乙女の姿をした上半身がしごく槍よりも、グラディウスの一対の拳の方が、効果的にダメージを与えていく。


 このグラディウスMk-Ⅱは、デルベンブロからドロップした合成アイテム、〈双拳の魂〉を使って鍛造したバトルゴーレムでもある。


「〈ツインフィスト〉!」


 俺の号令で、グラディウスが〈スキル〉を発動させる。

 アンバランスなほどゴツい両拳を掲げると、右に熱気を、左に冷気をまとう。

 そして、左右の拳を同時に叩きつける。

 尋常ならざる衝撃で、グラディウスよりさらに数周り大きなケントリオンの巨体が、根元から揺らぐ。


 畳み掛けるべく、俺は攻撃魔法の用意をする。

 ところがケントリオンもやられっ放しではない。

 老人の姿をした上半身が、杖を高々と掲げた。そこから発生した電撃が、グラディウスの頭上を飛び越えて、後衛である俺とクリムを(おびや)かす。


「ぬうぅぅ、猪口才な奴だねエ!」


 レベル36の俺にとってはかすり傷だが、クリムのダメージは深刻だった。そこで強がってみせ、淡々と自分への回復魔法を準備する根性は、さすがという他ないが。


 老人の上半身が嵩にかかって、次の雷撃を俺たちへ向けて放とうとした。

 が――


「そうは問屋が卸さんよ!」


 ラムゼイが的確なタイミングで横槍を入れた。

 いや、横「槍」というのは正しくないかもしれない。なぜなら彼が使っていたのは、クロスボウだったからだ。

 しかもケントリオンが絶対に手出しできない、民家の二階からの狙撃。

 さすがは伝説の冒険者。ラムゼイの腕は確かで、見事にケントリオンが掲げた杖に命中させた。

 レベル25のシルバーゴーレム相手に与えたダメージは微々たるものだったが、雷撃の狙いをブレさせることができた。俺たち後衛を狙っていたそれを、あらぬ方へと逸れさせた。


 ケントリオンの、老人の姿をした上半身は、しつこく俺とクリムを狙おうとしたが、そのたびにラムゼイがクロスボウで杖を狙撃し、雷撃を逸らし、無効化する。

 クロスボウというのはその構造上、本来連射が利くものではない。

 しかし、ラムゼイ本人と、テッドら三つ子が一丁ずつ持っていたものを、ローテーションで使うことで、その発射間隔を短縮できる。

 そう、ラムゼイがうちの一丁を構え、狙いをつけて発射する間に、三つ子がそれぞれ一丁ずつ、硬い弦を必死で引いて、新たな矢を装填するというやり方だ。


 この狙撃によるケントリオンの雷撃妨害も、四段構えによるクロスボウ連射も、俺が発案し、経験豊富なラムゼイが微調整的なアドバイスをくれて、最終的に練り上がった作戦だ。

 ケントリオンの攻撃方法の中で、この雷撃が一番厄介になると考えた俺が、それを見越して準備した必勝策だ。

 それが見事に、図にハマった。


「勝ったな!」


 俺は敢えて大言壮語する。

 今までのようなソロでの戦いなら、する必要などどこにもないが、今は必要だと思ったのだ。仲間たちを鼓舞できるのではないかと、ふと思ったのだ。

 

 同時にこれは、クリムへのメッセージである。

 もう勝ちも同然だから、安全な民家に入って、そこから魔法を唱えてくれればいいぞ、と。


 確かに、誰か一人は通りに出ていないと、ケントリオンは侵入者を見失い、またどこかへ駆け去ってしまう(ゴーレムのグラディウスだけだと、侵入者だとガーディアンは判断しない)。

 ならば外に出て戦う役は、〈レベル〉の高い俺だけでいい。

 にもかかわらず、意地っ張りなこの烈女はそれをよしとしなかった。「アタシら〈僧侶〉の魔法の中には、触れていないと効果が出ないものが、たくさんあるからねエ」と、俺の隣に立つことを譲らなかった。


 今もまた、俺の遠回しな退避提案を、クリムは鼻で笑って拒否した。


「勝ったンなら、アタシが尻尾を巻く必要はない。そうだろ?」


 そう言って俺の背中を思いきり叩くと、接触の必要な魔法である〈キュアパラライズ〉をかけてくれた。

 雷撃による俺へのダメージは微々たるものだったが、発生していたごく軽度の〈痺れ〉というバッドステータスを、クリムは丁寧に癒してくれた。

 この強情で、でも慈愛に満ちた、俺が初めて出会った()()()女〈僧侶〉の、献身的なヒールのおかげで、俺たちはもう万に一つも負けることはなくなった。


「さあ、あんたの出番さね、マグナス!」

「ああ。任せろ」


 俺は改めて攻撃魔法を準備する。

 それも一発や二発ではない、連発の準備だ。

 グラディウスを含め、この場にいる全員の協力のおかげで、俺は万端、専念できる。


 さあ、決着の時間だ!


 ケントリオンの〈魔法耐性〉がいくら高いと言えど、レベル40の最高峰モンスターだったデルベンブロには到底及びはしない。

 ならば、あの“魔拳将軍”に撃ち勝ったこの俺の魔法が、ケントリオンを打ち砕けぬ道理などない!


「シ・ティルト・オン・ヌー・エル!」


 俺は〈打撃属性〉を有する〈ストーンⅣ〉を滅多撃ちした。

 ケントリオンを粉砕するまで、それをやめなかった。


「やった! 勝った! 本当に勝てたぞ!」

「マグナス! あんたマジでとんでもねえ魔法使いだな!!」

「もう脱帽でさあ」

「いや、こんなに楽に勝てたのは、皆のおかげだ」


 民家から跳び出してきた三つ子たちの絶賛に対し、俺は率直な意見を返した。

 その間にクリムが、ドロップアイテムである〈古代アラバーナ精製銀〉を、抜け目なく拾い集めてくれていた。またいずれバゼルフに〈合成〉を頼まねばな。

 一方、ラムゼイは無言だった。無言で残骸と化したケントリオンに近づき、見つめていた。


「行こう」


 その肩に俺は手を置き、ラムゼイもまた首肯で応える。

 そしてこの老人が、かつての仲間の仇(ケントリオン)を振り返ることは、もう二度となかった。

次回、ついに最高の案内人を得られたマグナスが大飛躍!


というわけで、読んでくださってありがとうございます!

毎晩更新がんばります!!


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拙著「追放村」領主の超開拓、のコミカライズ連載が始まりました!
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