表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「攻略本」を駆使する最強の魔法使い ~〈命令させろ〉とは言わせない俺流魔王討伐最善ルート~  作者: 福山松江
第二章  朕に〈命令させよ〉とのたまう愚帝編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/189

第八話  伝説の冒険者 ラムゼイ

前回のあらすじ:


強力なゴーレムに襲われ中、目的のラムゼイと邂逅する。

 俺たちはすぐさまその民家(正確には、五百年前は民家だったろう二階建て家屋)に跳び込んだ。

 するとどうだ?

 四身一体のシルバーゴーレムは、それ以上、追ってこなかった。民家の前をウロウロするだけで、その気になれば叩き壊すなり、玄関から手を突っ込むなり、いくらでもできるだろうに、それをしない。まるで民家には全く手出しができないという様子。

 中へ逃げ込んだ俺たちのことを、しばらく未練げに見ていたが、俺たちも全く出ていく気配がないとわかると、諦めたようにいずこかへと去っていった。


「た、助かったんですか、僕たち……?」

「信じられねえぜ……っ」

「さっきの爺さんのおかげでさあ」


 三つ子たちが胸を撫で下ろし、玄関傍にあった二階への階段を見上げる。

 足音とともに、そこから老人が下りてくる。

 人好きのする微笑を湛えた、如何にも無害そうな爺さんだ。

 クリムとは反対に、曲がった背中を強調するような姿勢で、低い背がさらに低く見える。

 でも、只者であるわけがない。何しろソロで危険な七階層を抜け、八階層にたどり着いているのだ。

 この老人こそ、俺が遺跡探索の案内人にと求めた、伝説の冒険者。

 ラムゼイその人であった。


「危なかったのう、おまえさんたち」

「助かりました、お爺さん。ありがとうございます」

「つーかなんで俺たち助かったんだ?」

「あのバケモンも急に諦めちまって、不思議でさあ」

「それはのう、魔法生物(ガーディアン)の中には『周囲の被害を無視してでも戦え』と命令されておる奴と、『周囲の建物には指一本触れてはならぬ』と命令されておる奴とが、いるんじゃよ。さっきのシルバーゴーレムは後者というわけじゃな」


 ラムゼイの説明に、三つ子たちは感心したように唸った。


 ちなみにその法則性は〈攻略本〉にも、アラバーナの古代遺跡の概略として、軽く触れられている。しかし、どのガーディアンが前者でどのガーディアンが後者だとか、いちいち記載されてはいない。実際、無数にいる同じアイアンゴーレムでも「こいつは前者」で「こいつは後者」みたいなことが平気であるので、きりがないのだ。


 俺たちはまず軽く名乗り合った。クリムはラムゼイと旧交を温め合った。

 その後で訊ねてみた。


「今のシルバーゴーレムが、建物に被害を出せないタイプだと、調べがついていたのか?」

「確かにワシはあいつをよく知っておる。が、いちいちそれを調べたわけではない」

「ほう。ではなぜご存じで?」

「ぶっちゃければ、勘よ。ワシくらい長く遺跡に潜っておると、そのうちガーディアンを一目見ただけで、なんとなくわかるようになるもんさ」

「素晴らしい」


 俺もまた唸らずにいられなかった。

 老人は照れ臭そうに笑いながら、


「それよりも、腹が減らんかね? そろそろ昼飯時じゃ。一緒にどうじゃ?」


 と、まるで勝手知ったる我が家のように、俺たちを台所へ案内した。


 一方、俺はもう驚きの連続だった。

 まず、確かに腹は減っていたが、今が本当に昼飯時なのかどうか、太陽も見えないこの遺跡の中では、確認しようがない。時間感覚など、とっくに喪失していた。

 にもかかわらず、この老人はそれがわかるという。しかも、俺たちより三日も早くこのタブラの遺跡を訪れ、そのまま潜りっ放しだという話なのに。


 次に、ラムゼイは台所に備え付けられた、魔法の調理器具を自在に使い始めた。

 俺たちの魔法体系とは似て非なる、簡易な呪文を気軽に唱え、魔法使いではない彼が、燃料もないのに火を熾し、鍋を温める。

 食材自体はラムゼイが持ち込んだ物らしいが、俺たち全員にシチューを振る舞ってくれる。まさか古代遺跡の中で、温かいものを腹に入れられるとはと、三つ子たちは大喜びだった。


 こんな情報は、さすがの〈攻略本〉も網羅していない。

 あまりに些細な情報すぎて、魔王攻略に関係がなさすぎるからだ。

 そしてだからこそ、長年冒険者として一線に立っていた、ラムゼイの持つ経験の凄味が際立つ。

 先ほどの「一目見ただけで、ガーディアンの性質がわかる」勘もそうだ。

 この老人はまさしく、古代遺跡の生き字引だ。

 素晴らしい。

 何度でも言おう。素晴らしい!

 俺が求めていたのは、まさにこれだ。


 俺はシチューの返礼に、「掌から零れ落ちる金貨」亭のオヤジが持たせてくれた弁当を差し出しながら、率直に申し出た。


「俺は魔王を斃すための旅をしている。その一環として、古代遺跡探索をするつもりだ。ラムゼイ殿。どうだろうか? あなたの経験と技術を、俺に貸してはくれまいか?」

「ふうむ……」


 ラムゼイはシチューを(さじ)(すす)りながら、それきり口をつぐんだ。明らかに気乗りしていない様子だった。

 まあ、一度は引退を決意した身だものな……。

 ならば、どう説得すべきだろうか?

 俺が頭の中で糸口を模索していると、クリムが横から口を挟んだ。


「ラムゼイ。目的は果たせたのかい?」

「……じゃったら、こんな辛気臭いところに独りで、いつまでもおりはせんさ」


 ラムゼイの顔のシワが、急に濃くなった。苦渋のシワだ。


 俺は黙って二人のやり取りを見守ることにした。クリムが出したこの話題が、俺が模索していたその「糸口」なのだと、悟ったからだ。彼女は俺をフォローしてくれるつもりなのだと、気づいたからだ。


「ねえ、ぼうやたち。このジジイが、世間じゃなンと呼ばれているか、知ってるかい?」

「“生還者(リターナー)”ですね」


 即答したのはテッドだった。

 ラムゼイは、どんなに難関と呼ばれる古代遺跡からも、未だ誰も到達できていない深層域からも、挑戦するたびに必ず生きて還ってきた。

 しかも、彼と組んだパーティーメンバーもまた、必ず生きて還ることができた。

 ゆえにこその、ついた異名だ。ゆえがこその、伝説の冒険者だ。


「このジジイ自身が、必ず生きて還ったってのは本当さね。じゃなきゃ今ここにいるジジイは、幽霊ってことになっちまうからね」


 クリムは一度冗談めかし、


「じゃあ、パーティーメンバーも必ず生きて還ることができたってのは、本当の話だと思うかい?」


 一転、深刻な眼差しをラムゼイに注いだ。

 その残酷な質問に答えたのは、当のラムゼイ本人だった。


「そんなウマい話が、この世にあるもんかよ」


 苦く渋い感情を、喉から魂から、搾り出すような声音だった。


「このジジイと組むとね、実際まあ生還率は高いのさね。でも、絶対安全ってわけにゃいかない。アタシが知る限り、このジジイは四十年近い冒険生活で、七人の仲間を喪ってる」

「…………」


 クリムが語っている間、ラムゼイは押し黙っていた。

 ただ喪った彼らを悼むように。


「このタブラでも、ラムゼイは仲間を喪った。七人目の――最後の犠牲者さ。そしてこのジジイは、引退を決意したんだ」

「……カインはまだ若かった。若い奴だったんだよ……」


 女僧侶の前で懺悔するように、ラムゼイは苦渋の記憶を語り出した。


「なのに当時のワシは、勘違いをしちまった。カインがあまりに才能溢れた奴だったから、あいつがまだ十代だってことも忘れちまってた。このワシが手塩にかけて育てて、ワシの後継者にしてやろう、伝説の冒険者にしてやろう、そんなことばかりを……自分のことばかりを考えていて、あの子のことなんか、まるで見えなくなっていた。それで、ワシらはこの遺跡に挑戦した。タブラは難関の一つで、未だ七階層ですら安全地帯(クリア)になっていない。なのにワシらは調子よく探索できて……本当に調子に乗ってしまって、八階層まで下りちまった。カインはまだ若かったんだ。調子に乗っちまうのは当たり前の話だった。ワシら年長者が諌めなきゃいけなかった。でも愚かなワシらは、一緒になって浮かれてた。そして、あのシルバーゴーレムに出くわした」


 あの四身一体のシルバーゴーレムのことは、〈攻略本〉にすら詳述されている。

 この八階層のフロアボスだ。

 普通ならば、精鋭を何十人と集めて、囲んで斃さねばならない強敵だ。

 いくら伝説の冒険者とその一行とはいえ、一パーティーで勝てるわけがない。


「あのゴーレムが建物の中まで追ってこない奴だってのは、一目でわかったよ。ワシはすぐ皆に声をかけたし、皆も咄嗟のトンズラには慣れたもんだった。そう思い込んでいた。いざ建物の中に逃げ込んで、胸を撫で下ろしてみりゃ、カインだけいなかった。まだ若いあの子だけが、シルバーゴーレムの迫力とあまりの気味悪さに、パニックになってたんだ。……逃げ遅れたんだ」


 そこで一度、ラムゼイはぐっと歯を食いしばった。

 こぼれそうになった涙を、堪えたのだ。

 それは――カインを助けられなかった自分に、泣く資格などありはしないと、今も自分を責め続ける老人の顔だった。


「ワシはあの子の母親に、すぐに謝りに行ったよ。どんな罵倒も、甘んじて受けるつもりだったよ。でも、そうはならなかった。『ラムゼイさんと冒険して、いつか伝説の冒険者に自分もなるんだって、あの子が自分で決めたことですから』と言ってくれた。ワシのせいじゃない、あくまで自己責任だとな。……正直、どんな責め句よりワシぁ辛かった」


 切々と語るラムゼイ。

 三つ子たちが、胸が締めつけられたような顔つきになっている。

 クリムは目を閉じ、痛ましげにしている。何度聞いても辛いとばかりに。

 俺は今どんな顔をしているだろう? わからない。


「最後に、カインの母親に言われたんだよ。『せめて、あの子の遺品はないでしょうか?』ってな。ワシらは誰も答えられなんだ。シルバーゴーレムが恐くて、一目散に逃げてきたんじゃ。回収できたわけがない。とにかく申し訳なかった。情けなかった。悔しかった……!」


 だからラムゼイは冒険者を辞めた。

 もう、遺跡探索など二度と、懲り懲りだった。


「にもかかわらず、あなたがまたここを訪れているのは……」

「ああそうじゃ、マグナス殿。どこぞの優れた冒険者が、あのシルバーゴーレムを撃破しとらんかと、ワシは毎年一度確認しに来るんじゃ。そうなりゃワシも安心して、カインの遺骨と遺品を回収できる。ちゃんと弔ってやれる。母親にも、せめて顔向けができる」

「でも、未だ斃されちゃいないようだねエ」

「ああ、クリムよ。それだけこのタブラは難関ということだ。あのゴーレムが恐るべき怪物ということだ」


 ラムゼイは無念そうに言うと、それきり口をつぐんだ。

 重苦しい沈黙が立ち込める。

 空気を和らげるため、ラッドが何か軽口を叩こうとしては、結局思い留まるを繰り返す。

 クリムはむすっとしたまま、目を閉じっ放し。

 だが俺は――


「なるほど、ラムゼイ殿の事情はわかった」


 そんな重苦しい空気を打破するため、立ち上がった。

 長衣の裾を翻した。

 そして、皆に向かって宣言した。


「ならば――あのゴーレムを撃破するぞ」

次回、いざ戦いの時!


というわけで、読んでくださってありがとうございます!

毎晩更新がんばります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拙著「追放村」領主の超開拓のコミカライズが連載中となっております!

こちらピッコマさんのページのリンクです

さらに拙著「完璧令嬢クラリーシャの輝きは逆境なんかじゃ曇らない ~婚約破棄されても自力で幸せをつかめばよいのでは?~」のコミカライズも連載中です!

こちらがFLOSコミックさんのページのリンクです

こちらがニコニコ静画さんのページのリンクです

そして拙著「魔術の果てを求める大魔術師」コミカライズも連載中です!

こちらDREコミックスさんのページのリンクです

大変ありがたいことに2025年は三作品もコミカライズしていただきました。
どちらもぜひご一読&応援してくださるとうれしいです!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ